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その十一:雪と氷の庭園迷宮

「あいたたた……。シャーキス? どこにいるんだい、シャーキス!?」


 地面には薄く雪がつもり、両側には雪がつもった生け垣が、高い壁のようにそびえている。大人の身長よりも高いから、二メートルはありそうだ。そんな生け垣の壁が、えんえんと伸びている。


 雪が積もって白いけれど、緑のトゲトゲ葉っぱと赤い実がそこかしこに見えるから、ヒイラギの垣根だ。

 これがぜんぶヒイラギなら、ずいぶんたくさん植えてある。

 ここはお菓子の家の庭じゃない。


 僕は、ヒイラギの垣根で作られた通路にいるようだ。

 通路の幅は、大人三人が並んで通れるくらい。どっちの方向へ行けばいいのか、かいもく見当もつかない。


「シャーキス、いたら返事をしてくれ!」


 僕は歩き出した。

 通路の両側にある垣根以外、目印となるようなものはない。

 十字路にでた。


 正面と左右の通路を、よく観察してみる。

 どちらへ進んでも、少し先にまた分かれ道があるようだ。


「ふーん、なんとなくわかったぞ。ここは迷路(めいろ)なんだ」


 広い庭園にたくさんの生け垣を造り、迷路に仕立ててある〈庭園迷路〉だ。

 右手の方向に、白い階段らしきものがある。

 そちらへ行ってみた。


 屋根とベンチがある。こじんまりとした白い東屋(あずまや)だ。休憩所らしい。青白い小さな泉が湧いていた。

 小さな滝をイメージした蛇口から流れ出る水を飲もうとして、驚いた。


 東屋は氷の彫刻だった。ベンチもテーブルも、雪を固めた白い氷で出来ている。

 白い階段は、高台のようだ。


 昇ってみたら、垣根の上に視界がひらけて、迷路園の景色が見渡せた。


 広い。なんて広いのだろう。

 見渡す限り、三六〇度の全景が、雪のつもったヒイラギの垣根の迷路だ。

 こんなに大きな庭園が、あの城の敷地内にあっただろうか?――……いや、ここはあの城とは違う場所だ。


 だって、庭園迷路の中央には、真っ白なクリスマスツリーがある。遠くに見えてあの大きさだから、おそらく全長は三十メートル以上ある巨大ツリーだ。


 あんなに大きな純白のツリーがあるなら、ニコラオさんと宮殿の上をソリで飛んでいだとき、見えなかったはずがない。


 ここはクリスマスの宮殿がある場所とは、まったく別の場所なんだ。


「るっぷりーい! ご主人さまーッ!」


 シャーキスが空からブーンと飛んできた!

 上空から僕を探していたらしい。


「会えて良かった!」

「るっぷりい! ここはまたさっきとはちがう世界なのです、ぷう!」


「そうみたいだね。お菓子の家のあった魔法の森みたいに、また、魔法でちがう場所へ飛ばされたんだ」

「るっぷりい! ここには迷路しかありません。クリスマスの宮殿がどこにあるのかわからないのです、ぷう!」


「うん、ゴールはたぶん、あの白いクリスマス・ツリーだ」


 雪がつもったもみの木をかたどった巨大なホワイト・ツリーは、陽光を受けてキラキラと光っている。そのてっぺんには、大きな白い星が、まるで迷子をみちびく灯台の光のように、明るくかがやいていた。


「るっぷりい!? ご主人さまは、ここがどこか、わかるのですか!?」

「あのお菓子の家があった魔法の森も、クリスマスの宮殿の一部だったんだ。ふつうの迷路は通り抜けた出口がゴールになるけど、この庭園迷路はたぶん、あの白いクリスマス・ツリーがゴールの出口だと思う。この庭園迷路も、クリスマスにちなんで誰かが造った作品だと思うよ」


 クリスマスの宮殿には、クリスマスにちなんだ作品が納められている。

 クリスマスをイメージした、庭園迷宮を想像した人がいたんだろう。

 現実の世界ではとても造れないほど大規模で、永遠に美しいクリスマスの庭園迷宮。

 それをクリスマスの宮殿へ〈捧げ物〉として贈った人間の芸術家が――。


「るっぷりい! なるほどなのです!」

「シャーキス、目指すのはあのツリーのある場所だ!」

「るっぷりい! 了解なのです! 急ぎましょう!」


 シャーキスが上空から通路の方向を見定めて指示しながら、僕はなかば走った。

 コートは失くしたけど、走っていたから寒さは感じなかった。


 ヒイラギの垣根は中心部に近づくにつれ、だんだん低くなり、移動中でも白いクリスマス・ツリーが見えるようになった。


 はじめはただのヒイラギの葉と実と積もった雪しかなかった垣根だが、あちこちに雪の結晶みたいな飾りが見られるようになった。


 僕の手の平くらいもある、六角形の雪の結晶だ。ガラス細工だろうと思ってさわってみたら、指の熱で溶けてしまった。本物の雪だったんだ。


「うーん、きれいだけど、おみやげに持って帰るのは無理みたいだな」


「るっぷりい! 雪をお部屋に持ち込んだら、おかみさんに怒られるのです!」


「ちゃんと後始末をするよ。いや、そうじゃなくて、直径二〇センチもありそうな雪の結晶なんて、この庭園迷宮にしか存在しないだろうし……」


「るっぷりい! ここは魔法の迷宮で、ご主人さまは魔法玩具師です。持って帰れないとは限らないのです、ぷう! でも、ここの魔法が安全とわかったわけでもありませんから、気を付けないといけないのです!」


「そうだね、うかつにさわらないほうがいいね」


 進むにつれ、庭園迷宮のデザインは工夫を凝らされたものになってきた。


 片足を突っ込む深さの落とし穴があちこちに掘ってあった通路。

 あるはずのない頭上から、一メートル進むごとに雪の塊がドサドサ落ちてくる通路では、あぶなく埋もれかけた。


 ほかにも、かわいい雪ウサギの団体が出てきて進路妨害された通路では、蹴らないように大股で避けながらジグザクに進まなければならなかった。

 雪ウサギの囲みをやっと抜けたら、こんどは真っ白な子猫が団体で現れた。白い子猫たちが僕によじ登ってくるので、僕は子猫まみれになった。


 白い子猫たちのあまりのかわいさと暖かさに、あやうく長時間引き留められそうになったが、コートを失った僕は、止まっていると寒くなる一方だ。猫の暖かさでは(おぎな)いきれないため、短時間で正気に返り、なんとか振り切ることができた。


 こうして僕とシャーキスは数々の罠を突破して、ついに庭園迷路の中央へ、巨大なホワイトツリーがすぐ近くに見える通路まで、たどりついた!


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