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その十:バレちゃった!?

「るっぷりいッ! いつ誰が作って、いつからここに置いてあったのか、さっぱりわからないお菓子なのです。古くて悪くなっているかもしれません。お腹をこわしたらたいへんなのです!」


 シャーキスのいうことは、もっともだ。


「たしかに、キャンディーも砂糖漬けも長持ちしそうだけど、もしも何年も前に作られた古いお菓子だったら、いやだな」


 そう考えたら、お菓子の家を食べたいという気が、あとかたなく()せた。


「よし、シャーキス、この家の周りを調べてみよう」

「るっぷりい? なにをするのですか?」

「お菓子のほかに何があるか調べるんだ。童話なら悪い魔女が住んでいて、お菓子の家を食べた子どもを捕まえて食べようとするんだ。そんなのはごめんだよ」


 そんな目には絶対あいたくない!


「るっぷりい! ボクも、悪い魔女さんに丸焼きにされるのはイヤなのです!」

「そうだね、ぬいぐるみは、お風呂を()かす()き付けにされるよ、きっと」


 お菓子の家はヒイラギの垣根(かきね)に囲まれた庭の真ん中にある。

 僕はお菓子の家の正面右から回りこんだ。


「では、ボクはうんと上空から、森のほうまで見てみるのです、るっぷりい~……!」


 シャーキスは上の方へ飛んでいった。




 クリスピス・シャーキーズとトッパラッタ・ラッタッターズは、ヒイラギの垣根の外側で、怒りにプルプルふるえていた。


「あああ、あいつら、盗み食いをしないうえに、なんて失礼なことをいいやがるんだ! まがりなりにも気高きクリスマスの女王さまに奉納された、世に二つとない魔法絵画の、魔法の森のお菓子の家を、古いお菓子だと~? お腹をこわしたら、いやだとぉ~? 失礼にもほどがある!」


 クリスピス・シャーキーズは、両手で杖をグイグイ(にぎ)り、ブンブン振り回した。


「がうッ! そうだそうだ、失礼だ! この世で最高の魔法のお菓子の家だぞ! いまも家の中で、お菓子の魔女が新しいお菓子をいつも作っている、とびっきり美味(おい)しいお菓子ばかりなんだぞ、が~う~ッ!」


 トッパラッタ・ラッタッターズは両手をブンブンふりまわした。


「がうッ! お菓子の誘惑(ゆうわく)に負けないなんて、あいつら頭がおかしいんだ! なんであんなにお行儀がいいんだ!? ほんとは悪い子のくせに、どうして勝手に窓ガラスを割ってかじったり、チョコレートの門をむしりとって食べないんだ!? がう~ッ!」




 お菓子の家の周りを一周してきた僕は、お菓子の家の玄関前で、降下してきたシャーキスと合流した。


「るっぷりい! ただいまもどりました!」


 シャーキスは僕の右肩に止まり、耳元でこっそり見聞きしてきたことを報告した。


「ふんふん。へ~え。なるほど。そうなのか……。そういうことなんだね」


 情報を集めた僕は、この森からの脱出方法を、シャーキスと相談することにした。


「ここはあきらかに魔法で移動させられた魔法の森だ。どうしたらクリスマスの宮殿に戻れるんだろう?」

「るっぷりい。道を知ってそうな誰かにお訊きしましょう!」


「でも、いったい誰に?」

「るっぷ! お菓子の家なら、魔女さんがいるかもしれません!」


 コンコン。

 シャーキスはお菓子の家の玄関ドアをノックした。ドアノッカーは赤と白のしましま模様のアメ細工だ。


 ドアが開いた。


「どちらさま?」


 若くてきれいな女の人が出てきた。赤と緑のワンピースに清潔(せいけつ)そうな白いエプロンを着けている。きっちりまとめられた黒い頭髪には白いリボンが編み込まれていた。手には大きな木のヘラを持ち、怪しい魔女というより、きれいなお菓子作りの職人さんだ。


「あら、かわいいお客さま。いまショウガ入りのクッキーが焼けたところですよ。どうぞ中に入って、ストーブのそばで暖まって、お茶とお菓子を召し上がってくださいな」

「るっぷりい、ありがとうございます! でも、ボクらは早くクリスマスの女王様さまのところへ戻りたいので、道を教えて欲しいのです!」


「あら、残念ね。そちらのぼっちゃんも、お茶とお菓子は召し上がりませんか?」

「急いでいるので、お気持ちだけいただきます。クリスマスの宮殿へ戻るには、ここからどうすればいいのでしょうか?」


「それでしたら、この家の庭をかこんでいるヒイラギの垣根の木戸(きど)をくぐれば、すぐ宮殿に戻れますよ」

「ありがとうございます!」


 庭にある木戸はすぐわかった。

 自然のままの木の棒を組み合わせた簡易な作りだ。木の棒のすきまから、向こう側の森の景色が見えている。

 でも、僕がクリスマスの宮殿へ行きたいと願いながら開ければ、魔法で空間が繋がるんだろう。


 僕が、木戸の取っ手に手を掛けたら――。


 ぺった、ぱった、ぷった、ぺたん……!


 雪の上でも奇妙にひびく、あの足音が近づいてきた。


「あの~、お客さま……」


 のっそのっそと、魔法使い人形と、小熊のぬいぐるみが現れた。


「うがう! お腹が空いているのに食べないなんて、変な子……うぎゅむッ!?」


 魔法使い人形は、小熊のぬいぐるみの口を慌てて押さえた。


「グッシッシィ、あの~、この魔法の森はですねえ。じつは女王さまが、お客さまのために魔法でご用意されている、お茶会用のお菓子の家でして……。招かれたお客さまは、ご自由に飲み食いして良いのでがすよ」


「あ、やっぱりそうなんだね。魔法で保存されているから、衛生的(えいせいてき)にも問題ないんだ」


「もちろんですとも! お菓子の家は、お客さま方が訪れるたびに建て替えされますし、いつも最高の新鮮な材料で作られてるでがす! 女王さまのお客さまへおかしなものをお出しするなんて、できませんでがす!」


「そうか。それはありがとう。でも、僕らは一度クリスマスの宮殿へ戻るよ」


「な、なぜでがすか? お腹がお空きのお時間では?」


「女王さまにだいじな話があるんでね。でないと安心してお茶も飲めないようだから」


 僕がジロッと横目で睨んでやると、


 わわ!?

 うがうッ!?


 魔法使い人形とひねくれ小熊は、ろこつに(あせ)りだした。


「ふ~ん。……きみたち、やっぱり後ろめたいところがあるだろ?」


 僕はわざと腕組みして、ななめに構えて見下ろした。


「グ、グッシッシィ! なんのことですかい、お客さま?」


「ここは現代アートの絵の中の森だよね。きみたちは卑怯(ひきょう)にも、背後から僕とシャーキスを突き飛ばして、壁の絵の中へ落としたんだ!」


「ま~たまた、人聞きの悪い! そろそろお昼でがすんで、お客さまにお茶や食事をしてもらおうと、魔法の食堂がある森へ移動していただいただけでがす。ちょっぴり急いでいたのは否定しませんがねえ!」


「へえ、そうなの。だったらどうして、僕らを『悪い子』だなんていうんだい?」


「グシィッ! イイイ、いったい、なんのことでがすか!?」


「もちろん、ぜんぶ聞いたのです!」


 シャーキスが僕の頭上で叫び、僕と魔法使い人形のあいだへ、サッ! と舞い降りた。


「るっぷ! さきほど上空から、お二人の話をすべて聞かせてもらったのです! ぬいぐるみ妖精のボクまで悪い子と思われているなんて、心の底から驚いたのです、ぷい!」


 そう、僕がお菓子の家の周囲をまわっているとき、シャーキスにはこの周辺に、何かおかしなことがないか、ちょっと高い上空から探してもらったのだ。


 そうしたら、ヒイラギの垣根の向こう側に、案内人の二人が隠れていたのを発見。空から大きく遠回りして二人の後ろへ回り、二人が僕らに意地悪している告白の会話を、しっかり聞いてきてくれたのである。


「で、僕らはクリスマスの宮殿に戻りたいんだけど、きみらはどうする?」


「も、もどって、どうするのでがすか。魔法の食堂はここだけでがすよ? 宮殿に戻れば、食べ物は無いでがすよ!?」


「もちろん、女王さまにここまでの出来事をぜんぶ訴えるに決まってるだろ」


「グシィッ! それだけはごかんべんを……」


「いやだ! こうしていても、きみたちは(あやま)りもしないじゃないか!」


 魔法使い人形はプルプル肩をふるわせていたけど、パッと顔を上げると、くしゃっと表情をゆがめた。


「グシシ! そこまで知られちゃあ、捨て置けねえや! のう、トッパラッターの!」


「がうううーッ! そうだ、そうだ! お前らみたいな良い子のふりしたヤツなんか、雪と氷の魔法の森で、迷子になっちゃえばいいんだ!」


 ひねくれ小熊が両手を挙げた!

 とつぜん、すごい雪風が吹きつけてきた。

 目の前が雪で真っ白になる。


「シャーキス、何も見えない!」

「るるっぷりい、ぷううううーッ!?」


 目の端で捉えたシャーキスは、白いつむじ風のなかでグルグル回っていた。


「シャーキス!」


 僕は手を伸ばしたが、僕の頭上高くで風に翻弄(ほんろう)されているシャーキスには届かない。


「わ、だめだ!」


 ()()っても、地面から足が離れていく。ついに体が浮いて、飛ばされた!


「わあッ!?」


 僕は一直線に宙を飛んで、背中から、何かにぶつかった。

 一瞬、止まった。


 パーンッ! と、後ろの壁が無くなった。そこが木戸だったんだ。木の棒を組み合わせて作られていた木戸はバラバラに壊れ、僕は吹きとばされた!


「わあ!」

「るっぷりいッ、ご主人さまーッ!?」


 つむじ風にとらわれているシャーキスが、僕の後を追うように飛ばされてくる。

 僕とシャーキスは、どことも知れぬ暗い空間へ、真っ逆さまに落ちていった。


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