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その一:クリスマスのアイデアを探すには……?

「やあ、ニザくん。次の作品に悩んでるんだって?」


 十二月の初旬のある日。

 朝食が終わった早々、配送業者のニコラオさんが朝早くからやってきた。


 今年のクリスマス用に納品する、オモチャのでき具合を確認するための打ち合わせだ。

 クリスマスプレゼントの定番であるスノードームやクリスマスメロディーのオルゴール、何種類ものぬいぐるみに、木製のカラクリや木彫りの置物などだ。


 もちろん、いつも通りの数がきちんとそろっている。仕事の話は十分もせずに終わった。


 工房の倉庫から暖かな居間へ移動した親方とニコラオさんは、熱いコーヒーと二度焼きのクッキー(ビスコッティ)をつまみながらお喋りをはじめた。


 僕はそのテーブルのかたすみで鉛筆を握り、スケッチブックの両側に美術書や写真集を積み上げて、(なや)んでいた。


 考えているのは、クリスマスの贈り物にふさわしい、それでいて新しくて、美しいなにか――ようは斬新(ざんしん)魔法玩具(まほうがんぐ)を考えているのだが、ぜんぜん思いつかない。スケッチブックは白いままだ。


「ニザさん、そろそろ一休みしなさいな。ほら、親方を見習って」


 台所からおかみさんが、ラズベリーのシロップを入れた紅茶を持って来てくださった。

 おかみさんも休憩(きゅうけい)の時間だ。


「ん? なんだ、ニザはまだ悩んどるのか」


 親方とニコラオさんがこっちを向いた。


「おや、ニザくんは何を(なや)んでいるんだい?」


「新しい魔法玩具を作りたいんです。クリスマスにふさわしい、何か美しいものを」


「そりゃ、漠然(ばくぜん)としすぎだ。クリスマスだっていろいろある。何か……そう、テーマになるものを考えたらどうかね」


「そのテーマが見つからないんです。これだ!と夢中になれるような、新しい何かが欲しいんですけど」


「おやおや、ニザくんはずいぶん(むず)しいことを考えるね。芸術家は衝動(しょうどう)のままに行動するものだと思っとったが、そんなにカチコチになっては動けないだろう。なあ、親方」


「そうだなあ。クリスマス用にふつうのオモチャも魔法のオモチャ作りも一段落したから、ちょっと疲れているのかな」


「そうだ、ここはひとつ見聞を広げるために、どこか景色のいい所を見に行ったり、有名な観光名所へ旅行にでも行くのは?」


「うーん、そうしてやりたいが、さすがに今は時期がなあ」


 ニコラオさんの提案(ていあん)に、親方は太い眉をよせた。


「今日はのんびりしとるが、まだクリスマス用の仕事は残ってるからなあ。それに、この時期に旅行となると、もういい宿が取れないだろう。汽車(きしゃ)に乗って旅行するなら、移動に数日、観光に一週間は休暇が欲しいね」


「なんだ、親方までなにをいうんだい。若いうちにいろんなものを見て学ぶのは大切だよ。そのためには行動力だって必要だ」


「行かないとは言っていないよ。でも、わしらはきみと違って、一日で世界一周なんてできないんだ」


 親方はあきれたようにこたえた。


「でもまあ、来年の春に雪が溶けたら、どこか有名な美術館でも見に行こうか。たとえば……」


 親方は、名匠と言われる絵画のコレクションで有名な美術館の名前をいくつかあげた。


「はい、ぜひ!」


 僕は飛び上がるほどうれしくなった。

 前から見に行きたかった、都会の有名な美術館へいけるんだ!


「そうだ、美術館だ! それがいい!」


 とつぜんニコラオさんが声を上げた。


「良い美術館を知っているぞ。あそこならこれからすぐに行けるし、夜までに帰って来られる。ニザくんの悩みにはうってつけの場所じゃないか!」


 やけに力を込めて言うニコラオさんを、僕と親方はポカンと見つめた。


「親方だって行ったことがあるだろう。ほら、あの、クリスマスにちなんだ美術品ばかりがある所さ」

「そんな美術館があったかな?」


 親方が首をかしげた。

 僕と同じラズベリーシロップ入り紅茶を飲んでいたおかみさんが、ふと顔を上げた。


「ニコラオさん、それはもしかして、クリスマスの宮殿のことではありませんか?」

「うん、そう呼ぶ人もいるね」


 ニコラオさんがうなずくと、親方がポンと手を打った。


「あそこか! なるほど、たしかにクリスマスの宮殿だった!」


「というわけで、ニザくん、どうだろう? クリスマスにちなんだ美しいものがたくさんある、美術館のような宮殿があるんだよ。わしが責任を持って送り迎えしよう。わしのソリなら往復で一時間とかからない場所だ」


「それはありがたいです。ぜひ、連れて行ってください!」


 でも、この近くにそんな美術館があったかな?


「いまからだと、美術館にはどのくらい居られますか? 帰りは何時頃になるんでしょうか?」


「帰るのは、太陽が沈んでからでもいいだろう。なあ、親方?」


「親方はいかないんですか?」


「うーん、そうだなあ。わしらは昔見たことがあるから、どうしても行きたいわけじゃないなあ」


 親方はおかみさんを見て、なあ? とうなずいた。


「そうそう。わたしも昔見にいったから、今日はいいわ」


 おかみさんがクスクス笑う。なにか楽しいことを思い出しているようだ。きっとクリスマスの宮殿は楽しい所なんだろう。


「とてもきれいな建物よ。しっかり見物してくるといいわ。宮殿を管理している方がいるから、ご挨拶はきちんとするようにね」


「はい! じゃあ、ニコラオさん、お願いします」


「よし、さっそく行こうか!」


 僕は急いで外出着に着替えた。


 帰宅は今夜中だから、旅行仕度はなくていい。今年新しく仕立ててもらったきれいなコートを着て、新しい革の短靴(ブーツ)()いた。


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