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プロローグ


「あ……」


 桜の花弁がひらりひらりと舞い落ちていく。微かに吹く風に流され、小さく揺れながら横に流れていく光景はまさに雪のようだ。

 薄く色づいた花弁が一枚、また一枚と目の前を過ぎていく。手に持った紙の束かぱらぱらと音を立て、その上に花弁が一枚降り立った。白い紙の上、特徴的な形のそれがまるで初めからあった模様のように佇んでいる。そっと指先で撫でるように触れようとするが、花弁はふわりと逃げていく。その動きがなんだか可愛く見え、思わず笑みが溢れた。


 その瞬間、一際強い風が吹いた。

 何かが勢い良く通り過ぎたかのような突風に反射的に目を閉じる。手元の紙の束がパラパラと激しく音を立て、その強さがどれほどのものかを表しているようだ。

 風が弱まり、ゆっくりと瞼を押し上げた先には幻想的な光景が広がっていた。既に地面に落ちていた花弁も、まだ辛うじて木々にくっついていた花弁も全てが宙へと舞い上がり、桜色の情景を作り出す。


 ――ふわっ。


 桜の雨の中、本能をくすぐるような甘い香りが鼻を掠めた。花の香りともまた違うその香りに胸が高鳴り、今までに感じたことのないほどの高揚感が湧き上がる。どうしようもないほどに心と体が求め合う感覚。

 もしかして――はやる気持ちを抑えながら視線をずらした瞬間、息が止まる。全身が雷にでも撃たれたかのような衝撃だった。心臓が痛いほどに大きく、そして強く鼓動する。


 桜色の世界の中、紺色の服に身を包んだ人影に目が奪われる。本能が、魂が震え、惹かれ合う感覚に息をするのも忘れててしまう。

 人影がゆらりと揺らぐ。薄い色の花弁がひらりと目の前を通り過ぎ、再び見えたその姿に息を呑んだ。


「……みつけた」


 遠くからでもわかる。ずっと探し求めていたものがそこにあるのだと。

 やっと見つけたという思いと共に全身に広がっていく歓喜。どうしようもないほどに求め、惹かれ合うそれにもう抗うことなんて出来ない。

 


 ――それはまさに『運命』だった。


 

 

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