強気な交渉
「マリアちゃんが治めているトルマリン王国、その東南に位置するのがトパーズ王国、そして西南に位置するのがオニキス王国。今回は三国の国境付近の教会を借りて交渉するわ!」
今回の同盟は三か国同盟と言うこともあり、オニキス王国の北部に位置する教会を借りて交渉を行うこととなった。
「トルマリン王国はマリアが来ていないらしい。舐められたものだ。我々の国境は魔族と隣していない。奴らが強く出て来たらそのままこの交渉は破棄してやろう!」
オニキス王国の国王は真由美たちが王女であるマリアを同行させていないことに憤慨し、強気な交渉に出るつもりでいた。
一方のトパーズ王国は獣人の国と隣していることもあり、北部のトルマリン王国が魔族に敗れれば一気に強大な敵が二方向にできるため、今回の同盟には乗り気であり、三国の同盟に対する意識はかなり温度差があるものであった。
「虎太郎ちゃん、オニキスとトパーズが連れてきている兵士の数や動きを調べて私に報告してくれる!」
「わかった。小鳥たちに逐次報告させるよ!」
「小次郎さん、奴らが強気で出て来たら、カーラを突き出して、奴らに脅しをかけるけど良いかしら?」
「ダメだ! カーラはもう俺との戦いで敗れて降伏している。彼女にこれ以上の屈辱を味合わせることには反対だ!」
「あなた、そんな甘いこと言っているとその女に寝首をかかれるわよ! 今も恋人みたいに自分の馬に乗せているけど、そいつはチャンスがあれば、あなたを殺してでも逃げるわ!」
「真由美さん、君の考えは正しいと思う。でも、俺は負けた相手にこれ以上の辱めを与えることには反対だ。彼女を信用できないなら、俺の配下に彼女を入れて、俺が責任者として面倒を見る。君も会社員だから、部下の落ち度は上司が責めを受けるという意味はわかるだろ?」
「勝手にすればいいわ!」
真由美は小次郎のカーラに対する優しさにまたもやイライラして、小次郎を置いて、交渉の場へと向かって行った。
「小次郎、あなた立場を危うくするわよ! 私は既に敗者、今さら魔王国に戻っても処罰される身、私を庇うメリットなんてないわ……」
「俺は自分が拳を交えた相手には最低限の敬意を表する。俺は自分の考えで動いているだけだ。君が気にする必要はない」
カーラは三国同盟の場で交渉の道具として使われると思っていたので、ここまで小次郎が自分の立場を守ってくれることに思わず涙がこみ上げ、小次郎の配下で忠節を誓うことを決めるのであった。
三国の代表は謁見の間に集まり、同盟について話し合う。
「わしはオニキス国王のジルコン2世だ。今日は国王同士の話し合いと思っていたが、トルマリンはマリア殿がお越しでないと聞いているが、これは我らを下に見てのことか?」
「マリアちゃ、いえ、マリア様はまだ17歳、交渉に代役を充てるのは別になんらおかしなことではないわ! 私が今回の魔王国との采配を取った工藤真由美。今回はお互いにとってメリットのある関係を結べればよいと思っているわ」
「わしはトパーズ国王のウィリアム3世。我らも良い関係が結べればと思っている」
「まず、トルマリン王国はオニキス、トパーズとの同盟関係を望みます」
「同盟だと、我がオニキス王国はお前らのように魔王国に隣していない、同盟を結ぶメリットなどこちらにはない! どうしてもと言うなら、我が国の王子がマリア王女と婚姻関係を結んで、同盟を結んでやっても良いぞ!」
オニキスはトルマリン王国以外の国とは面しておらず、魔王国に攻められるトルマリンの窮状を知っていて、足元を見てきた。
「あらそう。残念だわ! マリア様をオニキスの王子と結婚させる気なんてないわ! だってこの同盟、決裂するなら私たちはオニキスに攻撃をしかけるつもりだもの」
「ハッタリはよせ! そんなことをすれば、我らと魔王国に挟み撃ちにされ国がなくなるぞ!」
「オニキスみたいに戦争慣れしていない国の兵士がどれほど戦えるのかしら? うちの情報網だと、あなたがここに連れてきた兵士たち、うちの軍勢に攻撃されたらどうしようと怯えているみたいよ。急いでかき集めた兵隊さんたちなのかしら?」
(なぜ寄せ集めとわかった? そもそもコイツらが交渉の場に五千の兵など連れて来るから……)
「どうしたの? 動揺しているように見えるけど」
「こんなところで戦を始めれば、そちらもただでは済まんぞ!」
「それは問題ないわ! 私があなたたちの首を刎ねれば、直ぐに戦は終わるから!」
カーラを連れて小次郎が現れる。
カーラは短剣を持って、オニキスとトパーズの王を見てニヤリと笑う。
「小次郎さん。その女、なんで手枷もついていないの?」
「私は小次郎の配下に入ることにしたの。で、交渉に応じないのはどっち? どちらの首を刎ねればいいのかしら?」
(まあ、リスクはあるけど、いいタイミングだわ!)
「とりあえず、あなた達が私たちと同盟を組むならこの場は丸く収めるわ!」
カーラの出現により、オニキスの王は動揺し、大人しく同盟の条件を聞くのであった。