予想外の反撃
「真由美さん、カーラ率いる軍団が最初の城に迫っている!」
小鳥たちを使って魔族を監視していた虎太郎が慌てて、真由美のいる王宮に駆け込んでくる。
「虎太郎ちゃん、手筈どおりに兵隊と住民は避難させたかしら?」
「大丈夫、敵からは気づかれにくい場所で野営してもらっている」
「それでいいわ。奴らがこの城を全軍で取り囲むまで待機よ!」
カーラの軍勢は最初の城にたどり着くが、住民も兵士も一人もおらず、全員逃げ出したことに気づき、兵糧を城に運び込むと二つ目の城へと向かって行く。
カーラは次々と支城へと軍勢を進めるが、どの城も無抵抗どころか、住民一人残っていない。
「人族もあの頼りない王女だけになって戦う気力もなくなったのかしら? それとも全員で王女ととお城に立て籠もるつもり? どちらにしても勝敗は決しているわ」
カーラは占領した支城に兵糧部隊だけ残し、マリアのいる城を目指す。
「真由美さん、カーラの奴、ここ以外の城を全て占拠してこちらに向かっているけど、攻撃の指示を出した方がいいかな?」
「虎太郎ちゃん、まだよ。我々が支城を攻めても引き返せないくらいこの城に近づけたら、一斉に奴らの兵糧を攻めるわ」
真由美は虎太郎の放つ小鳥たちの報告を小まめに確認し、各支城の近くに布陣した兵士たちと出撃の時を伺う。
「真由美さん、遂にカーラの本軍がこの城の近くまで迫って来たよ!」
「完全に包囲させてからよ。敵は兵糧の運搬も順調に進んでいるから、何のためらいもなくこの城を囲んでくるはずだわ」
真由美の読み通り、カーラはここまで全く抵抗に会わなかったため、城の周りに兵を配置し、城が干上がるのをゆっくり待つように無理に攻めてこない。
「頃合いね。虎太郎ちゃん、各部隊に支城を攻撃させて! 狙いは敵の兵糧よ。敵の兵糧に火を放って焼き払ったら、無理に戦わず森や山に退却させるの。そして敵の追手が多ければ隠れて潜み、小勢なら一気に殲滅を繰り返すように伝えて!」
「わかった!」
虎太郎に命を受けた小鳥たちは各城の近くの山野に野営している味方に攻撃の合図を出し、兵士たちは魔族に奪われた城を攻めて兵糧を焼き払って行く。
「カーラ様! 奪った城に敵が奇襲をかけており、兵糧の多くが焼き払われました……」
「なんですって……」
カーラは油断していた。
ここまで抵抗に会わないのは、人族がマリアの城に兵を集中させたためだと思っていた。
「何をやっているの! 奇襲をかけた敵軍を見つけ出して始末しなさい!」
「はっ!」
カーラの軍勢は慌てて、各支城に残してきた兵士たちに伝令を出すが、真由美の作戦どおり人族の兵士は大軍で追えば、隠れてしまい、小勢で別れて探せば、各個撃破してきて、魔族の兵士たちを次々に刈り取っていく。
「真由美さん、小鳥たちの報告によると、各城で敵の兵糧を焼き払って、更に追撃軍もゲリラ戦法で撃破しているって!」
「そう。虎太郎ちゃん、各部隊に次の指示を出すわ! 今度は城を奪い返したら城門を閉じて籠城するように伝えて!」
虎太郎は真由美の指示通り各部隊に次の指示を出し、山野に潜んでいた兵士たちは次々に城を奪い返し、住民も城下町に移動させ、城門を閉じて籠城に入る。
「これでカーラは背後も気にしなくてはいけない。それに兵糧なしに10万の大軍は逆に仇になるわ!」
真由美の言った通り、兵糧攻めは自軍の兵糧が調達できてこそ成り立つもので、兵糧の確保ができなくなったカーラは大軍で城を囲んではいるが、逆に兵糧攻めを受けているのと同じことになる。
「してやられたわ! 奴ら最初からこれを狙っていたのね!」
「カーラ様、兵糧が止められてしまっては長くはここにいられません! 総攻撃をしかけますか?」
「これだけの用意周到さ。ここで総攻撃をかけても、おそらくこの城は落ちない。逆に頃合いを見て背後から敵が襲ってきて挟み撃ちにされる可能性が高い」
「では、どういたしますか?」
カーラの側近たちも背後からの攻撃を気にし始める。
「仕方ないわ。あなた達は背後の敵にも注意しながら包囲を続けて! 戦は敵将の首を奪えば終わり、私が城に潜入してマリアの首を奪ってくるわ!」
カーラは不敵な笑みを浮かべ、城内に侵入するのであった。