負けるわけないじゃない!
城の中庭のベンチで座り込む小次郎。
「あんなに毎日鍛え込んできたのに、与えられた能力が『ラッキースケベ』とか、この世界なんなんだよ……」
小次郎は証券会社に勤める金融マンで仕事も真面目で優秀であったが、そのお堅い性格から恋人はおろか、普段の友人さえ殆んどいなかった。
しかし、そんな小次郎も武道の趣味があり、休日は稽古で同じ武道好きと汗を流すことで日頃の孤独感から逃れることができていた。
「俺の居場所はこの世界にはない。早く元の世界に戻らないと……」
小次郎は孤独感から元の世界に帰りたいという気持ちが強くなっていた。
「早く帰りたければ、私たちが協力してこの世界を一日も早く平定することよ!」
小次郎が振り向くと、真由美が小次郎の座っているベンチに距離を取りながら腰かけている。
「真由美さんか……」
(距離を取って座ってる。俺のラッキースケベを警戒しているのか……?)
「何の用だ?」
「あなた、武道をやっていると言っていたわね? どのくらい強いの?」
「まあ、子供のころからずっと武道やっていた。27年間ずっとな……。柔道、剣道、空手、ブラジリアン柔術、忍法体術、居合道、それ以外にも戦いに勝つためにいろいろ習っていたし、研究もしていたぞ……」
「では、殺戮の魔女と戦って勝てる自信はあるかしら?」
「一騎討ちならな……」
「私たちでカーラを王宮内におびき寄せるから、あなたにカーラを倒して欲しいの!」
「必ず勝てるとは限らないぞ……」
「期待しているわ!」
小次郎は重要な役割を任され、実戦で戦えることに胸が高鳴る。
そして真由美は小次郎を連れて、マリアのところに向かう。
「マリアちゃん、お願いがあるの!」
「なんでしょうか?」
「スーツを作ってほしいの。あと、ヒールも欲しいわ!」
「真由美さん、なんでそんなものが必要なんですか?」
「あら知らないの? キャリアウーマンにとってスーツとヒールは戦闘服よ!」
マリアは執事のアルフレッドに命じて、スーツとヒールを用意させる。
「ところで真由美さん、私はこの赤いジャージという服でないと駄目でしょうか? なんか、この服だとお姫様っぽさがなくて……」
「ダメよ! 命を狙われないための工夫よ! ところであなた王女ってことは王様や王妃様はどこにいるの?」
「殺されました……」
下を向くマリア。
聞けば、王も王妃も魔王国の侵攻で殺されたとのこと。
「ねぇ、真由美さん、無理はしなくてよいです! カーラは本当に強いです。静香さんも小次郎さんも殺されてしまうかもしれない。私のためにそこまでする必要はないです」
「あなたってまだ17歳かそこらの女の子でしょ? 余計な心配する必要ないわ! それに私が采配を取るのよ、負けるわけないじゃない!」
真由美は笑みを浮かべ、静香と小次郎とも目を合わせる。
「マリアさん大丈夫です。私、カーラから逃げ切って見せます!」
「安心しろ! 静香さんが逃げ切った後、俺がカーラにとどめを刺してやる!」
「マリアちゃん、わかったかしら? 私たち覚悟を決めているの! カーラとかいう女に敗北という初体験を味合わせてやるわ!」
真由美の自信あふれる表情を見て、マリアも少し希望の光が見えてくる感じがするのであった。