小次郎の能力……
宮殿内で茫然と立ち尽くす4人。
マリアは真由美たちに助けを求める。
「聖母カリーテ様が遣わしてくださった4人の救世主様、どうか我が国を助けてください!」
(コイツ、カリーテという名前だったのね……)
真由美は赤ん坊を抱いて微笑んでいる女神像と実際に出会った失敗したバンドマンのようにやさぐれた女神の姿を思い出し、言葉を失う……。
「いま、この国は存亡の危機にあります。魔族の軍勢がこの城を攻めるために10万の大軍で攻めてきます。我が国は国内6つの城の軍勢を集めても3万といったところです。このままでは攻め滅ぼされてしまいます……」
マリアにこの世界の情勢を聞くと、魔族が世界統一を掲げ、人族だけでなく、獣人族やエルフ族などの他種族の国にも侵攻を始め、魔族以外の種族は存亡の危機にあるという。
「要はこの世界は群雄割拠と言うことね!」
真由美は本来はマリアが座るべき玉座に座り、足を組んで、マリアに地図と敵の進行速度などを報告させる。
その姿は上司と新入社員のような関係となり、王女であるマリアが真由美の前で地図を広げ現在の状況について詳しく説明を始める。
「マリアさん、まずはここ以外の5つの城の兵士と住民に食料や武器を全て持って、城近くの山中に潜むように伝えてちょうだい!」
「え、しかし、そんなことをしたら、この城に到着するまでの防衛線を全て放棄することになりますが……」
「いいのよ。この城を10万の軍勢で取り囲ませてあげればいいわ。それと虎太郎ちゃん! あなたの能力で小鳥たちに落とされる5つの城を敵兵が拠点化したら私に伝えるように命じてくれる!」
「なんで、俺があんたの部下みたいに動かなければいけないんだよ!」
「いいから、やりなさい!」
ビジネスの世界で鍛えられた真由美の気迫は金持ちの息子として育った虎太郎に取って、ビビるには十分な迫力であった。
「わ、わかりました……」
「虎太郎ちゃん、情報力は戦の要よ! 期待しているわ!」
「はい……」
完全に真由美に服従する虎太郎、真由美の指示通り、マリアは5つの支城に城からの撤退し、抵抗せず合図があるまで近くの野山に潜伏するように伝える。
「ところでマリアちゃん、敵の指揮官はどんな奴なの?」
玉座で足を組み、王女をマリアちゃんと呼ぶ真由美、しかし、マリアの側近の者たちも真由美の威厳ある態度に何も言えず、話は真由美を中心に進んでいく。
「敵の指揮官は暗殺を得意とする『カーラ』という殺戮の魔女です。黒いドレスを着て、持っている短剣で相手の首を刎ねるという恐ろしい女なのです。最初は軍勢で城を囲むでしょうけど、最後はこの女が単体で城に乗り込み私の首を狙いに来るでしょう……」
マリアはこのカーラに怯えており、表情を曇らせ、震えながら話す。
「敵将の首を単体で奪いに来るか……」
真由美はしばらく腕を組んで考え込むが、静香の顔をジーっと眺めると玉座から立ち上がり、テーブルに置いてあった筆を取り、宮殿の壁に思いついた戦略を整理するためにロジックツリーなどを書き始め、自分の頭に落とし込んでいく。
「あの、真由美さん、お城の壁に直接書くのはやめてください……」
真由美の迫力により既に新入社員扱いされている王女マリアであるが、さすがに王宮内の壁に直接書き込むことに対して注意をするが、戦略を考えている時に余計な口を挟まないようにと、マリアはまたもや新入社員のように真由美に怒られる。
「まあ、マリアさん、今は真由美さんの考えに従ってみよう。彼女、何か良い策が浮かんでるみたいだ!」
小次郎は真由美に叱られて落ち込んでいるマリアの肩を軽くポンポンと叩き慰めようとするが、ラッキースケベの能力が発動してしまい、マリアの着ていたドレスの肩ひもが小次郎が触れた時に解けてしまい、ドレスが足元までスパッと落ちてしまい、マリアは王宮内でまさかの下着姿になってしまう。
小次郎のラッキースケベ能力により下着姿になってしまったマリアは恥ずかしさのあまり泣き出し、寝室へと引きこもってしまう。
「あ、いや、わざとじゃないんだ! クソ、何て能力だ!」
周囲の冷たい視線を浴びて、慌てる小次郎。
「小次郎さん、あなたの能力、本当に最低ね、私も正直、今のはドン引きしたわ……」
壁に戦略を書いていた真由美であったが、泣きながら部屋に戻って行ったマリアを見て、小次郎を軽蔑したような表情で見つめる。
「武道一筋で生きてきたのに、なんでこんなハレンチな能力を与えたんだ! あの女神め……」
悔しさのあまり、王宮から飛び出す小次郎。
(あの能力、本当にクソだわ! でも、マリアさんが泣きながら部屋に帰って行ったところを見ると、この世界でもああいうのは女性にとってかなりのトラウマになるということね……)
真由美はまたもや何かを思いつき、フッと小さな笑みを浮かべる。
「この戦、勝てるわ! 静香さんちょっとマリアさんと三人で話ができるかしら?」
「わ、わたしですか。は、はい。構いませんが……」
王宮内から飛び出した小次郎は放置して、真由美は静香を連れてマリアの部屋へと向かうのであった。