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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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わからせ(物理)の方が早い その1

「くっ、殺せ……!」

「……あ、赤山ちゃんに空島ちゃん。その人、誰?」


 橙田が困惑を隠しきれない様子で、梅吉と青仁の間でがっちりと肩を組まれて連行されてきた一茶を見て問いかける。彼女の左手には冷やし中華が、右手にはお酢(800ml)が構えられている時点で真っ当な疑問を抱ける資格はない、と言いたい所だが残念ながらこれが橙田の平常運転である。いちいちツッコミを入れていたら話が進まない。青仁とドリンクバーのセット販売みたいなものである。


 故に断腸の思いでツッコミを放棄し、一丁前にエロ同人に出てくるタイプの女騎士みたいなことを言っているアホの説明を一文字で済ませた。


「盾」

「贄」

「……え、っと。どゆこと?」


 壁として張り付かれるぐらいならば、むしろこちらから招き入れ積極的に渦中に置いて黙らせる。単純ながらも非常にスマートな手法であった。まあ奴の身体能力的に、取り押さえて廊下を歩いて連行するのは二人がかりでもキツかったのだが。それでもこうして一旦連れてきてしまえば大人しくなるので問題ない。

 奴を逃さない為に梅吉と青仁二人で挟むように椅子に座る。せっかくの昼食時になんとも異様な空気感を生み出してしまうことについては非常に申し訳ないと思っているが、橙田には是非とも諦めてもらいたい。必要な犠牲である。


「……いや、さ。橙田さん、い、言ってたじゃん。だ、だだ男子と話せるようになりたいって」

「う、うん」

「だ、だからちょっと……マシっぽいの、連れてきた」

「ま、マシ?」


 橙田に向けた体裁としては上記のとおりである。実際以前男子と話せるようになりたい、と言っていたので嘘は言っていない。一茶を肉盾にするという動機が七割なのは認めるが。


「おいこらちょっと言ってみろ僕のどこがマシなんだよ?!」

「チビ。童顔。ギリ中学生で通りそう」

「ふっ甘いな僕はやろうと思えばギリデカめの小学生で通る……!」


 一応理由はちゃんとあるのだ。緑のような露骨にちゃんと野郎っぽいタイプを連れてくるよりは、威圧感が少ない一茶を連れてきた方がマシだというものが。


 ちなみに緑は先程から心配そうに納戸と共に遠くからちらちらとこちらを伺っている。もしかしてそんなに信頼がないのだろうか。辛いのだが。


「一茶お前そこで誇っちゃって良いの?身長伸ばそうとか思わないの?」

「このクソみたいな食生活で高身長を望むほど、僕は馬鹿じゃない」

「自覚あるなら食えよ。マジでお前と梅き……の胃袋たして二で割った方が良いって」

「それは正直僕も思う」


 なお青仁はここまで最初の一言以外何一つ口を開いていないものとする。たしかにこれは信頼がないかもしれない。


「つかそういうことかよ、最初僕に梅吉の制服着せようとしてたの」

「お前がめちゃくちゃ暴れたからやめてあげたじゃん」

「上から目線腹立つな。暴れるに決まってるだろ。自分がやられて嫌なことを他人にやっちゃだめって教わらなかったのか?嫌じゃないのか?」

「その質問お……私らに言う?」


 毎日が女装な日常になって久しいのだが?というドス黒い怨念を込めた目で青仁が言う。そちらの方向で攻められたら負ける気はしない。こちとらろくな目にあっちゃいないのだから。


「……二人とも、男の子のお友達多いんだね。すごいなあ」

「そっそそそそそんなことは……いやお酢を冷やし中華に注ぎながらしみじみ言われても全然褒められてる感がしないわ」

「えー。だって市販品はお酢要素が足りないんだもーん。仕方なくない?」


 一茶とのしょうもないやり取りに取り残されていた橙田が羨ましそうにしているが、その手元では冷やし中華が無惨な姿になっていた。一瞬どもりかけたものの、一週間程度で慣れてたまるかと叫びたくなるような衝撃映像のおかげで流暢にツッコミを入れる。


 ちなみに今のところ、ツッコミぐらいでしか橙田と真っ当な会話ができていない気がする。進捗がありそうでない。


「赤山ちゃん、ありがとね。あたしのお願い、気にしてくれて」

「……い、いやあ」


 橙田の素直なお礼の言葉に、梅吉の胃がキリキリと痛む。こちらは犠牲者を増やす為だけに一茶を招集したと言うのに、そんな純粋な目で見ないでほしい。


「でも、その……ごめん。まだあたしには、ちょっと難易度高いかも……!」

「……あー、うん……」


 彼女自身一茶の手前必死に踏ん張っているようだが、強張った表情をまるで隠せないまま、一茶に聞こえないよう小声で梅吉に告げる。そんな橙田の姿に、罪悪感は募るばかりだった。緑を接触させた段階で分かりきっていたことではあるが、本当に男子が苦手らしい。自分が女子との会話能力に難がありすぎるせいで、哀れみが余計につのる。


「……これ本当に僕必要だったか?ガワだけでも女子オンリーで集っとくべきだったんじゃないか?」

「だってお前放っておいたら絶対侵入するじゃん。あと三人寄れば文殊の知恵って言葉もある訳だし?」

「その理論だったらせめて僕じゃなくて緑にしろよ。そこでずっと心配そうに見てるし」

「あいつ前逃げたから信用できない」

「は?……いや、逃げなかったら逃げなかったで僕の拳が火を噴くところだったな、ならいいか。という訳で僕は空気に徹させてもらう。この清浄な空気を僕という異分子で……いやお前らも大分汚れてないか……?」


 そんなことをしている間に、一茶がいつの間にか置物になろうとしていた。当初の目論見からすれば死なば諸共案件なのだが、再三言うが基本的に梅吉は女子に弱い。というかこの場にいる野郎共(概念)は全員女子に弱い。


「ま、まあそういうことにしておこうよ、う、うん、ってことでほら、ご飯食べよ?いつまでもお、わたしらでまごついてても橙田さんが蚊帳の外になっちゃうし」

「おま……そ、そう、だな」


 梅吉が橙田の名を持ち出してそう言えば、逆らえる者などいないのだ。なお一茶は既に置物を決め込んでいる。お前そういうところだぞ。


 さて、こうして昼食が始まった訳だが。


 一人は相変わらずのゴミ袋としか形容できないサイズ感の袋から菓子パンを取りだして手品のように消費し、一人は一般的なおにぎりのお供に餃〇サイダーとかいう名前からしてアウトの臭いしかしない飲み物を手にし、一人は限度を超えた追いお酢の犠牲となった冷やし中華を食している、というカオスがぬるっと生成されている為、どう足掻いてもシリアスにはなり得ないものとする。一茶が正気を疑う目をしていた気がするが、ここに来る前にミニ塩むすび二個で昼食を済ませた奴にそんなことをする資格はない。


 三者三様にアブノーマルな食事風景を作り始めたところで、橙田が話を切り出す。


「あ、あのさ。赤山ちゃんと空島ちゃんにちょっと聞きたいんだけど。実は部活気になってて、先生に相談したら見学行って来ていいって言われたから、行ってくるつもりなんだよね。どういう部活があるとか知ってる?とりあえず文化部で探してみるつもりなんだけど」

「良かったな一茶、早速お前の出番だぞ」

「わたしらには無理」

「は?」


 一茶置物化、終了のお知らせであった。


「い、いやさ。わ、わたしも青……伊もその、部活全然興味なくて、一年の頃からずっと帰宅部で、その辺マジで知らないから。せ、せめて、今連行してきたこいつみたいな、部活やってる奴のがまだ……」

「そっかあ。高校だと中学みたいに部活強制!って感じじゃないんだっけ。そうだよね、興味なかったらそんなかも」


 存分に挙動不審を発揮しながらも、どうにか梅吉は橙田に答える。この通り、梅吉も青仁も入学当初から部活というものに入る気が一切ないままここまで来てしまった為、二年生をやっておきながら、この学校の部活動についてほとんど知らないのだ。

 一方一茶は脱走常習犯ではあるものの、れっきとした柔道部員である。何も知らない二人に比べれば、まだ当校の部活事情を知っている筈だ。


「一応聞くけどさ。青伊、お前文化部って何があるか知ってる?」

「写真部と生物部があるってことぐらいしか……」

「生物部……あそこか」

「大分微妙だよな……」


 そういえばそんなものもあったな、と思い出しながら苦い顔を浮かべる。前者は以前体育祭にてノリノリで映像撮影を行なっていた部活の筈だ。そして後者については、二人の表情が答えである。


「生物部?そんな部活あるんだ。珍しいね、どんな部活なの?」

「どッ?!どっどどどどどどどォ⤴︎んなぶかぁっあっあああむぐっ」

「黙れ無能。……え、っと。あの、生物部、ってのはその。怪談?みたいなう、噂があってさ」

「怪談……?」


 妙に声を上擦らせ、最早奇声としか形容のしようがない、会話の成れの果てを吐き出す事しかできなくなってしまった青仁を黙らせつつ。梅吉は首をかしげる橙田に答える。


「あー……なんか、生物部って。部室から呻き声が聞こえた、とか。と、扉から、な、謎の粘液があふれ出してた、とか」

「あと夜な夜な人体実験してるとか、踏み込んだら最後クラケーン的な怪物に食われるとかなかった?」

「あーあったあった。と、とにかくその、ヤバい噂がめちゃくちゃある」


 二人で遠い目をしながら、噂話を語る。とはいえ青仁があげた人体実験やらクラーケンやらはともかく、呻き声と謎の粘液については目撃者が多数いるのだ。故に一概に噂話と片付けることはできない、奇妙な話としてこの学校ではそれなりに有名な話である。

 と、梅吉としては単なるちょっとした会話の脱線として口にしたつもりだったのだが。


「へ、変な噂だね〜。そ、そういうのが流行るのって小学校ぐらいまでじゃない?なんで高校なのにそんなのあるの……?」


 どうやら橙田はその手の話にあまり耐性がないらしい。大した話でもないというのに、視線をあちらこちらに彷徨わせながら、少しだけ声を震わせる。


 たかが噂、されど噂。不気味な話には変わりない。故にそういえばこの場にはもう一人盛大なビビリが生息していたな、と先程置き物化終了のお知らせが届いたにも関わらず、未だに息を潜めている一茶へと視線を向けると。


「すっすすすすみませんそのあなたが怯えるべき話じゃないと思いますこれてっててていうか多分いやほぼ確で僕の身内の犯行ですし本当ごめんなさい僕が言って聞かせるんでなんなら肉体言語にも訴えとくんではい」

「は?」

「えっ知り合い?」

「ど、どゆこと?」


 何故か一茶が、超絶早口かつボソボソとした喋りで謝罪を繰り広げていた。


 内容としては橙田へ向けたものであるが故か、挙動不審コミュ障を極めており、非常にわかりにくいものではあったが。それなりに有名な噂に対する決定的な回答が、今この場で語られた事には違いない。好奇心が湧くに決まっているだろう。


「とりあえずどこまで真実でどこまで噂か知りたいんだけど。流石に人体実験云々はガセだよな?」

「そ、空島ちゃん?き、きき聞くのやめとこうよ。こ、怖い話かも知れないんだよ?」

「……橙田さん。その、青伊、怖いの、す、好きだから……」


 何せこの場にいるのはあの恐怖の基準がぶっ壊れて久しい(ガワだけ)美少女、青仁である。橙田がかわいらしく怯えた程度で止まるはずがなかったし、そこで止まれたらもう少し女子との会話を円滑にこなせていたことだろう。


「……人体実験は……七割やってないと思いたい……クラーケンは流石に幻覚……まだ実現できてないってぼやいてたから……」

「ひいっ?!」

「え、冗談だよな?冗談であれよ、なあ」

「ねえもしかしてガチホラー?お、私ホラー好きだけどリアリティライン変わるからガチホラーはちょっと……てかホラーってのは作り物だからこそ面白いのであって……」


 などと思っていたら、死んだ魚のような目をした一茶が、奴の普段の発言の方向性とはまた違ったトンデモ発言を繰り出し始めた。

 橙田が悲鳴をあげ、梅吉がガチ焦りをかまし、青仁がなんか微妙にズレたことをほざく中。


「あと粘液とうめき声はめっちゃ心当たりある。……うん、やっぱあいつ処すか。今んとこあいつの存在、健全な百合の育成の妨げにしかなってないし」


 一茶はさらりと目撃情報が多数挙がっていた怪現象の実在を肯定しつつ、据わった目付きをしながら立ち上がり、教室を去って行った。

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