表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/130

そんな簡単に仲良くなれるかっての

 女湯。そうそこは言わずと知れたシャングリラであり、性転換病患者(元男)にとっては非常に突入する難易度の高い場所である(梅吉調べ:調査対象二人)。

 つまり、正気ではなかったとはいえ女湯に突入することに成功した梅吉と青仁は、控えめに言って勇者なのである──!


「……と、まあこの通り。オレらは女湯に入ってきた訳だ」

「すごかったぜ……!」


 そしてその事実に気がつき、見事浮かれポンチと化した二人は、知り合いにその話をして回っていたのだった。完全に自慢である。何なら今なんて、わざわざ別のクラスに突撃し、朝練終わりの一茶を捕まえて語っている程である。


「く……!お前ら、女湯とかいう野郎にとっての絶対不可侵領域に侵入しておいて、その程度の浅い感想しかないのか?!」

「いやこれでも大分事細かに語ったつもりだったんだけど。大分深いってかキモい感想だと思うんだけど」

「お前これで満足できないって何を求めてんの?」


 まあ一茶にとってはお気に召さなかったようだが。どうせこんなアブノーマルなマイノリティの意見なんぞ参考にしたところで何の為にもならないので、適当な反論にとどめるに限る。


「何を求めてるか?決まってるだろ女の子と女の子がきゃっきうふふと戯れ合っている様子だ!非日常に浮かれて触り合いっこしているうちにお互いに変な気持ちになってきてしまって……的な定番シチュだっての!」


 この通り、ろくなことを言わないので。


「そんなのある訳ないだろ、何言ってんだこいつ。漫画の読み過ぎだっつーの。つか触り合いっこってなんだ触り合いっこって。どこ触るんだよ」

「?ちく」

「いやセックスじゃねーか!!!!!ねえよんなもん!!!!!公衆浴場で発情してるヤバい奴でしかないだろそれは!!!!!」

「夢見すぎだっつーの!!!!!童貞の夢も程々にしとけ!!!!!」


 一瞬、戯れや触り合いっこ等の不穏なワードで先日の自分の所業を思い浮かべた自分が馬鹿みたいだった。流石にそんなことはしていない。


「いやいやいや、僕はこの目で見るまで信じない。きっと僕とお前らが知らないだけで、銭湯でちょっといい雰囲気になっちゃってる女の子たちは『()()』」

「ご丁寧に鉤括弧で括った上に傍点まで打ってんじゃねえよ。いる訳ねえだろ」


 ガンギまった目で何一つ道理が通らない発言を吐く哀れな童貞の怪物。流石に自分はここまでひどくない。


「ていうか仮にいたとしたら、男も銭湯で触り合いっこしてることにならないか?あでも男の場合どこ触るんだ。ちんこ?ちんこ以外エロい部位なくないか」

「ヴォエッ!」

「カスの気づきを共有するな死なすぞ!!!!!」


 とはいえその後青仁がぬるっと最悪の発想を披露しやがったので、怪物はひとまず青仁に殺意を向ける方向性へと移行したようだったが。


 というか何故そんなことを思いついてしまったんだ青仁よ、一瞬想像しかけて鳥肌が立ってしまったじゃないか。この素ン晴らしい美少女の柔肌に鳥肌を立たせてしまうなんてどうしてくれる。


「まあ正直自分で言っててもキモいなって思った。だからな、一茶。女子が銭湯でいちゃいちゃしてるなんて現実はな、ありえないんだ」

「なあ梅吉。今僕はやけに綺麗な目をして僕を諭してくる青仁に対し殺意を抱いているんだが。この場合殺っても許されると思うか?」

「殺されるべきなのはお前じゃねえかな。そしたら世界から一人変態が減って、ちょっとだけクリーンになる」


 地球温暖化の原因なんて突き詰めれば人類が増え過ぎただけなのだから(暴論)。つまりゴミ処理(殺人)は地球に配慮した素晴らしくエコロジーな活動なのである(適当)。そうやってフィクションのディストピアは生まれていったのでは?


「その理論だと緑あたりも道連れにしなくちゃいけなくなるからパスで。僕は奴と心中なぞしたくない」

「あーあいつにそれ言ったらせめて妹と心中させろって言い……なんか万が一ガチで言われたら返事に困るし嫌だな。深淵覗き込みたくないし、なかったことにしとくわ」


 まあ一茶から更に絵面が汚くなる提案が出てきてしまったので、ひとまず梅吉の変態処分環境保護計画は見送られることになったのだが。

 え、梅吉?変態という言葉の尺度はひとえに自分自身である。つまりそういうことだ。


「あいつの場合完全にないって言い切れないところが怖いよな。主にロリの成長についてツッコミ入れた時の目が完全にイってるせいで」

「緑はもう少し性癖に寛容さを持つべきだよな。……って、僕は別にロリコンの性癖を分析したり文句言ったりするよりも、よっぽど聞きたいことがあるんだよ。例の転校せ……おい」

「……」

「……」


 二人揃って首を明後日の方向に向ける。この手の反射神経は無駄に自信があった。


 どうせこの後続く話はろくなものじゃない。十中八九心に重傷を負う代物である。最近の二人は橙田のせいで良くも悪くもこれまで怠けてきた現実を突きつけられ、常にメンタルにスリップダメージを負っている状態なのだ。これ以上無駄に傷は負いたくない。


「僕の聞いた話だと、一応仲良くはやってるって話だったんだが。やっとお前らに女子の仲人要員ができたって聞いたから期待してたんだけど」

「噂話を素直に信じ込む方が悪い。ところで一茶は仲良しの定義って何だと思う?オレはもうわかんないや」

「女子の仲人要員って何?何を仲人すんの?てかその言い分だと男子の仲人はいる訳?」


 しかしそこは一茶、ダメージよりツッコミどころが上回り、さしてダメージを負わずに応答することができた。流石である、相変わらずズレたアホだ。ところで本当に仲人とは何を仲人するのだろうか。


「……チッ。その様子だと会話もままならねえのか。やっぱ使えねえなお前ら。もっとメス堕ちしろよ、TSっ娘だろ」

「オレあんまその言葉詳しくないけどめちゃくちゃ理不尽なこと言われてることだけはわかる」

「一茶知ってるか、俺らって実は三次元なんだ。エロ本の住人じゃないんだ」

「いやメス堕ち度合いと対女子コミュ力って比例すんのか?でもお前ら見た感じ……お前らって、なんでそんなに女子と喋れないの?」

「それはお前だって同じだろ?!?!?!自分だけさも関係ないですみたいな口振りしないでもらっていいか?????」

「そうだそうだ!!!!!」


 鮮やかすぎる棚上げ発言、いっそ見惚れてしまうほどである。いや全然普通にブーメラン投擲選手権出場者だし、内容もシンプルにカスだけど。


「たしかに僕も全然喋れないけど、僕の場合は異性と喋れないっていう典型的陰キャなだけだからな。だがお前らは違うだろ、同性と喋れないJKって普通に致命傷だからな?」

「殺そ」

「俺頑張って死体埋める場所リストアップしとくね〜」


 梅吉は笑顔で今までの人生の中で聞いたことのある殺害手段を思い返し、青仁は周辺の地理を思い描き良い感じの森及び山を考える。どちらかと言えば知略に秀でた梅吉と、どちらかと言えば(オブラートに包んだ表現)地理に秀でた青仁による、中々に連携の取れた動きであった。


「死体埋め共犯者百合……?!なるほどな、実行者がお前らじゃなければ百点満点だな。実行者がお前らの時点でマイナス百点だけど」

「何言ってんだこいつ。逆に言えばオレら以外の女の子がやる分には良いのかよ。それだとお前死ぬことになるぞ」

「僕の死によって百合が成立するならば本望だが?あいや別にそんなことないな、百合の片割れに殺されるってことは認知されるってことだろ?僕のような野郎の汚ねえ死体で女の子の目を汚すわけにはいかないな。やはり無機物に成ることこそが至高……!」

「何言ってんだこいつ。俺やっぱお前のことよくわかんねえよ」

「……いやでも、こういうインモラルなのは前提としてフィクションにとどめるべきだし、そもそもフィクションでも僕は百合にはなんの障害もなく健やかに幸せに生きてほしい派だから、結局誰も殺さない方が良いのでは?」

「よくわかんねえけど、一茶って意外と暗い話嫌いだよな」

「な」


 梅吉の淡々とした結論に、青仁も隣で頷く。まあ別に奴が明るい話を好んでいようが暗い話を好んでいようが、巻き込んでこなければ正直どうだって良いのだが。具体的に言うと青仁のようにホラー映画を押し付けてこなければ好きにしていろ、と梅吉は思うので。


「まあとにかく、例の転校生は貴重なお前らの実態を知らない女子なんだから、是非とも仲人として活躍してもらいたいな。やっぱ純粋に百合として楽しめない奴ら同士でくっついてもらった方が丸いし。僕のオカズの原料も増えるし」

「おい待て仲人ってそういう意味かよ?!あとちゃっかりネタにしてんじゃねえ!!!」

「てかやっぱお前俺らのこと邪魔者みたいに思ってるよな?!」

「ほう……?もっと慌てるかと思ったんだが、意外と冷静だな。つまり僕の想定通りに、なんらかの夏の過ちはあった、と。ふーん、なるほどな。いいぞ。続けてくれ」

「……」

「……」


 したり顔の一茶を前に、二人揃って虚無の顔で黙り込む。何かがあったのは否定しない。夏休み前と今では事情が違うとも。だが、それが奴にとっての理想であるかどうか、二人にはまるで関係のない話である。誰が好んで変態の餌になるものか。

 ここまで好き勝手にやられるとやり返したくなるものだが、残念ながら梅吉は一茶の恋愛絡みの弱みを一つも握っていないので不可能である。当たり前ではあるが、女子と接触がなければ、恋愛沙汰は起こり得ないのだから。


「なんだその反応は。もうちょっとなんかないのか」

「いやあ……お前の言う転校生……橙田さんがオレらの実態を知らないせいで、オレらはこんなにも苦しんでるんだよなあって」

「それそれ。マジで、どうすれば良いんだろうな……」


 とはいえいつまでも沈黙していたら、それこそ誤解を加速させるだけである。故に梅吉は適当に橙田についての話題を拾い上げた。これ幸いと思ったのか、青仁もその流れに便乗する。


「橙田さん、こう、多分めちゃくちゃに良い子なんだよ。だからこそ純粋な眼差しに耐えられないっていうか」

「騙してることの罪悪感がめちゃくちゃシンプルにエグい。いや騙してる訳じゃなくて言ってないだけなんだけど。普通病歴ってそんな親しくない相手に話題として出さないから、余計にこう……」


 彼女と出会ってから、精々一週間程しか経過していない。だがそんな短い期間ですらわかる橙田の人の良さに、二人は打ちのめされていた。

 いやまあ、お酢が関わるとドリンクバーやヤバい飯が絡んだ時の青仁並みにイカれる件についてだけは、玉に瑕どころの騒ぎではないのだが。それを除けば本当に良い子なのである。いややっぱお酢が関わると途端に狂人の仲間入りをするんだけども。


 わかっている、やっと得られた女子との接触機会なのだ。これを無駄にするつもりはない。だが二人にも申し訳程度に備わっている良心の呵責というものが、女子相手にはまともに機能しているのだ。


「僕に言われても。この僕が解決案をひねり出せると思えるか?」

「全く思わない。でもオレら二人でじめじめ言い合ってるよりは確実にマシじゃん」

「実は僕は転校生とやらのことをほとんど知らないんだが。今お前らから聞いた人物評がほぼ全てなんだが」

「あー……そっか、橙田さん男子と話せないから、情報が回ってねえのか」


 悲しいかな、一茶に限らず女子との接触がほとんどない悲しき野郎どもの女子に関する情報元は、接触に成功した男子による噂話が九割である。橙田の場合はその接触に成功した者が皆無に近しいのだろう。故に、本来ならお祭り騒ぎでも開催されていそうな橙田についての話題が共有されていない、と。


「そうなのか?」

「苦手らしい。だから余計オレらが延々と猫被りする羽目になって今めちゃくちゃに辛い」

「ぶっちゃけ校内だとほとんど俺ら取り繕って話してるもんな……」

「な。いい加減ボロが出そう」

「そもそも果たして俺らは猫を被れてるのか……?俺らが被ってると信じてる猫、実は穴だらけだったりしないか……?」

「やめろ青仁。そういうこと言い始めると全てを疑ってかからないといけなくなるから」


 その手のことについて疑い始めたらキリがない。何せ誰も答えを持っていないのだから。橙田に疑いの眼差しを向けられていない以上、どうにかなっていると思うしかない。

 それに最初からわかっていた事ではあるが、性転換病患者×2とかいう超低確率事象なんぞ、そう簡単に思い至る筈がないのだ。誰だって今目の前にいる隣人が数ヶ月前まで男だった、なんて常日頃考えていたりはしないのである。もし考えていたとしたら、それは相当な奇人か性癖がアレな人であろう。


「……おかしい。僕はもうちょっとイイ感じの結果を期待していたのに、なんでお前らのメンタルが削られる結果になってんだ……?」

「おかしいのはお前の脳みそだよ。さっきから何を期待してんだか」

「そんな簡単に女子と話せたら苦労しない」


 たかが一週間程度の荒療治で改善されるとでも思っていたのか。そんな訳がないだろう。二人がいつから事務連絡以外でまともに女子と話せていないと思っているのか。そのわずかな事務連絡すら、まともにできているのかと問われたら、素直に頷けないと言うのに。


「たしかに期待しすぎた僕は馬鹿だったかもしれない。だがここまで進歩が見られないとは、失望したぞ」

「勝手に期待しといて勝手に失望するの酷すぎるだろ。オレお前にそんな酷いことしたっけ?」

「いや、そもそも件の転校生が仲人に適した人材であるかどうか、僕はまだ正しく把握できていないし、こいつらのレベル0にも満たないコミュ力じゃいつまで経っても判断材料を得ることはできないのでは?」

「一茶が俺らの手の届かない世界に行っちゃった」

「いつもの事だろ。そのまま銀河系の外まで行って帰ってこなくていいからなー」


 定期的に一茶が会話不能状態に陥るのは一体何故なのだろうか。そしてさらっとディスられた気もするが、こればかりは完全に真実である為、否定することはできなかった。

 だが、適当なことを言いながら理解を放棄することができたのはそこまでだった。


「……やはりここは、常日頃から磨いている壁擬態スキルを用いて梅吉と青仁のクラスに壁として潜入するしか」

「校内に変質者が侵入したって通報してやる!!!!!」

「おーい!このクラスの学級委員誰だか知らねえけどおたくのクラスの一員が暴走してっから早く止めろー!!!」


 変態が朝っぱらから人類であることの放棄を敢行しようとした為、可及的速やかに奴をこのクラス内における通報受付ポジに引き渡すとかいう謎イベントが発生してしまったので。


 その後、タイミング良く一茶のクラスメイトかつ奴と部活が同じ紅藤とかいう奴が一茶を引き取って行ったので、事なきを得た。彼には是非今後とも奴のストッパーとして頑張ってもらいたいものである。


「……でもさ、今ここで止めてくれた所で、あいつのことだから絶対どっかで壁に張り付いてそうじゃね?」

「だよな」


 そしてそのまま二人は無事五体満足で一茶のクラスを後にしたのだが。結局先程の対応は場当たり的なものでしかない。本格的な対応策はまた別に用意しなくてはならないのである。とはいえ自他共に認める(自称)聡明な梅吉は、既に解決策を思い付いているのだが。


「ってことで、オレに考えがあるんだが」

「ほう?聞いてやんよ」


 にやり、と悪どい笑みを浮かべて梅吉は青仁に話を持ちかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ