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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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珍しくやる気あったのに

 事の発端は、橙田のとある発言だった。


「あの……さ。二人とも、森野くん?と仲良しだよね」


 休み時間、当然のように梅吉と青仁に話しかけてきた橙田が、緑の不在を確かめるように教室を見渡した後、妙なことを聞いてきたのだ。


「そっそそそそそそうだね」

「う、ん」


 なお返事が完全に不審者のそれである事についてはもう諦めてもらいたい。努力が足りないと一蹴されてしまうかもしれないが、それでも二人とも真剣に生きているのである。これ以上いじめないでほしい(いじめではない)

 ただでさえ橙田と話す度に、己の対女子コミュ力の低さを思い知らされて精神に致命傷を負っているのだ。もう少し手加減してほしい、俺が一体何をしたって言うんだ──と、何もしていないが故に事故っている身として、責任転嫁にも程がある思想を抱いていた二人だったが。


「も、もしかして森野くんのこと、す、好きなの……?」

「なんで?」

「違うが?」


 橙田による知っている人が聞けばトンチンカンどころの騒ぎではない発言を前に、正気を取り戻したのであった。揃って無の顔で否定する。


 以前プールに行った際も、女子小学生の群れにそんな勘違いをされたので、それ自体はもう仕方のないことだと思っている。だがその実態はロリコンwith外見美少女中身童貞コンビとかいうゲテモノトリオであり、勘違いすなわち尊厳に関わる事項であるが為、恋愛のれの字なぞあるわけがない、と強く主張せねばならないのだ。


「え、えぇっ?!だ、だってあんなに仲良さげだし……他の女子より全然距離近いし……その、あたしじゃなくてもみんな勘違いしちゃうと思うから、気をつけたほうがいいと思うよ?もしくはもっと女子と仲よ……ど、どうしたの?」


 まあ続く発言で二人はさらっとオーバーキルされ、以降の授業を魂が抜けたような状態で受ける羽目になったのだが。



「えー……橙田さんによって、オレらの距離感?が女子として大分よろしくないという事が判明してしまった訳だが」

「つらい。思考停止したい」

「仕方ないだろ、橙田さん云々がなかったとしても、いつか考えなきゃマズい話だし。それがちょっと早まっただけだ」

「うう……」


 以上、回想終了。このような事を正真正銘の女子に言われてしまったが故に、放課後の二人はこうして思い悩んでいたのであった。

 なお、現在地は珍しくファミレスやファーストフードではなくカラオケである。


「ていうかさ、今ここで俺らがうだうだ話したところで、建設的な意見なんぞ出る訳ねえんだから、ぶっちゃけ無駄では?いやまあ、久々にソフトクリームを交えたドリンクバーの配合を試せるから俺は良いんだけどさ」

「(無視)ふ、そこら辺は抜かりないぜ。ちゃんと学校にいる間に動いておいたからな」


 カラオケに対して間違った楽しみ方を見出している発言を息をするようにスルーしつつ、梅吉はスマホを取り出す。そこには、姉とのL◯NEの履歴が表示されている。


「姉貴に聞いたんだよ、女子ってどんな感じの距離感で生きてんだって」


 おそらく梅吉が接触できる範囲で、もっとも真っ当に女子について知っていそうな人物という事で姉を選出した。男子の視点からでは限界がある、女子のリアルを語ってくれることだろう。


「梅吉にしてはめちゃくちゃ建設的なことするじゃん」

「は?オレはいつだって効率的かつ有益な行動しかしていないが?」

「冷静に考えて欲しいんだけど、最近橙田さんの前にいる時の俺らって効率的だと思う?」

「禁止カード」

「大丈夫だ問題ない、致命傷だ」


 サムズアップしながら死んだ魚のような目で青仁がのたまう。いくら見えてる自爆スイッチだからと言って、軽率に押してはいけないという好例である。


「で、だ。今からオレはその距離感って奴をとりあえず試しにやってみるために、唐突に発狂したり軽率に鼻の下伸ばしても良いようにとカラオケを選択した訳だ」

「え、夏限定メニューのジャンボかき氷食べるためじゃなく?」

「それは理由の四割ぐらいだな」


 先程店員が運んできたジャンボかき氷(部位によってシロップが違う)を頭がキーンとならない範囲で、しかし迅速に口に運びながら言う。ところでかき氷のシロップは見た目が違うだけで味は同じというのは本当なのだろうか。絶対そんなことないと思うのだが。


「ていうか待って、梅吉の予想だと俺ら発狂する可能性あるの?なんで?」

「……」

「おい待てなんか言えよ……へ?!」


 梅吉は沈黙する。そして、口で言うより早いと、早速行動に移った。デ◯モクを好き勝手いじっていた奴の片方の手を掴み、握り込む。

 すなわち、手を繋ぐという何故幼稚園児の事シラフで行えたのか全く思い出せない、原初的イチャつき行為である。


「……えー、姉貴曰く、女子は大体移動してる時結構な確率で手を繋いでる、とのことだ」

「なんで?!?!?!女子って俺らが知らないだけで常に女子同士で付き合ってんのか?!?!?!付き合いたてのクッソウザいカップルなのか?!?!?!あーなんかムカついてきたリア充爆発しろ!!!!!」


 青仁の叫びは至極もっともなものであろう。梅吉だって最初ふざけてんのかてめえ、とL◯NE越しに叫びかけたのだ。だが本当にこちらをおちょくる気配を一切見せずに、淡々とテンプレパターンを送信してくる姉を前に、真実だと認めざるを得なかっただけで。


「ヒートアップしてるところ悪いけどそんなん知る訳ないだろ。むしろオレが知りたいっての」

「お、お前のお姉さんは理由知ってるのか?!」

「いや知らないって言ってた。でも女子ってなんかこんな感じだよねって」

「他人事ォ!」


 まあ梅吉だって何故日常的に衝動に任せて物理的なツッコミを入れるか、とか問われたらそういうものだから、以上に説明できる自信がないので、これについては聞いた梅吉が悪いとも言えるのだが。だれだって特別意識していない行動の意味なんて答えられないだろう。


「……なあ、梅吉。俺さあ、いつかは女子に埋没しなきゃってずっと思ってたけどさあ。一生無理な気がしてきた……」

「まあ、これ完全にやってることか、カップルだしな」

「それな……」


 自分の好みの美少女と手を繋いで密室にいる、という本来ならご褒美以外の何物でもない筈のシチュエーションだというのに、悲しいまでに空気が重い。

 ……というか、恋人(仮)という最初の約束があやふやになって、最早友情と呼んで良いのか怪しくなってきてしまった現状で、こんなことをしなくちゃいけなくなるなんて。本当、この世はどうなっているんだ。


 ついでに言えば、繋いだ手の先、少ししょんぼりとしている青仁の様子すらも可愛く見えてきている事が若干怖い。


「あー、落ち込んでるところ悪いが次だ次。えー、結構な確率で肩組んでる」

「急に難易度低くなったな。それは普通にやるだろ、これって男女共通の概念だったんだな」


 初手でかっ飛ばしすぎた気がしたので、おそらく最も難易度が低いであろうものをわざと提案しつつ、若干名残惜しい気もするがパッと手を離す。どうせ先は長いのだ、この程度でもごもご言っている暇はないことを、姉から送られてきた一連のL◯NEを既に見ている梅吉は知っている。

 とはいえ、肩組みについては梅吉も青仁に同意だが。


「わかる。女子もやるんだなー、オレたち友達だよなっ!って圧かけるの」

「そりゃ女子だって俺らが知らないだけで色々あるんだろ、知らんけど。まあ、とりあえず肩組みは俺らもよくやるし、スキップしていい気がする。やっても意味ないだろ」

「じゃあスキップで」


 まあたしかに、日常的にやることをわざわざこんなところまで来てやる意味はない気がする。元々目的が防音と個室と食べ物とはいえ、流石に一曲も歌わずにカラオケから帰るのはなんとなく損した気持ちになるので、一刻も早く終わらせたいのだ。スキップ希望が出るなら素直にそれに従っていく所存である。


 と、いう流れによって、二人は女子にとっての肩を組むという行為が脅しという方向性ではなかった事に気がつかずに終わったのだった。


「んじゃ次、しょっちゅうハグする」

「やっぱ女子って全員付き合ってんじゃねえの……?」

「だからオレに聞くなって」


 しかし残念ながら、先程の項目において最も難易度の低いものを消費してしまったので、この先残されているのはツッコミ必至の諸々しかない。青仁は飽きずにツッコミを入れているが、全容を知っている梅吉は最早そのテンションに乗っかる程の気力はなかった。


「つか、仮にマジでそうだとしたら、これを挙げたうちの姉貴は女子と付き合ってる事になる訳だが」

「……?!い、一茶に連絡……」

「おい馬鹿ボケにボケを重ねるな。あとうちの姉貴は弟であるオレですら恋愛してるビジョンが湧かないレベルだから、その可能性はないに等しいぞ」

「それはお前が弟だからではなく?姉は恋人いるのに自分には恋人がいないって事実を信じたくないからとかじゃねえの?」

「口を慎め青仁、人間言って良いことと悪いことがあるんだぞ」

「わあマジギレ。やっぱ童貞って奴は醜いわー」

「黙れ」


 マジギレではない。正当な発言である。それはそれとして彼氏だろうが彼女だろうが、姉に恋人がいたことはないと思う。

 なお別にフィクションにありがちなシスコン的な何かではなく、単純な「こいつに恋人できるならオレだってカワイイ彼女ができたって良いだろ……!つまりあいつに恋人ができた事はない」という最悪な僻みである。


 え?お前のカワイイ彼女は目の前にいるだろって?それについてはもう思考放棄したんだよ。有耶無耶にして少しでも目を逸らして、今を少しでも長く続けるって決めたんだ。


「で、どうすんの?マジでやるの?」

「……一応言っておくと、オレらには一応緑とか一茶とか、あの辺りとの距離感を見直すっていう選択肢もある訳だが」

「見直すって言っても、実際何すれば良い訳?」

「ん〜……やるかあ」


 童貞が二人揃った程度で文殊の知恵に届くはずもなく、何一つとして有効な案が出てこない。と、いう訳で抱き合うという項目を実行する事になってしまったのだが。


「……」

「……」


 隣に座るお互いを見て、無言になる。こんな有様ではあるが、美少女と化してしまってから何度かやったことのある行為だ。まあ、だからこそ改まってやる事に耐えられていないのだが。

 大体こういうものは、勢いに任せてやらないと羞恥心に押し殺されて死ぬのである。少なくとも梅吉はそうだ。長引けば長引くほど、色々としんどくなってくる。


「〜〜〜っ」


 だから梅吉は、気まずそうな顔で微動だにしない青仁に、意を決して飛びついたのだ。

 しかし、その「意を決した」が良くなかったのか。それとも青仁が緊張でバグっていたのか。はたまたそのどちらもか。


 抱きつかんと勢いよく飛びついた梅吉の体は、その勢いのまま、青仁を押し倒してしまった。


「……ぇ」


 体勢が良くなかった。ていうか完全にアウトだった。カラオケの安っちいクッションに青仁の華奢な女体が仰向けに横たわる。その中でもとびきり目を惹く、胸部のたっぷりとした魔の膨らみの上に、これまたどんな確率なのか、見事に梅吉の乳房が乗っかっていた。

 至近距離に迫った青仁の顔が、わかりやすく赤く染まる。見開かれた瞳が、多大な混乱の為に逸らされようとしたものの、シチュエーションがフリーズという結果を青仁にもたらす。


 たわわに実った果実同士を押し付け合う、という、女子同士でなくては実行不可能なシチュエーションが、双方の脳を焼いた。


「……」

「……」


 動きを止める。この世に存在するありとあらゆる物体の感触の遥か上を行く極上の柔らかさは、しかして自らのあまり嬉しくない部位からの接触にもたらされている。ぶつかり合って、ふにゅりと柔らかく形を変える様は間違いなく魅力的だが、押し潰される感触すらも我が物として認識してしまうせいで、シンプルな興奮に奇妙な羞恥心が合わさって、余計に全てがおかしくなっていく。


 だが、そんな膠着は長くは続かなかった。


「お待たせしまた〜!フライプレートで……す……」


 愛想よく、一切の他意なく商品を届けに来た店員に、乳を押しつけあって事を始める五秒前みたいな女子高生同士、という有様を目撃されてしまったので。

 当然、そんな不純同性交遊を店員が見慣れている筈もなく。す、と店員が混乱のまま扉を閉める。

 そしてこれまた当然の話だが、カラオケで事に及ぶのは普通に公然わいせつ罪等のよろしくない方向に受け取られる。


「すみませんすみませんなんかこうそういういかがわしい感じではなく!事故!そう事故なんでちょっと待って!お……わたし無罪!」

「滑って転んだっていうか!少なくともそういうのしようとした訳じゃないっす!マジで!カラオケってドリンクバーを楽しむ場所だし!」


 羞恥心を恐怖心で吹き飛ばした二人は、即座に店員の後を追い、不出来な弁解を叫んだのであった。







「……なんかもう、疲れたんだけど。まだやんなきゃいけないの?」

「……膝枕しつつ太ももなでなでって書いてある」

「マジで俺らが知らないだけで女子ってみんな付き合ってんじゃねえのかな……もうそれは完全に恋人同士のイチャつきに突入してるだろうがよ」


 その後、あまりにも色気のかけらもない必死の弁明と、青仁のドリンクバーでヒャッハーしたとしか思えない形跡と、梅吉のイカれた量の注文履歴により、二人は事なきを得た。とはいえ疑いというものは人に多大なる疲労感をもたらすもので。梅吉と青仁はぐったりとカラオケのソファに沈んでいた。


「いやだからその場合一茶がハッスルどころの騒ぎじゃな……ん?」


 青仁の適当な発言に、これまた適当に返そうとして、梅吉はふと気がついた。

 そうだ、一茶だ。あの女子と女子が会話している所に男子が割り込むだけで般若を降臨させる百合オタだ。あいつのことを踏まえた場合、あまり頭が働いていない自覚がある今の梅吉ですら気がつけるほど、簡単な疑問点がひとつあった。何故今まで気がつかなかったのだろう。


「え、なにその不穏な『ん?』は。何に気付いたんだよ早く言え」


 青仁が嫌そうにこちらを見てくるが、こればかりは梅吉の責任ではないと思う。むしろお前が気づいたって良かったんだぞ、と悪態をつく気力すらない中、梅吉は言った。



「いや……もしさ、今オレらがやってきたようなのが女子のオーソドックスだったとしたら、一茶は日常的にもっと興奮してないとおかしくね?って」

「あっ」



 青仁も気がついたらしい。間抜けな声をあげる。もしかして俺ってバカ……?という、第三者からすれば今更感あふれる気付きを、双方ともに重々しく自覚した。そんな二人の元に、タイミングよくL◯NEの通知音が鳴る。


「……」


 発信源は梅吉のスマホであった。一応見ておくか、と梅吉はやつれた顔のままスマホを手に取り、そして。



『そういえば言い忘れてたけど』

『私高校の時女子校だったから、共学のJKの距離感とかわかんないからね』

『大学入って気がついたけど、女子校の女子って距離感イカれてるみたいだから』



「それを先に言えッ!!!!!!」


 全力でスマホを椅子に叩きつける。見事にオチがついてしまったのであった。これではただ放課後に理由つけてイチャついていただけではないか。


 その後どうなったのか?言うまでもないだろう。何せ姉がわかりやすく「女子校出身の女子は共学に対して無知である」という実例を見せてくれたのだ。どうとでもなるとも。まあ、つまりは。


「え?!よく抱きついたり手繋いだり膝枕したりするのって女子校だけなの?!きょ、共学だとやらないの?!あと男子との距離もこんな感じなの?!」

「や、やんないな」

「う、うん」


 中高共に女子校である、と言っていた橙田は、二人の嘘と真実が半々ぐらいの話をコロッと信じ込んでくれた為、思いのほかあっさり事なきを得たのだった。

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橙田さんってバカ二人が居なかったら女子校の距離感でクラスメイト女子に接していた可能性が バカ二人がいてよかったね! そしてバカ二人はいちゃつけてよかったね!
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