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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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気づきたくないことって結構多い その2

「お前こんな自明の理聞いて一体何がしたかったんだよ?!オレらが女の子になって初遭遇した時点で見えてたオチじゃねえか!」

「じゃ、じゃあ下の毛はあ」

「だーからさっきから飛ばしすぎなんだよ!少なくとも二番目に聞く話題じゃねえよ!そこはせめて巨乳派か貧乳派かとか」

「それもわかりきってるじゃねえか巨乳以外の返答があるかよ!お前だって何がしてえんだっつーの!」

「んなのわかったら苦労しねえが?!」


 墓穴から逃れられないことは悟ったので、せめてもの抵抗として盛大に逆ギレをしておく。大分最低な行為をしている自覚はあるが、それはお互い様というやつだろう。


「……なあ、梅吉。認めたくねえけどさ、俺らが女子会やるのって、無理じゃね?」

「……その場合、お泊まりデートになる訳だが」

「……」

「……」


 お泊まりデート。まあ、言葉だけなら知っている。基本的に梅吉も青仁も恋愛絡みのワードは立派にエアプ勢なので、「あー知ってる知ってるあれでしょ?そうあれ」ぐらいのカスみたいな知ったかぶりぐらいはできるのだ。何がどうできてるんだ?

 二人で顔を見合わせて、しばらく沈黙が夜の静かなリビングを支配する。普段姉が転がっているのを横目で見ているだけのソファに、こうして美少女(中身はアレ)と一緒に座っているという非日常は中々なものだな、と現実逃避気味に考えていると。


「お泊まりデートってやっぱ……ヤるのか?」

「ぶっ」


 会話能力を明後日の方向に放り投げたキラーパスがぶっ飛んできた。


「いやだってさ、お泊まりだぜ?親いないんだぜ?つまりヤるだろ、親の顔より見たエロ漫画の導入だろ」

「いやちょ」

「むしろヤる以外何をすればいいって話だよな。つまりこれはもうヤるしかないのでは?」

「止まれ止まれ止まれ!」


 据わった目つきでじい、とこちらを見ながら捲し立てる青仁を梅吉は慌てて止める。まあ確かに、その理論はわかる、梅吉だって関係のない第三者だったら「は?そこはセックス以外の何物でも何言ってんだボケナス」ぐらいは言っているだろう。


 だが現実は、梅吉も青仁も当事者であり、共にラブコメの渦中にいるのだ。


「え、何か俺おかしなこと言ったか?何も言ってないよな?俺は至って真面目にこの世の真理を語っていただけだが?」

「そうかもしれねえけど!オレらにも理性ってものがあるわけで!ていうかお前だってそう思ったからさっき女子会って言ったんじゃねえの?!」

「いやよく考えたら別に本能が理性上回ったところでなんも問題ないんじゃねって気づいたっていうか」

「問題しかないわつかヤる為の棒がないだろ?!」

「そこはなんかこう……フィーリングでどうにか」

「フィーリングでどうにかなったら苦労しねえよ!!!」


 フィーリングでセックスとはこれ如何に。ここにちんこが生えてる想定で俺は腰を振るから〜とか始まるのだろうか、控えめに言ってカスでは?ていうかそれはもはや何年か前に終わった某年越し番組でやりそうな何かだろう。つまりただのギャグでは?と現実逃避の思考が捗っていく。


 そんな、テレビの放送コードを見誤っている梅吉がエキサイトする様を、青仁は不思議そうに見ていた。


「……お前、なんでそんなに嫌がってんの?」


 心底わからない、と問いかける。青仁の他意のない目が、梅吉を見ていた。


「いやなんで、って。そん、なの……」

「そんなの?」


 聞き返されて、思考がフリーズする。何気ない問いかけが、冷房で冷えた室内を概念的な絶対零度に突き落とした気がした。


「だってさ、俺たちってお互いの性癖を分かりきってるから、お互いに好き勝手できる、お互いにロクでもない願望を実行し合えるって話だったじゃん。それで、恋人関係(仮)とかいうよくわかんないことになってんのにさ」


 わかっている、青仁に他意なんて何一つない。奴にあるのはシンプルな疑問と下心だけ、いやオンリー下心である。下心の為に梅吉を口説き落とし、事に及ぼうとしているだけである。



 そんな男子校高校生成分百パーセントのありふれた疑問に追い詰められている梅吉の方が、よっぽどおかしいじゃないか。



「じゃあなんで、セックスだけはだめなの?」


 風呂に入ったばかりの背筋に、やけに冷えた汗が伝った気がした。


 ああそうだな、なんでだめなんだろうな?だって目の前にいるのは梅吉が大好きな極上のお姉さん系美少女で、好みど真ん中で、おあつらえ向きに相手の同意だってある。控えめに言って据え膳も同然で、据え膳食わぬは男の恥ってやつで。こんな絶好の機会を逃すこと自体が、男としておかしなことであることはわかっているけれど。


 ぐるぐると思考が回る。多分回っちゃいけないことも回してる。それでも、どうにもならなくって。


「……オレにもわかんねえよ」


 やっとのことで梅吉が絞り出せたのは、答えになっていない言葉だけだった。


「え、なんでそんな不貞腐れてんの。俺何もおかしなこと言ってないよな?」

「うるせえ」


 不貞腐れている、ああ全くその通りだとも。その言葉を体現するかのように、梅吉は青仁からそっぽを向くようにクッションを抱え、柔らかなそこへ顔を埋める。そんなことをしたって、何も解決しないのに。


 変わってしまったものは、決して元の形には戻れないのに。


「……う、梅吉、お前マジで大丈夫?」


 やってしまってから気がついたが、あいつが好きそうな美少女ムーブ以外の何物でもなかったのに。素でこんなことをしてしまうとか、今の梅吉は相当ヤバいのかもしれない。

 それはそれとして、こちらを案じつつも鼻の下伸ばしてる感が否めない青仁は後でシバく。


「……お、おーい梅吉ー?梅ー?」

「どさくさに紛れてその名前で呼ぶな殺すぞ青伊」

「あ復活した」


 屈辱をエネルギーに立ち直る。こういう時怒りというものは便利なものだ。なお梅吉は気がついていなかったが、クッションは抱えたままであるものとする。

 そしてそのまま、わざとらしく険しい顔をして、ぎゅうとクッションを抱え込み言う。


「一生の不覚……!こうなっては……」

「お前は武士か何かかよ。このまま切腹でもするつもりか?」

「お前の腹を掻っ捌いてオレは生きる……!」

「ただのシンプル殺人だったわ。武士道の欠片もなかったわ」


 お前を殺して俺も死ぬ?そんな潔い生き様を梅吉がするものか。お前を殺して俺は生きる一択だろう。梅吉は武士ではなく、今をときめくJK(女の子の見た目をした中身男子高校生)なのだから。


「えーではシンプル殺人未遂赤山梅吉くん、言いたいことがあるならどうぞ」

「お前のおっぱいに顔埋めていいぐらいのお詫びがなきゃやってらんねえなって思った」

「なんで俺が詫び求められてんの?むしろ俺が被害者では?」

「は?誰がどう見ても加害者はお前だから」


 この世で最も悪質なのは悪意のない加害であることは全世界共通の常識となって久しい為、仔細は語らないが、梅吉が正しいのは全世界共通の常識である(クソ理論)。


「ってことで青仁、ちょっとおっぱい貸せ」

「貸す訳ないだろ何言ってんだお前。この素ン晴らしいデカメロンは俺だけのものだっつーの」

「……いや、むしろこいつの恋人であるオレに最初から所有権があるのでは?拒否権も何も最初からオレのものなのでは?」

「その思考は汚れたジャイアニズム以外の何物でもないんだよ。いやジャイアニズムの時点であれだけど。つか、お前が俺のおっぱい揉むのがオッケーでセックスはだめなのやっぱおかし……あっまた死んだ。俺お前のふっかつのじゅもん知らねえんだけどなー」


 セックスのセの字を耳にした途端、あまりにもわかりやすく機能停止した梅吉であった。呑気に適当なことを言っている青仁が憎らしい。


「オレだって好きで死んでるんじゃねえぞ……!」

「それはわかってるけど。だからなんで死んでるのかって話で」

「無限ループやめろ」

「ループさせてんのは俺じゃなくてお前なんだよなあ」


 正論である。何一つ否定できない。だが時に正論とは下手な嘘より残酷なものである。何せ嘘とは違って逃げ場がない。


「……んなこと言ったって、わかんねえものはわかんねえよ。オレだって自分好みの美少女からエロいことして良いって許可が出てるのに手ぇ出さないとか、客観的に見て頭おかしいとしか思わねえし」

「よくわかってんじゃん。つまりセ」

「だからしねえって言ってんだろ!」


 反射的に叫ぶ。どうやらとにかく自分は頑なに奴と性行為に及びたくないらいし、と自らの中の嫌に冷静な部分が上から目線な分析を脳内に披露していた。まあ、それがわかったところで何も始まらないのだが。

 じゃあなんでヤリたくないのか?がわからない限り。


「思い当たる理由とかないの?」

「そんなもんがあったら苦労しない。つか、お前は別に嫌じゃないのか?」

「嫌なわけないだろ。むしろどんとこーいって感じだが?」

「ふうん」


 まあ、それが一般的な反応だろう。梅吉だって純粋にストライクゾーンど真ん中な美少女とヤれるって聞いたらそうなる。問題は中身が……ん?


「おーい梅吉、突然固まってどうしたんだ?」


 中身。つまり青仁が青仁であることが問題と?まあ確かに問題かもしれない。だって男だし。男とヤりたいなんて思わないし。ていうか……




 いくら動機に劣情しか無いとはいえ、セックスしてる友達同士って、純粋な友達と呼べるのか?しかも元男同士現女同士って、明らかにまともな友人関係ではいられなくなってしまうのでは?




「よし、マリ◯カートやるか」


 このように普通に嫌だな、と極めて真っ当な結論に至った梅吉は、おとなしく別の方向に行くことにしたのだった。

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