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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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フラグを見逃した結果 その1

 懺悔しよう。梅吉も緑も、青仁のことを舐めていたのだと。


 どうせ奴はブラジャーに苦戦したり家庭科でミシン相手に発狂したりする人物なのだから、たこ焼きなんぞ作れるはずもなく、そのうち助けを求めてくるだろう、と油断していたのだ。故に下拵え中の妨害は割と手ぬるいものになっていた。


「ねぇ〜青仁くん。わたし、青仁くんのためにたこ焼き作ってあげたいなあ。だから、ね?リビングで待ってて欲しいの」


 具体的に言えば、姉がふざけて買ってきたふりふりエプロンを装備した梅吉が青仁に忍び寄る程度のもので終わっており。


「い、嫌だけど?!」

「どうして?わたしの手料理、食べたくないの?」

「……お、俺どっちかっていうと手料理作ってあげたい派だから!!!ていうかお前だって俺の手料理食べたいんじゃないの?!」

「ちっ」

「おい待て今ツインテゆめかわ美少女が絶対にしちゃいけない行為の一つである舌打ちが聞こえたぞ」

「お前に物申す権利はねえんだよゲテモノスキー」


 一瞬落ちかけたものの、すんでのところで奴は踏みとどまってしまったので失敗に終わった。

 その後も梅吉があの手この手で青仁を誘導しようたものの失敗に終わり、ついには緑を招集して雑に俺様ムーブをやらせるという事故が発生したりなど紆余曲折あったのだが。


「お〜!焼けてきたな!」


 自画自賛する青仁の手元では、香ばしい匂いが漂っている。ころりと丸い小麦色をした生地が、じゅうじゅうと食欲をそそる音を立てていた。

 そう、忘れていたが青仁は本人曰くドリンクバーで細かな調整を日々行なっている人物である。つまりは、己の関心を向ける分野に限り、奴のパッシブスキル:不器用は無効化されてしまうわけであり。


 それはもう見事な真ん丸のたこ焼きが出来上がっていた。


「……なあ、赤山。あれ、どうすんの?」

「知らん、オレに聞くな」


 お通夜モードの緑と共に椅子に腰掛け、憔悴した様子で上機嫌な青仁を眺めながら言う。

 本当は「三等分にしてそれぞれ好きなところでたこ焼きやろうぜ!」と折衷案を出して、どうにかこうにか青仁作たこ焼き(タコが入っているとは言っていない)を食べずに済むように仕向けるつもりだったのだが。


「たこ焼きって綺麗に丸く焼くの、結構難しいんだな。まさか赤山が空島に負けるとは思わなかった」

「オレだって流石にあいつが言うドリンクバーのミリ単位の調整とかいう意味不明挙動はできねえし、つまりそういうことだろ」


 この通り、たこ焼き作成スキルで敗北してしまった為、見事青仁が鍋奉行ならぬたこ焼き奉行を務める羽目になっていた。

 後単純に、純粋に楽しそうにしている美少女のビジュアルが持つ破壊力がヤバかった、というものもある。普段奴は俗世に汚れた欲望を滲ませた顔か、何も考えてなさそうな間抜け面しかしていないので。


「なあ、赤山。なんか、やばい匂いしないか?」

「言うな」

「俺さあ、あれどう考えても納豆なんじゃないかなって思うんだけ」

「言うな!!!!!」


 今現在香ばしい匂いが漂うダイニングでは、明らかにおかしな臭いが混じっている。その中の一つに愚かにも言及しやがった緑に対し、梅吉は絶叫した。

 いやおかしいだろ、何で納豆を入れようと思ったんだ。納豆はあくまで白米と一緒に食べる日本の伝統的なおかずの一つであり、間違ってもジャンクフードであるたこ焼きの中に入れるべきものではない。


「お、良くわかったな!緑の言うとおり納豆入りもあるぜ!」

「可愛い顔してえっぐい現実を肯定してんじゃねえよ馬鹿野郎がよ!!!!!」

「(無言で頭を強く机に打ち付ける)」


 もしこの物語の媒体がアニメであったのなら、キラキラとした効果が付け加えられてしまいそうな程に上機嫌な青仁が、竹串片手にニコニコと絶望を確定させた。梅吉の隣で緑が撃沈される。


「なんでそんなもん入れた?!なんでそんなもん入れた?!」

「いやネットで適当に『ロシアンたこ焼き 材料』で検索かけたら面白そうだなって思ったからやろうかと」

「ふざけんな人間やっていいことと悪いことってもんがあるだろ?!つかさっきから思ってたけど誰だ青仁にロシアンたこ焼きとかいう概念を教えた奴!」

「?普通に俺は食べ物の面白さを追及することに余念がないから、常日頃の地道な情報収集によって手に入れた知識だけど」

「だからそんなところで真面目になるんじゃねえよ!!!!!」


 他にもっと力を入れるべきところがあるだろう、対女子コミュニケーション能力とか、と無自覚に諸刃の剣を心中で振り回しながら梅吉は絶叫する。

 その横で、ゆらり、と幽鬼のような足取りで緑が立ち上がった。


「……とりあえず俺、ホットケーキ焼いて来るわ」

「お、おう」


 そういえば奴は、現実逃避兼デザートとしてホットケーキの材料や調理道具を持ってきていたのであった。なるほどたしかに口直しになるかは怪しいが、少なくとも納豆入りたこ焼きとは比べるのも失礼なぐらい、まともな食品だろう。

 そうしてよろよろとホットケーキの生地を準備するために動き始めた緑に対し、青仁は何気なく言った。


「あ、そうそう。お前が持ってきた生クリーム、面白そうだったからちょっとだけ拝借してたこ焼きに入れてみたぞ」


 緑が頭からぶっ倒れた。


「み、緑ーーーーーーー!!!!!」


 哀れなり、緑。まあ気持ちはわかる。梅吉だって可能ならば倒れたい。だがそんなことをしたら余計に事態が悪化するだけなので、気絶だけは許されないのだ。


「……赤山。俺はもうだめだ。せめてあんただけでも生き残ってくれ」

「いや何食う前から死んでんだよ。食ってから死ねよ道連れ」


 が、それを利用してさらっとゲテモノ実食から逃れようとしていた為、梅吉の吹けば飛ぶ塵のような憐憫は消し飛んだのであった。その程度で逃すかよ。何のために対緑用手札をひとつ消費してまで召喚したと思ってんだ。


「お、第一陣焼けたぞ」

「青仁お前空気読む気とかないのか?ぶっ倒れてる緑が見えないのか?」

「皿に置いてくから食べてっていいぜ」

「無視すんじゃねえよ!」


 緑の体を張った抗議活動をさらりと無視して、青仁はたこ焼きを焼き続ける。ツッコミ続ける梅吉、なんとかして逃れようとする緑、量産されていくたこ焼き(タコが入っているとは以下略)、察しの悪い青仁。見事なまでのカオスが広がっていく。

 だが、食べねば地獄は終わらない。子供にとっての注射みたいなものである。床に緑を転がしたまま、梅吉はおそるおそる焼きたてのたこ焼きに手を伸ばす。


「あー……マジ?それ取っちゃうの?いやまあいっか」

「おい待てなんだその不穏な反応は!」

「いや気にすんなって。食えよ、うん」

「怖えーんだよお前本当マジ一旦黙って」


 青仁の妙な訳知り顔に不安を煽られつつ、梅吉はたこ焼きにソースと青海苔をかけ、齧り付いた。


「……普通にタコじゃねえか!!!」

「だから言ったのに。それつまんねえよって」


 梅吉が恐る恐る箸を伸ばしたのは、極々一般的な、特筆すべき点も見当たらない普通に美味しいたこ焼きであった。


「普通すぎてつまんなくないか?まあ完全にタコが入ってるたこ焼きがなかったらそれもう小麦粉のなんでも焼きだから、たこ焼きとしてのアイデンティティ保つためにタコ入りも焼いてるんだけど。あと梅吉が材料用意してくれたし」


 言ってることは何も間違っていない。あくまで変わり種はマイノリティであるが故に変わり種であって、それがマジョリティになってしまったら別物だろうと言っているのだから。折角ある材料を使わないのも勿体ない、というのも極めて常識的な意見であろう。


「青仁がまともなこと言ってるだと……?!」


 だが、発言者は先程からイカれっぷりを見せつけている青仁なのである。梅吉の反応も無理もないものだった。


「人のことなんだと思ってるんだよ。俺がいつまともじゃないこと言ったんだ」

「さっきまで自分が言ってたこと思い返せ鳥頭」

「俺はさっきから徹頭徹尾まともなことしか言ってないが?」

「ホットケーキ焼く……」


 たこ焼きにタコが入っている、という一縷の望みを知った緑がよろよろと起き上がる。そのまま運試しにようにぱく、と一つたこ焼きをつまんだ。


「……タコじゃなくてイカだろ、これ」

「それはオレが買った味変用のやつ。普通に美味いだろ」

「納豆より数百倍マシ」

「比較対象が終わってるんだよ」


 でもいつかは納豆入りたこ焼きに当たるかもしれないんだよな……と避けたい最悪の現実を梅吉が思い浮かべている間に、緑がホットケーキの生地を混ぜるためにキッチンへと向かった。

 つまりは手持ち無沙汰になってしまった梅吉がやることはただ一つである。


「ん?オレなんもしてなくね?なんもしてないってことは何かしなきゃだよな?働かざるもの食うべからずだよな?」

「いや何その圧。別に気にしなくていよ家主」

「オレはなんとしてでもたこ焼き(タコ入り)の数を増やさなきゃいけねえんだよ……!オレのこの細っこい手にはな、オレと緑、二人分の命が懸かってるんだ!」

「はあ?何厨二臭いこと言ってんだよ。てか心配しなくてもちゃんとタコ入ってるたこ焼きも作るって」

「お前の発言は全面的に信用できねえんだよちょっとよこせオレも焼く!」


 なんか適当に圧をかけて、青仁からたこ焼き調理権利を奪うまでである──!


「いやさっき作ったじゃん。有言実行だろ」

「じゃあさっきの中にタコ入ってるやつ何個あったんだよ」

「……」

「儚く微笑んでりゃ許されると思うなよ!中身がお前である以上全てが台無しなんだよ!」

「ちっ騙されなかったか」


 お姉さん美少女が今すぐ消えてしまいそうなほど儚く微笑んでいるとしても、その手には竹串が握られていて、目の前にたこ焼き器がある以上、梅吉が流されうるようなエモは発生しない。起こりうるのは命の危機だけである。


「と!に!か!く!オレはたこ焼きの治安を保たなきゃいけねえんだよ、ていうか腹減ったから二人がかりで作って早く食いてえんだよ!」

「さてはお前最後のやつが本音だろ」

「どっちも本音だっての!」


 側から見れば美少女二人が戯れている平和な光景かもしれないが、その手元では激ヤバたこ焼きが生み出されていく最中である。平和とは程遠い。


「まあよくわかんないけど、別に良いぞ、お前が責任持ってたこ焼き焼くって言うなら」

「……お前が素直に頷くとか、確実になんかしら裏があるだろ」


 やけにあっさりと引いた青仁に、梅吉の方が逆に恐怖を覚える。これは絶対何かあるやつだ、とそれなりに長い付き合いから培われた勘が言っていたのだが。


「よくわかってんじゃん。でも大したことじゃないぜ?ちょっとお前にあーんってたこ焼き食べさせるのやりたいなってだけで」


 梅吉の勘は、見事的中したような……していないような、微妙な結果に終わった。


「え?????マジで良いの?」


 お姉さん系美少女に食べ物を食べさせてもらうシチュ、そんなの梅吉からすれば役得でしかないのだが。何故青仁は梅吉に得しかない取引を持ちかけてきているのだ?青仁に利益があるとは思えないのだが?


「良いけど。なんでお前そんな驚いてんの?」

「いやお前のことだからもっとえっぐいのふっかけてくるかと」

「ふっかけて良いならセ」

「黙れてめえのちんこもぐぞ」


 訂正。この反応を見るに本当に青仁になんらかの利益はあるらしい。


「もげるわけないだろ何せ俺のちんこは無敵だからな!だってもう存在してないし……どうして?なんで俺にちんこがないの?ねえ……」

「自爆テロやめろ!!!あとそんな悲しげに聞くなビジュアルのせいで良心が痛むんだよ!」

「逆に言えばビジュアルがなければ良心痛まねえのかよ、お前の良心終わってんな」


 ついでと言わんばかりに精神を爆撃してきた青仁に叫ぶ。ちんこは最早己の記憶の中に在るだけだ、なんて残酷な真実は知覚したくない。


「まあいいや。やって良いならやるから」

「え、今すぐ?」

「俺は報酬前払い制で雇われるタイプの生き物だから」

「最悪の生き物では?やるって言うなら早くしろ腹減った」


 何故こんなことを青仁が望むのかやはりわからないが、まあやってくれるならやってもらおう。自分も役得なんだが?とか不用意に言う必要はない。そんなことを言ったら梅吉に不利な条件が追加されかねやい。


 実のところ二人の間では、恋人に食べさせたい派と食べさせてもらいたい派で感覚の相違が起きているのだが、お互いにそれに気がつく様子もなく。

 青仁は、手元にあった箸でたこ焼きを一つ摘んで、梅吉の前に差し出した。


「はい、あーん」


 前髪が揺れて、少し紅潮した青仁の頬に影を落とす。楽しげな唇が緩く弧を描いた。美少女が手ずから作った料理を、食べさせてもらう。梅吉にとってはこれ以上ない機会である。


 だが一つ、梅吉は致命的な見逃しをしていたのだ。


 たこ焼きを口の中に迎え入れ、噛んだ瞬間。梅吉は己の失策を悟る。


「〜〜〜〜〜〜〜ッ?!」


 形容し難いえぐみが、梅吉の舌を襲ったのだった。美少女がしてはいけない類いの汚い表情を浮かべ、世間体もなく床をのたうち回る。


「え、何。突然俺の知らない所で特殊なプレイが始まったかと思ったら空島あんた赤山に何食わせたんだよ」

「?納豆とローズウォーター入りたこ焼き。あと特殊なプレイって何?俺変なこととか何もしてないけど」

「……うわ」

「てか梅吉なんでセミファイナルの物真似してるんだ?あーもしかして、俺のおすすめってセミファイナルの物真似を突発的に披露したくなるほど美味しいってこと?」

「……」


 キッチンからひょっこりと顔を出した緑が、無言で合掌する。まだ死んでないのだが、と苦言を呈する余裕すら今の梅吉にはなかった。

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