死亡フラグって案外簡単に立つ その2
「ってことで緑も招集したぞ。人数増える分には良いだろ?」
「全然良いぞ。でもあいつここまで来るの結構面倒じゃね?それでよくホットプレート持ってくって言ったな」
「なんかムカついたからデザートとしてホイップアラザンチョコスプレーマシマシホットケーキ焼くんだってよ」
「なんでムカついてんのかよくわかんねえんだけど。つか、俺らよりあいつのがよっぽど女子では?」
「味覚に限って言えばそうだけど、あいつの場合女子ってか女児だろ」
「なんでロリコンの感性がロリなんだ」
翌日のお昼過ぎ、自転車の荷台にクーラーボックスとたこ焼き器をくくりつけて現れた青仁と、梅吉は玄関前で話していた。ちなみに当然のように自転車のハンドルにもビニールが引っかかっているし、前カゴには食品以外の荷物が詰め込まれている。
「ところでなんで梅吉は俺が持ってきたクーラーボックスを奪おうとしてるんだ?」
じっとりとした目を向けてくる青仁に、話しながらさりげなく自転車の荷台からクーラーボックスを取り外そうとしていた梅吉はびくりと肩を跳ねた。
「いや奪うなんてそんな。オレはここまで重い荷物を運んできてくれた青仁クン(笑)の為に荷物を持ってやろうと」
「いやいやそんな。大丈夫だって気にすんなよ!俺が最後まで責任もって運ぶからさあ!」
「いやいやいやそっちこそ、かよわいお姉さんに運ばせるほどオレは落ちぶれちゃいねえし」
「いやいやいやいやそれこそ俺だって、梅チャン(笑)みたいやかよわい女の子に荷物を持たせるなんてそんな」
「……」
「……」
閑静な住宅街、極々一般的な一軒家の玄関前にて、まさしく一触即発といった様子で美少女達が睨み合う。
「青仁寄越せ!オレは自宅に危険物を持ち込ませる訳にはいかねえんだよ!」
「はあ?!俺は危険物なんて所持したことはないが?!」
「どの口が言ってんだよシュールストレミング缶食ったことあるくせに!知ってかオレ前ネットで見ちゃったんだけどあれって場合によっては機内持ち込み禁止らしいぜ?!立派な危険物だろ!」
「ああ?!お前は俺のことあんな臭いだけで味になんの面白みもないただ高いだけの缶詰持ってくるほどつまんねえ男だと思ってる訳?!」
「ちんこ生えてないやつのこと男だって思うほどオレ馬鹿じゃないかな……うっ」
「おい馬鹿自爆テロやめろ……やめろ……ううっ」
まあ、クーラーボックスを検閲したい梅吉VSクーラーボックスを守り通したい青仁による戦いは、青仁が誘発した梅吉の意図しない自爆テロによって、両者共倒れという結果に終わったのだが。
「……とりあえず、マジでヤバげな食材を見つけ次第お前を叩き出すから、そのつもりでな」
「だからそんなヤバいもんは持ってきてないっての。この時期に生物輸送するのは結構なリスクだし」
「いや警戒してんのは食中毒じゃねえから。……だーっ、こんな暑い中外で騒いだから汗かいちまったじゃねえか。早く家入ろうぜ」
「お前が騒ぐからだろ」
「は???元はと言えばお前がクソ不穏クーラーボックス引っさげてくるからだが?????」
うっすらとかいてしまった汗を拭いながら、 梅吉は青仁が持ってきた荷物の一部を抱え、冷房の効いた自宅へと戻った。その後ろを青仁がよたよたとついてくる。
「ん?そういえば緑は?」
「連絡来たら駅まで迎えに行く。いくらスマホっていう文明の利器があるからって、流石に土地勘ないとこで住所だけ伝えて来いってのは、オレじゃなくたって無理だろ」
「あーたしかに。この辺ただの住宅街だから目印っぽい目印ないもんな。んじゃしばらく梅吉の家で待つ感じか?」
「そう思ってたんだけど、今まさにあいつからついたって連絡来たから行くぞー」
「マジかよちょっとは涼めると思ったのに。おのれ緑」
「いや緑恨んだって何も始まらないだろ」
口では文句を言いつつも、すたすたと荷物を置いて外へ再び出ようとするあたり機嫌は良いようだ。まあ梅吉もこれから好き勝手どんちゃん騒ぎができるので、奴と同じく平時よりテンションは高いのだが。誰だって非日常には心躍るものだろう。
「暑い。こんな暑さの中たこ焼き器運んだ俺偉すぎるのでは?」
「謎のクーラーボックス持ってこなきゃめちゃくちゃに偉かった。てか結局あれ何が入ってんだ?」
「ふっふっふ、そりゃあもう!食う時のお楽しみってことで!」
「楽しみ通り越してシンプル恐怖なんだよなあ」
「は?そういうこと言うなら俺にだってやれる手はあるんだが?具体的にはロシアンたこ焼き開催の用意が」
「うっかり死にたくなったら頼むわ。だからあと一億年後ぐらいまでその用意はしまっといてくれ」
「それ人類生き残ってんのか?」
中身のない適当な会話を交わしながら駅へと向かう。中身のない会話のくせに、無駄に恐怖を煽られたのは一体なんなのだ。新手の死刑宣告か?
「よお赤山に空島。俺今日を命日にしたくないんだけど。っていうか妹と想いを通わせるまで死ねないんだけど」
「一生死ねないじゃん」
「バカがバカ言ってら。てかなんなの?なんで梅吉も緑も死を覚悟してるの?あとなんか若干緑疲れてるし」
「あんたのせいだよ!!!」
程なくして、死んだ魚のような目をした活きの良い(矛盾)緑が現れた。まあこれから道連れになってもらう予定なので、当然ではあるのだが。寧ろ溌剌としている方が怖い。
「いや疲れてんのは単に荷物多いからってだけなんだけど。俺の家からここまで一時間半くらいかかるっての普通に忘れてたわ」
「だからオレマジでホットプレート持ってくんのかって聞いただろ。まあ、こっからはオレらも手分けして持つし」
「サンキュー。んじゃあ、とりあえず材料一部持ってくれると助かる。ホットプレート本体は俺が持つからさ」
「了解。んじゃ青仁、お前はこっち。オレはあの袋持つから」
「ほーい」
二人で手分けして緑の荷物を持ち、また炎天下へと繰り出していく。
……にしても、梅吉が想定していたものより随分と緑が軽装なのだが、大丈夫なのだろうか。まあ梅吉が心配するようなことではないだろう、後で苦しむのは緑本人なのだし、と自己完結した。
「赤山の家ってどうなってんだ?冷蔵庫がめちゃくちゃデカかったりすんのかな。そこんとこどうなんだ空島」
「おいなんだその偏見は。んなことねえよ」
「そうだな。あいつの家の冷蔵庫はな……バッッッッカデッッッッカいぞ。それこそキッチンを埋め尽くす勢い。なんならあいつの部屋にも冷蔵庫あるぞ。もはや冷蔵庫屋敷って感じだったぞ」
「マジかすげえな赤山家。どんだけ飯に命かけてんだ」
「んな訳ねえだろ冷蔵庫は標準サイズだし普通に一個しかないっての!青仁も適当言ってんじゃねえよ」
道中、クソ雑梅吉の自宅予想選手権が開催されていたが、青仁と緑の梅吉に対する解像度の低さが露呈しただけであった。というか適当言ってただけだろ、特に青仁。真顔で神妙に言ってる時点でふざけてるのは明白なんだよ。
「で、本音は?」
「正直自分の部屋に冷蔵庫もう一台あってもいいよなとは思ってる。あと電気ポット。小腹空いた時にインスタント作れて便利そう」
まあ、悲しいかな願望という意味ではそこまで間違った意見でもないのだが。
「MY冷蔵庫&MY電気ポットを欲しがるJKは希少種なんだよなあ」
「だってオレ女子っぽい見た目の高校生略してJKだし。認めたくないけど根本的に希少種だし。つまり母数が少ないから希少もクソもねえんだよ!」
「言ってて悲しくなってこないかそれ」
「は?お前の傷口も抉ってやろうか女子っぽい見た目の高校生略してJKこと空島青伊ちゃん」
「おろろろろろろろろ」
「爆速で女子どころか人間としての尊厳投げ捨てるじゃん。プライドとかないのか?」
「緑、性転換病ってすっげえんだぜ?発症すると秒でプライドというプライドが溶ける」
「シンプルにツッコミにくいブラックジョークに俺を巻き込むのやめてほしい」
「そうか?これぐらい対応できないとこの先やってけな……お、ついたぞ」
JKの略称に新解釈を見出し始めた辺りで、緑をパーティーメンバーに加えた一行は、再び梅吉の自宅へと辿り着く。
「おじゃましまーす……思ってたんより普通の家だな」
「お前ら揃いも揃ってオレの家をなんだと思ってんだ?」
「胃袋ブラックホールの培養地」
「よくわかんねえけどなんか悪口言われてる気がする」
「いや緑、それだと梅吉が培養槽の中で育まれたエイリアンみたいに……あーでも胃袋だけ身体改造を受けていればあるいは?たまにあるしなそういう映画。うん、いいんじゃないかな。緑もそう思うよな?」
「俺に同意求められても困るんだけど。でも正直赤山胃袋改造説は普通にありそうだよな。その場合あんたの味覚も改造されてるとは思うけど」
「後者は全力で学年L◯NE辺りに流すべきだとは思うけど前者は絶対に広めるなよ!」
「前者は全力で広めるべきだと思うけど後者は絶対に門外不出にしろよ!」
どうせ改造されるなら仮◯ライダー的なカッコいい方向性に改造されたいんだが?胃袋とか味覚とか超局所的ピンポイント改造、全然カッコよくないんだが?むしろダサくないか?
「つか、結構早い時間に集まったけど、この後何するかとか考えてんのか?まだ夕飯の準備には早いだろ」
「おい言い出しっぺ、何自分だけ真人間ぶってんだ。せめてお前の改造説を生み出してからじゃなきゃこの話題は終われねえんだよ」
「そうだそうだ!俺らもお前で好き勝手遊びてえんだ!」
「あー、じゃあ脳味噌が改造っていうか洗脳されてるせいで、倫理観が機能してないとかで良いだろ、うん」
「……」
「……」
「え、なんであんたら黙ってんの?俺なんか変なこと言った?」
誰だって、色々とアレ(オブラートに包んだ表)な友人に倫理未搭載の自覚があったら、なんか微妙な気持ちになるだろう。つまり死んだ魚のような目で緑を見ている二人は何も悪くない。
なおなかったらなかったで局所的にホラーが発生するので、どう足掻いても緑は詰んでいるものとする。
「……ぶっちゃけ夕飯まで何するか全く考えてないんだよな。どうする?ゲームでも引っ張り出してくる?」
「三人でやれるソフトとか持ってんの?ていうかそもそもコントローラーそんなにあんのか?」
「ないな。追加で買った覚えないから普通に最初っからついてきてる数しかないと思う」
「だめじゃん。よしこうなったら夏だしいい感じに人数集まってるしここは俺のおすすめホラー映画鑑賞を」
「俺のこと無視したかと思えば何ろくでもない方向性に話が進んでるんだよ?!」
真っ当な方向に話が進んでいったかと思えば、いつものように青仁が暴走への道を一歩歩み出してしまった為、緑から制止の声が飛ぶ。無論、この後梅吉も即座に加勢したのであった。
ちなみにこの後折衷案で普通にサメが空飛んでるタイプの映画を見た。普通に盛り上がった。




