死亡フラグって案外簡単に立つ その1
「あ、そういえば私明日から二泊三日で旅行行くから。しばらくいないわよ」
ことの発端は、たまたま時間が被った為共に夕食を食べていた姉の、あまりにも遅すぎる申告であった。
「は?おい食事当番どうすんだよ」
「私がいないんだから無効よ無効。一人でやりなさいよ」
「いやしばらくお袋も親父も帰ってこないだろ。オレだけで飯含め家事全般やるのは色々限界があると思うんだけど」
「知らないわよ。高二なんだし、そろそろ自立したら?」
「いやお前だって料理の腕前は大差な……ナンデモナイデス」
ぎろり、と睨みつけられる。弟(概念)というものは姉に対しひどく無力なものなのである、姉に睨まれたらどうしようもない。そうでなくとも両親が不在がちな赤山家において、唯一の比較的家にいる確率の高い同居人なのだ、関係を拗らせたって梅吉が不利になるだけである。
仕方ない、と梅吉が今後三日間の食事について思いを馳せていると。
「まあそういうことだから。北海道で食い倒れツアーやってくるわね」
「おい待て!!!!!オレを差し置いてそんなとこに行くんじゃねえよ!!!!!」
姉がなんかとんでもないことを言い始めたせいで、この後一悶着あったのは言うまでもない。ちなみにお土産は確約させた。そうじゃなきゃ割に合わない。
さて、こうして三日ほど自宅に一人きりとなることが確定した梅吉であったが。高校生が自宅に数日間一人きり、となればやることは決まっている。自明の理、というヤツであろう。
『明日から三日ぐらい家にオレしかいないんだけど来る?』
『あほひと がスタンプを送信しました』
『あほひと がスタンプを送信しました』
『あほひと がスタンプを送信しました』
『あほひと がスタンプを送信しました』
『あほひと がスタンプを送信しました』
友人を自宅に呼び、どんちゃん騒ぎの開幕である──!姉の珍しい長期外出なのだ、利用する他ないだろう。ちなみにコピペとしか思えない上記の文言の詳細は、青仁がFoooooooo!的なスタンプを連打した形跡である。普通にうるさい。
まあ、気持ちはわからないでもない。身内の目が届かない所で好き勝手騒げる機会は未成年には中々ないのだから。梅吉だってテンションが上がったからこそ、こうして即L◯NEを奴に送っているわけで。
『俺この前やっと親父説き伏せてたこ焼き器買ってもらったんだよ』
『持って来ていい?』
『俺がちゃんと自転車で運ぶからさ』
「へえ〜。むしろ今までよく買わずにいられたな」
ベッドでゴロゴロとしながら、スマホを片手に呟く。奴のことだからてっきり既に入手済みかと思ったのだが、そうでもなかったらしい。梅吉の家にはその手の代物はあるようでないので、いまいち一般的な基準がわからない。
『良いけど頑張れよ』
歓迎こそすれど拒む理由なんてないので、深いことを考えず素直に了承する。
『いよっしゃー!』
『俺頑張って面白いたこ焼きの具材見繕って来るわ!!!!!』
「おい待て!!!!!」
まあ数秒後に己がとてつもない過ちを犯してしまったことに気がつくのだが。
パン、とスマホを布団に叩きつけながらネガティブな思考をぐるぐると回す。おいどうするんだこれ、明日が己の命日になるとか聞いてないんだが。こちとら童貞を捨てる前に童貞を名乗る権利すら剥奪されて、と踏んだり蹴ったりな人生を送ってるんだぞ、死んでも死に切れるか。
『見繕うな』
『たこ焼きなんだから大人しくタコだけ焼いてろ』
『具材は家主としてオレが責任を持って用意する』
『無理すんなって家主』
『俺ちゃんとスーパー巡って来るから!』
『だからそれをやめろって言ってんだよ!!!!!』
だめだ、こうなってしまった青仁は止められない。こいつは基本的に愉快な食が絡むと狂うのだ。最早どうしようもない。かくなる上は──腹を括った梅吉は、徐にスマホを操作し、プルルルル、と間抜けな発信音を響かせた。程なくして数回のコール音を響せた後、相手が応答する。
『おい俺と妹の貴重な逢瀬の時間を邪魔しや』
「お前も道連れだぜ緑ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
『うわうっるさ?!切っていいか?』
──すなわち、生贄の調達であった。
『いや夏休みって俺にとって妹との仲を深める為の接触時間が増える極めて貴重な機会だから。あんたらの自滅になんか付き合ってらんねえよ』
事情を聞き終えた緑こと生贄は平常運転でキショいことを言っているが諦めるしかない。奴が今の梅吉にとって最も簡単に召喚できる生贄なのだから。
「何言ってんだオレたち友達だろ?死ぬ時は一緒だぜ」
『あんたら二人で勝手に死んでろ!』
「いや死ぬのはオレとお前だけだぞ。青仁はピンピンしてるぞ」
『あいつもしかして俺たちが知らないだけで特殊な訓練とか受けてたりしないか?こう、忍者とかスパイとかがやってそうな体を毒物に慣らす訓練とか』
「青仁がそんなかっこいい概念の恩恵に預かれるわけないだろ。あいつは舌がイカれてるだけだ」
『……人間ってさ、理由があった方が納得しやすいらしいぜ?』
青仁の味覚に理屈なんて求めてはいけない。あいつは素で狂ってるだけである。……的なことを味覚のに文字を胃袋に変えた上で青仁に思われていることを、梅吉は知らない。
『ていうか俺以外にも呼べる奴いただろ。木村とかさ。てかあいつのが多分圧倒的にあんたの近所に住んでるだろ。呼ぶならそっち呼べよ』
「部活の合宿」
『……手ぇ合わせといてやるべきか?』
「オレはもう合わせた」
まあそれ以外にも単純に、あいつは少食かつ偏食なので戦力にならないというのもあるのだが。多分あいつはノーマルたこ焼き自体も嫌いだろうし。
「まあでもお前が思ってるよりは元気だと思う。この前会ったら元気に財布叩きつけてたし」
『それは元気判定で良いのか?』
「小銭しか出てこなかった財布を見ながら『そういえば僕は金欠だから今ここでバイトをしてるんだったな……?』とか言ってたから元気だろ」
『たしかにそれは心配する必要がないくらい元気だな』
詳細な流れとしては、毎年恒例屋台全制覇と屋台飯新規開拓という互いに異なる目的を引っ提げ、青仁と共に夏祭りに出陣したところ、屋台でバイトをしていた一茶に「夏祭りデートするなら浴衣着ろなんなら僕が金を出す!!!!!」と絶叫された後財布を叩きつけて、といったものである。いたって平常運転であった。
「で、どうだ緑。来てくれる気になったか?」
『さっきの説得で来たくなる奴がどこにいるんだ。つか言っただろ、俺は妹といちゃいちゃ』
「それはお前の主観においていちゃついてるだけで、妹にとってはいちゃつきではないのでは?客観的に見たら単なる兄弟愛なのでは?」
『殺すぞ』
「そこでノータイムで殺害宣言が出るからお前はだめなんだよ」
相変わらず認知が歪みに歪んでいる男である。早く矯正したらどうだ。いや無理だから来るところまで来てしまったのか。
しかしここまで頷く気配がないとは。流石ロリコン、もしくは青仁がアレ過ぎるのか。まあどっちだって良い。今の梅吉にはとっておきの手札があるのだ。
「まあいいや。ところで緑、もし来てくれるって言うなら、前プール行った時お前の妹がオレと青仁のことどう誤解してたかを教えてやる用意が」
『オーケーわかったあんたの家って学校の最寄りと路線同じだろ?行ってやるよ!』
変わり身の速度だけは一流の友を持って良かった。これでまだマシになるだろう。




