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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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期待って割とどうしようもない その2

「その後ちゃんと説明したんだけどいまいち信じきれないのか『嘘だッ!』とか騒いでてさ。まああいつの黒歴史詠唱してやったら虚無顔で信じてくれたけど」

「あーあの伝説の眼帯オンザ前髪バリカン丸刈り事件?容赦ねえなお前」

「いやだってあれは面白すぎたって。だってよりによって最後連れてかれた床屋でオーダーミスって丸刈りだぜ?誰がそこまでしろって言ったよ」


 要は厨二病をこじらせて校則の頭髪規定に引っかかったアホ話である。まああの年頃ならありふれた話だろう。無論品行方正(自称)な梅吉はそんな愚行はしていないが。していないことにしたが。


「んで、オレはそのまま腹減ってたし虚無の藍染を引きずってファミレスに行ったんだけど。そこまでしても、あいつ今のオレと前のオレがイコールで繋がんねえらしくって。ずっとよそよそしい態度で、明らかにそういうの慣れてないのに頑張って女の子扱いしてきてさあ……」


 話しながらピザを齧り、遠い目をする。ファミレスに辿り着く前の道で思い出したかのように車道側を歩こうとしたり、ついたらついたで積極的にセルフサービスの水を取りに行こうとしたり。しかもそれをわかりやすく無理をしている様子でやっているのだから、こちらの方が居た堪れない。むしろ共感性羞恥的な方向性で痛々しさを覚える。


「折角こっちが話題振っても一瞬で途切れるし、死ぬほど気まずいしでってやってるうちに、嘘か本当か知らねえけど夏期講習あるから、って向こうからお金置いて出てったんだよな」

「何がそんなに気に食わないのかしらけえけど、そんなもんだろ」


 若干気落ちした様子で語る梅吉に、青仁は不思議そうに言う。無論、梅吉だってそんなもん、であることはわかっている。だが、その程度の感想で片付けられたら、こんな複雑な心境になっていない。


「たしかにそうだけど。あそこまで露骨だと、流石のオレも傷つくって話だよ。オレからすれば変わったのは見た目と……まあ、中身も若干変化あるかもしれねえけど。でも根本的なとこはそんな変わってねえだろ。なのに腫れ物扱いというか、過去の自分と別人扱いされたら普通に辛い」


 自分でぐちぐちと語っているけど、梅吉だって現実ぐらいわかっている。多分、別物扱いされる方が普通なのだ。誰だって久しぶりにあった知り合いの姿が別物になってたら、対応に困るものである。客観的に考えれば、梅吉が高望みしすぎなのだろう。

 ただ直近で、駄菓子屋のおばちゃんという大した接触もなかった人物に、行動から察された事があったせいで、変に期待してしまっていただけで。


 自分を、見てもらえるんじゃないかって。


「……たしかに、別人扱いは嫌だわな」

「だろ?つまり今のオレは絶賛傷心中ってワケ。傷心中の美少女が相手だから〜ここは割り勘とかしてくれちゃってもい」

「自分で女の子扱い拒んどいて何言ってんだお前。俺は俺が食った分だけ払うだけだ」

「チッ」


 どさくさに紛れて財布のダメージを軽減しようと試みたのだが、無駄になってしまった。変なところで勘がいい奴である。


「まあいい。とりあえずさっきの忘れるためにヤケ食いするか」

「やっぱヤケ食いじゃん。てかその食った飯はマジでどこに消えてんだ?質量保存の法則に反してるだろ、太んねえの?」

「知らん。姉貴も太ってないし家系的な体質由来だろ」

「……えっ、何、お前のお姉さんも胃袋ブラックホールなの?」

「いや全然。大体お前と同じくらいかちょっと少ないぐらいしか食わねえぞ。てかなんだよ、胃袋ブラックホールって。たまに言われるけどなんなの?オレが知らないだけでなんかの流行りだったりすんの?」


 意味合いはわからないでもない。が、梅吉だってれっきとした人間なので、胃袋の底はちゃんとある。具体的には、今食べているピザ(五枚目)とパスタで昼食を終了にしなくては、梅吉は午後三時におやつを食べられなくなってしまうだろう。


 なお、現在時刻は午後二時を過ぎた頃である。


「いやお前のうちの学年の男子内での二つ名というか、隠語だけど。なんで知らねえの?」

「おいいつの間にそんなカッコつかないのが定着してんだよ?!誰だ言い出しっぺ!」


 首を傾げピザを食べていたら、衝撃の事実がもたらされた。


「え?普通に俺が言い出したし広めたぞ」

「お前何してくれてんだよ?!」


 しかも当然のように犯人は今目の前にいるアホだった。どうなってるんだ、もしや梅吉は交友関係を見直した方が良いのだろうか。名誉なのか不名誉なのかいまいちはっきりとしない称号を広めにかかる友人、大分微妙ではなかろうか。というか、そもそも梅吉の胃袋は(元)男子高校生として若干大きい程度である。


「別に俺が広めなくたって、お前が毎回購買でゴミ袋で商品を受け渡しされてる時点で、この手の称号がつくのは時間の問題だっただろ。そうカリカリすんなって」

「ゴミ袋の何がそんなにダメなんだよ?!クソ、こうなったらオレもお前がドリンクバーに狂ったイカれ野郎だって広めてやるからな……!」

「いや学校に飯はあってもドリンクバーはないから広めようにもあんま印象残らないだろ。あと俺別に狂ってないし。正常だし」

「何正論ほざいてんだ、泥水みてえな液体を愛飲してる分際でよ」

「泥水じゃねえんだが???」


 現在進行形で青仁のコップには泥水が詰まっているので、何の説得力もない発言である。


「クソ、お前だけ真人間みてえに受け取られてるのめちゃくちゃムカつくんだけど?!」

「ふ、そりゃあ俺はお前みたいなイカれ大食い野郎とは違うからな!」


 先程までカウンセリングのせいでメンタルをやっていたとは思わせない程の調子の乗り具合で、青仁は胸を張る。つまりは、色々とモヤモヤとした感情を抱えたままの梅吉からすれば、大いに苛立ちを煽るものであったので。



「……ふうん。青伊ちゃんは、わたしとお揃いは嫌なんだ?」



 突発的にわざとらしくかわいこぶった声を作り上げて、恨めし気な視線を向けて、衝動のまま盛大に奴の感性に直撃弾をかましてやった。


「……ちょ、い、いやそ、と、突然な、ななな何を」


 綺麗にクリーンヒットした不意打ちに、青仁が視線を泳がせ始める。しかし腹いせの為に動いている梅吉が、その程度で止まるはずもなく。逃げようとする目線をがっちりと掴むように、たっぷりとした長いまつ毛に彩られた瞳を向けて、言った。


「突然?わたし、そんなおかしなこと言ってるかなあ。お揃いって、女の子なら誰でも好きでしょ?」


 ソースはリビングのソファを占領し、スマホでイ◯スタを眺めながら『双子コーデって名前で、友達同士で同じ服着るのって結構人気らしいね』と呟いていた姉である為、七割ぐらいは正しいであろう情報を元に、青仁に迫る。


「あーでも、そっか。わたしと青伊ちゃんって、二人とも女の子だもんね」

「〜〜〜ッ」


 邪気のない笑顔を装って、互いに認識したくない現実を突きつける。それはまさしく諸刃の剣で、梅吉の治りそうにない傷口をぐじゅぐじゅとほじくるようなものだけど。

 奴の諦観と困惑と羞恥が入り混じった顔を見て、優位に立てた時点で、いくらでもお釣りが来る。


 だから梅吉は、気が付かなかったのだ。


「──その時点でお揃い、だな?」


 普段より高い声を出していたが故に、反動のように気の抜けた平時より低い声でこぼれた、一般的な男子高校生の単なる感想でしかない発言が。ツインテールが特徴的なガーリーな少女から、ほんの少しの揶揄いの意図と共に繰り出される事により生じる、破壊力を。


「……あれ、青仁死んだ?もしもーし。やっぱ弱えなあお前。もっと耐性無きゃこの先やってけねえぞー」


 つまり、『梅吉』にその手の目を向けられる事を良いと感じる感性を自覚している青仁に対してはクリティカル以外の何物でもなく。

 反射的に突っ伏して、「冷房で冷えてるテーブルってこんなに冷たいんだあ……」とか「あれはズルだろ」とか「ギャップがエグすぎる」などの感想が頭から離れず混乱状態になっていたのだが。諸々の自覚が足りない梅吉が、それを理解している筈もなく。一人呑気に機嫌を良くしていたのであった。

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