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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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意外と人ってそんなもん その2

「マジで知らなかったのかよ。ここら辺はバリバリうちの学区内だぞ。あと俺の家こっから歩きで五分もかからないな」

「うわお前ん家マジで近所じゃん、後で見に行っていい?」

「良いけど、中には入れねえぞ。それにただのマンションだから特に面白みもないけど」

「別に面白みなんか求めてないっての。なんとなく気になるじゃん、こういうのって」


 へえ、こいつこんな所に住んでるんだな、と適当な感想を抱きたいだけである。それ以上でもそれ以下でもない、純然たる好奇心に過ぎない。まあもう一つ、若干不純な動機はあるのだが。


「あとお前がシュールストレミングテロ起こした建物ってここかあ……って感慨に浸りたい」

「あれなんで俺があそこまで怒られたのかいまだによくわかんねえんだけど。大して愉快でも被害もない、至って普通の食べ物だろ、あれ」

「耳鼻科行って来い」


 味覚が壊れているとは常々思っていたが、どうやらこいつは嗅覚も壊れているらしい。考えてみれば嗅覚と味覚は密接な関係があるらしいので、片方が壊れているのならば、もう片方が壊れているのも当然だろう。早く治してもらいたいものだ。耳鼻科程度で治るとは思えないが。


「えー面倒くさい。別に良いだろ、どうせ俺ら定期的に経過がうんたらかんたらとか言いながらカウンセリングに連行されるんだから。その時に軽く診察も受けるし、それで何も言われてないってことは健康だっめ」

「かうんせりんぐ?しらないことばだなあ。おれ5ちゃいだからわかんない」


 そんなものは知らない。そろそろ予約してください、的な電話がかかって来ていた気もするがきっと気のせいである。梅吉は都合の悪いことは全て後回しにするスタイルで生きているのだ。なお物事は後回しにすると大概悪化するという真っ当な意見は聞かなかったことにする。


「あーあ、壊れちゃった。まあいっか。おばちゃーん、俺もこいつと同じブ◯メンアレンジでー」

「はいよ。ちょっと待ってな」


 梅吉がカウンセリングに思考を支配されている間に、青仁は選び終わったらしい。梅吉に比べカゴの中はすっからかんだが、入っているものにほとんど見覚えがない。おそらくよほどマイナーな何かか、メジャーなお菓子のマイナーな味のものであろう。相変わらず新規開拓に余念がない奴である。もう少し別のところに労力を割くべきなのでは?


「しっかし、お嬢ちゃんも秘伝レシピを知ってるとはね」

「え、みんなこれ知らないの?めっちゃ美味いのに」

「最近の小学生は頼んでこないよ。お嬢ちゃんはどこで知ったんだい?」

「どこで、って言うか。小学生の頃からこの辺に住んでる奴は大体知ってるんじゃないか?この辺に住んでたら、大体みんな一回ぐらいは買いに来てるだろ」

「そうなのかい。お嬢ちゃん、来てくれたことあってんだねえ。こんな別嬪さんなら、こっちだって覚えてそうなもんなのに」


 黙って老婆と青仁のやり取りを眺めながらイカを齧っていると、青仁が梅吉以上に考えなしに面倒な話題に頭から突っ込んでいた。


「……ソウジャナカッタカモシレナイ」

「おい隠蔽が雑すぎるぞ青仁。もうちょっと頑張れよ」


 明らかに厚さ由来ではない汗を流しながら首をぎゅるんと明後日の方向に向けているのは、嘘であるという自己証明でしかないだろう。


「だあってぇ!俺こういうのが一番無理!そういうのはお前の役目だろ!」

「役割分担なんかした覚えないけど」

「じゃあ今から役割分担するか!俺は面白い食べ物探す係で、お前は色々言い訳する係な!」

「何一つ分担できてねえよ馬鹿」

「あ?じゃあどうしろってんだよこの状況を!」

「うるせえ黙れ逆ギレするなオレを巻き込むな!」


 ひとまず現状を乗り切るための話し合いだったはずなのに、両者共に気が抜けていたのか、言い争いは第三者の目を気にせずヒートアップしていく。それこそ、呆れたような老婆の視線に気がつかないほどに。


「まあよくわかんないけど、お嬢ちゃんたちは仲が良いんだねえ」

「……」

「……」


 二人して悪戯がバレた子供のように顔を見合わせ、気まずそうに目をそらす。誤魔化すことに成功したのだろうか。これはどちらかというと、気が付かなかったことにしてくれた、といった方が正解な気もするが。老婆はそれ以上追及する素振りを見せずに、店の奥へと引っ込んでいく。


 別に気が付かれたって良いのである。ただ説明が面倒だ、というだけで。青仁が雑に否定するから事態が拗れ、よくわからないことになってしまっているが。


「……バレた?」

「知らねえよ。てか隠さなくても」

「説明面倒だろ」

「やっぱお前も同じ魂胆か」


 さ、と青仁が梅吉の方によってこそこそと耳打ちする。が、最初から特に何も考えていなかった二人で話し合ったところで、生産的な答えが生まれるはずもなく。


「お嬢ちゃん、ブ◯メンできたよ」

「あっはい!!!」


 ひょっこりと店の奥から戻ってきた老婆によって、二人の密談は強制終了となった。ぱたぱたと青仁が小走りでレジの方へと走っていき、商品を受け取る。そのまま梅吉が座るベンチの方へと歩いて行こうとしたその時。



「お嬢ちゃんたち、昔と全然変わんないねえ」



 どこか懐かしむような老婆の声に、二人は硬直する。しかし青仁が反応するよりも早く、老婆は店の奥へと戻ってしまった。


「こ、れはバレたな……?なんでだ?」

「お前が迂闊な行動するからだろ。あと一応性転換病って、無駄に知名度だけはあるからな?気づいてもおかしくはないだろ」

「そう言えばそうだった。まあいいや、説明する手間が省けたし」


 露骨に動揺した様子の青仁が、先ほどの一瞬でどっと疲れたような顔をして梅吉の隣にどかりと座り込む。性転換病はその症状もあってか、患者数に反して異様に有名なのである。老婆がその可能性に至ったってなんら不思議ではない。……しかし。


「まあそれにしたって、オレらほとんど原型残ってないのに、おばちゃんよく気がついたな。やっぱ青仁みたいな食い物の基準が面白いか否かの奴は記憶に残るんだな〜」

「いや何他人事ぶってんだよ。どうせお前だって小学生のくせに大人買いとかしてたんだろ。それで記憶に残ってるんじゃないか?」


 お互いに雑な責任の押し付け合いをして、駄菓子を貪り食いながらも、思うのだ。


 どれだけ見た目が変わって、外見に色々と引きずられようとも、結局根本は変わっていないのだな、と。変化を自覚することもできない変化が起こりつつある二人は、そんな些細なことすら、心の平穏を保つ為の材料となりうるのだ。それこそ、先程の梅吉が過去の自分と今の自分を別人として扱われて、少し心が痛んだように。


「仮にしてたとしても、だ。実際にお前はオレが大人買いしてる場面を目撃してないだろ?つまり証明はできない、そういう事だ」

「いやでも俺が覚えてないだけで実はすれ違ってて記憶の片隅に残ってるとかワンチャン」

「でも過去のお前ただの小学生じゃん。子供の頃に出会ってたけど覚えてなくって、成長してから再会した時を初対面だと思ってる、みたいなエモいお姉さんとの出会いの物語が確定的にできない時点で思い出す意味ないって」

「うわキモ。突然語り出すな」

「は?オレは当たり前のことを話しているだけだが?」


 何故梅吉は全男子の夢を語っただけなのに、ドブを見るような目で美少女に見つめられているのだろうか。美少女に蔑まれて興奮する趣味は梅吉にはないのだが。というか好きシチュ高速詠唱スキルは男子の標準装備だろう。奴に引く資格はない。


「てか、結局このブタ◯ンは何がどうなってるんだ?にんにくが入ってるっぽいことしかやっぱわかんないんだけど」


 他人事面している奴に苛立ちを募らせながら、残り僅かとなっていたブ〇メンを無事完食したのだが、結局実態はハッキリとしなかった。本当、何なのだろうかこれは。美味しいことだけは確かなのだが。


「だよな。でもめっちゃ美味いんだよなあ。もう美味けりゃなんでも良くないか?」

「そうだけど気になるだろ。ここまで美味い味付けだと。……あっそっか〜青仁お前料理できねえもんな!気になるわけがないもんな〜!」

「うっわその通りだけどめちゃくちゃムカつく。弁当作れる程度で煽ってんじゃねえよ。ところで梅吉、俺らそろそろカウンセ」

「知らない言葉だなあ!!!!!」


 まあ、会話バトルにおける禁止カードを出してきた青仁のせいで、色々有耶無耶になってしまったのだが。

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