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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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知ってるようで知らない その3

「てかこれ、結べたところで何が起きるんだよ」

「いや〜それはオレの口からはちょっと」

「お前がそういう態度取ってる時点で、こっちからすりゃ不穏以外の何物でもないんだけど?絶対なんかヤバいだろこれ。結べても結べなくても嫌な予感しかしないんだが」

「ちなみに進捗どんな感じ?オレはこれどうしろと?って感じなんだけど」

「露骨に話逸らすじゃん。舌で精密動作できてたまるかって感じだが?」


 自分が騙されていることには薄々勘付いてはいるものの、素直に答えてはくれるらしい。なるほどつまりこいつはキスが下手と?近所に住んでるえっちなおねーさん(概念)的には許されないが、中身が青仁であることを踏まえればまあそうだろうな、程度の感想しか出てこない。こいつがキスが上手くてたまるか。


「……なんだその顔は」


 まあ、キスが下手だろうが上手かろうが、奴の唇が美味しそうなのには変わりないので別に良いのだが。美少女様様である。と、もごもごと動く青仁の柔らかそうな唇を見ながら思う。

 え、こいつとキスする予定があるのかって?その手のことを考え始めると深淵に足を踏み入れる気しかしないので、積極的に思考放棄していく所存だ。


「いやあなんでもない。とりあえずこれ、思ってたんより無理ゲーなんだけど。結べる人類とかいるのか?」

「いるからこういう目に遭ってるんじゃないのか?」

「まあそうなんだけど。常日頃お前に器用貧乏と罵られているこのオレができないってことは、テクニシャンは案外少ないんじゃねえのって」

「おいテクニシャンってな」

「つかこういう舌とか使う奴だと、風船ガムの方が簡単じゃねえの?」

「お前マジでもうちょっと誤魔化そうとする気概を持てよ!」


 危ない危ない、危うく失言を奴に追及されるところだった。相当強引な会話のハンドリングをした気がしないでもないが、多分大丈夫だろう。相手は青仁だし。


「じゃあお前風船ガム膨らませられるのか?」

「は?無理に決まってんだろいい加減にし……いや待て、これって普通にスマホで調べたら答えわかるんじゃね?」

「チッ気がつきやがった!」


 なんて、油断していたら青仁が独力で答えを知るための最短ルートを導き出してしまった。むしろ今まで気がついていなかったアホさ加減を罵るべきだったかもしれないが、それどころではない。


「こうしちゃいられねえ今すぐに検索を」

「ちなみにこれ、できた方が男としては良い感じのやつだから、多分調べるより結ぶ努力をした方が良いと思う」

「……」


 まあ青仁はチョロいので、ちょっと情報を出したら即座にヘタとの格闘戦へと戻っていったのだが。嘘は言っていないので、梅吉は悪くないだろう。むしろ善意である。


 さてそこから再びしばらく、互いに無言でさくらんぼのヘタを結ぼうと努力し続けたのだが。


「あ゙ー!できるわけねえだろこんなの!」


 若干できそうでできない、といった辺りに梅吉が辿り着いた時点で、青仁が根負けした。


「梅吉見ろよ、これが俺が数分格闘し続けた結果だ!舌触り的に!マジで!一切!進捗が見られふぁい!カス!」


 よほど腹が立っているらしい。憤慨しながらこちらを見ろよ、と言うが、どうせ驚くほど真っ直ぐなヘタを見せてくるだけだろう。見る価値すらない、と思いながらも、梅吉は一応青仁の方を向いた、のだが。


「あーいいよ別に見せなくても。どうせ結果なんてわかりきってる、し……?!」


 青仁は、梅吉の想定を軽々と超えてきたのであった。思えば、なんとなく滑舌が甘い気配はしていたのである。その時点で梅吉は察しているべきだったのだ。


 振り返ったら、自分好みの美少女が大きく口を開け、べー、とてらてらとした唾液に塗れた赤い舌を出して見せつけてきている光景を。


「?どうひたんだ」


 しかもご丁寧に、座っている梅吉に見やすいようにしゃがみ込んでいるせいで、喉奥まで綺麗に見えていた。当然、舌の上に載っているさくらんぼのヘタになんて意識を向けられるはずもなく、そのまままじまじと青仁を凝視する羽目になる。


「いやなんかひえって」


 ──ところで変態と言う名の紳士淑女諸君、女の子が上手く話せず、喉奥まで丸見えの状態で舌を見せつけてくるというシチュエーションに覚えはないだろうか。舌の上に乗っているのがさくらんぼのヘタではなくケフィア(暗喩)であるとしたら、と書けばわかりやすいと思うのだが。……嗚呼、何故己は息子を失ってしまったのだろうか。


「は?どうしたんごぶっ?!」


 と、このようにいかがわしい方向性にしか連想できなかった梅吉は、反射的に青仁を隠すように、奴の頭を鷲掴んで自分の方に引き寄せた。

 当然、そんなことをしたら青仁の顔面に梅吉の胸が直撃する訳で。梅吉の視界の外では降って湧いたラッキースケベ(青仁視点)に沸くお姉さん系美少女がいたりしたのだが、それに気がつく余裕すらなく、梅吉は光のない目で周囲を見渡す。


 ──オレ以外に青仁のあんな顔を見た奴はいないよな?という独占欲剥き出しの目で。


 男女問わず、美人の真顔ほど恐ろしいものはない。わずかでも視線を向けていたクラスメイト達は皆、梅吉の顔を見て露骨に明後日の方向へと首を向けていく。


「……うわあ」


 まあ、青仁の無防備さと梅吉の独占欲に百合を見出した結果、サムズアップしながらぶっ倒れている一茶へのドン引きのせいで、珍しい美人の真顔は軽蔑的な方向性へと歪んでしまったのだが。キモすぎるだろあいつ、と。


「なんなんだあいつ」

「ぷはっ、ちょ、お前突然何してんだよ俺にとってはご褒美だったから別に良いけどさ!」

「……なんかムカついてきたから、オレもお前のおっぱいに顔埋めていい?」


 梅吉が死んだ魚のような目をしながら青仁を解放してやれば、調子の良いことをほざき始めたので、別方向の怒りが沸々と湧いてくる。元はと言えばお前のせいなんだぞ、事故で美味しいものを見せてくれたのはありがたいけど、こんな人の多い場所でやってんじゃねえよ、と。

 友人関係として見た場合、明らかにそぐわない思考であることに気が付きすらせず、梅吉は独占欲を募らせていく。


「は?絶対に嫌だが」


 そして、今回ばかりは事態をあまり理解していないらしい青仁の胸を庇うような動作も、余計に梅吉の劣情を煽るのだった。おそらく無自覚である。

 ……まあ、罠に嵌めてきた当人が死んだので、さくらんぼ云々が有耶無耶になった点だけは評価してやっても良い、かもしれない。


「つかなんでこいつ死んでんの?」

「知らねえよ。てか、一茶がすぐ死ぬのは最早常態だろ」

「それはそうだけど……あれ、緑どうしたの?」


 青仁の言葉で、そういえば、と先程ナチュラルにさくらんぼくれbotと化していた緑の存在を思い出す。青仁の視線の先を辿れば、何故か苦い顔をして、口元を押さえている緑がそこにいた。


「いや……あんたらがさくらんぼのヘタを結べるかどうかとかやってるからさ?ちょっと面白そうだなって、つい出来心でやってみたんだけどさ」

「はあ。まあ気になるのはわかるけど。で、どうなったんだ?」


 てっきり黙々とプリンの上にさくらんぼを乗せて食べているものとばかり思っていたのだが。いくらヤバい奴とはいえ、その手の好奇心ぐらいはこいつにだって搭載されているという話だろう。特段おかしな話ではないだろう、と梅吉はのんびりと構えていた、のだが。


「……確かこれ、結べたらキスが上手いってことになるんだろ?」

「は?おい待てこれそういう話なのかよふざけんな!ああでもとりあえず……ようはできてなかった梅吉はキスが下手ってことか、なるほどな。最高」

「おいお前何なるほどしてんだしかも最高ってなんだ?!つか下手って意味ならお前だって」


 さらりと梅吉が必死に隠していた真実をバラした緑のせいで、のんびりとしていられる空気ではなくなってしまった。瞬間的に頬を赤くした青仁が、混乱しているのか奴の性癖なのか、最悪な方向性へと思考を進めていく。

 しかし残念ながら、奴の若干不穏な性癖を追及する展開にはならなかった。この後の緑の行動のせいで、二人共それどころではなくなってしまったのだ。


「え、空島あんた知らずにやってたのかよ。まあいいや、とにかく、こうなった場合、どうなるんだと思う?」


 気まずそうな緑がんべ、と出した舌の上に、見事に蝶々結びにされたさくらんぼのヘタが乗っていたせいで。


「……おまわりさーん!」

「119だっけ117だっけ?と、ととととにかく通報を」

「あんたらマジで俺のことどう思ってんだよ?!俺だってちょっと自分で自分に引いたけどさあ!」


 その後、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのは言うまでもない。

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