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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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色々複雑なお年頃なんだよ その2

「だって梅死ぬほど鈍いんだもん。なら、多少俺が好き勝手しても良いだろ?それにほら、お前だって好きだろ、こういうの」


 そう語りながらも、隠しようがない程に口角は緩んでいたし、頬だって少し赤い。つまりは奴が意識してそれを行っており、ついでに言えば役得だと感じていることはあまりにも明白で。

 ……梅、とまた呼ばれてずきりと妙な挙動をする心を押えつけて、梅吉は叫ぶ。


「そ、そういう問題じゃないって、わかってて言ってんのか?!そもそもオレが鈍いってのもよくわかんなえし、つか百歩譲ってそうだとしてもなんでそんな意味不明思考に辿り着いたんだよ?!」

「かくかくしかじか四角いムーブ」

「現実じゃそれ言われたって何言ってるか伝わんねえんだよ!おらきっちりまとめあげ分かりやすくオレに説明しろ!」

「ふっ、俺を舐めてもらっちゃあ困るぜ梅よ──この俺が!なんかそんな器用な真似ができるわけがないだろいい加減にしろ!」


 そういえば青仁は青仁だった。というか頼むからその呼び方をやめて欲しいのだが。


「はー???そんな悲しいとこで胸張っちゃって恥ずかしくないんですかープライドとかないんですかー?????」

「プライド?ああ昨日の夕飯に食べたぜ。妙にパリッとしてて苦くてなんか面白い味してたよ」

「架空食レポやめろお前が言うとなんか信じそうになるんだよ!」

「マジか俺ってそんなに食レポ上手いのか」

「いや普段のお前が変なもん食いすぎてて、一瞬プライド食ったって言われてもまあそんなこともあるかもな、青仁だしなって思っちゃうんだよ!」


 妙にポジティブな方向に解釈し、ボケにボケを重ねていく青仁に冷静に指摘を突きつける。それだけ、青仁の職歴ならぬ食歴は大変なことになっているのだ。少なくとも梅吉の知る限り、奴はろくな物を食べていない。というかロクでもない食べ物を積極的に探しに行く。


「まあとにかくそういうことだから。つか俺も幸せでお前も幸せ、WinWinってやつだろ?元々そういう名目で色々やってきたじゃあないか。それの範囲がちょっと広がっただけだ」

「何がそういうことなのか全くわかんないんだが?」

「でも間違ったことは言ってないだろ」

「……」


 そう、確かに間違ったことは言っていない。色々面倒なことを無かったことにすれば、美少女と日常的にいちゃつく権利を得られるも同然なのだから。むしろそれは、梅吉がかねてより望んでいた状況のはずだ。

 だから問題があるのかと言われればないのだ。ないはず、だったのに。



 何故自分は、こんなにも抵抗感を抱いている?



「逆に聞くけど、お前は何をそんなに渋ってんだよ」


 青仁が不思議そうに問いかけるが。それはむしろ、梅吉の方が聞きたいぐらいだった。自分の感情を自分が一番理解できていない。ここ最近そんなことばかりで、本当、嫌になる。


 まるで自分が、自分ではなくなっていくかのようで。変わり続けるのが、恐ろしい。


「……知らねえよ。それがわかったらこんなに微妙な反応になってない」


 そう、ぶっきらぼうに返すことしかできない。だって本当に、わからないのだ。そこまで欲望に素直に、色々と吹っ切れている青仁が、心底理解できないのだ。


 その上青仁の方が男子高校生としては正しいと、どこかで思ってしまったのだ。


「ふうん。そっかー。じゃあ、わかるまで考えてみろよ」

「なんだその上から目線の言葉は。ムカつくんだが?」


 だと言うのに青仁は、何故か妙に嬉しそうにニヤニヤと梅吉を見ている。何を考えてるんだ、こいつは。


「そう言われてもなー。俺にだって思うところってもんはある訳で、うん。少年よ、存分に悩め!」

「うっざ。ところでオレは近所に住んでる年下の男の子のことを少年とか呼んでくれるお姉さんが大好きだったりするんだが」

「おいところでってつけたらなんでもかんでも繋がると思うなよ」

「はあ。お前は好きじゃないのか?自分のこと少年って呼んでくれるお姉さん」


 折角場を和ませるために適当に思ったことをそのまま口にしてやったと言うのに。批判される筋合いはないと思うのだが。


「お前が激推しする程の気持ちはわからん。女の子には普通に下の名前で呼ばれたい派だし。できればくん付けで」

「わあ〜青仁くん気っ持ち悪〜い!」

「っおい媚び媚びボイスと口調でなら何言ってもいい訳じゃねえんだぞ?!」


 気が向いたので、ここでやらずに何時やるのだと梅吉は即座に奴が好きそうな女の子ムーブをキメる。文句を言いつつも、ちよっと反応してしまう辺りが(元)男子高校生の業と呼べるだろう。


「このレベルでもちょっとクるお前の慣れてなさの方がヤバいと思う」

「うるせー!俺は梅と違って一人っ子なんだよ!身近に同年代の女子がいないとクソみたいに耐性低くなるんだっての!」

「そういえばそうだったな。オレ申し訳程度に姉貴いるし、そりゃオレから見たら耐性死ぬほど低く見えるわ」


 忘れがちだが、この手の耐性は周辺環境で変わるものである。なお共学かつ自分自身が女子と化した上でそれか?という至極真っ当な脳内仮想一般人の指摘は握り潰した上での言葉である。

 ……なんて、考えながらも。常に期を伺っていた梅吉は。ついにもう一つに言及した。


「……つか、ここ最近ずっとお前オレのこと梅って呼んでるの、なんなの?」


 やっと、言えた。ずっと引っ掛かっていたのだ。距離感のイカれ具合については先程も述べた通り、梅吉にだってそれなりのメリットが存在している。が、こればかりはそんなものひとつもない。むしろ嫌な居心地の悪さだけが、梅吉にもたらされていたのだから。

 果たして梅吉の少しだけ勇気を必要とした問いかけに、青仁はなんてことのないように答えた。


「あー……ちょっと思うところがあってさ。俺ら内輪で騒いでると忘れがちだけど、対外的に見たら女の子でしかないんだよって気づいたんだよ。俺らの名前って完全に男性名だし、こんなかわいい女の子たちがそんな名前で呼ばれてたらぎょっとするなって。だからちょっとは緩和するために、試しにやってみるかー程度だったんだけど」

「ちっ」

「おいなんだその舌打ち」


 振り回されたオレが馬鹿みたいじゃないかふざけんなよ、の舌打ちである。


「変に真面目なことすんじゃねーよ。おかけで身構えちまったじゃねーか。なんかあったのかって」

「えーそんなにかー?」

「そんなにだよ。お前だってなんの予告もなしにオレが青伊ちゃんとか言い始めたらビビるだろ」

「まあ確かに。じゃあ今後やる時は予告するわ」


 正直内心理由が大したことのないもので胸を撫で下ろしたものの。それを素直に奴に伝えること程癪に障るものはないので、口にするつもりはない。

 というか、それよりもこの呼び方を続行しようとしている青仁を止めることの方が重要だった。


「そういう問題じゃなくてだな……その場のノリとか、必要に駆られた時以外にやるのはやめろって言ってんだけど」

「え、なんで?」

「……気分的に嫌だからやめてほしい、というか」

「なんかめっちゃ感覚的だなあ。もっとちゃんとした理由ないの?」


 理由。そういえば、考えていなかった。言語化するまでもなく感覚的に全てが無理だったので、とにかく止めることしか頭になかったのである。なのでそのままの言葉を伝えたのだが。こちらの気も知らず、奴は雑な難癖をつけてきやがったので。


「そんなにわかんねえなら今から分からせてやるよ青伊。さっきかくかくしかじか四角いムーブとか言ってた分際でよォ、オレは青伊をそう呼んでやることぐらい造作もないからな。青伊と比べりゃこの手のこともできる部類なんだから、いくらでもやってやるぜ?……返事がねえなあ、どうしたんだ青伊?」

「すみませんでした俺が悪かったんで本当マジ勘弁してください」


 据わった目付きでまくしたて、わからせてやった。たちまち青仁が真顔で謝罪を垂れ流していく。そうだそれで良い、梅吉が先程まで味合わされていた、言語化し難い不快感を存分に味わうべきなのだ。


「うぐう……いやまさかここまでの破壊力があるとは。めっちゃ鳥肌立ったんだけど」

「だろ?」

「でもさ、いずれはこう呼ばなきゃいけなくなるんじゃないのか?今でも取り繕った方が良い時は取り繕ってるけど、これから先は増えてく一方だろうし」

「は?現実見るのやめろ青仁のくせに」

「俺なんで正しいことしてんのに罵倒されてんの?」


 普段から現実逃避に定評のある奴が、タイミング悪く現実を見始めていた。

 青仁の言うことは確かに、いつか訪れる話だろう。それこそいつかの梅吉が、カウンセリングという名の精神フルボッコ会にて自覚したように。先程例外として必要に駆られた時、と付け加えてしまったように。

 環境に恵まれているが故に、ある程度素で居られている以上、その環境がなくなれば何が起こるかなんて火を見るより明らかなのだから。


 そして、高校という現在梅吉が生活の大部分を過ごしている環境は、三年というあまりにも儚く短い時間制限が設けられているのだ。タイムリミットは、刻一刻と迫っている。


「見たくないものを共有してきたからだが?まあでも、確かにそれが現実だな、とは流石にオレでも思う」

「だろ?」


 別に、青仁の言葉を完全に否定できるとは最初から思っていない。それは変えようがない現実なのだから。

 だがそれでもまだ、モラトリアムを享受する隙間はあると信じているのだ。


「でも逆に言えば、今は許されてるだろ。ならその今を有効活用したって、バチは当たんねえんじゃねえの?どうせそのうち、気軽に元々の名前も名乗れなくなるだろうし、なんだったら知らない人すら出てくるかもしれないんだから」

「……」


 結局、梅吉に言えることはその程度だ。何せ結局、嫌な理由は梅吉本人にも言語化できていないのだから。それっぽい理論武装でもって、青仁を納得させるしかないのである。


「ならせめて、オレがオレであると知っている相手にはそう呼んでもらいたいって思うのは当たり前だろ……待って自分で言ってて自分がピュアすぎて寒気がしてきた。もしかしてオレってめっちゃピュアピュアだったのか?」


 性転換病の発症時期的に、今後男だった頃の梅吉を知る人よりも、美少女と化した後の梅吉だけを知っている人の方が多くなっていくのは当たり前なのだから。

 せめて、過去を知っている人には、過去をなかった事にされたくないと願うのは、人間として自然な真理だろう。


 まあそれはそれとして、梅吉は今日も元気に思春期をやっているので、自分で自分の発言に背筋が冷えたのだが。


「よくわかんないけどお前がピュアだったらこの世の人類の大半はピュアだと思う」

「そんなに?」

「冷静に考えて欲しいんだけど、元だろうがなんだろうが、ちょっとでも男子高校生をやっていた経験がある奴はピュアを名乗っちゃいけないと思うんだよね」

「まあ、大体ピュアの対極にいるよな。どっちかってと脳内ドピンクとかを名乗るべき」


 無論二人とも、その手のことを真面目に考えたら、思春期的に直視したくない方向性に話題が転がっていくことを知っているが故に。即座に会話は自己防衛を根底の理由として、軽い方向性へと向かっていく。

 というか普通に困るだろ、友人が突然綺麗なこと言い始めたら。それこそ熱でもあるのかとか、明日は槍でも降るのかと心配してしまう。


「……まーでもそうか、うん。むしろ逆に、お前を梅吉って呼べる方がレアか」

「そうだぜレアだ。レアだからさ?頼むからその希少な機会を自ら手放すような愚かな真似はしないで欲しいんだよ」


 言葉に言葉を重ね、望む方向へと話の流れを誘導していく。

 そんな、いっそ懇願と形容しても違和感のない梅吉の様子は、青仁には不可思議なものに見えたらしく。やはり不思議そうな顔をしたまま、青仁は問いかける。


「まあ、言いたいことはわかったんだけど。これってそこまで必死に抵抗するほどの事か?」

「……」


 それがわかったら苦労しないのだ。なんて、口に出し難い本音が勝手に伝わってくれる程、現実は便利に作られていないもので。梅吉は黙り込んで、そっぽを向くことしかできなかった。

 明らかに不審な態度を取る梅吉を、青仁がどう捉えたのか定かではないが。


「……ふーん。まあいいや。そこまで言うならやめてやるよ、俺って優しいからなあ!」

「うっわクッソムカつくんだけど。めっちゃ殴りたい」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた辺り、ろくな解釈をされていないのだろう。全く、梅吉にこうも不快な思いをさせておいて、よくそんなお気楽な態度を取れたものだと心中で悪態を吐く。




 ──いつかこのままではいられなくなってしまうと言うのなら、せめて、お前だけは「梅吉」と呼んでくれよ、と思っているだけなの、に?




「そう安易に暴力に走るなよ、俺らは人間っていう圧倒的な知性を持つ生命体なんだからさあ!そこは言葉の暴力で……ん?どうしたんだ梅吉。顔真っ赤にして。なんか照れる要素あったか?」

「……」


 そりゃあ、青仁にはわからないだろう。自分で自分の思考回路のアレさにやられるという、地産地消の究極系みたいな自滅を現在進行形でやらかしているなんて。


 ああもう、勘弁してほしい。こんな健気なことを考えてしまうとか、本当に思考すらも体に引きずられているというか。我が事ながら自分自身に対しちょっと気持ち悪いとすら思ってしまうのに、何より感情を否定できない手遅れさが、一番心に突き刺さる。

 夏の暑さに茹った頭が余計に熱を持って、どうにかなりそうだった。


「……よし、ちょうど良く電車来たし、早く乗るぞー」

「おい待て説明しろお前の中で何が起きてたんだ」


 現実から目を逸らす為、ひとまず目の前のシンプルな事象に対応することにした。ベンチから立ち上がり、聞き慣れた音と共に開いた扉に向けてスタスタと歩いていく。

 普段以上に心地よい冷房の効いた車内が、自分の精神状態を突きつけてくるようで腹立たしかった。


「あー今何が起きたのかだっけ?オレの脳内会議で本格的にオレがピュアだって可決されたってだけだ」

「は?寝言は寝て言え」


 ぶつくさ言いながらも、梅吉の後を追ってきた青仁は、ちょこんと梅吉のすぐ隣に腰を下ろす。……昼間の空いている車内で、普段以上に大した間隔を空けずに置かれた太ももに、梅吉はやっと自らのミスに気がついた。


 ……呼び方問題は解決したけど、距離感問題は結局何ひとつ解決してなくない?いや最悪解決しなくても役得だから良いけどさ、と。

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