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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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盛大に揉めてる(当事者談) その1

「俺妹の水着見れたし……今年の夏はもう思い残すことないかも」

「あ?黙れロリコン」

「ひどくね?!あんただって彼女の水着見れたらオールオッケーだろ!それと一緒だっての!俺が責められるいわれはなくね?!」


 いつも通りのくだらない会話をBGMにして、梅吉は机の上に身を投げ出した。胸部に備わっているデカい脂肪が潰されるせいで、快適とは口が裂けても言えないが。『ポーズ』とはそのようなものである。


「はあ……」


 ため息をつくのは本日何度目だろうか。数えることすら億劫なぐらい、繰り返している気がする。


「だってお前そこはかとなくキモいんだよ。もうちょっとどうにかならねえの?」

「?あんたもキモい、俺もキモい。それだけの話だろ。人類皆この手の話を前にしたら等しく変態と化すんだから。まあ俺はそんなにいうほど変態じゃないけど」

「だとしても森野とだけは一緒にされたくないし、お前は少なくとも学年トップレベルの変態だよ」

「あ゛?」


 梅吉のアンニュイな心情なぞ露知らず、目の前では緑と、体育祭の時梅吉と青仁をハメ応援団をやらせた男こと納戸がぎゃーぎゃーとやり合っている。悩みなんて何ひとつなさそうで羨ましい。梅吉は、こんなにも頭を悩ませているというのに。

 ……もしやこれが噂の、「男子より女子の方がませている」というアレか?


「お前ら……平和そうで良いよな……」

「逆に聞くけどあんたはなんでそんなさも『俺はシリアスしてます』ヅラしてんの?脇にパンがみっしり詰まった袋と早弁の残骸を積上げておいてシリアスできる訳ないだろ」


 遠い目をしながら言えば、何故か昼食の量を指摘され首をかしげる。


 実の所、緑の言う通り、もしこの小説に挿絵が存在していた場合、絶対にシリアスできない程度にはその光景はシュールさを極めていたのだが。この手のことに対してのみ極端に客観視が機能していない梅吉に、それが理解できるわけがなかった。


「何言ってるかよくわかんねえけど、オレの昼飯とシリアスになんの因果関係もないだろ」

「それはない」

「寝言は寝て言え」


 集中砲火はやめてほしいのだが?梅吉は今立派に傷心中なのだが?常ならば大して痛まない心にもそれなりに響くのだが?


「……まあ、とにかくな?オレは今なんかこう、落ち込みモードというか?とにかくそんな感じなんだよほっといてくれ」

「お前、落ち込むとかできたんだな……?バカなのに」

「口を慎め納戸、オレの拳はお前をぶん殴るぐらい余裕だからな!」


 ピキピキと拳を鳴らしながら梅吉は納戸を睨みつける。完全に絵面が終わっているが、気にしてはいけない。


「納戸やめとけ、こいつ女になっても普通に暴力繰り出してくるし結構痛いから」

「えぇ……筋力弱まってたりしないの?」

「いやオレとしては全然弱くなってると思うんだけど、それでもまだ強いらしい」


 元々梅吉は運動神経が良い方に分類されるので、性転換病というデバフにより多少弱体化したところで、男子としてはともかく、女子としては十分運動神経が良い方らしいのだ。この辺りは青仁も同じなので、正直実感は湧かないのだが。

 ……というか、その青仁のせいで梅吉はこうなっているのだが。


「うわ怖……俺今後一層お前に近づかないことにするわ。ただでさえ裁判のさの字もないまま処刑しにかかってくる童貞共が怖いのに、本人も強いとかやってらんねえもん」

「被告人、納戸海真(かいま)!彼女持ちの分際で美少女と喋ってる罪につき、死刑!」

「ほらなあ!」


 そして納戸は無事フラグ回収を果たし、クラスメイトの男子達の手に落ちることとなった。哀れな……いや何も哀れではないな?


「おい誰か助けてくれないのか?!」

「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜⤴︎」

「Fooooooooooo!」

「おいそこ何愉快な歓声上げてんだ!!!」


 連行される納戸を見送りながら、梅吉は元気に人が運ばれていく時の歌(推定)を歌う。納戸が何か言っている気がするが、ここでこの歌を歌わないでどうする。

 というか、クラス内処刑が発生した時、大抵緑もとばっちりのような形で巻き込まれるのだが。何故か緑は梅吉の横で調子の良い叫びをあげている。


「てか、緑は処刑台に立たせなくていいの?」


 なので、きちんとチェリーボーイ共に売り飛ばしておいた(矛盾)。


「おい赤山何俺を売ってんだおかしいだろ。今の俺はこのまま観衆の一人としてスルーされる流れだったろ?!」

「いや正直森野の処刑は最近多すぎてマンネリ化しててさ?反応もワンパターンでエンタメとして面白くないし、とりあえず飽きがなくなるまでもう処刑はいいかなって」

「俺らのクラスって人の処刑をエンタメとして消費してんの?!フランス革命かよ!」

「あー確かに。オレ前も言った気がするけど、たまには違うやつ処刑した方が楽しいもんな。それに、王道とアンチ王道は繰り返すものだし」

「まともそうなこと言いながら同意してんじゃねえよ!」


 どうやら処刑を取り仕切っている裁判長は随分と聡明な男らしい。なるほどと梅吉も頷く。外野で緑が喚いている気がするが、きっと気のせいである。

 そんな話をしているうちに、教室の一角がどっと湧く。きっと被告人弁護をなかったことにして処刑を始めたのだろう。よくクラス内裁判で裁判長扱いされている学級委員も、足早にそちらへと向かって行った。


 後に残されたのは、梅吉と緑だけである。


「……で、お前結局何で落ち込んでるの?」

「え、聞く気あったんだ」


 まさか、緑から話を切り出されるとは思わなかった。てっきりこのままスルーされるかと。だって梅吉だったらそうするだろうし。


「そこまで露骨に落ち込みアピールされたら聞かざるを得ないだろ。ウザいし」

「……」


 今の自分が客観的に見て死ぬ程ウザい自覚はあるので、梅吉は沈黙を選んだ。

 というか梅吉だって、自分で自分の感情が理解できていないからこそ、クソウザ傷心女(?)になっている訳で。


「……なんかさ」


 流石に、ここまでお膳立てされて黙る選択肢はない。むしろこの状況は自ら望んで生みだしたものなのだ、と腹を括って。梅吉は悩み事を口にした。


「青仁に、避けられてる気がするんだよ」

「どこが?」


 こちらは意を決して言ったのに、信じて貰えないどころか即レスで否定された。


「あんたらさっきまで普通に一緒にいただろ。あれのどこが避けられてんだよ、いつも通りだっての」

「でも今いないじゃん。普段ならわりとそこら辺にいるのに」

「希望出してた本が図書室に入ったから借りに行ってくるって本人が言ってただろ」

「あと最近あいつ放課後に飯食いに行ったりすんの付き合ってくれねえし」

「テスト期間だからだろ」


 青仁に避けられている。梅吉は確かにそう思っているが、どうやらはたから見たら普段と変わらないらしい。自分以外の全てが節穴の持ち主なのだろうか。あれは確実に梅吉のことを避けている。普段ならば、青仁はわりと梅吉の近くにいるのだから。そうでなければ二人揃うと二乗で災厄コンビとか呼ばれていない。いやこれ普通に悪口では?


 なお、正直この手のことを聞けるほど梅吉は勇者ではない為、一茶には聞いていない。何をどう言われようとも、精神の健康を害することだけは確定事項なので。


「テスト期間にしても、多少はなんか食いに行ったりするだろ?そういうのすらないんだよ」

「あー、まあ、たしかに。つか勉強会とかしたりしねーの?ファミレスとかでやってんの、よく見かけるじゃん」

「冷静に考えて欲しいんだけど、ドリンクバーと青仁をセットにした上で真面目に勉強できると思うか?」

「オーケー俺が悪かった。確かにそれは絶対できない。つか、あんたら二人が揃った時点で勉強どころの騒ぎじゃないな」


 そういうことである。というか既に、これに関してはやらかし済みなのだ。


 あれはまだ(若干)(微妙に)(当社比)純粋だった中学一年生の頃、テスト期間だから部活がないし、部活仲間みんなで勉強会なるものをやろう、的な話になり連れ立ってファミレスへと向かったのだ。

 結果、青仁以外全員死体と化したし、当時の加減を知らなかった若き日の梅吉は割り勘を全力で拒否られた。解せぬ。


「だろ?今更オレが勉強会とか言い出しても、何言ってんだこいつアホかよって目で見られて終わるっての」

「はあ。なら普通に誘えば」

「今回のテスト範囲ヤバすぎるから大人しく家で勉強します、探さないでくださいって言われた」

「だからそれ避けられてんじゃなくてたまたまじゃねーの?あんたの勘違いだって」


 たしかに、これだけ聞いたらそう思うのも無理もないことかもしれない。しかし、この話には続きがあるのだ。


「でも今回の範囲、別に特別あいつの苦手なものって訳でもないはずなんだよ。あいつがそこまで対策してる時って、大抵数学で証明が絡む時だから。今回の範囲に証明が入ってないのはお前だって知ってるだろ?だから多分、オレあいつに嘘つかれてんだよな」


 別に梅吉だって、他人の学力事情を事細やかに把握している訳ではない。だが、奴が以前「証明死ね。『数学』なんだから文章書くべきじゃないだろ大人しく一生計算してろ」とかなんとか言っているのは聞いたことがあるので、今回の範囲がなんちゃら関数である以上少なくとも特別苦手な範囲はないだろう。元々奴が得意ではない歴史の暗記やら古文の文法やらは常に苦しんでいるので、今回だけ、という話にはならないのだし。


 え?梅吉?なんちゃら関数のなんちゃら部分がなんだったかパッと思い出せない、それ自体が全てを物語っているだろう。


「ふうん。それはわかったけど、じゃあなんでお前避けられ、あー……」

「途中で止めるななんか余計悲しい感じになっちゃうだろ?!」


 自分で言いながら察してしまったらしい。尻すぼみに声が小さくなっていく緑に、梅吉は叫んだ。


「だって仕方ないだろマジで心当たりないんだから!」


 そう、梅吉には青仁に避けられる理由が皆目見当もつかないのである!


 そもそも、梅吉は青仁と関係がぎくしゃくしたことも、まともに喧嘩をしたことも今まで一度もない。つるんでいるだけでしょーもない小競り合いはしょっちゅう発生しているし、やられたらやり返す精神が染み付いてはいるが。逆に言えば、その程度でしかないのだ。

 つまり、対処法がまるで思いつかない。


「ちなみにいつから?」

「多分今週の月曜とかから……」

「じゃあ原因先週のプールじゃねえの」

「それはオレも百回ぐらい考えたけど、特になんもしてないんだよ……」


 確かに若干挙動がおかしかった気もするが、正直奴の挙動なんて大抵いつもおかしいのだから、いちいち気にしていられない。そもそも、それが避けられていることの原因とイコールで繋がるかすら、定かではないのだから。


「あんたが気づいてないだけ、とかではなく?」

「……ありえそうな可能性出すのやめてくんない?」

「なんで俺ちゃんとアドバイスしてるのに怒られてるんだ」


 気づいてないだけで何かがあった。なるほど現実的だ。現実的だからこそやめて欲しい。


「だってさ、もしそれが本当だったら正直詰んでるだろ。どうしようもなくないか?」

「あー……」


 梅吉は単なる十七歳の高校生である。間違っても人間関係のプロフェッショナルだったりはしない。ましてや、いくら親しい相手とはいえ互いに互いがど好みの美少女と化すとかいう意味不明状況を前提としてしまえば、まともに思考できているとは思えないのだ。


「詰んでるったって、一番高い可能性はそれだろ?」

「今日の緑もしかして現実直視デーか?その調子で婚姻にまつわる法律とか直視してみたらどうだ?」

「誰が民法第734条なんて直視してやるかっての」

「シンプルに怖いからぬるっと第何条とか言わないでくれるか?」


 脳直トークを繰り広げているのだから、脳直とは思えない精度で現実的な数字を出さないでほしい。レギュレーション違反だろ、反射的にスマホを取り出してググってしまったじゃないか。ちなみにちゃんと近親婚にまつわる法律だった。は?


「……なんか、お前のホラー具合を見てたら全てがどうでも良くなってきたかもしれない。ちょっと青仁のところに凸ってくるわ」


 この世には絶対に普通に生きていく上では関係のない法律をパッと出せるような男がいるのだ、それに比べてしまえば、ちょっと友人に避けられたぐらいでもごもご言っている梅吉は、まだ難易度が低いだろう。


「お、おう?ちょっと何言ってるかわかんねえけど、突撃する勇気が出たなら良いんじゃねーの?ちょっと何言ってるかわかんねえけど」

「しらばっくれるなクレイジーサイコロリコン」

「は???俺のどこがおかしい訳?????」

「頼むからクレイジーだけじゃなくてサイコとロリコンも否定してくれ」

「……あー、まあ、うん」

「……なんでそこまで言って否定しねえんだよオレお前のそういうとこがマジで怖いんだけど?!」


 と、緑がある意味一茶以上に恐ろしい側面を覗かせる中、梅吉は一か八かで青仁の所に向かったのだが。


「…………そらがあおいのも、でんしんばしらがたかいのも、みんなおれがわるいんだ」

「し、死んでる……ッ?!」


 無事、梅吉は死体と化したのであった。

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