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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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あくまでエンジョイ勢なんだよなあ その2

「初耳だぞ」

「むしろなんで緑そんなの知ってんだよ」

「いやむしろあんたらが知らないほうが意外なんだが……それで、やるのか?」

「何の話?」

「一茶がキショいって話じゃなかったのか?」

「木村?あいつがどうし、ああ……まあ、多分あんたらの想像どおりだと思うけどさ。そうじゃなくて、あんたらが応援団に参加してくれんのかって話なんだが」

「なんでそんな残酷な真実さらっと言うんだ?」

「お前人の心とかないの?」


 二人で好き勝手なことを言いながらも、梅吉は緑からの打診を考える。はっきり言って面倒臭そうなのでやりたくない。昨今の日本列島は天候を管理する神が発狂でもしたのか、5月から下手したらとんでもない猛暑になるのだ。そんな炎天下の中長袖の服を着て大声を出しながら動くなど、正気の沙汰ではない。しかし。


「……正直、青仁が短ランミニスカ着てるのは大分見たいな。できればサイズ小さめで。だから青仁がやるなら、まあ……」

「……正直、梅吉が短ランミニスカ着てるのはかなり見たい。できればスカート短めで。だから梅吉がやるなら、まあ……」


 ものの見事にハモる(二回目)。こんなしょうもないことで長台詞をキレイにハモりたくは無かったが、現実とは非情である。

 ところで梅吉達の通う高校の制服はデザイン的にスカートを折ることができないものである。故に二人とも割と普通のスカート丈で着用している訳だが。短ランミニスカートとやらは、上半身の露出を犠牲に下半身の露出を平時より格段に上昇させるものである。たしかに二人とも圧倒的胸派ではあるが、別にそれ以外の女体の部位に興味が無い訳では無いのだ。つまり、二人揃ってミニスカと生足の誘惑に負けたのである。


「おーし実行委員ー!言質取れたぞー!」

「あっおい!」

「汚ねえぞ緑!それでも男か?!」


 しかしそれをスマホで録音していたらしい緑が、実行委員(男)へ向かってスマホを片手に叫ぶ。あまりにも卑怯な手立てを使った緑からスマホを取り上げようと飛付こうとするも、美少女化してしまった弊害により、かつては同程度の上背だったはずの緑よりも身長が低い今、華奢な腕は届かない。二人揃ってぴょこぴょこと跳ねていると、こちらを遠巻きに眺めていた実行委員が口を開く。


「よくやった森野!それでこそ交渉人だ!そこで非リア共がお前の処刑を今か今かと待ち構えてるから逝って来い!」


 なんかそれっぽく最初の方は褒めたたえていた気がするが、後半で一気にハンドルを切り緑の死刑宣告へと舵を向けた。体育会系らしい妙に爽やかな良い笑顔から繰り出される、あまりにも鮮やかな矛盾であった。


「は?!前後の文脈が一ミリも繋がってないだろ何言ってんだあんた?!てか彼女持ちのあんたはむしろ非リアの最大の敵じゃねえのか?!」

「ほーらオレらが言ったとおりお前は吊られる運命なんだよ!」

「ていうか最早裁判すらしねえのか、完全なる独裁じゃん。やべえなこのクラス」


 確定した事実として告げられた死刑宣告に緑が絶叫する。なんとも気味が良いが、結局梅吉達の立場はどうにもなっていないように感じるのは気のせいだろうか。

 梅吉の隣でさりげなく青仁が妙に冷静にこのクラスのヤバさに言及しているが、そもそも非リアによる処刑が開催される時点でこのクラスはヤバいのではなかろうか。政治方式以前の問題だろうに。


「別に私は興味無いけど、納戸(なんど)くんが武士の情けって言うから……」

「俺の恋人が言っている通りだ。俺も彼女と付き合うまで非リアだった、しかしこうして晴れてリア充となった今、彼らに何の還元もしないままでいるのは忍びない、故に緑、お前を売るんだ」

「何いい感じに肩ポンしてんだよ人を売り飛ばしておいて!」


 体育会系のリア充、納戸は彼の隣で苦笑を浮かべている女子と付き合っているらしい。完全に初耳だったが、ひとまずリア充が非リアに緑を売った、という構図は理解できたのでそれで良い。


「ってことで頑張れよ。骨は砕いて海にまいてやるから」

「なんで散骨すんだよおかしいだろ!拾ったままちゃんと持ってろ!」

「何言ってんだ野郎の骨を後生大事に抱えてたらキモイだろ。ていうかちゃんと砕いて葬る気があるだけ俺はお前を尊重してるんだぞ」

「なあ梅吉、こういう時なんか言うやつあったじゃん。なんだっけたしかアルファベットの、あーる、ぴー?」

「R.I.P?」

「そうそれ」


 ところで適当な事を言いながらも、緑が処刑場へ送られている隙にどさくさに紛れて二人は逃亡しようとしていたのだが。


「どーこ行こうとしてんのかなー?」

「ひぃっ」

「ひょっ」


 それはもうあっさりと、納戸の彼女たる少女に見つかってしまった。


「じ、実行委員のお二方?は、話し合いとかさ?あるだろ?うん。あとほら、三度目の正直って言葉もあるじゃん?だからほら、ここは、な?」

「だ、だよなそうだよ話し合いだよ俺達知的生命体だし?文明を持つ知性体として言質を取るなんて野蛮な真似はちょっとどうかと思うんだけど、うん……俺梅吉以外の女の子と話したのいつぶりだろ」

「おいそこの青仁ナチュラルにオレを女の子判定すな」

「だって事実として今のお前は女の子だろ」

「は?そんな事言ったらお前だって今は女の子なんだぞ何他人事みたいに言ってんだか」


 冷静に命乞いをしようとしていたら、不思議なことに青仁との言い争いに発展してしまった。この世とはなんとも不思議なものではあるが、先に喧嘩を売ってきたのは青仁だから多分青仁が悪いだろう。しかし残念なことに、そんなふざけた事を考えている余裕はなかった。


「話し合い?やるわけないだろ。こっちには言質っていうすんばらしいものがあるってのに。知らないのかもしれないから教えてやるけど、話し合いってのは互いの立場が対等な相手とやるもんだぞ」

「怖……なんだこいつ……たかが体育祭だぞ……」

「たかが?」

「ヒェッ」


 RPGのラスボス辺りが浮かべていそうな悪い顔をしながら、最低な発言が繰り出される。どうしてこんなクソ男には彼女がいるのに、かつての梅吉達には彼女ができなかったのか、疑問で仕方がない。うっかり体育会系の地雷を鮮やかに踏んでいった愚か者を眺めながらそんなことを思う。本当はここで颯爽と助けに入るべきなのだろうが。


「あの、あー。多分口ぶりからして応援団の方がメインなんだよな?」

「?そうだけど」


 別にこれと言って善人でもない梅吉は、構わず見捨ててもう一人の実行委員たる女子に交渉を仕掛けた。何せ梅吉にとっては青仁に助け舟を出すことよりも、我が身をどうにかする方が重要なのである。人間結局最後は己が一番なので。


「応援団は引き受けるからさ、他はパン食い競争かリレーのどっちか一つにしてくれね?流石にそんなに色々引き受けたくねえんだよ。ってことでできればパン食い競争を無くして」

「……じゃあ、パン食い競争と応援団だけで。それで空島くんはリレーと応援団、と」

「あの、人の話とか聞いてくれないの?」

「なんのことだか」


 さらりと梅吉の言葉を遮ってパン食い競争の選手一覧に梅吉の名前を書き込んでいく彼女にじとりとした視線を向けるも、どこ吹く風といった様子でサラサラとシャーペンを動かしていた。納戸もアレな奴ではあるが、彼女も大概ロクでもない人物なのではないか?


「俺がお前に見捨てられてる間になんか俺のリレー出場が確定してる気がするんだけど気のせい?」

「うるせーオレよりマシだろ、オレなんか昼食抜かれるんだぞ?ていうか盛大に地雷踏んで爆発したのはお前の単なる自爆だろうに」


 ひょっこりと顔を出した青仁に文句を言われたものの、自爆した奴にそんな態度を取られたところで痛くも痒くもない。


「正直梅吉、昼食なんか抜かなくても早弁抜くだけで勝手に最高出力になると思うんだけどなあ」

「どっちもどっちだっての。ていうか納戸、緑が言ってたみたいにならないな」

「でも乳袋最高とか言ってたんだし、ただ彼女の手前取り繕ってるだけじゃ」

「お、おい暴力反たうびぎゃああああああ?!」

「緑死んだか?」

「死んだな」


 応援団と空腹と責任重大競技から逃げられないことが確定してしまった中。そのまま二人は教室後方から聞こえてくる緑の処刑をBGMにしながら適当に会話をしていたのだが。


「納戸くん、そんなこと言ってたの……?」

「な、何あれ」

「わかんねえ……えっあんなことになる流れあったか?」

「無かったろ」

「だよなあ……前兆なしにああなるの……?」


 出場種目の記録をとっていたはずの納戸の彼女たるクラスメイトの女子が、いつの間にか黒々としたオーラを纏い、据わった目つきで納戸に迫っていた。二人の中では特別気性の荒い少女として認識されていなかった彼女の豹変ぶりに、梅吉と青仁は会話を取りやめ揃って震え上がる。


「い、いやそ、こ、これはほら、三年の同じ組の実行委員の人が言ってたというか」

「本当に?」

「ホ、本当デス、信ジテクダサイ。俺ハ貧乳派デス」


 先ほどまでの魔王ムーブとは打って変わって、ただの彼女の尻に敷かれる男子高校生と化した納戸がたじたじになっている。その様子はあまりにも哀れであり、同時に自分達はあんな情けないのに退路を絶たれたのか、と複雑な思いを抱かせるには十分な代物であった。

 納戸の片言の弁明を聞き、反射的に慎ましい納戸の彼女の胸に視線を向けながらも。身を寄せ合って二人は言った。


「女って、怖いな……」

「オレら、あんなに怖くはないから少なくともまだ女ではないな……」


 幸か不幸か、そんな二人の失礼極まりない発言は女の恐怖を体現した少女には届かなかった。

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