客観的視点が大事ってマジ? その2
「ま、まさか……僕の知らないところで既に偽装カップルから本物カップルへと進展してて、既に告白を済ませて付き合ってるとか?!」
「な訳ないだろ。普通に偽装ってかなんか対外的にそういうことになってるだけだ」
「た、たしかにそれは気まずいどころの騒ぎでは……いやでも別に一回告白したからって何回も告白しちゃだめってルールはないし、むしろ恋人同士愛を伝え合う手段として何度も繰り返すべきものと言えなくも」
「おーい帰ってこーい」
「なんでこいつ放っておくとすぐに妄想世界に旅立つんだ?」
「いつものことだろ」
二人が渋っている間に、この世に存在する全ての女子の女子同士恋愛の可能性を信奉する変態が、今日も元気に暴走していく。何故こいつは即座にアクセルを踏み込んでしまうのか。いつになったらブレーキを習得するのやら。
「おい緑、てめえ何『いつものことだろ』で流そうとしてんだ。そっちがそのつもりならオレはいつでもお前になんかそれっぽい告白(笑)をかまして、一茶の矛先を向けてやっても良いんだぞ」
「なんなら俺からも告白してやったって良いんだぞ。定番のどっちを選ぶの?!とかやってやっても良いんだぞ」
「やめろ俺を殺す気か?!」
あと一丁前に他人事ヅラしている緑がウザい。元はと言えばお前のせいだろう、許されると思うなよ。こちらは自らの手を汚さずとも、如何様にも貴様の息の根を止めることができるというのに。
「よくわからないが、僕にとっては美少女二人にそんな冗談を言われる仲というだけで、十二分にぶっ飛ばす理由になるぞ。ていうか一発入れていい?」
「良い訳ないだろ?!」
「あー、言われてみればそうだな。オレも一茶の立場だったら遠慮なくぶっ飛ばすわ」
「うんうん。一茶、やっちゃったら?」
中身に目を瞑れば、一茶の言う通りちょっと際どい冗談を言い合える仲の女友達×2ということになるのだから。一茶の言葉は頭からつま先まで等しく正しいと言えるだろう。まあ、実態は美少女(中身は以下略)×2と実妹ガチ恋勢ロリコンとかいう謎の組み合わせなので、そんな単純な話でもないのだが。
「もしや俺の味方って実は一人もいなかったり?????」
「今更気がついたのかよ。遅いな」
「いる訳ないだろ。俺らは皆人生で一度も女子とそんな仲になれたことがないんだからな!ハハッ……いやマジでなんで?俺らもしかして前世で罪でも犯した?」
「いや待て青仁、冷静に考えてあのクソキショシスコンには女友達がいて、清く正しく生きている僕らに女子とのロマンスのろの字もない時点で、この世は既にバグってるのでは?」
「だよな?!そうだこの世界がおかしいんだオレらは悪くない悪いのは世界であって」
緑の遅すぎる気づきから急転直下して、話題が鬱へと真っ逆さまに落ちていく。そういう現実を軽率に持ち出すのは良くない、温度差でグッピーが死んじゃっただろ。生命を大事にしろ。
「なので、お前らで傷の舐め合い件お互いの願望を満たすために告白し合えうことによって目的は達成される。Q.E.D」
「だからなんでお前は意地でもその結論へと話を持っていこうとするの?????」
「お前そんなに俺らに告白合戦してほしいの?????」
「うん」
「こいつ……!清々しい顔しやがって……!」
かと思ったら即座に一茶が強引な会話ハンドリング技術を見せつけ、曇なき眼で己の欲望を肯定した。己が性欲を隠そうともしないその姿、男としてあっぱれと言わざるを得ない。いや嘘、自分が対象になっていなければそう言えた。
「もうさ……あんたら木村を黙らせる為に一回適当にやったら?その適当なのでもこいつは一応満足するだグエッ」
「あっなんか罪人が戯言喋ってる〜」
「罪人に発言権がないとか常識なのにな〜」
相変わらず対岸の火事を決め込んでいる緑がぶつぶつと正論を吐いていたので、きちんと一撃を食らわせておいた。だが残念ながら、言っていることは文句なしの正論である。
「……もう、やるしかないのか?」
「まあ、なんか適当に言えばそれで良いってんなら安いもん、かあ?告白(偽)だとしても、面と向かって好きとかいうの、普通にキツくないか?」
「それはオレも思うけど、でもんなこと言ってられる場合じゃねえよ」
二人で顔を見合わせて話す。梅吉だって、青仁の言いたいことはわかる。二人とも高校生らしく見事に性根がひん曲がっているので、友人に例え嘘であろうと親愛を口にするなんて、羞恥プレイ以外の何物でもないのである。できることならやりたくない。
と、いう尤もらしい理屈によって、二人は先程の緑に対する言動を忘れていたのだが、両者共にその事実に気づくことはなかった。
「ほら見ろよ青仁、あそこでいそいそとスマホ構え始めたバカの姿を。あれ放っておいたらもっと厄介になる妖怪みたいなもんだろ、早々に退治しちまおうぜ」
「僕は防犯カメラ付きの壁です。壁として職務を全うするために存在感を消してます」
「だから人間の分際で物体を名乗るなつってんだろ!!!!!」
「つか一ミリも存在感消せてねえから!!!!!むしろ存在感しかねえよ!!!!!」
何せ、一茶が誰も頼んでもいないのに一人廊下に壁に張り付いて、スマホのカメラを二人に向け始めたので。何故こいつは軽率に生物と無生物の壁を乗り越えようとするのか、それがわからない。
「うわきっも……あんたらマジで早くやれよ、俺あんな変態の成れの果て見てらんねえよ。ていうか俺いらなくね?消えていい?」
「良いけど、オレらにはお前が女子に告白されてて、かつそれをぬるっと断ってたってことをクラスの童貞共に暴露する準備があるってこと、忘れないでくれよなっ!」
「あ〜なんかめちゃくちゃ残りたくなってきたわ〜あんたらの助けになりたいわ〜」
人間、持つべきものは富と権力と他者の弱みなのである。ほらこの通り、窮地にてきちんと役目を全うしてくれる。
とはいえ残念ながら犠牲者を追加したところでこの地獄は終わってくれない。本題である梅吉と青仁の告白シーンとやらを満足に摂取するまで、変態は壁と同化し続けるのだこら
「告白、なあ。あー……アホヒトクンノコトガスキデス、ツキアッテクダサイ!(ダミ声)」
という訳で、適当にアドリブで告白とやらをやってみた。まあ声はド〇えもんみたいな感じだが、ビジュアルはなんかそれっぽく媚びたポーズを取っておいたので、音声さえカットすればなんかそれっぽくなるであろう、多分。
え?なんで告白で喧嘩売ってるのかって?それは諸君がちゃんと音量をゼロにしていないだけである。その手に握られたスマホの右脇の下ボタンを押して、該当シーンを読み直せば、ゆめかわ系美少女の真っ当な告白シーンが堪能できるはずだ。なお当媒体は小説であるという苦情は受け付けない。
「イイヨ!(ダミ声)……おいお前今あほひとって言わなかったか?今俺の事愉快にアホって罵倒したよな?ん?」
一方、この手の対応力に定評のある青仁はちゃんとノータイムドラ〇もんで返してきてくれた。なんならその上で喧嘩も買ってくれたときた。流石青仁、梅吉の求めている対応を全てこなしてくれる。やっぱりこういう事をやっている時がいちばん楽しい。
「マイナス五百億点。美少女というガワからお前らの醜い中身が貫通してんだよ」
という訳で、適当にアドリブで告白とやらをやってみたのだが、青仁からの返しもきちんと成立した割に、変態のお眼鏡にはかなわかったようである。一体何が不満なのだろうか、さりげなく喧嘩を売っただけだろうに。
「あ?お前なんかあほひとで十分なんだよ青伊チャン(笑)てかそんなことより、そこで告白に点数つけてる鑑賞者気取りの馬鹿をどうにかしようぜ」
「うっぜェ〜元はと言えばお前が喧嘩売ってきたくせによォ〜」
「心のこもっていない告白はそれはそれで悪ふざけの延長線としてまた別の美味しさがあるが、それにしたって今のはお前らの野郎感が露出しすぎて萌えられない」
「ガチの講評始めるのキモすぎるからやめてくれるか???んなの誰も求めてねえんだよ」
もしかしてこれを元に改善案を出し一茶を納得させる告白を演じてみせろ、というフリなのか。嫌なのだが?変態に操り人形なんぞにはなりたくないのだが?
「お〜いそこで突っ立ってる緑、お前なんかこいつを黙らせる良いアイデアとか思いついたりしないの?」
梅吉が一茶と戦っている間に、青仁が傍観者ヅラをしている緑を巻き込みに行ったらしい。露骨に嫌そうにしている緑が、何故か明後日の方向に視線を向けつつ口を開いた。
「はあ……俺、木村の趣味とか全然わかんねえんだけどさ。オーソドックスな告白って事なら、俺のさっきのやつをそっくりそのまま完コピすれば?もうそれで良いだろ、俺もう早くこの状況から解放されたいんだよ」
「めっちゃムカつくのに、割と良い感じのアイデアだから殴りに殴れないじゃん」
「チッ。命拾いしやがって。夜道に気をつけろよ」
「だから今日のあんたらなんか当たり強くないか???」
構えかけた拳をすんでの所で納めた。行き場のない怒りがくすぶって仕方がないが、今ここで奴をぶちのめしたところで、視界の端に変態を置いたままになってしまう。
もう、二人に退路は残されていないのだろう。青仁に目配せをして、梅吉は腹を括った。




