第97話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑦ とりあえずみんな、ファミレスで話しよ!
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タケオくんとスマホを買いに出かけた私こと黒森瑠依は、街中で異世界からやってきた私の叔父であるキール・ヴァイシオンさんと、そして衣笠芽依さんと出会った。
うん……?
衣笠ってどっかで聞いたことがあるような……。
「で、お前らもずーっと尾行してたのか」
「だ、だって、瑠依と二人っきりで買い物とか……!」
「そうです、何か間違いがあったらどうするんですか!」
「あるかそんなもん!」
私たちは今、とあるファミレスのブース席にいた。
コの字型になっていてかなり広い。
奥側からタケオくん、アレスティアちゃん、エウローラちゃん、そして私。
対面側にキールさんと芽依さんが座っている。
というかどうしてここにアレスティアちゃんとエウローラちゃんがいるかというと――
「ちょっと、見世物じゃないから――」
ギンっと、芽依さんの眼光が鋭くなった。
モノの例えではなく、凄まじい圧が周囲に放たれ、集まっていた野次馬たちが逃げるように散っていく。
周りに誰もいなくなるのを確認すると、芽依さんは「はあ」とため息を一つ、「あんたたちも出てきなさい」と言った。
「ど、どうしてわかったんです……?」
「あんた相変わらず化け物ね」
「エウローラちゃん! アレスティアちゃん!」
私たちのすぐ近く、電柱の下から声が聞こえて、スウっと銀髪と金髪が姿を現す。紛れもない、アリスさんに説得されて渋々家に残ったはずのエウローラちゃんとアレスティアちゃんだった。
「姿かたちは隠せても、あんた達ってば気配はそのまんまなのよ。隠形の意味わかってないでしょう」
どうやら芽依さんは二人が隠れているのはとっくにご存知だったようだ。
ちなみにタケオくんはというと――
「お前らだったのか。何人かの視線はずーっと感じてたんだが……」
どうやら監視の目には気づいていたようである。
ほえー、タケオくんどうしてそんなことがわかるんだろう。
「ふん。その程度の洞察力でいざというときルイス様を守り切れるのか貴様」
「なんだとストーカー野郎。ここは法治国家だ。未開の地から来たお前の常識と一緒にするな」
「貴様――わが祖国まで馬鹿にするつもりか!」
「貴族だか列強氏族だか知らないがやってやるぞ……!」
ちょちょちょ、タケオくん!?
嘘でしょ、売り言葉に買い言葉とはいえ、タケオくんがこんなに好戦的だなんてありえない――
「だッ!?」
「ぐふッ!?」
パァン、という音が一つ。
でも叩かれた頭は二つ。
芽依さんだった。
芽依さんの見えざる左手がタケオくんとキールさんの頭を叩いたのだった。
「いい加減にしなさい。ここは往来よ。みっともない」
芽依さんの目がスゥっと細くなる。
口調は穏やかでも、放たれる殺気は本物だ。
だってそういうものを感じる能力がない私ですら身体の芯から震えが来る。一瞬で悟る。このヒトを怒らせたら絶対にダメだ。
「す、すみません」
「申し訳ありません師匠」
二人は素直に謝った。謝る以外の選択肢がなかった。
ジーっと冷たい視線を送っていた芽依さんの表情がフッと和らぐ。
「ん。いい子ね。とりあえずどっか入りましょうか。立ち話も周りに迷惑でしょうし」
そう言って芽依さんは一人で歩き出す。
タケオくんとキールさんは互いを見たあと、「ふん」と面白くなさそうに鼻を鳴らして歩き出した。
私とアレスティアちゃんとエウローラちゃんも、お互いに顔を見合わせたあと、「クス」っと三人で吹き出してしまった。
三人が三人とも、帽子&サングラス姿だったからだ。
それの取ってつけた感が半端ではない。
私も大概だけど、二人も相当だろう。
「とりあえず行こっか」
「そうね。てか婚約者ってなに?」
「そう、それ私も気になります」
「知らない、私全然知らないよ!」
私たちはファミレスに入るまでの道中、ずっとわちゃわちゃお話しするのだった。
*
「さて、改めてもう一度名乗っておくわ」
ファミレスに入って、全員分のドリンクバーを注文し、そこでまたひと悶着あった。
私が行こうとするとキールさんに止められ、キールさんが「私が行きます」と言うと「使い方わかんないでしょ。そもそもドリンクバーの意味知ってるの?」と芽依さんがツッコミ、「じゃあ私たちが」とアレスティアちゃんとエウローラちゃんが腰を上げかけると、キールさんが全力で反対した。「精霊魔法使い様、おやめください!」だって。さすが有名人。
結局は「俺が行く」とタケオくんが立ち上がり、コーヒー、紅茶、オレンジジュース、炭酸飲料、水などをお盆に載せて持ってきてくれた。ありがとう。
「私は衣笠芽依。駅の反対側にある大学に通う三年生よ。ついでに言うと異世界難民の一人。あ、これは内緒ね?」
芽依さんが可愛らしくウィンクする。
どうして内緒なのかと言うと、芽依さんを引き取ってくれたヒトが、芽依さんの地球での身分を作ってくれたらしい。
彼女もまた物心がつくかつかないかの年齢のときに地球へとやってきて、自分が魔族種だと知ったのは二年と少し前。それまでは自分のことをちょっと力が強い、変わった人間としか思っていなかったそうだ。
「でもある時、実の父親が目の前に現れてね。そこで自分の出生の秘密を知った……ううん、思い知らされたって感じかな。だって私、昔から不自然に強すぎなんだもん」
そう言って芽依さんは自分の脇に立て掛けた竹刀袋を触った。
強い、と言う通り、彼女はかつて剣道をしていたそうだ。
でも芽依さんは日本剣道界から永久に追放されてしまう。
小学生のときに大人の剣道有段者を秒殺……一瞬で倒してしてしまったからだ。
そのあまりにも次元の違う強さに、大人たちは彼女を認めず、逆に恐れた。
そんな芽依さんが今まで腐らずに生きてこられたのも、彼女の家族が支えてくれたおかげだという。
「で、今は地球と魔法世界を行き来してる感じ。だからそこのチビたちのこともよく知ってる」
チビたちって誰のこと、と思ったらアレスティアちゃんとエウローラちゃんのことだった。
「しかしあんたら、本当に地球に来ちゃったのね」
「あははー、まあダフトンも悪くないんだけどねー」
「うん、やっぱり一オタクとしては地球に住むのは憧れで……」
「まったく。自分の欲望に素直な子たちね」
どうやら芽依さんとアレスティアちゃん、エウローラちゃんは昔からの知り合いらしい。気安い感じがする。
「それで、そっちがあんた達の意中のヒトってわけね」
芽依さんがふとタケオくんを見た。
タケオくんは口に含んだ水をゴクンと飲み込んだあと、その目を見つめ返す。
「ふうん。なんでまたそんな格好してるんだか知らないけど……なんか理由があるのかな?」
え? どういうこと。
タケオくんの格好がどうしたと言うんだろう……?




