第96話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑥ 解けない誤解と嫉妬〜黒髪の女剣士登場!?
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「ひ、姫って……!」
突然私の前に現れた猫耳と尻尾の少年。
その格好は正直言って時代錯誤も甚だしいものだった。
まるでそう、彼の言ったまま、お姫様に仕える騎士のような出で立ちだった。
制服と礼服の中間のような上下の服に、膝や肘、そして小手など、各所関節部分には簡易的な鎧が装着されている。
そして、猫耳や尻尾より以上に主張が強いものが腰元に下げた剣だ。
鞘に収まっていて、鍔と柄頭の部分にはキレイな装飾が施されている。
「申し遅れました、私はキール。キール・ヴァイシオンと申します。現ヴァレリア家当主タキオン・ヴァレリア様の御内儀、エルダ・ヴァレリア様は、私の歳の離れた姉に当たります」
私の頭は一瞬「ごないぎ」ってなに? と思ったが(あとでタケオくんに聞いたら奥さんのことだった)、それよりもサラリとすごい情報が出てきたのでそちらの方にびっくりする。
「タキオンとかエルダってもしかして……!」
「はい、ルイス様のお父様とお母様になります」
そっかぁ、私のお父さんはタキオン。お母さんはエルダって名前なんだ。
「どちら様ともご壮健であらせられます。もちろん、ルイス様が行方不明になった当時は大変な心労からお身体を崩されることもあったとか。ですが15年もの間、諦めずにルイス様を探し続け、あなた様が地球にてご健勝であらせられると聞いたときには涙してお喜びになりました」
「そ、そうなんだ……」
このヒト――キールさんの喋り方は、なんだか難しくて分かりづらいけど、でも私のお父さんとお母さんが、私のことを心配してずっと探してくれていたことだけはわかった。
さっき家族がいなくて寂しいって感じたけど、でも私にはちゃんと血のつながった両親がいるんだ。それだけでなんだかすごく嬉しい。私は一人ぼっちじゃないんだって、そう思える。
「本日は私ヴァレリア家に仕える私キールが、タキオン様、エルダ様の名代としてルイス様の普段の生活を視察しに参りました。ちょうどよく『荘厳荘』から外出されるルイス様を発見し、失礼とは思いましたが後をつけさせてもらいました」
「え、それって尾行ってこと……?」
キールさんは「申し訳ございません」っと深々と頭を下げてきた。
「極力、ルイス様の邪魔をしたくなかったのと、普段ルイス様がどのような生活を送られているのか、また、ルイル様の御学友に問題がないかなど、どうしても知っておきたかったので」
知っておきたかったって……。
まあ何十年も離れて暮らしていた娘が今どうなっているのか、どんなところに暮らして、どんな友人がいるのかなど、両親としては当然気になるところだろう。
そういう意を汲んだ上で、自分のことをつけたということなのか。それならば仕方がないだろう。うん。
あれ……友人? 友人ってことはもしかして――
「ですがルイス様、差し出がましいようですが、はっきりと言わせてもらいます。あの男はよくない。ダメです」
「え!?」
ドキン、と心臓が跳ね上がる。
やっぱりタケオくんのことだった。
そしてキールさんの目は怖いほど真剣なものになっていた。
「ルイス様に対するぞんざいすぎる扱い、言動。それだけでも許しがたいのに、真っ昼間からこのような盆屋にルイス様を連れ込むなど不届き千万!」
ぼんや? ぼんやってなに……?
あ、もしかして、恥ずかしい勘違いをキールさんもしてる!?
「ちちち、違うの、ここはそういうお店じゃなくて、カラオケっていう、えっとその――」
私はアイドルだから歌の練習をしていたのだけど、 マクマティカーズのことは話していいのだろうか。一応正体は隠さなければならないけど身内なら――などと考えていて、言いよどんでしまったのがよくなかった。
キールさんはますます険しい目つきになって私を問い詰める。
「あの男に何か言われているのですね。まさか脅されて……? おのれ許せん……!」
「ちょ、ちょっと!」
キールさんはいきなり私の手首を掴んできた。
そしてグイっとかなりの強さで引っ張る。
「行きましょう。あなた様はこのような場所にいるべきおヒトではありません。今のあなた様を見たら、ご両親が悲しみます!」
「待って、違うの、誤解なんだってば……!」
いけない。キールさんは本気だ。
それに押し問答してたらヒトが集まってきちゃった。
どうしようどうしよう……!
「おい、何してんだお前!」
ムンズっと、私の手を握るキールさんの腕を掴んだのはタケオくんだった。
その瞬間、キールさんが腰元の剣を左手一本で引き抜いた。
「キャッ!?」
突然の突風。
それはタケオくんとキールさんが一斉に弾け合い、左右に広がりながら着地をしたために起こったもの。
私を真ん中にして対峙する二人は、油断なく睨み合っている。
「まさかこんな往来で剣を抜くなんてな。イかれてるぜお前……!」
「よく見よ、これは木剣だ」
確かに、キールさんが掲げた剣は木目の入った木剣だった。
問題はそれを本物に見せてしまうほど、キールさんはタケオくんを本気で害そうとしていたということ。
まさに一触即発。
このままでは不味いと思った私は、ササッと、タケオくんを庇うよう、彼の前に手を広げて立った。
「姫……何故そのような男を庇い立てするのですか!」
「ちち、違うんです、聞いてください! このお店は個室で歌を歌う場所なんです!」
そうだ、キールさんは私がタケオくんにいかがわしい場所に連れ込まれたと思っているんだ(多分)。ならその誤解を解けば剣を収めてくれるはず。
「なんと健気な……そしておいたわしや。そのように言えと、後ろの男に命令されているのですね。今すぐその男からあなた様を解放して差し上げます……!」
スッと、キールさんは剣を構えた。
まるで日本の剣道のようなまっすぐな構えだった。
「この野郎、さっきから何を言ってやがる。サンシャインシティは向こうの方だぞコスプレナンパ野郎が……!」
あ、そうだ、タケオくんは知らないんだ。
キールさんは魔法世界からやってきたヒトで、私の身内。
あの姿格好もコスプレではなく、(剣以外)は本物の剣士なのだ。
「言葉の意味はわからないが、貴様が私を侮辱していることだけは伝わる。……斬り捨ててやる!」
はわわ、キールさんも本気だ。
このままじゃタケオくんが怪我しちゃう。
私が身を挺して守らないと――
「――喝ッッッ!」
それは爆発と間違えるほどの大音声だった。
当事者である私やタケオくん、キールさんはもちろん、周りにいた野次馬たちでさえ、あまりの衝撃波に声も出せず、息をするのも忘れる。
「キール、あんた何やってるの?」
気がつけば、いつの間にか私たちのすぐ傍らには女性が立っていた。
動きやすそうなパーカーに七分丈のパンツルック。
そして背中には竹刀袋を背負っている。
「し、師匠、申し訳ありません! ですが、この男がルイス様を盆屋に――」
「待ちなさい、落ち着いて。盆屋って……ああ、ラブホテルか。って馬鹿、違うわよ。ここはカラオケスタジオ。……まあ、そういう使い方をするヒトもいるけど、あの二人は違うでしょう」
「違うのですか?」
「違う。全然違うから」
キールさんは慌てた様子で、自分が師匠と呼んだヒト――黒髪をポニーテールにした美しい女性に弁解をしている。
そう、その女性はなんてキレイなヒトだろう。
ツヤツヤの黒髪に、日本人的でありながらどこか異国の情緒を感じさせる顔立ち。
目元のホクロもチャーミングで、何よりとっても女性らしいスタイルの持ち主だ。
私はハッとしてタケオくんを振り返る。
「美しい……」
ガーン! タケオくんの目がハートに!
タケオくんの年上センサーにバチコーンなヒトだと思いましたよええ!
「クッ、業腹ではあるが、私が誤解していたようだ。申し訳なかった」
キールさんは木剣を仕舞うと、スッと頭を下げてきた。
とりあえず私はホッとする。これでタケオくんとキールさんが争う必要はなくなったからだ。
「だが、貴様のような男はルイス様にふさわしくない。目障りだから今すぐ消えろ」
ダメだった。どうしてキールさんはこう、私のことになると猪突猛進と言うか、周りが見えなくなるんだろう。
「喧嘩しない。ぶっ飛ばすわよキール」
「申し訳ありません!」
そしてキールさんはこの女性には絶対服従のようだった。
師匠って呼んでたけどどういう関係なんだろうか。
「ごめんね。この子、悪い子じゃないんだけど、まあ自分の婚約者の隣に別の男がいたから嫉妬してるのよ」
「ああ、そうだったんですか……って、婚約者?」
黒髪の女性から聞き慣れない単語が出てきて私は首をかしげる。
婚約者って結婚を約束したヒトってこと?
それって誰のことなのかなー?
「自己紹介するわね。私は衣笠芽依。またの名前をメイ・ダキキ。根源27貴族の一角、鬼戒族の王の娘よ。そしてこっちが剣を教えてるキール・ヴァイシオン。ルイスちゃんの叔父で、一応婚約者らしいわよ」
「でえええッ!?」
私は驚きのあまり、女の子にあるまじき奇声を上げてしまうのだった。




