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第94話 ライバルと嫉妬と初恋篇④ スマホを買いに行こう〜ATMから出金しよう

 *



「た、タケオくんは何頼む?」


「ああ……えっと……ごめん、俺に気にせず、お前は好きなもの食べてくれ」


「ええ〜?」


 私たちは今レストランでもファーストフード店でもない、薄暗い個室の中にいた。


 ズンズンと重低音が響いてくる。つまりここはカラオケスタジオだった。

 どうして私たちがこんなところにいるのかと言うと――


 30分ほど前。

 荘厳荘を出た私とタケオくんがまず最初にしたこと。それは――


「ほら瑠依これ」


 タケオくんが差し出してきたのはサマーニット帽とサングラスだった。

 私が「ん?」と首を傾げていると、「無自覚か」とタケオくんのツッコミが入った。


「お前は今駆け出しのアイドルだぞ。男と歩いてる姿を見られたらとんでもないことになるだろうが」


「え、そうなの? でも私だよ?」


 なにをおっしゃるタケオさん。

 私ごとき、何がどうなるとおっしゃるんですか。


「黙って言われたとおりしてくれ。お前が見てないところで俺が殺される」


「? 誰が? なんのためにタケオくんを?」


「そこまで行くと罪だぞもはや」


 玄関先でタケオくんが私の頭に薄くて大きめのサマーニット帽をかぶせてくれる。

 これで完全に猫耳は隠れてしまった。サングラスは可愛らしい形をしていた。あとで聞いたらボストンタイプというらしい。


「ど、どうかな? 似合う?」


「ばーか。サングラスが似合うって歳でもないだろ」


「むう」


 言われてみればそのとおりだ。

 こんな私のいいところも全部隠しておいて似合うもなにもあったもんじゃない。


 ちなみにいいところとは、アリスさん曰く、まずはこの猫耳。

 日本人にはない赤毛。そしてさらには大きな瞳だそうだ。


 うーん。自分のパーツなんて毎日見てるから良いか悪いか全然わからないんだけどなあ……。


「じゃあまずは駅に行くぞ」


「え? どうして? 商店街にスマホショップあるよ?」


「お前な……」


 玄関を出た途端、タケオくんが「はあ」とため息をついた。


「十王寺町のアイドルが地元で買い物してたらあっという間に囲まれちまうぞ」


「えええッ!?」


 そ、そうなの?

 通学のときにアーケードを通っても、商店街のおじさんやおばさんに挨拶される程度なんだけどなあ……。


「さっきエウローラが商店街に行ってきたみたいだけど、速攻囲まれて身動きが取れなくなったから飛んで逃げたとか言ってたぞ」


「それはエウローラちゃんだからだよ」


 私はごくごく当たり前のように答えた。

 するとタケオくんは「はあ」と再びため息。

「とにかく十王寺町を離れるから」と言って歩き出した。


「…………」


 私は無言でタケオくんの後ろをついていく。

 こうしてみるとタケオくんって背中広いなあ。

 それに背が高い。


 私の周りで他に背が大きいヒトと言ったら……カーミラさんか。

 あのヒトもタケオくんと同じか、それより以上あるもんなあ。

 ヒールを履いてるせいもあるんだろうけど。


「あれ、でもなんか……うーん」


 なんでだろう……何故かタケオくんとカーミラさんの後ろ姿が被る。

 タケオくんはカーミラさんは遠い親戚のヒトだって言ってた。


 だから似てるところはあるんだろうけど、でもタケオくんを見ていてカーミラさんを思い出すなんてちょっと変だ……。


「瑠依、移動する前にお前、金は?」


「え、あ、持ってきたよ。ほら」


 そう言って私は財布の中身を見せる。

 がま口財布をパカッと開ければ中には1万円札が入ってる。

 私のとっておきのへそくりだった。


「……いや、お前スマホっていくらすると思ってる?」


「え? えっと、1万円くらい?」


「……まあ各種割引を適用したりすれば、スペックの低いものなら買えるだろうが」


 もしかしてスマホってかなりお高いものなんだろうか。

 でも今どきクラスの子たちはみんな持ってるし、なんなら小学生の子も持ってたりする。そんなに誰でも持てるなら、かなりお安いものなんじゃないだろうか。


「スマホは年単位で毎日使うものだ。だから格安スマホを買うよりかは、そこそこちゃんとしたのを買ったほうがいい」


「う、うん。そういうの、私わからなくて……ごめんなさい」


「謝る必要はない。全く、俺がいたから良かったようなものの……」


「そうだね、タケオくんがいてくれてよかったよ。えへへ」


 私は彼の隣に追いつき、見上げながら笑った。

 するとタケオくんがちょっと驚いた表情になり、目をそらす。

 およ? どうしたのかな……?


「とにかく、もう少し予算枠を増やそう。最低5万以上必要だ」


「そ、そうなの……?」


 スマホってそんなにするんだ。

 し、知らなかったな。小学生で何万円もするスマホを持ってるって、みんなお金持ちなのかな。


「家族割っていって、家族でまとめて購入したり契約したりすると安くなったりするんだよ。あと一括で購入しないで月々の料金にスマホ代金を分割で上乗せしたりする。俺のスマホもベゴニア(母親)と一緒に購入したしな」


「へえ、家族かあ」


 家族、という言葉を聞くとちょっぴり寂しくなってしまう。

 私の家族……叔母さんはいるけど、厳密には血の繋がりはない。

 血の繋がりはなくても、お祖母ちゃんは確かに私の家族だったけど……。


 でも今の私には家族割をしてくれる家族はいない。

 そう思うと、少し悲しくなってしまう。


「とにかく。まずはコンビニのATMに行こう。お前は異世界難民だから、政府から生活費が支給されてるはずだ。キャッシュカードは持ってきてるか?」


「うん、生徒手帳の中に入ってるよ」


「ほら、待ってるからそこのコンビニで引き落としてこい」


「え!? わ、私一人で?」


「当たり前だろう」


「で、でも……」


 私はもじもじしながらタケオくんを見上げる。


「えーてぃーえむ……使ったことない」


「はあ?」


「ひぃ!」


 タケオくんの顔が険しくなる。

 ひええ、本気で怒ってるっぽい!?


「お前、生活費とか、自分の小遣いとかどうしてるんだよ?」


「そ、それは……お家賃とかは引き落としされてるみたいだし、家賃の中に食費も含まれてるから特に必要なかったんだもん」


 あと生活費は、荘厳荘に来たときにいくらか持ってたからそれで……。この一万円も何かのために取っておいたやつで……。


「荘厳荘に来たときって、俺と買い物したときだろ。二ヶ月前じゃないか。自分の小遣いはどうしてたんだ!?」


「ぜ、全部残してるよう、お小遣い……500円はあるかな」


 ジャラジャラと、がま口財布を揺らしてみる。

 1万と500円はある。1万円以外は全部小銭だけど。


「お前……それでよく今まで……」


 タケオくんは頭を抱えて呆れてしまった。

 私、そんなに変なことしてるかな……?


「とりあえず、5000円だ。毎月自分の小遣い5000円は引き落としておけ。そんでそれは自由に使っていい。文房具を買ってもいいし、お菓子やジュースを買ってもいい。わかったか?」


「ええ、そんなにいらないよ……!」


 私、毎月5000円なんて使えない、と否定する。

 でもタケオくんは認めてくれなかった。


「全部使い切る必要ないが、でも基本自分のために使うこと。いいな? 金を使うことも勉強だ」


「う……、わかった」


 というわけで私はスマホ代金+今月の自分のお小遣い5000円をATMで引き落とすことになった。


 大きな画面がついたディスペンサーの前に立ち、チラッとタケオをくんを振り返る。使い方を教えて、と目で訴えかける。タケオくんは盛大なため息をついた。


「あのな、普通、自分の家族でもない奴にATMの操作を習ったりなんてしないぞ。暗証番号とか盗み見されたりするからだ。そういうリスク、ちゃんとわかってるのか?」


「う、うん。でもタケオくんだったらいいよ」


「そういうことじゃなくてだな――」


「違うもん。タケオくんのこと信じてるから平気だもん。タケオくんはそういう悪いことは絶対にしないもん。私誰にでもこんなこと言わないよ。でもタケオくんなら大丈夫だってわかってるから大丈夫だもん」


「――ッ、……はあ」


 タケオくんは苦いものを噛んだみたいな顔になる。

 そして、「一発で覚えろよ」と言った。


「うん、お願いします!」


 そして私の初ATM操作が始まった。

 わあ、キレイな画面。タッチ操作なんだね。


「ここにキャッシュカードを入れろ」


「はーい」


 機械の中にカードが吸い込まれていく。

 画面が変わり、暗証番号を求められる。


「四桁の番号を入れろ。さすがに覚えてるよな?」


「あ、当たり前でしょ」


 ごめん、ちょっと怪しい。

 でも大丈夫、今思い出したから。


「タケオくん、入力したよ」


「ああ」


 タケオくんは律儀に、私が番号を入力してる間、目をつぶっていたようだ。

 ね、私の言ったとおりでしょ。こういうヒトだからタケオくんは信用できるの。


「じゃあ、とりあえず残高照会を押せ」


「これ?」


 ボタンをタッチしてみると、→→→照会中、という画面が出て、数秒後、私の口座の残高が表示される。


「あれ、前見たときと金額が……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん――」


 ヒッ!?


「ひゃ、ひゃひゃひゃ、百万円!」


「馬鹿ッ!」


 あまりの金額に私は大声を上げてしまった。

 するとコンビニにいた他のお客さんが何事かと見てくる。


「あのー、お客様、何かトラブルでしょうか?」


「ちち、違います、なんでもないです! わ、私たち悪いことしてません!」


「落ち着け、挙動不審だと通報されるぞ!」


「ででで、でもでも! わ、私の口座になんでこんな大金がががが!」


 パニックになりそうな私の手を、タケオくんがギューっと握ってくる。

 その力強さに私はハッとし、なんとか落ち着きを取り戻すことができた。


「政府からの生活費と、あとはマクマティカーズのギャラだ」


「え! あ、そうか……」


 そういえばこの間、最初の給料を振り込んだって麗子さんが言ってたっけ。

 ちゃんと確認してね、とも。すっかり忘れてた……。


「とりあえず5万と5000円引き落とせ」


「わかった、ごー、まるまるまるまるっと」


 パカーンと、取り出し口から現金が。

 数えてみると、ちゃんと5万と5000円あった。

 うわー、便利ぃ。


「あ、ありがとータケオくん!」


「おいこら、そのまま帰る気か。なんか忘れてないか」


「え、あ、キャッシュカード!」


 いけない、お金を引き落とせたから安心して忘れてた。


「いいか、現金を引き落としてたあとは必ずキャッシカードを受け取ること。絶対だぞ」


「う、うん、わかった、忘れない」


「いや、お前はすぐ忘れる。金を引き落とすときはマジックで腕に書いとけ」


「うう、否定できない……」


 タケオくんは仏頂面になってさっさとコンビニを出ていく。

 そんなに心配してくれるなら、お金を引き落とすときはタケオくんが毎回付き添ってくれればいいのに。


「さて、まずは池袋まで出るか。それから飯な」


 そう言ってタケオくんが再び歩き出す。

 私は彼に追いつきながら、先程手を握られたことを思い出す。

 タケオくんの手、大きくて細かったなあ――


「おい」


 呼ばれてから気づく。

 私はいつの間にかタケオくんの手を握っていた。


「はわわ! ご、ごめんなさい!」


 慌てて離そうとするが、タケオくんが離してくれない。それどころか手を握り返してきた。


「お前は危なっかしい。だから仕方がない」


 はあ、ともう何度目かのため息。

 タケオくんはそのまま歩き始めた。


 うわあ、手、手を繋いだまま一緒に歩いてる。

 なんだかすごくドキドキする。

 でも足元がフワフワして変な感じ。


(今日のデートは楽しくなりそう……!)


 ……などと思っていたのも今だけ。

 後々にとんでもない出来事が私たちを待ち構えているのだった。

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