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第83話 交流大使ってなんですか篇2㉗ 世界一カッコいい私のお兄ちゃん!

 *



 おまけ。

 会場となった広場からほど近い、公園内の多目的ホールの一室。

 俺たちは商店会の好意でそこをマクマティカーズ専用の控室にしていた。


「はー、疲れたー。練習のときと全然疲労度が違うわねー」


 イベントも終了し、現在商店会の面々は会場の撤収作業と掃除を受け持ってくれている。俺たちは一足先に控室へと戻り、休憩を取っていた。


「本当に疲れたねー。でもなんかすごく充実した時間だったね」


「まあね。今日の瑠依、一回しかトチらなかったし」


「う。ごめんなさい……!」


「別に責めてないわ。あんたにしては頑張ったじゃんってこと」


「うそ、アレスティアちゃんが褒めてくれた……!」


 ぱあああ、っと瑠依の表情が明るくなる。

 アレスティアは瑠依に対して文句も言わないが、特に褒めることもなかった。

 なので嬉しさもひとしおだろう。


「あ、そう言えば奥にシャワールームがあるって。行こう、背中流してあげる」


「わーい、ありがとうアレスティアちゃん!」


 おいおい、一応瑠依の方が年上なのだが、アレスティアの方がお姉さんみたいになってるぞ。瑠依はそれでいいのか? 本人がいいならいいけど……。


 そんな二人のやりとりを見つめつつ、俺は自前のノートPCを使ってエゴサーチを行っていた。


 ふむ。これは思ったよりも……いや、かなりの好評だな。反異世界同盟が悪目立ちしてくれたおかげで、それに対する忌避感情が、そのまま異世界事業の支持につながっている。カーネーションの異世界進出の件も概ね好意的な意見が多かった。


「あら、エウローラちゃん? あなたはシャワーに行かないの?」


 気がつけば、控室の中は俺とエウローラだけになっていた。


「ええ、少し用事があって、それが終わったら行こうかと」


「そう? 汗をかいて気持ち悪いでしょう、早くさっぱりしてらっしゃいな」


 俺はニコっと笑みを浮かべ、再びPCへと目を落とす。

 すると――


「エウローラちゃん?」


 すぐ近くに、魔法少女の格好をしたエウローラが来ていた。

 ピタリと、椅子に座る俺の傍らに立ち、ジーッとこちらを見つめてくる。


「もしかして用事って私にかしら――」


 顔を上げた途端、ふわりと、エウローラが俺の首に抱きついてくる。

 それと同時にとても甘やかな香りがした。


 もしかしてこれはエウローラの汗の匂い、だろうか。

 まるで濃密なミルクのような香り……。

 汗に濡れた女の子ってこんないい匂いがするのか……。


「今日は本当にありがとうございました。私一人が悪いだけなのに、あんな風に庇っていただけるなんて……」


 命を差し出すと言った件についてか。

 まあ、でもその点は安心してるんだけどな。


「大丈夫よ。私はあなた達のことを誰よりも信頼しています。反町純礼が言うように、徒に魔法でヒトを傷つけるようなことは絶対にないと確信しているの。だから何も気にする必要はないわ。あなた達はあなた達のままでいなさい。そしてこれからも自分の身や、他者を守るためには、躊躇いなく魔法を使うのよ」


「はい……!」


 エウローラは泣きながら笑っていた。

 本当になんていい子なんだろう。


 企業人として、それより以上に一人の兄――いや男として、大切にしたいと心から思う。


「でも……カーミラさんは私と会って、まだそれほど時間が経っていないのに、どうしてそんなに私のことを信じてくれるんですか?」


「それは……タケオ――そう、タケオから、あなた達のことは聞いていたのよ、以前からね。だから、あの子があなた達のこと、すごくいい子だって言うから、それなら大丈夫かなーって思ったの、うん」


 そうだった。ついタケオの感覚で信じるなどと言ってしまったが、カーミラとしてエウローラと接したのはまだ半月ほどだった。それなのにここまで感情移入しては、逆に変なヤツだとか、なにか裏があるのかと思われかねない。


「ふーん、そうなんですか。ところで兄さん(・・・)、そのメイクはご自分でしているんですか?」


「ええ、四代目になると決めたときからベゴニアっていう俺の育ての母親に習って………………」


 さあああああああああああああっと顔面蒼白になる。

 吸血鬼なのに貧血寸前になるほど血の気が引いた。


「ふふん。やっぱり……!」


 エウローラはイタズラが成功した子供みたいな顔をしていた。

 ニヤニヤとして、白い歯を覗かせている。


「ど、どうしてわかった?」


「わあ、いつもの兄さんの声だ。変声機でも使ってるのかと思ったら、カーミラさんの声は裏声だったんですね?」


「そ、そんなことはいいから、なんでわかったんだよ……!?」


 俺は冷や汗が止まらなかった。

 なんでバレたなんでバレたなんでバレた……!


「なんでも何も、近くで見てたら自然とわかりますよ。……好きなヒトのことだもん」


 そう言ってエウローラは顔を近づけてきた。

 不覚にも動くことができなかった。


 桜の花びらのような色をした淡いピンクの唇が俺の唇に触れる。

 チラっと近くの姿見に写った俺たちを見る。


 カーミラとエウローラのキスシーン。

 すごくとても背徳的な感じがした。


「ふふふ……二度目ですね、キス」


「お、お前なあ……!」


「うふふ、あはは……!」


 エウローラは壊れたおもちゃみたいに、ぴょんぴょんと俺の周りを飛び回りながら笑う。どうしたどうした?


「最高です……! 私の兄さんは最高にかっこよくて素敵だぞーって、全世界に向けて叫びたい気分です……!」


「やめろ、頼むからやめてくれ……この姿のことはトップシークレットなんだ」


 明日のカーネーション関連株価は軒並み青天井確実なのに、俺の正体がバレでもしたら大暴落してしまうだろう。だから絶対誰にも言わないでくれ……!


「ちなみに兄さんの正体、アレスちゃんは知ってますか?」


「知ってる」


「瑠依ちゃんは?」


「知らない」


「ふーむ。なるほどなるほど。アレスちゃんが急激に兄さんと距離を縮めたのはデートだけが原因じゃなかったのか……」


 今度はブツブツと言いながら考え込み始めるエウローラ。

 大丈夫かなこの子。俺の話聞いてた?


「わかりました。兄さん、もう一度キスしましょう!」


「なんでだよ!」


 エウローラは再び俺の首っ玉にかじりつくと、「んー」と唇を窄めて目をつぶった。馬鹿野郎、やめ――


「いっけなーい、タオル忘れちゃ、った……」


 ガチャっと扉が開き、現れたのは瑠依だった。

 今のカーミラとエウローラは、マジでキスする2秒前くらいだった。


「失礼、しま、したー…………」


「ちょ、誤解よ! 待って瑠依ちゃん……!」


 俺は慌てて女声を出しつつ、光の失せた目をする瑠依に、懸命に言い訳をするのだった。

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