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第81話 交流大使ってなんですか篇2㉕ 幕間・兄さんと一緒がいいのに…

 *



 二週間。約半月……諸々の準備にかけた時間が今、マクマティカーズのデビューによって報われる。


 後方からひっそりと彼女たちの勇姿を見つめる俺ことタケオ・フォマルハウトの胸にも万感の想いが去来していた。


 エウローラが自らの意思で交流大使になることを決意したその日のうちに、六本木にあるカーネーション本社ビル最上階の会長室へと彼女を連れて行った。


「エウローラ!」


「エウローラちゃん!」


 朝から稽古をしていたアレスティアと瑠依の喜びようはとても大きかった。


「ごめんね、遅れたけど私も協力させて」


「まったく、元々あんたこういうの好きでしょ。最初から素直にやりなさいよね」


「エウローラちゃんなら大歓迎だよ〜! 私なんてもういっぱいいっぱいで……!」


 うん、やっぱり三人揃っている方がしっくりくる。


 アレスティアと留依の運動センスにはかなりの差がある。こう言ってはなんだが、留依がアレスティアの足を引っ張るシーンも少なくない。


 アレスティアは決して文句は言わないが、留依はずっと申し訳無さそうにしていて、動きが縮こまるという悪循環が生まれていた。


 そこにエウローラが入るとどうだろう。

 エウローラ自身の運動センスはアレスティアに匹敵するだろう。


 だが、両極端なアレスティアと瑠依のちょうど中間の動きをして、バランスを取るのがエウローラだ。


 するとどうだろう、両極端が中和されて、全体に調和が生まれるのである。これは思わぬ効果だった。


 デュオなら双方近い実力のものが必要だろう。

 だがトリオはこうしてバランスを取りつつ、全体のクオリティを上げるのに役立つのかと、俺自身も新しい発見をして目からウロコだった。


 ――そして。アレスティアと瑠依をより強固につなぐ絆のような役割を、エウローラは無意識のうちにしてくれている。そんな彼女はこのグループの中の、リーダー的な存在に自然となってしまったようだった。


「あの、会長さん、ちょっと意見、よろしいですか?」


 俺は――カーミラのことを親戚の姉、ということにして、エウローラを麗子さんへと預けた。そうしてエウローラが車で移動しているうちに、俺自身は電車で移動し、カーネーションの息がかかっている六本木の喫茶店のレストルームでメイクアップ。さっそうと出社し、エウローラに自己紹介を行ったあと、彼女はそのような提案をしてきたのだった。


「ええ、もちろん。なんでも言ってちょうだい」


 さっそくリーダーとしての資質を開花させ、カーミラ()に意見を言ってくるとは。アレスティアは完璧にすべてをこなすだけ。瑠依はなにか言いたそうにしていても自分から意見は言えないから、エウローラの存在は本当にありがたかった。


「私たちとアレスちゃんは精霊魔法使いの娘です。そして瑠依ちゃんは魔法がある世界の住人です。それを無理やり切り離してしまうのは、やっぱり本来の魔法世界(マクマティカ)を知ってもらうという趣旨から外れてしまうのではないでしょうか」


「そ、それもそうね……」


 おお……なんかすごく核心を突いた発言だ。

 水を得た魚のように生き生きとしている。

 これが本来のエウローラの姿なのか……。


「というわけで楽曲とコスチュームに若干の変更を要求します。さらにステージでも積極的に魔法を使用したいので許可をください」


「えッ!?」


 なんてこった。すでにして、コスチュームと楽曲の制作は7割ほど進んでいる。

 もうすぐお目見えできると思っていたのにここに来ての仕様変更。

 作曲家先生が納得してくれるかどうか……。


 一応コスチュームの方はエウローラの分も含めて三着用意していたが、今から変更するなら一から作り直しということになるのはちょっとキツイ。


「お願いします、できればこんな風に――」


「こ、これ、あなたが描いたの!?」


 エウローラが見せてきたのは、会長室の隅っこに置いてあるコピー機から取り出してきたと思われるA4用紙だった。


 そこにはアニメチックではあるものの、かなり達者なイラストが描かれていた。


「子供の頃からずっと絵は趣味で描いていたので。私が地球に来てなりたかったものは魔法少女、アイドル、そして漫画家です」


 す、すごいこの子。

 魔法の才能もあるし、見た目も超がつくほどの美少女。

 さらに多彩な趣味も持ってるなんて……。


「いい……気に入ったわ。デザインはこれをベースに行きましょう。もちろん、プロのデザイナーに添削してもらうけど構わないわね?」


「もちろんです」


 ニコっとエウローラは笑った。

 憎悪を抱いたことに罪悪感を持っていた先程までとは大違いだ。


 今度はエウローラ自身がアイドル(偶像)となって、見るもの全てに希望を与える存在になって欲しい。心からそう願う。


「あ、そう言えば……ねえねえアレスちゃん、兄さんはここには来てないの?」


 ――ギクリ。


 音に合わせてダンスの練習をしていたアレスティアがふと動きを止める。

 そして俺ことカーミラをジーっと見つめながら「来てないわよ」とニヤニヤしながら言った。


「むう……兄さんったら、私にあんなカッコいいこと言っておいて全部カーミラさんに放り投げるつもりなのかな……」


 いかーん!

 こ、このままでは俺が嘘つきになってしまう。そ、それだけは……なんでか知らないがエウローラに嫌われる事態だけは避けなければ。


「あ、ああ、タケオね。彼には色々裏方に回ってもらってるから、ここにはいないわよ」


「そうなんですか!?」


 うおおお、エウローラが近い。

 滅茶苦茶至近距離に顔を寄せてくる。

 本当にこの子すげえ可愛いな。


 てか柔らかそうな唇。

 落ち着かせるためとはいえ、俺はこの唇にキスを……。


「あ、あなた達の存在は当日まで極秘です。送り迎えはすべて麗子さんがしてくれるので、それに従うこと。間違っても自分ひとりで本社に来ようなどとは思わないようにお願いね」


「それは兄さんもですか?」


「ええ、彼もあなた達がここでレッスンをしていることは知っています。でも決して来ることはありません」


「そうですか……残念。近くに兄さんがいればもっと頑張れるのに」


 シュン、とエウローラは肩を落とした。

 何故か俺の胸がチクリと痛んだ。


「レッスンが終わってお家に帰れば……そこでたくさん甘えればいいじゃない」


 落ち込むエウローラを見ていられなくて、俺はそんなことを口にしてしまう。

 途端――


「それもそうですよね! じゃあしっかりレッスンしてから兄さんにうんと甘えようっと!」


 笑顔の花が爆発した。

 今までなんとなく感じていたエウローラの壁。

 それが完全に取り払われた、親しいものにしか見せない本物の笑顔だった。


 ああ、もしもあの笑顔を一般人が見てしまったら。

 誰もがエウローラのことを好きになってしまうに違いない。

 それはなんか、ちょっと嫌、かな……。


「あれ? カーミラさん、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」


「え!? ――ええ、少し連日の疲れが出てるのかしら……奥の部屋で休ませてもらうわね」


「はい、私もレッスンがんばりますです!」


 元気よく返事をすると、エウローラはアレスティア、瑠依たちの方へと向かった。


 俺は会長室の隣、住居ルームへと向かう。

 休むというのは嘘だ。やらなければならないことは山ほどある。


 新たなコスチュームの作成、デビュー曲も新たに作り直し、現在作成中のものは二曲目以降に変更。


 さらには小山田さんと連絡を取り、十王寺商店街、さらには近隣住民へのヒアリングも行わなければならない。反異世界の連中にバレないようにこっそりと。


(やってるやる……絶対に成功させて見せる……!)


 俺は改めて決意を新たにするのだった。

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