第79話 交流大使ってなんですか篇2㉓ 二代目交流大使・襲名式ライブ開始!
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――情報が錯綜していた。
純礼たちがかつて目撃した魔法少女は一人だけだったはず。
それが場所違いに三人同時に現れるとはどういうことなのか。
とにかく純礼たちは、公園から一番近い東十王寺駅の方へと向かった。
「追跡メンバーから連絡! 現在、魔法少女と思わしき異世界人は、そ、空の上の走っているそうだ! そのまま環七通りを横断し、赤羽方面へと逃走中!」
「決定的ね。間違いなく魔法を使っているわ!」
どういう意図があるのかはわからないが、魔法を使用しているというのなら好都合だ。ここは交流特区とはいえ、無闇矢鱈に魔法を使用していいルールはない。
「当然、動画は撮影しているのでしょうね!?」
「あ。――か、確認する!」
それくらい言わなくてもわかれ。本当に愚鈍なんだから。
純礼は三男のコウジの抜けた対応に苛立ちを覚える。
組織がもっと大きくなったら、身内が幹部というのはよくない。
優秀な人材と兄たちを総入れ替えしなければならないだろう。
女性……そう、女だけがいいわ。
能力は二の次にして、私よりも顔が劣る女を雇いましょう。
どうせ仮面を被るのだから美醜はバレないし問題はない。
「――陸自の駐屯地近くで見つけた魔法少女は空を飛んで逃走中! こちらも赤羽方面に向かったと――」
「なんですって!?」
「スポーツ広場付近の魔法少女はロスト! 見失ったが、同じく赤羽方面に向かったらしい!」
「どいつもこいつも……!」
次男のレンタと長男のタカシから矢継ぎ早の報告。
純礼は足を動かしながらもダンっと、腹立ち紛れに地面を蹴った。
ふざけるな、空を飛んでいるだと!?
もう片方は見失っただと!?
相手は明らかに魔法を使っているというのに。
その相手を確保して問い詰めることで、自分たちの勝ちは確定するというのに。
それなのになんなのだ、この相手に振り回されている感覚は。
まるでわざと姿を晒し、いいように誘導されているような――
「ちょっと待って!」
純礼は足を止め、上がった息を整えながらスマホを操作する。
そうして踵を返し、元いた公園へと戻り始めた。
「純礼――あ、いえ、盟主。どうされましたか!?」
「すべての魔法少女は赤羽方面へ向かったと言っていたわね……」
地図アプリで十王寺町を表示する。
三人の魔法少女が現れた地点を一度に見られるよう、広域表示に設定し、それぞれ出現場所にマーカーを置く。
「ふん――全員に招集命令! 三人の魔法少女の集結場所は坂の下公園よ! 全員で一気に乗り込みます!」
「りょ、了解!」
「了解!」
三人の無能な兄たちと共に、純礼は車まで戻る。
これは間違いなく誘い。魔法少女たちには何かを企んでいる。
だがそんなものは関係ない。
魔法の無断使用の現場を多くのメンバーが目撃している。
もはや言い逃れはできまい。
(今夜、異世界事業の命脈を断ってやる……!)
純礼は仮面から覗く口元を三日月のように歪めて笑った。
*
「ここね……」
バダン、とバンのドアを乱暴に閉め、純礼はその場所に降り立つ。
坂の下公園は文字通り坂の下に位置する公園であり、坂の上と下とを利用した高低差のある遊歩道を有している。
公園内には広い芝生のグラウンドがあり、遊歩道のゴールには広場や噴水、多目的ホールがある。普段なら深夜までカップルなどのデートスポットとして賑わっているはずのそこは、今は人っ子一人いなかった。
「盟主、園内は広い……手分けして探しますか?」
「いいえ、それには及びません」
レンタの言葉を純礼は即座に否定する。
本当に馬鹿かこいつは。それでは先程と同じではないか。
ここにいる全員を証人にするため、わざわざ集合して乗り込んだというのに。
「おそらく……この奥の広場に魔法少女がいるはず――」
むしろ純礼は魔法少女を逃さないよう、広場の出入り口を塞ぐよう、十重二十重とメンバーを展開する。そしてジリ、ジリっと、包囲の輪を縮めながら慎重に進んでいく。
公園内はことさら暗かった。
周囲には街灯らしきオブジェがそそり立っているのだが、全て灯りが消えていた。
まさかこれも魔法少女の罠……?
全員でスマホの懐中電灯を灯し、純礼たちは広場の奥へと向ける。
するとそこには――
「いた! 魔法少女だ!」
メンバーの一人が叫ぶ。
広場の右端、そこには金色の髪をした少女が立っていた。
彼女はヒラヒラとした衣装に身を包み、どこからどう見ても魔法少女と言った風情だった。
「仮面……? 私たちへの当てつけのつもり?」
純礼が言う通り、金髪の魔法少女は、顔を覆い隠す仮面を被っていた。
白くて無機質。両目の部分だけ、長方形にくり抜かれたものを装着している。
「あッ、あっちにもいる!」
メンバーの誰かが左の方を指した。
確かにそこにも仮面を被った魔法少女がいる。
何故かその少女は、真っ赤で鮮やかな髪から猫耳を生やしていた。
金髪と赤髪、二人の魔法少女は互いに歩み寄り、そして真ん中で出会う。
次の瞬間――
「うッ!? これは――!?」
どこからともなくスポットライトが降り注ぎ、歩み寄った二人の魔法少女の間から、三人目の魔法少女が現れる。
銀色の髪がライトに反射してキラキラと輝いていた。
その少女もまた、顔には仮面をつけており――それを取り払う。
同時に、金髪と赤髪の少女も仮面を脱ぎ捨てた。
――おおお……!
知らず、メンバーたちは感嘆の声を上げていた。
現れたのは、紛うことなき本物の美少女だったからだ。
神々によって造形されたのではないかと思うほど、完璧に整った目鼻立ち。
それでいて無機質ではなく、とても愛らしい笑みがよく似合う。
金髪は翡翠の瞳。
負けん気の強さと自信とが全身から滲み出ている。
赤髪は紅玉の瞳。
どこかオドオドしているが、懸命に歯を食いしばって耐えているのが健気だ。
銀髪は琥珀の瞳。
威風堂々としていて、魔法少女というよりも、勇者のような風格だった。
「ふ、ふふふ――ついに素顔を晒したわね! あなた達の姿は今ライブで配信中よ! 終わったわね! 異世界事業ももうおしまいなのよ――!」
純礼が高笑いしながら勝利を宣言したそのときだった。
彼女たちの背後から「わっ!」と歓声が上がる。
反異世界同盟のメンバーが驚いて振り返れば、芝生の方から、彼らを凌駕する大人数が猛然と駆けてくるところだった。
「な、なんですって――!?」
逃げ道などありはしない。
自分たちがしたように、全方位からヒトが現れ、次々と「うおおお!」「きゃああああ!」などと叫び声を上げながら押し寄せてくる。
気がつけば、反異世界同盟のメンバーたちは押しに押され、まるで三人の魔法少女たちを囲む輪の最前列へと躍り出されていた。
「みなさーん、本日は二代目交流大使襲名式ライブに、ようこそおいでくださいましたー!」
――わああああああああッ!
どこから取り出したのか、マイクを持った銀髪の少女が元気よく告げると、耳を劈く大歓声が沸き起こる。
ば、馬鹿な――! 公園の周りの遊歩道から、果ては近所の民家、マンション、老人ホームの方からも熱狂的な歓声が聞こえていた。ほ、本当にライブ配信されてる!?
「今日は私たちのデビュー曲――」
「た、たっぷりと聞いていってくださいね!」
金髪の魔法少女が妖しく笑い、赤髪の魔法少女がどもりながら言う。
観客たちのボルテージは際限なく高まっていく。
反異世界同盟のメンバーたちは、図らずもプレミアムSSチケット席を専有することとなり、あまりの状況にポカーンとするばかりだった。
純礼は「は、はめられた……!」と、最初から最後まで罠だったことにようやく気づくが、全ては後の祭りだった。




