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第78話 交流大使ってなんですか篇2㉒ 反異世界同盟への挑戦状!

 *



 反町純礼が園町お茶店前にて演説を行い、その際に店主と揉めた(・・・・・・)事件から二週間が経過していた。


純礼(すみれ)、時間だ」


「兄さん……いえ、タカシ。これからは盟主と呼びなさい」


「は。失礼しました、盟主」


 路上に違法駐車されたバンの中。

 貨物室に座席シートを増設した後部座席で、反町純礼は仮面を装着する。


 口元だけが覗く無機質な仮面だが、賛同者が増えたことで多少の装飾を施し、リーダーである彼女の面だとわかりやすくしてある。


 いい意味で、反町純礼の演説は反響を呼んだ。

 仮面を付けた謎の女性……ということで、少なくない人数の同盟者が、純礼たちの活動への参加を希望してきた。


 そして今、バンが停まる路上の近く――公園には、同じく仮面を付けた数十人の男たちが待機していた。


 彼らはもはや名無しの活動家ではない。

 その名も『日本人の権利を守る反異世界同盟』。

 本日も定例会を行い、その後は夜の町の見回りをする予定だ。


「皆さん、本日はよくお集まりくださいました」


 それほど大きくない公園にひしめき合う仮面の集団。

 通行人はその異様な光景に引きつつ、彼らが反異世界を標榜する者たちだと、仮面を見てから悟る。そして足早に、見て見ぬ振りをして去っていく。


「十王寺町はいつから異世界の東の玄関口……などと呼ばれるようになったのでしょうか。それは交流大使なる悪しきものが出来た二年半ほど前からです」


 ギリ、っと純礼は我知らず、奥歯を噛みしめる。

 初めてテレビで彼女たちを見たとき、虫唾が走った。

 綺麗で可愛くて、あからさまに男に好かれそうな容姿。


 見目だけに特化した異世界人が、それだけを武器に、地球人の男をたぶらかそうとしている、とわかり、腸が煮えくり返ったのを覚えている。


「十王寺町は我々日本人のものです。ここに集まってくれた同志の皆さんは、一際愛国心の強い方たちです。私はそのことを誇りに思います。異世界人たちに好き勝手させないためにも、地域による監視の目を厳しくしていきましょう」


 ――はいッ!


 男たちが一斉に返事をする。

 迷惑きわまりないが、彼らを注意できる一般人など皆無だった。


「最近では鳴りを潜めていますが、異世界人と思われる者が、挑発的にも魔法を使用し、一般人を傷つける事態も発生しています。そのような者を発見しても、一人でなんとかしようとはせずに、まずは連絡を。全員で即座に対応します。私たちの手で一般人を守りましょう」


 ――はいッ!


「では、予め通達しておいたヒト達でグループを組んでください。十王寺町は高低差がありますので、北側の海抜の低いところへ行く際には車を使用して――」


 純礼はなかなかの演説力とカリスマ性を持って、同志たちを次々に送り出していく。再び公園には純礼と幹部である兄たちだけが残された。


「お疲れ様、純礼――あ、いや、盟主」


「俺はお前が誇らしいよ、純礼――盟主」


「ええ、ありがとう」


 何度言っても直らない。

 純礼ではなく盟主。


 もう自分は同盟の最高責任者であって、もうこの男たちの妹でもなんでも無い。

 純礼は立場が上がるに連れて、自分をいつまでも妹扱いする兄たちが(いと)わしくなっていた。


「それで、あの方から連絡はあった?」


「ああ、(ホワン)さんも、我々の活動に満足しているみたいだ。なんでも、あとで俺たちに贈り物をくれるらしいけど……」


「そう」


 二週間前、園町お茶店の演説、及び暴行未遂事件は、動画にアップされ、世間では賛否両論を呼んでいた。


 これはやりすぎだ、異世界人を不当に敵視している、とする意見と――異世界人にデカイ顔をさせるな、日本人の街を守れ、とする意見。だいたいその割合は7対3と言った感じだった。


 これは大躍進だ。

 交流大使現役のときは9対1――もちろん『1』の方が反対意見だった。


 やはり交流大使がいなくなったことは大きい。

 世相が確実に変わりつつある。


 そして、その動画を見て感銘を受けたという支援者まで現れた。

 横浜に住む華僑の人間で、自分が住む日本が変わってしまうことに危機感を抱いているため、純礼たちの意見に賛同する、とのことだった。


 実際、そのものの支援により、純礼たちの手弁当だった活動は劇的に改善した。型落ちとはいえ、巡回用の車も複数台用意してもらっている。


 すべてが順調だった。

 このまま行けば、純礼たちは日陰者ではなくなる。

 世論も異世界反対派が逆転すれば、もっと大きな力になる。


(こんなところでは終わらない。私はもっともっと上に行く――)


 そうすれば、悲しかった過去を忘れることができるだろう。

 この世界から異世界人を排斥した暁には、きっと純礼は前に進むことが――自分を捨てたあの男を忘れることができる。そんな気がするのだった。

 

「さて、私たちも動きましょうか」


 同志たちを見送ってから30分あまりが経過した。

 純礼は兄たち幹部と共に、十王寺商店街近辺の警邏を開始する。

 と、その時事件を告げるスマホの着信音が鳴り響く。


「はい、もしもし――なんだって!?」


「どうしたの?」


 スマホを耳に当て、声を上げる三男のコウジ。

 チラリと仮面の奥の目が純礼を捉え、そしてコクリとうなずく。

 それだけで純礼は何が起こったのかを察した。


「また魔法少女が出たらしい。東十条の方だ」


 ――来たか。

 飛んで火にいるなんとやらだ。

 今度こそ捕まえて、引導を渡してくれる。


「わかりました、では私たちもそちらに――」


「待て。――なんだって!?」


 次男のレンタが血相を変えながら電話を受けている。

 通話を終えた彼は驚愕の事実を告げた。


「陸自の十王寺駐屯地付近で魔法少女が出たらしい」


「どういうこと――!?」


 まさか、魔法少女が二人!?

 一体どうなっているのか――


「はい、もしもし!」


 今度は長男のタカシだった。

 彼の太い首――その喉仏がゴクリと動く。


「三人目だ。環七通りに面したスポーツ広場で目撃したと」


「やってくれるじゃない……!」


 ギリギリ、っと奥歯が折れそうなくらい顔を歪め、純礼はそう吐き出すのだった。

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