第73話 交流大使ってなんですか篇2⑰ アマァーカス家の兄妹たちと
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「おかえりー、アリスさん!」
「スノウもおかえりー!」
玄関を開けた途端、同じ顔の子供が二人、出迎えてくれて、私はそれだけで面食らってしまった。
「あれー?」
「お客さん?」
私が固まっていると、双子の男の子と女の子が不思議そうな顔をする。アリスさんは私の背中を肩で押しながら「どうぞ、上がってください」と言う。アリスさんはスノウちゃんを抱っこしているため、私が鍵を預かって玄関を開けたのだった。
「はい、スノウちゃん、お家につきましたよ」
「……ぐすッ」
可哀想に。
小さなスノウちゃんにあの光景はトラウマものだろう。
例え言葉の意味はわからなくても、ヒトの悪意は幼子にも伝わるものだ。
だというのに――
「あーあ、またスノウがベソかいてる」
「まさかずっとアリスさんに抱っこされながら帰ってきたのか?」
この子たちがスノウちゃんの兄姉だということはわかる。
何故ならこの子たちの頭の両サイドにも、羊角が生えているからだ。
え、それなのにこの子たち、小さな妹のスノウちゃんに何を言ってるの。
スノウちゃんが泣き出した理由を考えれば気遣うのが普通なのに。
それなのにこんな――
「むう……スノウ泣いてないもん!」
「ホントかあ?」
「ホントかなあ?」
双子のお兄さんとお姉さんがしゃがみ込み、スノウちゃんに目線を合わせながらニヤニヤと挑発する。床に降り立ったスノウちゃんは、ダンダンっとヒステリックに足踏みした。
「ホントだもん! 泣いてないもん!」
「あはは、スノウ怒った!」
「スノウ、ほら鼻が出てるからチーンしよ」
「チーンするもん!」
「鼻をかむのになんで怒るんだよ」
「むーッ!」
「いたッ、叩くなよ、悪かったって」
双子のお姉ちゃんに手を引かれ、双子のお兄ちゃんを叩きながら、スノウちゃんは家の奥に行ってしまった。
私はポカーンとしていた。
スノウちゃん、絶対トラウマになってると思ったのに、意外と平気そう……いや、平気になったのか。お兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげで。
「さすがですね」
「え、あ、はい……」
アリスさんは脱いだ靴を揃えると、玄関の端っこに並べる。
そのまましゃがみ込んだまま「ん?」みたいな顔でこちらを見上げてくる。
あ、私も靴を脱いで上がれってことね。
「あ、ありがとうございます……」
「……いえ。他人の家の兄妹を見るのは初めてですか?」
「え、ええ……そう、ですね」
言うのも自慢みたいで嫌だが、我がエンペドクレス家は王族だ。
かしずかれることばかりで、同年代の友人なんて出来たことがない。
私の遊び相手といえば、もっぱらアレスちゃん……あるいはアウラ姉さん、アレスティア姉さんで、あとはピピやルル、ペットの飛竜やメイドたちくらいだった。
「私もです。こちらのアマァーカスさんの家にいると、普通の家族や兄妹はこんな感じなのかと驚きばかりです」
そうだ。アリスさんも元は貴族のお姫様。
私ととてもよく似た境遇にあるはずだった。
「さ、リビングに行きましょう」
アリスさんは私の手を引いて、廊下の奥。
一際大きな声がするリビングへと導いた。
ドアを開けると――
「ちょっとー、宿題でタブレット使うんだから早く返しなさいよー!」
「待って、あと少しだけ! このステージクリアしたら終わりにするから!」
「あ、お尻拭きがもうない!」
「予備が戸棚にあるでしょ! 私手が離せないから。ねー、織人くん」
「ぎゃーッ!」
一番身体の大きい女の子が、タブレットでゲームをする同い年くらいの男の子の視界を手で塞いで邪魔をし、私と同い年くらいの男の子が、乳幼児のおしめを替えている。それをこれまた同い年くらいの女の子――アリスさんの息子である織人くんを抱いた――が、細々と指示をしながらこき使っている。そしておしめを替えられている赤ちゃんはギャン泣きをして……もうカオスな状態だった。
「あ、アリスさん、おかえり――えッ!?」
タブレットゲームをしていた男の子が、私を見た瞬間固まった。彼を邪魔していた女の子が「何だこいつ?」と、彼の眼前で手をひらひらさせる。それでも彼は私を見つめたまま無反応だった。
「皆さんに紹介しますね、こちらはエウローラ・エンペドクレス様です。私が今お使えしてる主人の妹さんになります」
「あ、あの、初めまして――」
「エンペドクレスッ!?」
一番年長と思わしき女の子が真っ先に反応する。
固まっていた男の子も驚愕の表情で私を見ている。
おしめを替えていた子も、織人くんを抱いていた子も、双子の二人も同様である。
ポカンとしているのはスノウちゃんくらいで、あとは相変わらず赤ちゃんが泣いていた。
「今日から暫くの間、エウローラ様はこちらでお世話になりますので、皆さんよろしくお願いしますね」
「えッ!?」
驚きの声を発したのは私だ。
ここでお世話になる?
そんなの聞いてないんですけど……。




