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第68話 交流大使ってなんですか篇2⑫ 夜の逃走劇・自衛措置

 *



「おいお前――魔法世界(マクマティカ)人だろ!」


 突然の怒声が真っ暗な路地に響き渡る。

 私はあまりの大声に驚き、その場に固まってしまった。

 次の瞬間――


「ピピーッ!」


 強烈な閃光が私の目を焼く直前、翼を広げたピピが私を覆い隠してくれる。

 こ、これはスマホのフラッシュ!?


「な、なんだ突然……マントでも羽織っているのか!?」


 翼の隙間から目を凝らせば、仮面の男の一人がスマホのカメラをこちらに向けているのが見えた。不味い。顔を見られちゃう――


「ピピピッ!」


 ぶわわっと、ピピが叫んだ瞬間、私の周りを気流が覆う。

 激しく渦を巻く風が、ベールとなって私の姿を包み隠した。

 だがそれはよろしくない一手だった。


「魔法よ! 間違いなく魔法を使っているわ! 動画を、早く撮影なさい!」


 しまった。私が魔法を使用したらそれこそ相手の思うつぼ。

 私のことを異世界人と決め打ちしている連中だ。

 最初から魔法を使っているところを撮影するのが目的だったんだ。


「くッ――」


 私は走って逃げるしかなかった。

 飛んで逃げることなど出来はしない。

 そんなところ撮影されたら一巻の終わりだ。


「逃げたぞ、追え! 追えー!」


 追えって、どうしてそんな――まるで私が悪いことをしたみたいな……。

 いや、悪いことをしているの……?


 地球での魔法の使用には制限がつく。

 みだりに人前で使用してはならない。


 でも自分や他人を守るために使うことは認められているはず。

 そもそもここは十王寺町。異世界の法律が適用される街。

 異世界の法では、魔法を使ってはならない、なんてことは決してない。


「やめてください、私は――」


 足を止め、振り返った瞬間、私の心は恐怖でいっぱいになった。

 何故なら――


「うおおッ!」


「キャーッ!?」


 とても正気とは思えない男のヒト三人が、私に一斉に飛びかかってくるところだったから。


 私は恐怖のあまり、とっさに空気の壁を作り出し、三人の男性を遮断する。

 男たちは風の壁、ウィンドウォールを突破できず、地面に重なるように倒れ込んだ。


「あ、あの、大丈夫――」


「やった、決定的瞬間だ、魔法で攻撃された! バッチリ撮ったよッ!」


 女の金切り声がした。

 少し離れたところで、スマホを構えている先程の女性。

 その表情は恍惚としており、まるで子供のように嬉々としていた。


 ゾクリと、私の背中に悪寒が走る。

 私を追い詰めることに快感を得ているかのようなその顔に、薄ら寒いものが止まらなかった。


 ダメだ、このヒト達に話し合いは通じない。

 今は逃げるしか無い。

 でもどこに――


 のっそりと、仮面の男たちが起き上がっていた。

 私など、捕まれば簡単に拘束されてしまいそうなほど、男たちは筋骨隆々だった。


「――ッ!」


 私は逃げた。

 ただひたすら男たちと女から距離を取ることを選択した。


 薄暗い路地をひた走り、右に左に何度も道を折れる。

 それでも――


「まだ追ってきてる!?」


 風の魔素が男たちと女の追いかけてくる足音を私の耳元へと届ける。

 それはパッシブな魔法の力で、風の魔素が私を手助けするためにしてくれていること。


 でも今ほどそれを恨んだことはない。

 逃げても逃げても、どこまで行っても足音が消えない。


 それは私の中の恐怖をさらに加速させる。

 足が竦む。私の走るスピードが目に見えて落ち始める。


「ピッ!」


「え、ピピ?」


 翼として、マントのように私の背中に張り付いていたピピが、通常モード――手のひらサイズの小鳥に変身する。


 そして短く鳴いたあと、クルリとその場で一回転。

 滞空して私をジっと見つめてきた。


「ついてこい、ってこと……?」


 答えはなく、ピピは背を向けてスイーっと泳ぐように宙を飛んだ。

 間違いない。私が走ってついていけるスピードで飛んでいる。

 ありがとうピピ。


 再び暗い路地での逃走が始まる。

 ピピのナビゲートに従い、私は足を動かした。

 そして少しずつだが、確実に男たちと女を引き離しつつあった。

 そして――


「え、ここは」


 暗い路地を抜けた向こうには広々としたアーケードがあった。

 時間的に人通りが失せた商店街の舗装路。


 昼間は様々なお店が軒を連ねるそこも、今はすべてシャッターが降りている。いや、一軒だけ、シャッターが開いていて、灯りが煌々とついているお店が――


「ピピッ!」


 一声鳴くと、ピピは迷うこと無くそのお店に飛び込んだ。


「ダメッ、ピピ!」


 私は慌ててピピを追いかけ――一緒にお店の中に足を踏み入れてしまっていた。


「な、なんだいこのやかましい鳥は! どっから入ってきたんだい!?」


 店内には一人の老婆がいた。

 割烹着、というのだったか。


 日本の古いエプロン姿で、天井付近を旋回するピピに向け、手を振って追い払おうとしていた。

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