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第67話 交流大使ってなんですか篇2⑪ ちわー、トラブルのお届けです

 *



「じゃあ今日はこれで終わりでいいのねタ――カーミラ」


「え、ええ、お疲れさまでした。帰りの車を手配するわね」


 アレスティアは俺の無言の抗議もなんのその。「うーん」と伸びをしながら終了を宣言する。


 本日は学校帰りに車で迎えに行き、カーネーション本社の会長室にてレッスンを行った。なんのレッスンかと言うと、もちろん交流大使になるための準備である。


 俺の考える交流大使は、最初の交流大使たちとは少し違い、もっとパフォーマンス力に優れた、アイドルに近い存在だ。


 そのため、基本の基本である身体の動かし方を、トレーニングのプロである麗子さんの指導の元に行っている。やがてはプロの振付師や演出家、作詞作曲家に楽曲の依頼をすることも考えている。


 全ては順調……とは言いづらいものになっている。

 それもそのはず。本来はトリオでデビューを考えていたのだが、現在はデュオ、二人だけしかレッスンには参加していない。


 アレスティアも瑠依も、非常に稀有な美少女であることは間違いないが、やはり俺の理想としては二人の間にもうひとり――エウローラの存在がないと締まらない気がしていた。


 いや、彼女は自らの意思で交流大使を断ったのだ。

 タケオのときとカーミラのときと、二度もである。


 これ以上しつこく食い下がれば、彼女の心に大きなシコリを遺してしまいかねない。引き際は大事なのだ。もうアレスティアと瑠依の二人に頑張ってもらうしかない。


 だが、俺から見ていても、アレスティアも瑠依も、いささか集中力を欠いているように見えた。


 アレスティアは最も親しい自らの半身たる妹が不在であるため。そして瑠依は出会ってまだ二ヶ月にも満たないアレスティアとのコミュニケーションを計りかねているためだった。


 もちろん瑠依は荘厳荘での共同生活を通じて、アレスティアとも実に順調な関係を築いている。ただしそのときは常に、間にエウローラの存在があった。


 会話の切っ掛けもエウローラが作っていたし、エウローラは積極的に二人の間を取り持とうともしていた。


 その補助輪役がいなくなって、アレスティアと瑠依の関係は少々ギクシャクしているように見える。まあ、今の所大きな問題にはなっていないし、時間が解決してくれるとも思ってはいるのだが……。


「ちょちょ、アレスちゃん!」


 瑠依が突然叫んだ。

 なんだろう……そう思って視線をやると――


「なによ」


 ジロっとアレスティアが俺を睨んだ。

 危ない。危うく吹き出すところだった。

 俺は今カーミラ。あくまで上品に。淑女らしく。


「アレスティアちゃん、何をしているのかしら?」


「奥の部屋でシャワー浴びようと思って。結構汗かいたし」


 そう、アレスティアは俺の目の前で脱ぎ始めていた。

 体操服の上を脱ぎ去ると、淡い緑色のスポーツブラが顕になる。


 アレスティアのバストは……同年代に比べても大きいと思う。

 誤解しないで欲しいのは、俺はあくまでカーネーションの会長として、女性の年代別、身体のスリーサイズの平均を知識として覚えているだけだ。


 その見地から言えば、アレスティアは明らかに平均以上。

 このまま成長していけば、間違いなく将来は巨乳の部類に入るだろう。


「シャワーを使うのは構わないけど、ここは脱衣所ではないわ。服を脱ぐのはおやめなさい」


「ふん、本当は見たいくせに」


「あなたね……」


 アレスティアは挑発的だった。

 まさか先程の瑠依のことを引きずってるのか。

 あれは彼女の怪我を心配しただけなのに。


 はッ――視線をやれば、またしても瑠依が「え、まさかこの二人って……!?」などと呟きながら顔を赤くしている。


 違う、全然違うからな瑠依。

 アレスティアはあくまで兄貴としてのタケオ()をからかっているだけであって、カーミラとアレスティアがただならぬ関係、というわけでは断じてないからな。


「瑠依、行こう。流しっこしましょ」


「う、うん……って、ええええ!?」


「なによ、別に女同士なんだからいいでしょ?」


「そ、それはそうだけど……ううう」


 うーん……瑠依が嫌がる気持ちもわかるなあ。

 アレスティアは並大抵の美少女ではないのだ。

 その裸なんか見た日には女としての自信を失うとでも思っているのだろう。


 だが安心しろ瑠依。

 お前も十分成長した。


 胸の大きさだけで言えば、アレスティアを越えている。

 きっとお前の方がシャワー室では優位に立てるはずだ。


 隣室へと消えていく二人を見送りながら、俺は「ふう」とため息。そのまま頭を抱えた。


 アレスティアも瑠依と仲良くしようと努めているきらいがあるものの、別の見方をすれば、エウローラの代わりを瑠依にさせようとしているようにも見える。


 流しっこしよう、などと今初めて瑠依に言ったのがその良い証拠だ。

 やっぱりエウローラがいない穴は大きいと言わざるを得ない。


「失礼します――あら会長、二人は?」


「シャワーを浴びに行きました。飲み物はテーブルの上に置いておいてください」


「かしこまりました」


 さて、あとはまた麗子さんの運転で彼女たちを荘厳荘まで送らないと。

 俺が帰るのは、麗子さんが帰るのを確認してから、そこから着替えて電車か。

 面倒だなあ……。


「会長」


「はい?」


 麗子さんが俺を呼ぶ。

 彼女の手には、執務机の上に置きっぱなしにしていた俺のスマホが。


「着信が入っているようなのですが……」


 麗子さんの顔が怖い。

 どうしたんだろう。

 俺、睨まれるようなことしたかな。

 とりあえず急ぎ電話に出ると――


「はい、もしもし――」


『え!? あれ、あの、タケオ・フォマルハウトさんのお電話、ですよね!?』


 俺はギョっとした。

 通話向こうから男性の声がしたからだ。

 しかもこの声は――


「小山田さん……!?」


 画面を確認すれば、そこには小山田勇三(おやまだいさみ)の文字が。

 十王寺商店会会長である小山田電気店の店主さんである。


 チラっと見れば、麗子さんがジーっと俺を見つめている。

 その顔は「男からの着信ですよね、どなたですか?」と言っているようだった。


「えーっと、少々お待ちいただけますでしょうか――」


 俺は麗子さんの視線を躱しながら、一人になれる場所、隣室であるプライベートルームのドアを開けた。


「カーミラさん?」


「キャッ!?」


 俺は悲鳴を上げていた。

 プライベートルームでは、瑠依とアレスティアが下着姿になっていたからだ。


 アレスティアは淡い緑色のブラの上下。

 瑠依はピンク色のブラの上下姿だ。


 いや本当に瑠依は健康的になった。

 肋が浮いて、脚も細くてガリガリだった身体が、ふっくらと女性らしく、実に色気あふれる感じになっている。


 って、そうじゃない!

 俺はついに、の、覗きなんてしてしまったー!


「あんたねえ……!」


 カーミラの正体を知っているアレスティアは額に青筋を浮かべていた。

 だが俺は必死に身振り手振りで、耳元のスマホを指差す。


 するとアレスティアは「はあ」とため息を一つ、瑠依の手を引っ張って、奥のシャワールームへと去っていった。助かった。


「――もしもし、お電話代わりました、タケオ・フォマルハウトです!」


 ことさら野太い男の声に戻って、俺は元気よく返事をした。


『タ、タケオくんかい!? 先週はどうも、小山田電気の小山田勇三です』


「ああ、どうもお世話になってます、それで今日は何か……?」


『いや、ちょっと気になることが――って、さっき出た女性は誰なの!? メ、メチャクチャ綺麗な声で、俺ずっとドキドキしてるんだけど、なんか『キャッ』って悲鳴あげて、何かあったの!? 大丈夫!?』


 褒めてほしいね。

 女の子の下着姿を見ても、とっさに出てくる悲鳴が女のものなんだぜ。

 俺のカーミラへの擬態は完璧と言っていいんじゃないだろうか。


「あれは、えーっと、姉です姉。ちょっとドジなところがありまして、俺に電話を渡そうと走ってきて転んじゃったんです」


『そ、そっかー、お姉さんかー、怪我とか平気?』


 ほッ、なんとか誤魔化せた。

 と思って安心してたら小山田さんがとんでもないことを言い出した。


『あ、あのさ、こんなこと言うのは失礼かもしれないけど、お姉さんっておいくつの方なのかな。こ、恋人はいるのかな――』


「そ――れよりもッ、何かご用があったんじゃないんですかーッ!?」


 俺は声を裏返しながら小山田さん(多分独身)の恋を終わらせた。

 申し訳ないが、あなたの想いは絶対に成就させるわけにはいきませんので。


『そ、そうだね、ごめんごめん……あのさ、今十王寺町で噂になってるんだけど、魔法少女って知ってるかい?』


「はい?」


 寝耳に水なお話に、俺は再び声を裏返しながら詳しい話を聞くのだった。

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