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第64話 交流大使ってなんですか篇2⑧ 魔法少女とはしのぶものと見つけたり

 *



 その日はもう何度目かの地球旅行だった。

 お父さんは例によって地球の奥さんに会いに行くようだ。

 残された私たちは、全員でディズニーランドに行くことになった。


 朝、私はこっそりと地球での滞在先――白亜のお屋敷を抜け出し、とある目的地に向かった。


 東京ドームシティ・プリズムホール。

 そこでは『ふたりはピュアツインズ』のイベントが行われていた。


 西映動画主催の大規模なイベントで、ピュアツインズの声優によるトークショーや、生アテレコによるヒーローショーも行われ、さらにはピュアツインズのコンセプト喫茶も併設されるという。


 昨夜ここママのスマホで調べ、イベントが行われていることを知った。

 しかも今日が最終日。絶対行きたい。何がなんでも行きたい。


 でももうディズニーランドに行くことは決まっているし……そうだ、私とアレスちゃんだけ抜け出せばいいんだ。お母さんたちとタケトだけで楽しんできたらいい。


「ねえねえアレスちゃん、今日これから二人だけで別のところに行かない?」


「…………行かない」


 え。一体どうしたのだろうか。アレスちゃんは思いつめた顔をしていた。


「何かあったの……?」


「ごめん、私他に行く場所があるから。ごめん……」


「う、うん……」


 珍しい。アレスちゃんがこんなに真剣な表情をするなんて。

 私はそれ以上追求できず、仕方なく単独行動をすることにした。


「なんてそんな、子供だけ行かせるわけないじゃないですかー」


 だよねー、私も正直逃げ切れるとは思わなかった。

 こっそり家を抜け出したはずが、メイドのソーラスにはしっかり尾行されていた。


 私が切符の買い方にまごついていると、「どうぞエウローラ様、こちらをお使いください」とパスカードを差し出してくれたのだ。


「うん、ありがとうソーラス」


「あれ? 私が尾行してたこと、気付いてました?」


「ううん、全然。でもソーラスならきっと私のこと守ってくれるだろうなあって期待してた。おまわりさんに声をかけられるのも困るから、ソーラスがいてくれたら助かるなって思ってたの」


「ありゃ……末恐ろしいですねえ」


 たはは、とソーラスは苦笑した。


「ちなみになんですけど、今から皆さんのところに戻りませんか? せっかくご家族揃ってのディズニーランドなんですから――」


「お父さんがいない時点で家族揃ってって違うよね。それにイベントは今日までなの。ランドは逃げないけど、イベントはもう二度と開催されないかもしれないのよ」


 あー……、とソーラスは目を泳がせた。

 もうあとひと押し必要かな……?


「もしもね、ソーラスがお父さんの赤ちゃんを妊娠したら、私が味方になってあげる。ソーラスのことお母さんって呼ぶよ」


「さあ行きましょう、すぐ行きましょう! セーレス様たちには私がついてるのでエウローラ様は心配無用とメールしておきます! まずは池袋で丸の内線に乗り換えて東京ドームまで行きますですよ!」


 現金だなあ。私もヒトのことは言えないけど。

 でも妊娠の件は本当。なんならアイティアやパルメニもお父さんの赤ちゃん産めばいいのに。レイリィおばさまは、無理かなあ。立場的に。でもこっそり産んで、うちに子育てを丸投げすればいい。それでたまに会いにくればいいのだ。


 こうして私は『ふたりはピュアツインズ』のイベントを丸一日かけて堪能した。

 これほど楽しかったことは今までの人生でなかったほどだ。といってもまだ4年しか生きてないけど。


 でも残念。アレスちゃんも一緒だったらもっと楽しかっただろうなあ。

 本当にそれだけが残念だった……。


「こ、子供の体力半端ねえ……!」


 ソーラスはヘトヘトになっていた。

 情けないなあ。昔は隠密諜報メイドだったらしいけど、お父さんのメイドになってから戦闘とは無縁だったから身体が鈍ってるみたい。


「アレスちゃんへのお土産も買ったし最高の一日だったな」


 こうして私は大満足のうちに帰途についた。

 その数日後、私とアレスちゃんのピュアツインズは終わりを迎えた。



 *



「ねえねえアレスちゃん、一緒にピュアツインズの最新話見よう!」


 地球にいるお祖父ちゃんに頼んで、毎週ピュアツインズを録画してもらっているのだ。地球に来るたびに溜まった数話分を一気観する。これほど幸せなことはなかった。


「私……いい」


「アレスちゃん?」


 やっぱりこの間からおかしい。

 この間というのは私が東京ドームのイベントに行った日。


 実はその時、アレスちゃんもみんなとは別行動していたらしい。

 どうやらお父さんと一緒にいたらしいのだが、なにかあったのだろうか。


「どうしてそんなこと言うの? あのね、敵のバッドラックの女幹部が味方に裏切られてピュアツインズの仲間になってからピュアラックに変身する胸アツ展開が――」


「うるさい、見ないって言ってるでしょ!」


「――ッ!?」


 アレスちゃんが怒鳴るなんて。

 というかアレスちゃんが怒った……?


「もう魔法少女なんて子供っぽいもの見ない! 私は早く大人になりたいの……!」


「ッ、……じゃあ勝手にすれば」


 子供っぽいもの、と言われて私もカチンと来てしまった。

 アニメに大人とか子供とか関係ない。

 アニメを見ないから大人になれるとも限らない。


 そんな風に他人に当たり散らしているようではいつまで経っても大人にはなれないよと、そんなことを思いながら、私はアレスちゃんに背を向けた。


 喧嘩する私たちを見て、タケトが泣き始めたが、私もアレスちゃんもかまっている余裕などなかった。


 その後、私はソーラスからアレスちゃんが怒ったことの真相を聞いた。

 私がイベントに行っていた日、アレスちゃんはやっぱりお父さんを追いかけて行ったそうだ。


 そこでお父さんの地球での奥さん、カーミラさんというヒトと出会い、さらに息子さん――つまり私たちのお兄ちゃんと出会ったらしい。


「ですが、その……大変申し上げにくいのですが、カーミラ様はお亡くなりになりました」


「えッ!?」


 ソーラスが悼ましげに目を伏せながら、絞り出すようにそう言った。


「大きな事故に巻き込まれたそうです。そこでタケオ様……アレスティア様とエウローラ様のお兄様も大怪我を負われてしまったとか」


「そっか……それでアレスちゃんはあんな風に……」


 当日、アレスちゃんがカーミラさんやお兄ちゃんとどのような時間を過ごしたのかはわからない。でも、私がその日話しかけると、アレスちゃんは見たこともないくらい上機嫌だった。きっと私と同じように、とても幸せな時間を過ごしたのだ。


 そんな幸せな時間を共有したヒト達はもういない。

 お兄ちゃんも一命は取り留めたものの、今後どんな障害が残るかわからない状態だという。


 私は、どうしたらいいのかわからなかった。

 不老で長寿な者が多い私たち家族の中で、死を体験することは難しい。

 アレスちゃんは親しくなったヒトの死を体験したのだ。


 それに対して同情するべきなのか、共感するべきなのか。

 どんな言葉をかけてあげればいいのか。

 4歳の私にはわからなかった。


「ねえ、ソーラス、私どうしたらいい? アレスちゃんに私は――」


「何も……。エウローラ様は極力いつもどおりにお願いします。きっとそれが傷ついたアレスティア様の心には一番やさしいと思います」


「うん、そっか……そうだよね」


 私はアレスちゃんの心の傷に極力触れないように気を使った。

 それと同時に大人たちの前で魔法少女のことは言わなくなった。


「魔法少女は世をしのぶものなんだよ!」というアレスちゃんの言葉が実感として理解できたのだった。


 そして、時間が経つに連れて、私とアレスちゃんはいつもどおりになった。

 普通の姉と妹の関係に。でもアニメのお話は、もう二度とすることはなかった。


 お兄ちゃん――タケオお兄ちゃんは5歳より以前の記憶を全て失ってしまったそうだ。そんなお兄ちゃんの元で――地球で暮らしてみないかと、そうお父さんに言われたときはビックリした。


 私はこっそりアレスちゃんの表情を伺った。

 首元やエルフ耳が真っ赤になって、目がキラキラと宝石のように輝いていた。


「ええ、行くわ」


 アレスちゃんは二つ返事だった。

 私もお兄ちゃんがどんなヒトか気になったし、それにあの日から色々思うところがあったので地球行きを決心した。


「ダメだダメだ! アレス姉とローラ姉は俺のお嫁さんだろ! 小さいときに約束したじゃないか!」


「してない。絶対そんな約束してない」


「妄想も大概にしないとねタケト」


 最後まで私たちの地球行きに反対していた弟のことは放っておいて、私とアレスちゃんは日本の――異世界の玄関口である十王寺町へと旅立ったのだった。


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