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第60話 交流大使ってなんですか篇2④ 異世界妹スカウトキャラバン

 *



「しつれいしまーす」


 まさかこの短期間に再び来ることになろうとは思わなかった。

 瑠依は学院長室の重々しい扉を開けながら、室内を見渡す。


 いた。ステージ上でスポットライト浴びていた人物と同じヒト。

 ゴールドブロンドに白い肌。背も高くて腰もくびれていて、とにかくもう自分と同じ生き物とはとても思えない女性……。


「いらっしゃい。授業中なのにごめんなさいね。よく来てくれたわ」


 ニコっと、屈託のない笑顔。

 うわあ、なんてチャーミングな笑顔なんだろう。


 もしも瑠依にこのヒトと同じ顔がついていたら、一生懸命すまし顔で、こんな笑顔なんて見せられないと思う。何故なら怖いから。相手には自分の一番自信のある表情しか見せたくなくて、笑ったりすることなんて絶対できなくなってしまうだろう。


 でもこのヒトは違う。

 借り物なんかじゃない、本物の自信があるから、誰を前にしても自分のままでいられる。相手に自分を見せることに臆病になんてならない。


 なんてすごいヒト……と、瑠依は心の中で感動していた。


「申し訳ありません学院長、そういうわけですので――」


「いいよいいよ、なんかうちの女性教員たちがいろいろもらっちゃったみたいだし、ワシもサインもらちゃったからね。終わったら呼んでね〜」


 和装の激渋学院長は、サイン色紙をひらひらとさせながら、軽い足取りで部屋を出ていく。見た目はあんなに威厳に満ちていて、生徒から恐れられる存在なのに。学院長も素の自分を出したら、きっと生徒からの人気が爆発するだろうに。


「学院長にはお部屋を貸してくださるようにお願いしたんです。ささ、どうぞ座って。麗子さん?」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 全く気づかなかったが、麗子さんと呼ばれた女性――多分秘書さん――も相当な美人だ。だが太陽の光に月が隠れてしまうように、並んで立つとあまりも目立たない。


「ささ、座ってちょうだい。今ね、麗子さんがお茶を持ってきてくれるから――あらやだ、私ったらついうっかり。あなたたちにコーヒーか緑茶か、好みを聞いておけばよかったわね」


「お、おおお、おかまいなく……!」


 瑠依は上ずった声でそう言った。


「そう? じゃあ、改めて自己紹介をしましょう。私の名前はカーミラ・カーネーション。とある会社を経営しているの」


 知っている。いや、タケオが教えてくれたのだ。

 日本の戦後復興を支え、高度経済成長期に爆発的に業績を伸ばし、以降も革新的な商品開発で世の女性たちを魅了し続ける世界屈指のビューティーカンパニー。


 それがカーネーション。

 タケオくんの実家。

 亡くなられたお母様の会社だ。


(あれ……でも、じゃあこのヒトとタケオくんは……?)


 ついこの間も座ったばかりのソファに腰を下ろしながら、瑠依は改めてカーミラを見つめる。う、美しい……ではなく。もしかしてこのヒトは、タケオくんの身内の方……なんだろうか、と。


「私はエウローラ・エンペドクレスといいます。つい最近地球に来て……いえ、以前から地球には来ていたんですけど、地球で暮らすようになったのは最近、という意味です」


 さすが、エウローラはしっかりしている。

 こんな美人を前に全然物怖じしていない。


 上がりっぱなしの瑠依とはえらい違いだ。

 自分の方が歳上なのに情けない……と瑠依は思った。


「あの……」


「はッ――す、すみません!」


 自分の番だったことに瑠依はようやく気付いた。

 カーミラさんが呼んでくれていたのに気づかないなんて……!


「く、くくく、黒森瑠依です!」


「ふふ、元気ね」


 カーミラさんが口元を押さえながらクスクスと笑う。

 うわ、うわわ、やめて、それ以上魅力的な顔を見せないで。

 私、変な気持ちになっちゃうから――


「ぷ」


 思考が中断される。


「アレスちゃん?」


 エウローラの声に隣を見やれば、アレスティアが俯いていた。


「ごめんなさい。なんでもないの。続けて」


 うんッ、ううんッ、と咳払いをしながら、アレスティアが言う。

 下を向いていて表情は見えない。どうしたんだろう、大丈夫かな……?


「えーっと、黒森さん。あなたは異世界のヒトよね。日本名以外にもお名前があるのかしら?」


「は、はい、その、完全に名前負けしていて恥ずかしいのですが、一応ルイス・ヴァレリアっていいます」


「そんなことないわ。素敵ね」


 未だ実感のない自分の本名だが、カーミラにそう言ってもらえるのなら好きになれるかもしれない。瑠依は初めてそう思った。


「アレスティア・エンペドクレスよ」


 どうしたんだろうアレスティアちゃんの様子がおかしい。

 いつもなら誰よりも率先して発言する彼女が今日は静かだ。

 それどころか気分でも悪いのだろうか、終始カーミラさんから顔を逸している。


 エウローラちゃんも心配そうだ。

 と、そこで瑠依は気づく。


(あれ、そういえば――)


 約二週間前、ここで給食を食べたとき、アレスティアちゃんはエウローラちゃんの隣にべったりだった。


 それなのに今は瑠依を挟んで両隣に二人は座っている。

 一体どうして……。何か心境の変化でもあったのだろうか――


「実は私ね、今日はあなた達に会いに来たの」


「え!?」


 突然切り出されたカーミラの衝撃発言。

 瑠依も、エウローラも驚きに目を見開く。

 アレスティアだけは「ふー、ふー」と何故か深呼吸していた。


「実は私はあなた達のお兄さんである、タケオの姉……のようなものなの。遠い遠い親戚なのよ」


「や、やっぱり……!」


 瑠依は疑問に思っていた点と点とがつながり、感激に声を上げた。

 やっぱりタケオくんはすごいヒトなんだ。こんな綺麗なヒトが身内にいるなんて。


「あなた達のことはタケオにお願いして色々聞かせてもらったわ。単刀直入に言うわ。あなた達三人をカーネーションの専属ティーンモデルとしてスカウトします」


「ええええッ!?」


 瑠依はあまりのことに飛び上がりながら仰天した。

 立ち上がったはいいものの、仰け反った拍子にソファに躓き、勢いよく沈む。

 ボウン、とアレスティアとエウローラが、座ったままバウンドした。


「異世界人であるあなた達にしかお願いできない仕事があるの。地球と異世界、双方の利益のため、私に力を貸してちょうだい」


 なんかとんでもない話になってきたー、と瑠依は内心で絶叫するのだった。

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