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第58話 交流大使ってなんですか篇2③ 永遠の美少女

 *



『――本日はご清聴、誠にありがとうございました』


 俺が結びの言葉を述べ、優雅に頭を下げる。

 すると、「ドンッッ」と、万雷の拍手が頭頂部に叩きつけられた。


 ゆっくりと顔を上げ、片手で髪のサイドを軽くかきあげながら、ニコっと微笑む。この動作もまた、俺がカーミラになってから日々、女性の所作を研究していくなかで「あれ、これイケてんじゃね?」と気付き、練習を重ねた成果。その名もズバリ「童貞を殺す色っぽい所作」である。


 案の定「おおおっ」と声が漏れる。

 ふっ――男子中学生たちには少々刺激が強かったかな。


 と思っていたら「キャーっ!」と黄色い悲鳴も聞こえてきた。

 しまった、女子中学生のハートも射抜いてしまったか――って俺は何をやってるんだろうね。


『ありがとうございました、カーミラ・カーネーションさんでした。皆さんもう一度大きな拍手を――!』


 わッ、という歓声と共に再び大きな拍手が襲いかかる。

 俺は軽く手を振りつつ舞台袖へと向かう。


 その際、演説の最中に見つけていた三人(群衆の中にいても偉く目立つ)を横目で見やる。


 瑠依――何故か顔を赤らめポーっとしている。

 アレスティア、腹を抑え肩を震わせている。

 エウローラ、渋い顔で首を傾げいてた。


 瑠依とエウローラの反応はいまいちわからないが、アレスティア、お前笑いすぎ。

 まあ俺の正体を知っているのは、この場において彼女だけだ。

 朝から姿が見えなかった兄貴が、突然女装して学校に来たら、俺でも爆笑するだろうな。


「お疲れさまでした会長」


 笑顔の麗子さんがミネラルウォーターを手渡しながら笑顔で迎えてくれる。

 秘書の彼女からしても今の演説は満点だったようだ。

 ふう、上に立つってこういう仕事もあるから大変だよね、って――


「カーミラ会長、すんばらしい演説でした!」


「生徒たちも感動しておりました! 生涯この日を忘れないでしょう!」


「今日という日は豊葦原学院の歴史に名を刻んだ、めでたき日となりました!」


 教頭、学年主任、数学教師。

 三人のお歴々はもうファンクラブ会員みたいな感じになって、一斉に俺を取り囲んだ。


 アロマオイル、コンディショナー、ソープと。

 誰も盗らないからいい加減その箱置いてこいよ。


「とんでもありません。本日は私の方こそ、生徒たちと触れ合える貴重な機会を作っていただき、皆様に深く感謝申し上げます」


 ペコリと頭を下げる。

 目上のものとして敬い、謙虚に礼儀を尽くす。

 例え世界的企業の最高経営責任者だったとしてもそれは変わらない。

 顔を上げると、三人は感動しているのか、目を潤ませ、鼻を啜っていた。


「わ、若い頃からあなたのお祖母様であるカーミラ様は私の憧れでした!」


「私も、あなたのお母様がイメージキャラクターを務めたコスメを、初任給で買いました……!」


「私も母が熱心なカーネーションのファンで、子供の頃からずっと大好きでした……!」


 そんなカーネーションの会長さんから頭を下げられるなんて……と、三人は肩を震わせ、しゃくり上げていた。


 カーネーションの頂点はカーミラ・カーネーション。

 これは決して違えることのできない不文律と言っていい。


 何故カーミラなのか。カーミラでなくてはいけないのか。

 それはカーミラこそがカーネーションの象徴であり、カーネーションそのものだからだ。


 初代カーミラは俺の母親である吸血鬼のカーミラ本人。

 二代目カーミラは――つい最近ベゴニアから聞いたが――母が養子にした、北欧の貧しい農村出身の少女だった。


 本来の名前さえ捨て、顔さえ捨てた少女は、整形を施され、カーミラの娘としてカーネーションに君臨した。


 やがてその娘として三代目に就任したのが初代のカーミラ――俺の前のカーミラだった。


 このように初代、二代目、三代目、そして現在の四代目と、いつの時代にもカーミラはいた。


 もう間もなく六十代になろうかという教頭と、四十代の学年主任。そして三十代の数学教師と。


 彼女たちの一番キレイな思い出の中には、一番綺麗なカーミラが、写真のように焼き付いて離れないでいるのだ。


 決して色褪せることのない、永遠の美少女として、そして女性たちの憧れの象徴として存在(あり)続ける。


 それがカーミラ。俺が引き継いだあまりにも重すぎる宿業の女の名前。


 教頭たちは自分自身の思い出補正も手伝って、感激度合いも三割増しになっていると見て間違いない。しめしめ……。


「まあまあ、涙をお拭きになってください。せっかくのメイクが落ちてしまいますわ」


 俺はハンカチを取り出し、教頭の目元をそっと拭う。

 教頭は「ひぃぃ! せっかくのハンカチが汚れてしまいますぅ!」とますます滂沱の涙を流した。


「ところで教頭先生、少々お願いがありまして、よろしいでしょうか」


「私にできることでしたら何なりとお申し付けください……!」


「わ、私も、微力ながら……!」


「私だって……!」


 学校内で使える手駒ゲット。

 俺にこれだけやらせたんだ。

 元は取らせてもらうぜ先生さんよ。


「実は先程壇上から拝見しまして、実に素晴らしい逸材を見つけましたの。ぜひその子達とお話をさせてくださいな」


 遠回りをしたが、俺はようやく本題を切り出すことができたのだった。

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