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第56話 交流大使ってなんですか篇2① タケオ・フォマルハウト欠席――だがしかし!?

「タケオー、タケオ・フォマルハウトー、いないんかー」


 しーん、とその名を呼ばれても沈黙が返ってくるだけ。

 担任である星崎一平は出席簿から顔を上げ、改めて教室内を見渡した。


「なんやまた遅刻かー? あいつ最近弛んどるなあ」


 本人は至極いつもどおりにしているだろうが、担任視点で見ていれば、色々浮ついているというか落ち着きがないように見える。


 まあ、あんな超絶美少女の妹という隠し玉が転入してくれば勉強どころではないという気持ちはわからないでもないが……。


 星崎は「あとで家に連絡してみるか」と呟き、出欠確認を再開する。


「タケオくん、今日はどうしちゃったんだろうね?」


「俺に聞くなよ、どうせ異世界から来た妹とよろしくやってんだろ」


「いや、妹さんたちは普通に登校してるみたいだぞ」


 梶原桂樹(かじわらけいき)がこっそりとした質問を、塩谷朋哉(しおやともちか)は適当に流し、笠間重国(かさましげくに)が補足する。


「ほれ」と言って笠間が見せたのは校内専用SNS。

 部活動や体育祭、文化祭から修学旅行まで。

 生徒たちの様々な活動を写真付きで誰でも投稿できる専用サイトだ。

 そこには――


『アレスティア様に睨まれた! 今日も生きる活力をいただいた!』


『エウローラ様に微笑みかけられた! もう一生崇拝する!』


『瑠依ちゃんがいちご牛乳買ってた! ダース単位で買い占める!』


 などなど、校内三大異世界美少女と名高い三名の動向が分単位で投稿されていた。


「うわ、相変わらずすごいね……」


「しかしつぶやきだけで、一切写真投稿がないのはどういうことだ?」


「なんでも隠し撮りをしようとすると、必ずスマホが壊れるらしい」


 それは異世界美少女にまつわる最大ミステリー。

 あまりに可愛すぎるが故にトチ狂った愚か者が幾度となく盗撮を試みようとするも、何故かことごとく、スマホの画面が割れたり、突如としてシャットダウンしたり、データが消えたりと。


 同時に生徒たちのマナー向上にも役立っており、下手にスマホが壊れたなどと皆にバレれば「盗撮魔」の烙印を押されてしまうのだった。


「しっかし未だに信じられない。あんな地味で冴えない男に、あんな美少女の妹が三人もいるだなんて……」


 こちらは大河(おおかわ)ねねである。

 彼女の言葉は全校生徒共通の疑問だ。


 転入当初、異世界美少女たちの兄がこの学校にいる!?

 どんな美少年なんだ――と、このクラスに生徒たちが押し寄せたことがあった。

 だが全員、タケオの顔を見た瞬間、クルリと向きを変えて立ち去っていったのは記憶に新しい。


「三人って……。ねねちゃん、瑠依ちゃんはタケオくんの妹さんじゃないよ」


 相馬千代は声を落としながら言った。

 実に的確なツッコミだったが、瑠依も異世界人とあって、何かとタケオたち一緒にいることが多い。


 その時の姿を見る限り、瑠依も妹のようであり、なんなら一番末っ子に見えてしまうこともしばしばだった。


「まあ、それはそうなんだけど、でもまさか、アイツがあの御堂の関係者だったとは……」


 御堂財閥は異世界事業を推進している。

 異世界難民への支援も行っており、どうやらタケオの親がその関係者らしい。

 なのでクラスメイトが知らないだけで、タケオは昔から異世界と深く関わっていたという。


「水臭いよね。同級生にくらい、もっと自分のこと話してくれてもいいのに」


 シュン、と千代は肩を落とした。

 だがねねは「ふん」と鼻を鳴らす。


「あたしゃごめんだな。どうもあいつは信用できない。異世界のことだけじゃなく、もっとデカイ秘密も抱えてそうだ」


「もう、そんな意地悪言って……」


 ねねは前々からタケオが気に入らなかった。

 どこか超然としていて、同年代らしからぬ男子だと思っていた。


 口にする言葉も全てが偽り……のような気がして、本心など一度だって口にしたことがないのではないか、とさえ思ってしまう。


 ただ問題なのは、ねねの場合は「あ、そう」と言ってタケオのことなど気にしないようにできるのに対し、親友である千代はその真逆の態度を取る。


 ねねが「何こいつ暗いやつ」と思うようなやつでも千代は「寂しそうなヒト」と感じてしまい、タケオのことをやたらと構いたがるのだ。


 親友がヒトの道を外れないよう、ねねの方も必然タケオに気を配らねばならず、それが本当に煩わしいのだが――


『緊急放送、緊急放送、生徒のみなさんは至急講堂に集まってください、繰り返します――』


 ピンポンパンポーン、という効果音が終わらぬうち、被せるようにアナウンスがされる。教頭の声だった。緊急放送というのも穏やかではない。一体何事なのか。


「みんな聞いたかー、講堂に集まれと。隣のクラスが移動したらうちらも移動するでー」


「星崎先生、一体何事なんですか?」


 クラスを代表してねねが質問する。

 だが「さあ、なんやろね。僕も聞いてへんよ」との返答だった。


 担任である星崎が知らないとなると、本当に緊急性があるようだ。

 クラスの誰もが一抹の不安を抱えながら、廊下に整列し、講堂へと向かう。


「しげくん、見つかったら怒られるよ?」


「いや、これは絶対録画するべきだ。俺の勘がそう言っている」


「ユーチューバーってのも大変だなあ」


 スマホを忍ばせ、録画を開始した笠間に、梶原も塩谷も呆れ顔だ。

 そして日常生活を切り売りする配信者という職業は、並大抵の苦労ではないのだと認識を新たにするのだった。


「ほれ、整列して静かになー。全員揃っとるなー?」


 担任である星崎はひいふうみい、と生徒の数を数え、本日の欠席者を差し引いた人数を学年主任に報告に行く。


 梶原は列の半ばから辺りを見渡す。

 だだっ広い講堂には、ずらーっと生徒たちが整列している。

 そうして、居並ぶ生徒たちの中、ただならぬ雰囲気を放つ方向へと目を向けた。


「異世界のヒト達はどこにいてもすぐにわかるね」


「まったくだな」


 塩谷が頷くとおり、まるでそこだけ天から光が差し込んでいる……ように見えるのだ。


 アレスティア・エンペドクレス、そしてエウローラ・エンペドクレス。

 風の噂では、慣れない異世界人の地球生活、ということで、姉妹揃って同じクラスに編入されるはずだったが、担任が「無理です! 私のキャパ越えてます!」と泣きついて別々のクラスになったとか。


 アレスティアの方は教室内ではあまり打ち解けていないようだ。かといってお高くとまっている風でもなく、無理に話しかけたりしないだけのようである。


 というのも、プリントを渡すため、前の席の女子生徒が振り返った瞬間、頬杖をつくアレスティアの姿があまりにも様になっていたため、その場で失神。真横に倒れて床に側頭部を強打し、二針縫う羽目になったとか。


 さらに移動教室先を聞かれた強面の男子生徒が、「わかった、ありがと」と言われただけで、感激して幼児退行を起こし、みっともなくギャン泣きしてしまったとか。


 どうやら問題はアレスティア、というよりクラスメイトたちの方にあるようである。慣れるまで今しばらく時間がかかるだろう。


 エウローラの方はまだ社交的で、クラスメイトとぼちぼち会話する姿が校内でも見られている。ただこちらもアレスティアとは違った方向で神がかり的な美少女なので、漏れなく似たようなリアクションはされているようだ。


 そして我らが三年の異世界美少女、瑠依はというと、やっぱりクラスでは浮いているようだ。


 これもまた風の噂――しかもあまりよくない方の噂なのだが、彼女が異世界難民として学校に来る前、イジメを受けていたようなのだ。


 そのせいで半月以上も学校を休んでいたようなのが、突如としてガラリとイメチェンをして登校してきた。


 元々はボサボサの黒髪で、いつも背中を丸めておどおどしていた瑠依。傍目にもあまり衛生的とは言えず、家でも虐待されているのではないか、と周りから疑われていた。


 そんな彼女があれほどまでに綺麗に生まれ変わった。それにも、どうやらタケオが関係しているようなのだが……詳細は不明である。


 現在、イジメこそ無くなったようだが、瑠依は未だにクラスに馴染めずにいる。腫れ物のような扱いをされ、一人でポツンと立ち尽くしているのが遠目にも見えた。


「うん? なんだ?」


 笠間がいち早く異変に気づいた。

 講堂の照明が徐々に絞られていき、やがて消えてしまう。

 真っ暗闇に包まれるなか、ガヤガヤと生徒たちの戸惑う声が空間を満たしていく。


 ババっと、急激に光が点灯したのはステージ。

 緞帳が上がったそこには、立派な設えの演説台が置かれている。


 学院長か教頭が何か話をするのか。

 それなら早くしてくれ。一時間目の授業を急遽取りやめてまで何を話すつもりなのか――


 ザワッ――!

 大きなどよめき。それは全校生徒が一斉に息を呑んだせいで起こった。


 舞台袖から一人の女性が、ステージ中央へと歩いていく。

 決して足音を立てぬよう、スカートの裾は翻さないよう、しずしずと歩みを進める。


 その姿は白いドレス姿と相まってたおやかな百合の姿を想起させるも――演説台の前で生徒たちに向き直った姿は苛烈の一言だった。


 美しい。圧倒的すぎる美貌。

 日本人離れした西洋的な顔立ちと、赤い虹彩を宿した瞳。


 髪の色は淡桃がかかったゴールドブロンドで、口元にはアルカイックスマイル。

 視線は生徒たちを見つめるも、どこか遠くを見るように、広く深く澄み渡る。


『みなさん、初めまして。私はカーミラ・カーネーションと申します。ビューティーカンパニー、カーネーショングループの会長をしております』


 テレビやネット、新聞などで目にした時のヒトが、豊葦原学院に舞い降りた。

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