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第53話 交流大使ってなんですか篇⑭ アーサーさん……アーサーくん?

 *



「んん〜、やっぱりここのフルーツタルトは美味しいですねえ!」


 むしゃむしゃバクバクと、秋月さんは一人でタルトを頬張っている。

 ちなみに俺の目の前にも皿に乗ったタルトが置かれてはいるのだが、それには一切手はつけていない。


「あら、すみません、私だけ食べちゃって。どうぞカーミラ会長も、遠慮しないで召し上がってください」


「ありがとうございます。ですが、先程ランチを食べたばかりでお腹がいっぱいでして。なので後でいただきますね」


 ニコっと、決して相手を不快にさせないよう、温和な笑みを浮かべる。

 もちろん、後で食べるというのは嘘だ。こんな脂質と糖質の塊、食べてしまっては日々の努力が無駄になってしまう。家に持ち帰って瑠依に食べさせよう。


「あら、そうなんですか。でも育ち盛りなんですから、無理せず食べた方がいいと思いますけど」


「え?」


 育ち盛りと言われて、俺はドキッとしてしまった。

 いやいや、落ち着け。四代目カーミラは学生。

 都内の某有名お嬢様学校に通っている18歳、という設定になっている。


 恐らく秋月さんはそのことを言っているのだ。

 決して俺が中学生だと知っているわけではない。


「お気遣いありがとうございます。ですが、元々食が細いものですから」


「はあ〜、やっぱりお嬢様は違いますねえ。私なんか小柄なのに大食いなものですから、羨ましいです」


「いえいえ……でも、ご飯をたくさん食べる女性は好きですよ、私」


 真っ先に思い浮かんだ顔は瑠依だった。

 実家で預かっていた当初の食事こそ、まるで捨て猫が警戒心を持ってモソモソと食べる程度だったが、今ではすっかり食が太くなり、アリスさんが作る料理は何でもムシャムシャと食べている。


 まあ近々風呂場の方から「にぎゃぁぁぁぁ〜!」という叫び声とともに、急にダイエットに目覚める瑠依が見られることだろう。


「――ッ!?」


 突然の殺気。

 俺はビクっと肩を震わせる。

 一体どこから、誰が――


「アーサー、落ち着きなさい」


「も、申し訳ない」


 そう、何故かアーサーさんが俺のことを思いっきり睨んでいた。

 その迫力たるや、もし俺の中身が男ではなく、まっとうな女の子だったら、泣き出してしまうほどだった。


「アーサー、あなたはやっぱり扉の外に行きなさい」


「マム、ですが――」


「勘違いしないように。機密事項に関わる話をするからです」


「ラジャー。扉の外で待機します」


 シュンっと肩を落としながらアーサーさんは出口へと向かう。

 だがチラっとこちらを――俺を振り返った。


 ギンっと、凄まじい目つき。

 軍人じゃない。マジの殺し屋の目だった。


「わ、私、何か彼の気に障ることをしましたでしょうか」


 パタン、と扉が閉じられてから、独り言のように問いかける。

 今会ったばかりの男性から本物の殺気をぶつけられるようなことをした覚えはないのだが……。


「彼に代わり、深く謝罪いたします。ですが誤解なさらないでください。不器用な子なんです。殺気ではなく、むしろそれとは性質が反対のものでして」


「は?」


 殺気の真反対ってこと?

 それってまさか――


「どうやら彼はあなたのことを相当気に入ったようですね。先程見せた笑顔、同性で年上の私でも思わず見惚れてしまうほど綺麗なものでした。多分それにやられたのでしょう」


 はい?

 なんだ、つまり俺はアーサーさんに惚れられてしまった、ということなのか?


「えっと、冗談……、ですよね?」


 俺が困り顔でそう言うと、秋月さんは口をへの字に曲げた。

 バイザーで目元が見えない分、彼女の感情は口元が表現してくれていた。


「カーミラ会長。ご不快な思いをさせてしまったこと、そして彼が無礼を働いたことは申し訳ありませんでした。ですがあの子は純粋な子です。ヤマアラシのジレンマという言葉のとおり、昔から好きになったもの……犬や猫などの動物や、友人、あるいは異性……様々なものたちに近づけば近づくほど誤解され、逆に嫌われてきました。ですが、心根はとても優しい、本当にいい子なのです。親の贔屓目をなしにそれだけは言わせていただきます」


 なるほど。

 自分の好意を表に出すのが下手なだけなのか。


 彼の場合ニコっと笑う代わりに、ギロっと睨むような感じになってしまうと。

 元々彫りの深い顔なのも手伝い、近づこうとするだけで嫌われてしまうと。


「ええ、承知しました。私は気にしていませんし……………………はい?」


 え、今なんて言った?

 親って――


「あ、お伝えしていませんでしたね、彼の名前は秋月・アーサー・スミス。不肖の息子です」


 あ、そうか「マム」って、女主人って意味じゃなく普通にお母さんの意味か!


 それにしても似てないなこの親子。先程バイザーを取った秋月さんは、純日本風の顔立ちだったが、アーサーさんの顔に『和』の要素はどこにもなかったぞ?


「む、息子さんだったんですか。あ、あまりお母様には似てらっしゃらないですね……?」


「そうなんです、あの子は完全に父親似でして、まだ15歳なのに最高にカッコいいでしょう! 一緒に歩いてると、若い頃の主人とデートしてるみたいで……むふふ!」


 秋月さんがテーブルに身を乗り出して力説する。

 アーサーさん――いや、アーサーくんってば俺と同い年かよ!

 しかも秋月さん、旦那さんに檄ラブじゃないですか。


 どうやら秋月さんの旦那さんはアメリカ国防総省のお偉いさんで、その影響もあって、アーサーくんは幼い頃から軍事訓練を受けてきたという。なので今日はその経験を活かし、母親の護衛を務めているんだとか。


「あの子も多分に大人っぽい女性が好みでして。カーミラ会長みたいな年上の美しい女性が好きみたいですね」


「は、ははは……」


 俺はもう笑ってごまかすしかなかった。

 男に好意を向けられても御免こうむる。


 こうなったら麗子さんの恋を全力で応援するしかない。

 そう決意するのだった。

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