第30話 異世界シスターズ篇⑦ 妹をデートに誘おう!
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「そうだ、デートしよう、アレスティア」
ブーッ!
ポロ……。
ダラダラ……。
カーネーション本社より帰宅した俺は、その日の夕食の席で話を切り出した。
エウローラは飲みかけていた麦茶を吹き出し、瑠依は食べかけを取り落し、愛理は口から味噌汁を零している。
本日の夕食はさっぱりササミのマスタードマリネである。口に入れた瞬間に甘みのある酸味と旨味が広がり、いくらでもご飯が進みそうだ。まあ俺は炭水化物控えめではあるが……。
「まあ、よかったですね、アレスティア様」
俺たちと一緒にご飯を食べているアリスさんはニコニコ顔でそう言う。
ちなみに本日も織人はいない。なんでも近所に旦那さんの実家? があるらしく、ご両親に面倒を見てもらっているんだとか。歳の近い子もいるので、そちらに預けた方が織人も喜ぶらしい。
デートに誘われた当の本人――アレスティアは目を皿のように見開いて固まっていた。
「ア、アレスティアちゃん?」
エウローラが口元を拭きながら声をかける。
アレスティアはハッとしたあと、手の甲で口元を隠しながら、うつむきがちに顔をそらした。
カアアアっという音が聞こえてきそうなほど、彼女の白い肌はほんのりと朱色に染まっていた。
「と、突然何よ……」
「いや、だからデートだよデート」
「何度も言わないで!」
彼女は赤い顔のまま、キッと俺を睨みつけてくる。
だがその口元は緩んでおり、どうやら嬉しがっていることが伺えた。
「お、お兄様、一体どうして、急にそんな、デートだなんて!」
「そ、そうだよ、いきなり突然あからさまにおかしいよっ!」
猛抗議してくるのは愛理と瑠依だった。
何故そんなに反対する?
「世の兄貴は妹とデートくらいするだろう。愛理とだってよくデートしてただろ」
「デートって、今まで一緒に出かけていただけでは――いえ、お兄様の中では私との外出は全部デートという認識………………私始まってたッ!?」
愛理は「うーん」と懊悩し始めた。
まあ静かにしてくれるならそれでいい。
「タケオくん、本当にアレスティアちゃんとデートするの?」
「うん? ああ、そのつもりだ」
瑠依は唇を尖らせて何だか拗ねたような表情をしていた。
「すまないな瑠依……って、なんでお前に謝るのかよくわからんが、ちょっと兄妹水入らずで話したいことがあってな。ついでに地球観光も兼ねて出かけてくるよ」
「そっか……まあ、そういうことなら仕方ないか……」
瑠依は力のない笑みを見せ、食事を再開した。
だがやっぱり元気がない。モソモソと心ここにあらずと言った感じでご飯を口に運んでいる。
「に、兄さん、どうしてアレスちゃんだけ? わ、私は……?」
「ああ、もちろんエウローラともいずれな。でも今回はアレスティアとデートする」
ガーンと、エウローラはショックを受けた顔をしたあと「でも、私ともデートしてくれるなら……」とブツブツ言い始めた。
「ふ、ふん、デートね。まあ、どうしてもって言うならしてあげないこともないけど……」
アレスティアは箸を置き、髪をイジリながらチラチラと俺を見てくる。
「ああ、どうしてもお前じゃないとダメなんだ。頼む、俺とデートしてくれ」
「……ッ!」
まっすぐ、真剣な表情でアレスティアを見つめる。
彼女は再びプイっとあさっての方を向いてしまった。
……しっかし、じっくり観察すると図抜けて綺麗な顔をしているな。
金色の髪はキラキラとしていて、それ自体が輝きを放っているようだ。
翡翠の瞳は夜空の星か、宝石を散りばめたように美しいし、朱色に染まった白い肌も実にキュートだ。
まったく。これが普通の男だったら出会ってから今までで軽く100回は惚れているかもしれないな。
俺はお兄ちゃんだから、自分の妹に惚れるなんてことはありえない。絶対ありえないのだ。
「ど、どどど、どうしようかしらね……」
むむ。どうやらアレスティアは迷っているようだ。
確かにいきなりデートしようなんて、会ってまだ一週間程度の俺に言われても抵抗があるよな。さて、どうしたもんか……うん?
「え、ちょっと……?」
いつの間にか、俺の膝の上に、青白いの光を放つ蛇が乗っていた。
この蛇はアレスティアの――
「わわっ、なんだっ!?」
蛇は器用に俺の身体を這い登ると、首に巻き付き、俺の頬にスリスリと自分の頭を擦り付け始めた。
びっくりした。てっきり噛まれるかと思ったけど……これは何なんだろうね。ヒンヤリとしてて気持ちいいけど……。
ふとアレスティアの方を見ると、顔が朱色を通り越して真っ赤になり、唖然としていた。
「うわあ、精霊獣は正直」
「エウローラさん、あれはつまり主の気持ちを代弁していると?」
「あはは、本当はアレスティアちゃんもデートに誘われて嬉しいんだね」
「うわああああッ! ルル! 何してんの、早く戻りなさい!」
ガダン、と席を立ったアレスティアがルルを引っ剥がそうと手をのばす。
だがルルはシュルっとその手を躱した。アレスティアはますますムキになる。
「この、いい加減に――」
勢い余ったアレスティアが前につんのめる。
俺はとっさに彼女を抱きとめた。
温かい。そしていい匂い。
まるで織人を抱きしめたときのような無垢な感じがした。
「ヒッ、どこ触ってるのよ!」
「あ、悪い」
俺の右手にフニョンとした感触。
アレスティアの慎ましくも将来性を感じさせるお胸だった。
パチンッ、と頬を叩かれる。
彼女は背を向けて飛び出して行ってしまった。
ドダドダドダ……乱暴に階段を上る音がする。
バダンと扉が閉まる音がここまで聞こえてきた。
あー、不味ったな、これは……。
「どうしよっか?」
「くるる……」
俺はルルを手のひらに乗せて聞いてみる。
言葉が通じているのかいないのか、ルルはクリっと首を傾げるばかりだった。
「タケオさん」
「は、はい!」
アリスさんだった。
彼女はすでに自分の分を食べ終え、食後のお茶を楽しんでいた。
「洗い物が片付きませんので、早くアレスティア様を連れてきてください。いいですね?」
「りょ、了解しました……」
俺は食事を中断し、二階へ向かうのだった。




