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第23話 シェアハウスの管理人篇⑦ その名はアレスティア、エウローラ

 *



「アレスティアよ」


「エウローラです。はじめまして、兄さん」


 少女たち――正確には俺の妹か。

 とにかく、彼女たちの第一声はそのようなものだった。


 アレスティア。

 金色の髪を頭の両側でツインテールにしてる。

 恐らく俺のことが気に入らないのだろう、めちゃくちゃ不機嫌な顔でこちらを見下している。


 対するエウローラは、ニコニコとしていて、実に好感が持てる。

 銀髪はストレートにしているものの、毛先の方で緩やかに広がりを見せ、左前髪には月を模したヘアピンをしていた。


 とにかく――俺の妹ということは、年下であることは間違いない(当たり前)。

 にもかかわらず、怖気を誘うほどの美しさを持った二人だ。


 そう、思わず畏怖と敬意を抱かずにはいられないオーラのようなものが、二人からは発せられている……ような気がする。こいつらタダもんじゃねえな。


(いや、違う違う、そうじゃない……!)


 なんだよ妹って。

 異母妹? つまりふたりとも腹違いってことか!?


 突然だが、俺の父親のことを説明させてほしい。

 俺の母親は吸血鬼だが、実は父親は魔王をしている……らしいのだ。


 実際俺も会ったことはない。

 母親から――ベゴニアからそうだと聞かせられているだけなのだ。


 異世界――魔法世界(マクマティカ)においては、魔族種と呼ばれる特別な種族であり、根源27貴族の一角、龍神族の王――それが俺の父親、通称『龍神』ことタケル・エンペドクレスだ。


 16年前の大災害。宇宙からの侵略者により、地球が滅亡の危機に陥ったとき、地球と異世界の英雄が手を取り、これを撃退した。


 母であるカーミラは地球の英雄。そして父である龍神は異世界の英雄だった。

 二人は愛し合い、その結果俺が生まれたらしいが……何故か結婚はせず、父親は異世界に帰ってまた別の(きさき)を娶ったらしい。


 以来、俺は父親を知らず、母親に育てられた。

 カーミラが亡くなってからはベゴニアが親代わりだった。


 そんなわけで、恐らくこのアレスティアとエウローラは、父が俺と母を置いて異世界に帰ったあとにできた子供だろう。


 正直に言えば複雑な気持ちだ。

 経済的にはなんの不自由もなく育てられた俺だが、父親がいない寂しさや負い目はずっと感じていた。


 だが、その不満を幼い妹たちにぶつけるのはお門違いというものだ。

 責められるべきは父親であって、今目の前にいるアレスティア、エウローラでは断じて無い。


(そんなことよりも――)


 俺といい愛理といい、そして髪や瞳、肌の色からして違うアレスティア、エウローラも、全員母親が違うということを意味している。


(異世界のクソ親父……てめえ、カーミラ(母さん)だけじゃなく、何人の女に手ぇ出してるんだよ!)


 いつか会ったら絶対ぶん殴ってやる。

 俺は決意を新たにした。


「お二人は今回地球での生活は初めてとのことで、こちら、荘厳荘の方で暮らしていただきます」


「狭い家ね。地球人ってよくこんなところに住めるわ」


「そうかな。綺麗だしいいと思うよ。実家(うち)が広すぎるんだよ」


 アレスティアは地球での生活に不満があるのだろう。

 ジロリと天井を見上げながら「ふん」と鼻を鳴らしている。


 対するエウローラは何にでも興味津々と言った風情で、キョロキョロと辺りを観察していた。容姿も性格も対局な二人だ……。


「それで、私の部屋はどこ?」


「もうすぐ荷物が来るはずなんだですけど……」


 アリスさんは二人の言葉を受けて、ジッと俺の方を見た。

 あ、そうか。俺が案内しないとか。いや、その前に。


「えっと、初めまして。俺はタケオ・フォマルハウト。こっちは妹の御堂愛理、で、こっちはクラスメイトの黒森瑠依だ」


「どうも」


「は、初めまして」


 愛理はそっけなく、瑠依は戸惑いながら挨拶をする。

 どうやら愛理は玄関先でアリスさんたちと鉢合わせただけのようだ。


 兄の一人暮らしの家に、いきなり異世界から異母妹が来て、愛理も正直リアクションに困っていると思われる。


「部屋なんだけど、あと四部屋余ってて、どこでも好きなところに――」


「私ここがいいわ」


 アレスティアは腕を組みながらトントン、と足で床を叩いた。

 愛理はムッとし、瑠依は「え?」と声を上げた。


「だーかーらー、どこでもいいんでしょ。私ここにする。見たところ一番日当たりがいい部屋みたいだし、ここじゃなきゃ嫌」


「ちょっとお待ちなさいあなた」


「そ、そうだよ、ここはタケオくんの部屋だよ」


 愛理と瑠依が援護射撃をするものの、アレスティアは「何よ、文句あるの?」と自分の意見は当然のものと思っているようだ。


「ねえアレスちゃん、それはちょっと我がままじゃないかな?」


 おお……エウローラ。

 自分の姉……妹? どっちがどっちかはわからないが、とにかく姉妹を諌めてくれるらしい。


「何よ、私はここにするから、あんたは隣の部屋にしなさい」


「いや、違くて、この部屋はもう荷物もあるし、兄さんの部屋なんだってば」


「だからどうしたっていうのよ。荷物なんて全然少ないじゃない。移動なんて簡単よ」


「あのね、部屋なんてどこでも変わらないじゃ――」


「嫌ったら嫌。私はここ、あんたは隣。廊下や階段を隔てたりしたくないの!」


 うん? えっと……。

 確かに二階は六部屋あるが、隣り合っている部屋は二つしかない。


 瑠依の部屋とその隣、さらに俺の部屋とその隣である。

 他の二部屋は、階段と洗面所を隔てて北側に位置している。

 つまりアレスティアはエウローラと壁一枚隔てただけの隣同士になりたいと……?


「そっか……ごめんなさい兄さん、いいですか?」


「え、あ、ああ……」


 エウローラは申し訳なさそうに言った。

 申し訳なさそうではあるが、もう絶対意見を変えるつもりはないようだ。

 琥珀色の瞳が強くそう訴えかけていた。


「まあ、妹の我がままを聞くのも兄貴の務めか」


 幸いにも本当に俺の荷物は少ない。

 手伝ってもらった瑠依には悪いが手早くまとめてしまおう。


「というわけで瑠依、手伝ってくれるか?」


「むー……!」


 瑠依は唸りを上げながら俺を睨んでいた。

 いや、お向かいさんじゃなくなるくらいでそんな怒るなよ。


 手伝いを諦めた俺は一人でさっさと荷物をダンボールにしまい直し、一番北側の部屋へと移動する。アリスさんと愛理が手伝ってくれて、あっという間に終わってしまった。


「タケオさん、アレスティア様とエウローラ様はまだ地球に不慣れなので、お食事の世話などは、私の方でさせてもらいますね」


「え、こ、これから毎日、ですか……?」


「はい、通いという形になりますが。あ、でも、織人を頻繁に連れてきてしまうことになりますが、よろしいでしょうか?」


「そんなん全然構いません。というか部屋は余ってるので、アリスさんもここで織人と一緒に暮せばいいのに」


「そういうわけにはいきませんよ。でもありがとうございます。今夜の夕飯は張り切っちゃいますよ」


 パチっとウインクを残し、アリスさんは俺の部屋を出ていった。


「よっしゃー!」


 ガッツポーズである。

 一人暮らしはしたかったが、アリスさんと離れ離れになるのは本当に辛かった。

 断腸の思いで俺は一人暮らしを選んだのだ。


 だが、恐らくはベゴニアの計らいだろう、息子の一人暮らしのシェアハウスにアリスさんと遣わせてくれるだなんて。


 いや、でも待てよ。

 あの二人……アレスティアとエウローラ。


 二人は俺の父親――異世界の魔王であるタケル・エンペドクレスの娘だ。もしかしてアリスさんは異世界関係者なのだろうか。俺が魔王の子でもあると、ベゴニアから聞いて知っているのか……?


「まあいっか。念願の一人暮らしも始まったし、アリスさんとも毎日会えるし」


 もしかして今が俺の人生の絶頂期ではないだろうか。

 異世界から妹が来てしまったことには驚いたが、まあそんなに積極的に関わっていくつもりもないし、なんとかなるなる。ふはは――


 ――バーンッ、ゴドン、ガラガラガラ……!


 ものすごい音がした。

 今のは爆発!?

 とにかく何か大きなものが壊れる音である。


 俺は弾かれたように部屋を飛び出し、音のした方――元俺の部屋、今はアレスティアの部屋へと向かう。


「入るぞ!」


 緊急事態である。

 ノックもせずに扉を開けた俺は、唖然とした。


 もうもうとホコリが舞い、アレスティアはそれを厭うようにパタパタと手を振っていた。


「お、おまえ、何してんだよ……」


「何って、開通作業よ」


 そう、まさしく開通だった。

 アレスティアの部屋は、隣のエウローラの部屋と境目が無くなっていた。


 二つの部屋を隔てていた壁が大きくくり抜かれており、床には瓦礫と化した壁だったものが散乱している。


「アレスちゃん、何してるの!」


 ケホケホと無くなった壁の向こうからエウローラが顔を覗かせる。

 アレスティアは「ふん、私とあんたの間にこんな壁邪魔なのよ」とそっぽを向きながら言った。


「なになに、一体何が――」


「今の音は何事ですか――!?」


 瑠依と愛理も駆けつけるが、部屋の惨状を見て、俺と同じく唖然と立ち尽くした。


「何よ、レディの部屋にズカズカと上がり込んで、まったく地球の奴らってマナーがなっていないわね!」


 アレスティアは腰に手を当て、居丈高に言い放った。

 いや、これはマナーとか以前の問題で――


「タケオさん……」


 ビクっとなった。

 本日二度目の脊髄反射。

 振り返ればそこには笑顔のアリスさんが。

 あ、額に青筋が……。


「これはどういうことでしょうか?」


「い、いや、アレスティアのやつが……」


「私悪くないもん」


 おいいい! どう考えてもこれは100%お前の落ち度だろう!


「監督不行き届きです。タケオさんの夕飯はなしです」


「そんなあああああ――!」


 とまあ、俺と異世界妹――アレスティアとエウローラとの出会いは、概ねこのようなものだった。

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