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第110話 ライバルと嫉妬と初恋篇2② マクマティカーズの護衛はあのヒトで決まり!

 *



「こ、こんばんは、ルイスです!」


「アレスティアよ」


「エウローラでーす!」


「「「私たち、マクマティカーズです!」」」


 三人の掛け声とともに、放送がスタートする。

 カメラは三台。正面、アオリ、俯瞰と、それぞれ定期的にスイッチングしていく予定だ。


「ほ、本日はこちら、私たちのスポンサーさんでもある、カーネーション本社ビルよりお届けしています」


 それぞれの前には台本が置いてあり、カンペも用意している。

 お芝居ではない、あくまで進行の補助のためのものであり、事前に台本を読み込むことで全体の流れを把握してもらっている。とはいえ――


「こ、この配信は――えっとえっと」


「カーネーショングループと」


「かか、カーネーショングループと――と、と、と……」


「十王寺商店会」


「じゅじゅ、十王寺商店会の提供でおおおお、お送りします!」


 アレスティアとエウローラに左右から耳打ちされ、真ん中に座った瑠依はつっかえながらも重要な部分を読み上げる。


 俺ことカーミラは少し離れた会長席に座り、手元のパソコンで、配信のチャット欄に目を走らせた。


『瑠依ちゃんかわいい』『可愛い』『膝に乗せたい』『頭撫でたい』『猫耳もふもふしたい』などといったリアクションが大多数だ。穏当なコメントにホッと胸を撫で下ろした直後、『瑠依ちゃんおっぱい大っきいね!』などとうコメントを発見し、即座にブロックしておく。


 そういうのは心の中で思うのは自由だが、大勢の目に留まるチャット欄に書き込むやつはギルティである。本人の目にも触れさせないようにしないと。


 30分ほど前――


「うん、覚えたわ」


「私も。問題ないです」


「え、嘘っ、二人共すごっ!」


 いつものように、麗子さんの運転する車で学校からカーネーション本社ビルへとやってきた三人は、本日のライブ配信のスタジオとなる会長室へとやってきていた。


 俺は常々思っていた。

 この無駄に広すぎる上になんにもない会長室を有効活用できないものかと。


 マクマティカーズが誕生したことで、ようやく三人の休憩スペース兼レッスン場となり、今日はさらに配信スタジオへとクラスチェンジを果たすことができた。


 今日の配信場所は、三人がよく休憩に利用しているソファセットであり、今は本番を控え台本のチェックをしてもらっている。


 とはいえ、アレスティアとエウローラは一度通しで読んだだけで、内容を完璧に暗記してしまったようだった。


「ふええ、私こんなのいっぺんに覚えられない〜……!」


 情けない声をあげたのは瑠依だ。

 二人とはあまりにも頭の性能が違いすぎて涙目になっている。

 いや、瑠依はあくまで普通だ。アレスティアとエウローラの物覚えが良すぎるのだ。


「大丈夫よ、何も暗記してもらうために台本を用意したんじゃないんだから。大体の流れを把握してくれれば、本番中にちょっと確認するのはオーケーだから」


「ほ、本当ですかカーミラさん」


「もちろんよ。流れさえ合ってれば、アドリブでセリフを変えてもいいからね」


「え、アドリブ……?」


 瑠依の目が宙空を泳ぎ始めた。

 いけない、余計なことを言ってしまった。


「えっと、ごめんなさい、なんでもないの。とにかく、瑠依ちゃんは台本通りにね」


「は、はい、わかりました」


 瑠依は「よ、よし、もっかい見ておこう」と、蛍光ペンを取り出し、自分のセリフ部分に色を塗り始めた。


 あんまり複雑なことを求めると瑠依がパニックになりかねない。アレスティアとエウローラなら問題なくできることでも瑠依には難しいだろう。


 大事なのは個々人に適した指示を出すこと。アレスティアとエウローラを基準にするのはよくないし、かといって瑠依を特別できない子だと思うのもいけない。


(ふう、難しいな。まるで子育てをしている気分だ……)


 そんなこんなで本番がスタートし、マクマティカーズ公式チャンネル初配信が始まった。今は質疑応答のコーナーで、チャット欄を見ながら、各人が目に止まった質問に答えている。


「私のお母様はエルフの血を半分引いているハーフエルフなの。だから私はクォーターね。ほら、ちょっと耳が尖ってるでしょ」


 アレスティアが髪をかきあげて耳を見せると、『うおおおおおおお!』『エルフ耳キター!』『エッッッ!』『最高ッ!』という書き込みが。


 現在同時接続数はなんと5万人。

 時間が経つに連れてどんどん増えてきている。


 俺は早送りのように流れていくチャットに目を光らせ、マクマティカーズに関係のないことや、目にしたヒトを不快にさせるようなコメントを見つけては通報→ブロックしていくという作業をしていた。


 ちなみに先程のコメントの『エッッッ!』というのは『エロい』の略称らしく、もちろん俺の妹を性的な目で見やがって……とブロックしておく。


「私のお母さんは魔人族って種族なんです。え、ダークエルフじゃないですよ。私は耳とがってないでしょ」


 誰かが『エウローラちゃんダークエルフなの!』とコメントして、エウローラにまで耳を見させようと誘導したな。問答無用でこいつもブロックと。


「えっと、私は――」


 瑠依の番になったとき、コメント欄が『あ』『あ』『察し』『ルイスちゃん(;_;)』と埋め尽くされる。


 流れで母親のことを話さなければならなくなった瑠依だが、彼女は異世界難民。しかも赤ん坊の頃に地球に来てしまったので親の顔さえ知らない……とみんな思っているのだろう。だがしかし。ふっふっふ。


「実は先日、お父さんとお母さんに会いました」


『ま?』『ま?』『え、マジ?』『ええええッ!?』という反応が帰ってくる。


「はい、二人とも地球に来てくれて、嬉しかったです。えへへ」


『おめでとう!』『ルイスちゃんよかったね』『感動した』『再会おめ!』ととんでもない量のコメントが。うわ、同接9万人越えた。すご。


 質問の流れが変わる。『ルイスちゃん帰るの?』『マクマティカーズ辞めるの?』『やだー、帰らないでー!』という悲しみに満ちたコメントが書き込まれる。それに対して瑠依は、正面のカメラを見据えてしっかりと返答した。


「私は帰りません。確かに一度は魔法世界(マクマティカ)に帰ってこいって言われましたけど、でも、なんとか説得して地球で暮らすことを許してもらいました。だから大丈夫です」


 今までならオドオドするばかりだった瑠依が、強い意思を瞳に宿してハッキリと答えていた。やっぱり瑠依は変わったな、と改めて思う。 


「そうよ、というわけで瑠依はずっとうちの子だから」


「そうです、私たちと地球でずっとマクマティカーズをするんです」


 ヒッシと、アレスティアとエウローラが瑠依に抱きつく。間に挟まれた瑠依は「うにゅ〜」っとなんだかよくわからない悲鳴を上げていた。チャット欄も『百合キター』『尊い』『尊すぎる』と大盛りあがりだった。


「最後に告知をさせてください」


「私たちのデビュー曲、スライト・ラブが音楽配信されます」


「各ダウンロードサイトで、あ、明日から配信になります」


 みんな――ダウンロードしてね! と三人声を揃えてカメラに向かってポーズを取る。そして最後は番組用のCM――カーネーションのものと十王寺商店会が作成したものを流して終了である。


「はい、配信停止しました。お疲れさまです」


「お疲れ様、三人とも。とってもよかったわよ」


 麗子さんと俺がねぎらいの言葉をかけると、三人とも一斉に脱力した。


「はー、疲れた」


「ほんと、気が抜けないですね」


「運動したあとの疲れと全然違う感じ……」


 アレスティア、エウローラ、瑠依は完全にグロッキー状態だった。

 わずか一時間あまりの放送だったのだが……今度からこの半分にしたほうがいいだろうか。なかなか考えものだった。


「三人とも、今日はもう遅いから反省会はまた後日にしましょう。麗子さん」


「はい、じゃあ三人とも、着替えたら一階のロビーに集合ね」


「りょうかーい」


「シャワー浴びたい……」


「ダメダメ、お家に帰ってからにして。明日も学校でしょ」


「あ、私宿題してない!」


 にぎやかな声が去っていく。

 三人は着替えをするため、隣室のプライベートルームへと向かう。麗子さんは一足先に下に降りて車を用意するのだろう。


「さて……」


 俺は配信した動画をアーカイブ化して公式チャンネルにアップロードする。

 動画はまたたく間に再生数が伸び、あっという間にトレンド入りする。


「順調だな」


 だがしかし気になることもあった。

 チャット欄に流れるコメントの中には、色々と不安になるようなメッセージも少なくなかったからだ。


 例えば――『彼女たちは異世界からの侵略者です』『地球から出ていけ』『異世界人がでかい顔するな』などなど……。


 反異世界を標榜する人々が、この配信をチェックしていたことに、俺は驚きを隠せない。当然あるだろうとは思っていたが、実際目にするとやっぱりショックだった。


「いや、俺がしっかりしないと」


 今の所マクマティカーズは世間から好感されている。

 だが、中にはコメントのように嫌っているヒトたちもいる。


 圧倒的に前者が多いとは思うが、もし万が一にもあの反異世界同盟のように具体的に行動を起こしてくることもあるかもしれない……。


「麗子さんだけでは、ちょっと不安だな」


 麗子さんの運動神経はかなりいいが、護身術の類はできない。

 もしも暴漢がマクマティカーズに襲いかかった場合、麗子さんでは対処しきれないだろう。


「かといって魔法で反撃するのは不味いよなあ……」


 本当に最後の手段なのだ魔法は。

 命の危険に晒された場合にはやむを得ないだろうが、それ以外では過剰防衛になってしまいかねない。


「俺が常に一緒にいられればいいんだろうけど……」


 カーミラとして活動をしなければならない以上、やっぱり限界がある。

 マクマティカーズの護衛は喫緊の課題と言えるのだった。



 *



「ふー……眠い」


 翌朝。

 俺は日課となるランニングから帰宅し、シャワーを浴びるため風呂場へと向かう。


 昨夜ベッドに横になってからも、起きてからも、走っている最中も、頭の中ではずーっとマクマティカーズの護衛のことが頭から離れなかった。


 下手な人物には依頼できない。

 腕っぷしが立って、なおかつ異世界関係で信頼できるヒトでなければ。


(でもそんな人物心当たりはないし……)


 背に腹は代えられない。

 こうなったら総務省の秋月さんを頼ってみよう。

 あのヒトの人脈なら、誰か適任者がいるかもしれない――


「あら、おはよ」


「…………」


 脱衣所で汗まみれのスウェットを脱ぎ、フェイスタオルを持って風呂場の扉を開けると、そこには全裸の女神が立っていた。


「へえ、キールと戦ってたときから思ってたけど、結構鍛えてるのね。でもちょっと胴細すぎじゃない?」


 全裸の女神は俺の身体を上から下まで全部眺めてからある一点に視線を注ぐ。


「あはっ。そこは年相応ね。なんか可愛いわ」


「ちょちょちょ! なんで芽依さんがここにッ!?」


 俺は慌てて股間を隠す。

 今更遅いかもしれないが、そうしないわけにはいかなかった。


「秋月楓って知ってるわよね。彼女から頼まれてね。今日から私、マクマティカーズの護衛することになったから。よろしく」


「ええッ!?」


 手回し良すぎでしょ秋月さん!

 というか芽依さん、お願いだからちょっとは隠して!


 見てはいけない、と思いつつも、俺の脳内メモリーには、その圧倒的ナイスバディが刻みつけられてしまうのだった。

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