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第108話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑱ 人生初の家族割と名誉な称号

 *



 そんなこんなで、時刻はもう夕方に差し掛かろうとしていた。

 キールは電車の車窓から見える風景動画に夢中になっていた。

 横に延々スライドしていく街並みが気に入ったらしい。


 目をキラキラさせたまま画面に釘付けになっているキールに、タケオは、最初からこれだけ見せておけばよかった……と後悔していた。


 そのとき、トントントン、と微かに階段を降りてくる足音が聞こえ、ようやく瑠依たち家族の話し合いが終わったのだと悟る。


 さて……瑠依は果たしてどちらの世界を選んだのか。

 例えこれでお別れになってしまったとしても、瑠依が幸せになれるのならば仕方がない。諦めよう……と、タケオは思う。


 そもそも15年も娘を探し続けていた親御さんの気持ちを考えれば、あの心優しい瑠依が魔法世界(マクマティカ)に帰らないはずがないのだ。


(マクマティカーズは……当分ディオでやるしかないな)


 トリオデビューしたのに、いきなりデュオに減ってしまえば、何か遭ったのではないかと憶測が飛びかねない。


 でもここは素直に、異世界難民として両親と再会できて、実家に帰ったのだとファンに伝えるのがベストだろう。アレスとローラの負担が増えてしまうだろうがそれは自分や麗子さんでカバーしていくしかない。


「失礼する」


 そう言ってタキオン氏が入室してくると、動画を見ていたはずのキールが既に立ち上がり、サッと一礼していた。その切り替えの早さにタケオは舌を巻く。


「…………」


 タキオン氏の表情は厳しい。

 キールの存在を無視するように、その横を通り過ぎ、何故かタケオの真ん前にまでやってくる。


(な、なんだ、このおっさん。急にどうした……!?)


 タキオン氏はベゴニアに次ぐ高身長の持ち主である。

 しかも身体の厚みが半端ではなく、目の前に立たれただけで壁と見紛うほどの圧を感じる。


「…………」


 ジーッと、タキオン氏は無言でタケオを見下ろす。

 果てしないプレッシャーが注がれる。


(なんだよ、なんか喋れよ……!)


 沈黙に耐えられず、「あの――」とタケオが口を開きかけたその時だった。


「息子よ」


「は?」


 ジリっと両手を広げながらタキオン氏が迫る。

 タケオは後ずさる。しかし冷蔵庫に退路を断たれてしまう。


「そなたのルイスへの心遣い……」


「いや、ちょ――」


「心よりの謝意を申し上げるッッッ!」


「あだだだだッ――!?」


 突然の感謝の言葉とともに、熱烈ハグされるタケオ。

 丸太のように野太い腕が、タケオの細い身体を抱きしめ、持ち上げ、高い高いしている。


「タ、タケオくん!」


 慌ててリビングに入ってきたのは瑠依だった。

 父に抱きしめられ、持ち上げられるタケオは、どう見てもベアハッグされているようにしか見えなかった。


「お父さんやめて、タケオくんが死んじゃう!」


「おお、すまない、彼に感謝の言葉を伝えようとしたらつい熱が入ってしまった」


 背中を押さえながらゼイゼイと喘ぐタケオ。

 そんな彼を横からそっと抱きしめる猫耳美女が一人。エルダだった。


「娘のこと、本当にありがとう。何か困ったことがあったら、いつでも相談してくるのよ。金銭的にも援助してあげるから」


「あ、はあ、どうも」


 エルダはタケオの頭を抱きしめながら、瑠依と同じく赤い瞳でタケオを見つめる。


「あら、あなたよく見るとかなり綺麗な顔してる――」


「お〜か〜あ〜さ〜ん……!」


 瑠依はタケオとエルダを引き離す。自らの身体を二人の間にねじ込ませ、無理やり引き剥がしたのだ。


 そして「お母さんにはお父さんがいるでしょう!」と言って母を父に押し付け、エルダはエルダで「やだ、お母さんもたまには若い子がいい」などとのたまっている。


 タケオはタキオンとエルダに挟まれた瑠依を改めて見る。

 先程まであった緊張や遠慮といったものがなくなり、自然に笑っている。

 どうやら三人は本当の親子になることができたらしい。


 この結果を導いたのは誰でもない、瑠依自身の努力によるものだろう。

 きちんと自分の心の内を話し、受け入れてもらえたに違いない。


(よかったな、瑠依……)


 タケオは思う。

 もう自分の役割は終わりなのかと。


 三人が親子としてあるべき形に収まったのなら、本来赤の他人である自分はいらないはずだ。あの日、瑠依を助けたことで、今このような最高の結果を導くことができたのなら、自分のしたことにも意味があったと思う。


 だが――


「ルイス。色々と話してくれてありがとう。これからも地球で頑張りなさい」


「ええ、私たちも応援しているわよ」


「ありがとう、お父さん、お母さん」


 うん?

 タケオは自分の耳を疑った。

 今の会話から察するに――


「瑠依、異世界に帰るんじゃ……?」


「え、帰らないよ。学校もあるし、マクマティカーズも頑張らなきゃだし」


「そ、そうか……」


 タケオは膝から崩れ落ちそうになるのを懸命に堪える。

 ホッとしすぎて全身から脱力してしまうことなど初めての経験だった。


「なあに? それともタケオくんは、私が帰ったほうがよかった?」


「別に、そんなことは言ってないだろ」


「じゃあ嬉しい? 私が地球に残ってハッピー?」


「なんかお前性格変わってないか?」


「えー、そんなことないよ。ねえ、それより答えてよー」


 瑠依はねえねえ、とタケオの袖を引っ張ってくる。

 本当にどうしちゃったんだこいつは、と思いながらも、タケオは明後日の方を見ながら答える。


「まあ、嫌じゃない、かな」


「ふーん?」


 瑠依はニヤニヤとしながらタケオの顔を覗き込む。

 うぜえ。今日に限って妙に絡んでくるな――いや、甘えてきているのか?


 タケオの見立ては正しかった。瑠依が常に周囲に張っていたバリアのようなものが完全に消え、かなりとっつきやすくなっている。


 変わった……のではない。

 これが瑠依の本来の姿なのだろう。

 両親と分かり合えたことでようやく素の自分に戻れたのか。

 

「瑠依、帰らないってホント!?」


「瑠依さん、地球に残るんですね!?」


 バターン、と扉を勢いよく開いてリビングに入ってきたのは、アレスティアとエウローラだった。二人共妙に顔が火照っているが、一体どんな話を聞かされたのやら。


「うん、お父さんとお母さんが地球で暮らすことを許してくれたの」


「よかったー、本当によかったー!」


「マクマティカーズは永久に不滅です!」


 ヒッシと二人は瑠依に抱きついた。

 瑠依もまた遠慮なく二人を抱き返していた。


「本当に大丈夫なんですか?」


 タケオは三人の姿を微笑ましそうに見守るタキオン氏、そしてエルダに声をかける。確か世継ぎがいなかったのでは――


「ほう、我が家のことを心配してくれているのか、婿殿よ」


「え、いや、婿殿って……!?」


 タキオン氏はニンマリとした笑み(さっきのニヤついてた瑠依に超似てる)を浮かべながらエルダの肩を抱き寄せた。


「問題ない。確かにヴァレリア家に跡取りはいないが、なあに、今から作ればいいだけの話だ」


「まあ、タキオンったら。タケオくんの前で……ポッ」


 ああ、そういうことね。

 二人はまだ若い。獣人種は早婚が多いとはいえ、これから瑠依の弟か妹かを設けることは十分に可能だろう。


「ルイス、また会いに来るよ。お前も、一度ヴァレリア領に遊びに来なさい」


「うん、じゃあ夏休みになったら遊びにいくね」


「何か困ったことがあったらいつでも遠慮なく言うのよ。さしあたって生活費は足りてる? 何か必要なものはない?」


「大丈夫、全然平気だよ」


「あ」


 タケオの中にふと閃くものがあった。

「あの、提案なんですけど」と三人に語りかける。


「どうしたのタケオくん?」


「いや、お前すっかり忘れてるだろ。今日俺たちは一体何をしにでかけたと思ってるんだ」


「あ、そっか……!」


 そこまで言われればさすがの瑠依も気づいた。

 そして彼女は、生まれて初めて両親におねだりをしてみることにした。


「あのね、お父さん、お母さん、私欲しい物があるの。それでね、できれば二人にも同じものを買ってほしいんだけど……」



 *



「ありがとうございましたー」


 十王寺町商店街にあるショップで買物を済ませた瑠依たち親子。

 その手にはそれぞれ、真新しいスマートホンが握られていた。


「ほう、これがすまほ、というものなのか。これでいつでもルイスと連絡が取れるんだな?」


「タキオン、地球に来たとき限定ですよ。魔法世界に持っていったら使えませんからね」


「通信とか通話が使えないだけで、それ以外の機能は使えるよ」


 瑠依が両親に初めてねだったもの。それはスマホだった。

 今日は元々それを買うためにタケオとでかけたのだが、色々あって買えずじまいだったのだ。


「タケオくん、写真撮って」


「ああ、じゃあ並んで。3、2、1――」


 カシャっと瑠依のピンク色のスマホで撮影する。

 親子三人、仲睦まじい、とてもいい感じの写真になった。


「じゃあ、今撮影した写真をお父さんとお母さんのスマホにも共有するね。えーっと……タケオく〜ん」


「はいはい、ここ押して、あとは写真の共有って項目があるから――」


 ちなみに。

 異世界から地球に一時的に渡航しているタキオンとエルダがスマホの契約するのにはかなり問題があったのだが、それはタケオがカーミラの声音を使って総務省の秋月楓へと電話をし、特例ということで地球での身分を保証してもらうこととなった。


 これから毎月親子分のスマホ契約も維持していかなければならないので大変なのだが――


「おおおっ! ルイスと私たちの写真が!」


「まあ、これで向こうに帰ってからもルイスの写真が繰り返し見られるのね!」


「そうだよ、今度はお父さんのスマホで私のこと撮ってよ」


「むむ、よーし、お父さん頑張っちゃうぞ〜!」


 自分には家族が居ないから……そう言って家族割ができるヒト達を羨ましがっていた瑠依。でもまさかその日のうちに、本当の両親が現れて、スマホで家族撮影ができるようになるとは思ってもいなかった。今の瑠依は本当に幸せそうだった。


「迎えが来たわよ」


 楽しい時間が終わりを告げる。それを知らせにきたのは芽依だった。

 商店街の入り口付近のロータリーには黒塗りの高級車が横付けされていた。


「ではなルイス。また来るぞ。次はゆっくり飯でも食おう」


「健康に気をつけて、お勉強も頑張ってね」


「うん、今日は会いに来てくれて本当にありがとう」


 タキオン、エルダ、そしてその後ろに控えるキールと。

 商店街は多くの買い物客がおり、マクマティカーズとして有名になりつつある瑠依の姿や、猫耳のタキオンたちに注目が集まっていたが、皆空気を読んで遠巻きに眺めるだけだった。


 瑠依が異世界難民であることは知られており、つまり同じ赤猫族の壮年の男性と女性は……ああ、これはすごい場面に立ち会っているのかもと、誰もが心の中で察していた。


「おお、そうだ、忘れるところだった。タケオくん、これをキミに」


「これは……何でしょうか?」


 黒くて小さな木箱だった。

 まさか婚約指輪……ではないだろうな。


「大したものではない。家に帰ってから開けてくれ」


「はあ、ありがとうございます」


「では、さらばだ」


 そう言ってタキオン、エルダ、キールたちは車へと乗り込む。

 車内には既にリサと芽依が乗り込み、これから責任を持って見送りをするのだろう。


「はー……なんかすごい一日になっちゃったね」


「全くだな。さすがに疲れた……」


 特にタケオはキールと戦い、その後はずっとキールの相手をしていたので、ヘトヘトだった。ただまあ、キールは普通に友人として見れば面白いやつだ、とタケオは感じていた。


「ただいまー」


「ただいまかえりました、アリスさん」


「おかえりなさい、瑠依さん、タケオさん」


 荘厳荘に戻れば、夕飯の支度を終えたアリスが待ち構えてた。

 タケオも今日は戦闘をこなしたので、普通にカロリーのあるご飯を食べようと考えていた。


「あ、ついにスマホを買ったのね瑠依!」


「いいですね、最新型のスマホじゃないですか!」


「うん、いいでしょ。アドレス交換しよう!」


 瑠依は早速、アレスティア、そしてエウローラとスマホのIDを交換しあっている。


「あ、あのね、タケオくん。タケオくんともIDの交換、したいなあって」


「今更なに遠慮してんだよ。いつ聞かれるかと待ち構えてたわ」


 タケオのスマホ画面に表示されたIDをスキャンし、きちんと自分のアドレスに登録されたことを確認すると、瑠依は「やったぁ」と小さくガッツポーズをするのだった。


「あ、そういえばタケオくん、お父さんから何をもらったの?」


「さあ? 大したもんじゃないって言ってたけど、なんだろうな」


「開けて見せてよ」


 二人はダイニングテーブルに並んで座った。

 瑠依はタケオにグイグイと身体を寄せてくる。

 瑠依の距離感の変化に戸惑いつつも、タケオは渡された黒い木箱を開封する。


「な、なんだコレ!?」


「うわ、すごっ!」


 蓋を開けてみれば、中から出てきたのは、華美な装飾が施された――勲章だった。


「あら、それは獣人種の名誉氏族に贈られる勲章ですね」


 答えをくれたのは、料理を運んできたアリスだった。


「はい?」


「名誉氏族?」


「はい、列強氏族の方が大きな功績を挙げた獣人種以外の種族に贈る最高の栄誉賞です。私の夫も同じものを持っています。良かったですね、タケオさん」


 ニコっと笑うアリスだったが、タケオの内心は穏やかではなかった。

 これって実はとんでもないことなのでは?


「タケオ、よかったじゃん」


「さすがは兄さんですね」


 気楽な様子の妹たちに、タケオは「はあ」と頭を抱えるのだった。

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