第107話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑰ 幕間・おもしろ動画は異世界共通言語?
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『あっはっはっはッ――!』
荘厳荘のリビングに、朗らかな笑い声が響き渡る。
声を上げて腹を抱えているのは、なんとキール・ヴァイシオンだった。
『なんだこいつら! 傑作だな! わっはっはっは!』
彼の目の前には、テーブルの上に置かれたタケオのスマホがあり、そこには動画が再生されていた。内容はいわゆる『おもしろまとめ動画』だった。
おもしろ動画とは、和洋中、老若男女を問わず、誰もが楽しめる鉄板コンテンツ。ストレス解消に、仕事や勉強の合間の気分転換に、一日の癒やしのひとときなどに大活躍する動画である。
『次だ、次を見せろ! もっとだ!』
わずか10分ほどの動画が終わってしまうと、操作がわからないキールはタケオの肩を揺すって催促をする。タケオはもう都合5度目になる次の動画の再生操作に入った。
「ちッ、言葉がわからなくても見られるだろうと思った俺が馬鹿だった。まさかこんな笑い上戸なやつだったとは」
「もてなせ」、などといきなり言われ、とりあえず茶を出したタケオ。
『小腹がすいたぞ』と言いながら腹を擦るジェスチャーを見て、タケオは茶請けであるせんべいを出した。
『何だこれは! ビスケットではないのか!?』
どうやら魔法世界で言うところの甘い菓子だと思ったらしい。
一口食べたら固いししょっぱいしで、キールは吐き出した。
「もったいないな。吐いたのもちゃんと食べろよ」
タケオはせんべいを一枚取って食べて見せる。
せんべいは塩分と炭水化物が取れる上に低脂質なのだ。
なのでたまにせんべいの一枚くらいは食べるのである。
『むむ……むむむ……確かに噛んでみれば香ばしさが際立つ。塩気が強いと思ったが悪くない。何よりこの渋い茶と相性がいいな』
バリン、ボリボリ、ごくごく、と、キールのせんべい&日本茶のルーティンが始まったので、タケオはようやく静かになった、と思っただのが――
『おい、地球は魔法世界にはない文明の利器があるのだろう。なんぞ見せてみよ』
「あ? なんだって?」
もちろんだが、これまでの会話も全ては、キールは獣人種の言葉で、タケオは日本語で行っている。言葉は通じなくとも、キールの身振り手振りを察したタケオの気遣いにより、なんとかコミニュケーションが成立していたのだ。
とはいえ、あまりに複雑な要求が通じるはずもなく、いい加減面倒になったタケオはキールの言葉を無視した。
『貴様、俺の言葉がわからないのか!』
「なんだよ、うるさいな。あーあー、わからん、なにがしたいんだよ!」
『ぬぬぬ! 例えばこれはなんなのだ!』
「あ、こら!」
キールはよりにもよってアリスの牙城――キッチンへと駆け込んだ。
タケオは本気で肝を冷やす。アリスが旦那さんに作ってもらったプロ仕様のシステムキッチン、彼女の使い勝手を考えたレイアウト、そして愛用の調理器具や食器の数々。
もしそれらをキールが壊しでもしたら――
「やめろ! ダメだッ! こっちに来い!」
タケオはキールの首根っこを掴み、再びダイニングテーブルに座らせる。
そして彼の目の前に自分のスマホを横向きに置いた。
『なんだこれは? 手鏡か?』
「いいから、これでも見ておとなしくしてろ」
タケオは自身の指紋を押し付けてロックを解除。
アプリを起ち上げてユーチューブのトップ画面を表示させる。
『なんだこれは! 絵? いや、動いている!? こんな小さな手鏡の中にヒトが……!?』
まるで江戸時代から現代にタイムスリップしてきたようなセリフだったが、獣人種の言語なのでタケオにはちんぷんかんぷんだった。
案の定、キールは動画に夢中になった。
最初は有名クラシックのオーケストラ映像を見せた。
『おおおお……』と借りてきた猫のように静かになった。
次に映画『グルービーズ』の予告トレーラーを見せてみた。
『なんだこいつらは! 地球にはこんな奴らがいるのか!?』と目を白黒させながら、ハリウッドのスーパーヒーローたちに瞠目していた。
お次のジャンルにキールはドハマりした。
キールが腹を抱えて爆笑しているのは、いわゆるおもしろハプニング動画のまとめだった。
彼がさっきまで、おさるのおもちゃのように手を叩いて喜んでいたのは『無限シャンプー』の動画である。
シャンプーで泡立つ頭をシャワーで流している最中、背後に忍び寄った友人が、流すそばからシャンプーをふりかけ、洗っても洗っても泡が落ちない……という動画である。
そもそも異世界にシャンプーってあるのか、というタケオの心のツッコミも置いておいて、キールはこれに大ハマリ。腹が捩れるほど笑っていた。
面白さって万国共通――異世界共通なんだなあ、と、魔法世界出店を目標にするタケオは、貴重な事実を知るのだった。




