第104話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑭ 瑠依×タケオ・両親公認の結婚宣言!?
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「どうぞお上がりください」
「お邪魔する」
「失礼しますわ」
跪いたアリスさんが客用のスリッパをお父さんとお母さんの前に出し、「日本では屋内では外履きを脱ぐんですよ」とリサさんから教えられ、二人は素直にそれに従った。
今回、お父さんとお母さんが地球へとやってきた経緯は、剣の先生として招いていた芽依さんが地球に縁のあるヒトと知り、芽依さん経由で異世界難民の救済活動に従事しているリサさんへと連絡。二人でお父さんとお母さん、キールさんの案内をして日本にやってきたという。
「ただいまお茶をお持ちしますので」
「アリス、手伝うわ」
「あ、私も……」
「いえ、お二人は座っていてください」
手伝いを申し出た芽依さん、そしてリサさんだったが、笑顔のアリスさんにそう言われ、「そう?」「すみません」と引き下がる。
とっても気心が知れ渡った関係のような気がする。
……やっぱりこの三人は……そういうことなのか。
私は一つ、信じられない答えにたどり着いていた。
アリスさんのフルネームは『衣笠アリス』。
芽依さんも自分のことを『衣笠芽依』と言った。
そしてリサさんのエッセイの中に登場する結婚相手のイニシャルは『K』。
つまりそこから導き出される結論は――
「ルイス、息が荒いようだが、まさかまだ痛みがあるのか!?」
「大丈夫なのルイス!?」
しまった。いつの間にか「はあ、はあ……!」と息が上がっていた。
「ち、ちが、違うから……! もう全然平気!」
がらにもなく興奮してしまった。
だってだって、これってとんでもないことだ。
アリスさん、芽依さん、リサさんの旦那さんは多分同じ人。
あんなにキレイなお嫁さんが三人もいるなんて。
しかも違う言い方をすれば、ヒト種族、魔族種、そして獣人種と、異世界の多様な種族のお嫁さんをもらっていることになる。
アリスさんの旦那さんはこの荘厳荘のオーナーで異世界貴族という話だったから、さすがというべきか、とんでもないと言うべきか……その事実に気づいてしまったがゆえに、私は心臓がドキドキしっぱなしなのだった。
「顔が赤いし、息も荒い……本当に大丈夫なのか?」
「少しでも辛かったら言ってね。私たちはあなたの負担にはなりたくないの」
「お父さん……お母さん……」
私が一人で興奮しているだけなのに、こんなに気を使わせてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「違うの、気分が悪いとかじゃなくて……アレスティアちゃんの治癒が効きすぎちゃって、なんだか身体がポカポカしてるの。血の巡りもかなりよくなったみたい」
「おお、そうか、そういうことだったのか」
「本当、アレスティア様は将来いい治癒魔法師になりますわ」
ホッ……どうやら納得してくれたようだ。
ここからは少し自重しないとね。
今現在、私たちはリビングの中にあるソファセットに腰掛けている。
一番ゆったりと座れてくつろげる場所がここなのだ。
お父さんとお母さんが隣り合って座り、そしてその対面に私が座っている。
キールさんは先程からお父さんの背後に背筋を伸ばして立っている。
キールさんも一緒に座ればいいのに、と私は思うけど、従者としては主と同じ席に腰を下ろすなど以ての外なのだろう。
ちなみにタケオくんやアレスティアちゃん、エウローラちゃんは、ダイニングテーブルの方にいる。芽依さんとリサさんも一緒で、楽しそうな会話が聞こえてくる。
……ちょっと気になるんだけど。
年上好きのタケオくんにとって、アリスさん、芽依さん、リサさんと。それぞれタイプの違う超絶美人な女性が目の前にいるというのは、かなり心惹かれる状況なのではないだろうか。
あ。アレスティアちゃんとエウローラちゃんにタケオくんがほっぺたを抓られている。多分テーブルの下で足も踏まれてる。よかった。二人がいれば心配いらないね。
「お待たせしました」
アリスさんがお茶を持ってきてくれる。
しかもこれは、キッチンの棚の一番奥に置いてる一番いいティーセットだ。
なんでもオットー・レイリィ女王様から贈られたとっておきの品で、滅多なことでは使わないんだとか。
「ほう。これはいい品だな。お茶も……うむ、上手い」
「恐れ入ります」
「本当に素晴らしい仕事です。……それにしてもあなた、さっきからどこかで見たことがあると思っていたのですが……」
「いえ、私は単なる雇われメイドですので。積もるお話もあるでしょう。あとはごゆるりと……」
アリスさんはお母さんの質問をやんわりと躱しつつスススっと下がっていく。
アリスさんにはアリスさんの事情がある。そしてそれは他人が聞いてあまりおもしろい話ではないのかもしれない。気持ちを切り替える意味でも、私はお父さんとお母さんに話しかけた。
「それにしてもびっくりしちゃった。さっきまで獣人種の言葉を話していたお母さんが急に日本語がペラペラになっちゃって」
「ええ、すごいでしょう、これ。なんでも精霊の祝福が込められた不思議な黄龍石なんですって。これをつけているだけで、その地域ごとに最適な言語で話せるようになるみたいなの。龍神様が貸してくれたのよ」
それはとんでもない希少品ではないだろうか。
つまりリアルな翻訳こ●にゃくだよね。
「だが、それほど数は無いようでな。今回お前に会いに行くに当たって、二つ貸与されたのだが、キールのやつがな……」
そう言ってお父さんは、後ろに控えるキールさんをちらりと見た。
彼は無言で頭を下げる。言葉はない。何故なら彼の首にあった黄色い宝石のペンダントが、今はお母さんの首にあるからだ。
どうやら、お父さんたちは今日一日、荘厳荘を出たときからずっと私たち――私とタケオくんを監視していたようだ。
アレスティアちゃんとエウローラちゃんも、アリスさんの目を誤魔化すため、透明化して空を飛んで尾行していたという。そりゃあいくらタケオくんでもそんな大勢に一度に見られてるとは思わないよね。
そして私とタケオくんのやり取りを見ているうちに、一つの疑問が湧いてきたのだという。
「キールとの戦いを見て、彼がお前を守るに相応しい実力があることはわかった。彼ならば……うむ、いいだろう」
「ええ、そうね……あなたもだいぶ気を許しているようだし」
「ど、どういうこと……?」
私が戸惑いながら言うと、お父さんとお母さんはお互い目配せをして、コホンとわざとらしく咳払いをしてから口を開いた。
「タケオ・フォマルハウトくんとの結婚だ。お前ももう16歳。身を固めて、彼と一緒に我がヴァレリア家に帰ってきなさい」
「ええええええッ――!」
私は悲鳴を上げた。
悲鳴を上げたのは私だけじゃなかった。
アレスティアちゃんもエウローラちゃんも同じように悲鳴を上げていた。
当事者の一人であるタケオくんは、「ん?」とのんきにお茶を啜っているのだった。




