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第102話 ライバルと嫉妬と初恋篇⑫ ヴァレリア親子、感動の再会!?

 *



「双方それまでだ!」


 その言葉には力があった。

 有無を言わせず相手を従えてしまうような――そんな力強さが込められていた。


 声の主は一瞬にして道場内の空気を支配してしまう。

 実際竹刀を持って対峙しあっていたタケオくんとキールさんの動きが止まっている。


 私やアレスティアちゃん、エウローラちゃん、さらに城山さんや女子剣道部員たちもまた、道場の入り口へと注目していた。


 そこには偉丈夫(いじょうふ)……と呼べる男性が立っていた。


 精悍な顔つき。

 たくましい身体。

 見たこともない装飾に包まれた立派な鎧とマント。


 身長も190センチはゆうにある。

 そして最大の特徴が、大きな猫耳だった。


 尻尾……はマントに隠れているのか見えなかった。

 でも間違いない。あのヒトは獣人種。

 しかも体毛の色からして私と同じ赤猫族だ。


「タ、タキオン様――!」


 よろつきながらもキールさんはその場に片膝を着き、深々と頭を下げた。それが貴人に対する正式な礼であることは私もわかった。


「この勝負、そなたの負けだキールよ」


「いいえ、まだ負けてはいません。今一度、今一度立ち会えば、必ずやこの者を――!」


 キールさんの物言いは、傍から聞けばみっともない言い訳に聞こえるかもしれない。自分の負けを認めたくなくて、我がままを言っていると。


 でも違う。彼は必死なのだ。

 私をタケオくんたちの手から取り戻そうと自らの恥を捨て、敢えてこの勝負に拘っているのである。


「もうよい。そなたの忠節は十分に伝わった。我らのために感謝する」


「――ッ、もったいなきお言葉。身に余る光栄にございます」


 キールさんの声は震えていた。

 深々と頭を下げているため、その表情は見えないが、強張っていた肩や背中からフッと力が抜けるのが見えた。


「キール、立てる?」


「はい……あの、師匠……先程は――」


「わかってるわよ。普段あれだけ剣士然としてるあんただもん。自分以外の誰かのために戦っていたんでしょう」


「すみません……」


「はいはい。さ、剣道は礼に始まり礼に終わるんだから、並んで」


 そうしてタケオくんの目の前に再び立ったキールさんは、先程までとは違い、実にさっぱりとした顔になっていた。


「お互いに――礼ッ!」


 二人が頭を下げると、「わッ」という歓声と拍手が起こった。

 ことの一部始終を見ていた城山さんと女子部員たちがタケオくんとキールさんの健闘を讃えている。


 もちろん、私やアレスティアちゃん、エウローラちゃんも手が痛くなるほどの拍手を送っていた。


「今日は負けたが、次は私が勝つ。首を洗って待っていろ」


「嫌だね。俺はそもそも戦う人間じゃない。お前に勝った事実を胸に、生涯お前から逃げ続ける」


「な、なんだとぉ……!?」


 タケオくんの勝ち逃げ宣言に、キールさんは声を裏返して叫んだ。

 そのあまりの驚愕っぷりというか間の抜けた感じに、道場内は笑いに包まれた。


「さて……ルイスちゃん」


 ツカツカと、芽依さんが私の元へとやってくる。

 あ……そうだ。今まで見て見ぬふり――というわけではないが、あまりの出来事に私自身現実逃避をしていた。


 でもそういうことだよね。

 あのヒトが……入り口に立つあの大きなヒトが私の――


「戸惑うのはわかる。ましてや男親なんてどこも不器用なもの。ここは娘の方が歩み寄ってあげて」


「は、はい……!」


 ぽん、と優しく背中を押されて、私はトトっと進み出る。

 あのヒト――お父さんは動かない。

 まるで遠くの景色を見るような目で、私を見つめている。


 歓声に湧いていた道場内は、今やシーンとなっていた。

 私は……口から心臓が飛び出そうになっていた。


(…………す、すごいドキドキする!)


 これは初めてマクマティカーズとなって、お客さんの前で歌ったとき……ともまた違った意味で緊張する。


 そもそもなんて声をかけたらいいんだろう。

 15年間も会ってなかったお父さんに「久しぶり」なんて言うのは違うし、「はじめまして」というのも他人行儀すぎるし……。


 私は、タケオくんとキールさんが対峙したくらいの距離を隔てて歩みを止める。

 ジーッと、高すぎる背丈のお父さんを見上げれば、今度はお父さんの方が私から目をそらした。


 よ、よし、次にお父さんが私を見たら、思い切って声をかけよう。

 まずは「こんにちは」って言ってから――


「ルイスッ!」


 え!? っとなった。

 入り口の方――外から飛び込んできた一人の影が、あっという間に私の身体を抱きとめ、そしてそのまま――


「いだだだだだッ!」


 ものすごい力で抱擁された。

 まるで全身を(まさぐ)るように撫で回され、頬にキスの雨を降らせてくる。


 そして全く聞き取れない未知の言語でもって、何かを早口で言っている。たまに「ルイス」「〜ルイス」「おールイス!」と自分の名前を呼ばれていることだけはわかるのだが――


「ず――ずるいぞ! さ、最初は私が話をしてからって約束だったじゃないかエルダ!」


 ――エルダ? それって確か私の――


「ヨロ・ドロジー! ザラ・ルイズ・アフォルチュ!」


「だ、だからっておまえ……!」


 え、え? もしかしてこれは獣人種の言葉?

 魔法世界の獣人種語と日本語でお父さんとお母さんが会話してる?

 なんで成立しているのこの会話――


「ああ、もう! ルイス! 我が娘よ! よくぞ生きていた!」


「にぎゃああああああッ!」


 お母さんのハグだけでも痛い痛いだったのに、そこにお父さんも加わったら、私にとっては拷問も同じだった。


 結果、私は程なくして失神。「ルイスー! しっかりしろー!」というお父さんの叫びと、お母さんの号泣とが響き渡り、道場の中は再び修羅場と化すのだった。

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