表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/339

第10話 迷い猫をプロデュース⑩ 中庭の特訓

 *



「ひいひい、ぜえぜえ……!」


「ほらほら、何休んでる! 休憩は終わっただろう! 止まるな! ゆっくりでもいい、走り続けるんだ!」


 タケオの檄が飛ぶ。

 瑠依は広い中庭を走っていた。

 正確には走らされていた。


 白亜の豪邸。

 改めて明るい時分にタケオの家を見てみると、あまりにもすごすぎて瑠依はあんぐりと口を開けることとなった。


 広い。敷地がとにかく広すぎる。

 学校の校庭くらいあるのではないだろうか。


 そこは全面芝生になっていて、所々に散水用のスプリンクラーがあり、定期的に水のシャワーが振りまかれたりしている。


 芝生は風に揺れ、サワサワと音を立て、水のシャワーが捲き上げられると、陽光を反射して虹色に輝いた。


 ああ、いいなあ……と瑠依は思った。

 草の上に立っていると田舎にいた頃を思い出す。


 裏山には展望台になっている草地があって、そこは瑠依のお気に入りの場所だった。滅多にヒトが来ないそこでだけは、瑠依はウィッグを脱いで、猫耳を曝け出していたものだが――


「お前、絶望的に体力ないな。たかが400メートルくらい走っただけなのに」


「ひぃはあ、ふう、へえ……だって、私、今まで運動なんて、したこと、ない……!」


 本当である。正体がバレるのが嫌で、田舎の小学校でも、ずっと体育は見学だった。プールにも入ったことはない。修学旅行や合宿のたぐいも行ったことがなかった。


「まあ最初はこんなものか。そのまま日向ぼっこしてろ。ほれ」


「?」


 タケオが水筒を渡してくる。変わった形の水筒だ。瑠依はポン、と飲み口の蓋を上げて中身に口をつける。


「ううっ、なにこれ変な味……?」


「水に溶かしたEAAが入ってる」


「いーえーえー?」


「エッセンシャル・アミノ・アシッドっていってな。体内で合成できない必須アミノ酸だ。お前は栄養状態があまりよろしくないから、通常の食事以外にもサプリメントで補っていく。今朝の食事もタンパク質多めだったしな」


「そ、そうなの……?」


 まさか栄養面まで考えて食事を作ってくれていたなんて。タケオはへたり込んでしまった瑠依に説明を続ける。


「今こうして陽の光を浴びているのも意味がある。紫外線を浴びることで体内ではビタミンDが作られる。ビタミンDはカルシウムやリン、ビタミンが体内に吸収されるのを助けてくれる。朝食べた食事に含まれるタンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、カルシウムが今、栄養の枯渇したお前の身体に吸収されているんだ」


「へええ……」


 瑠依は感心してタケオの話に耳を傾けていた。

 なんだかそんな風に自分の身体のことや、普段口にしている食べ物のことを意識したことはなかったからだ。


 でも確かに、いつもなら少し動いただけで息切れをしているこの身体も、今は大分落ち着いている。あれほど荒かった息はすでに整い、体の奥から力が湧いてくるようだ。


「適度な運動、適切な食事、そして睡眠。これだけでヒトは必ず健康になれる。なれなきゃそれは病気だ。お前も一週間もすれば人並みの運動能力がつくだろう」


「う、うん……」


 それにしてもと瑠依は思う。

 タケオはどうしてこんなにいろいろなことを知っているんだろう。

 タケオとは一体何者なのか……。


 見た目がぶっきらぼうそうなのに、中身はぜんぜん違う。

 世話焼きだし、料理が上手だし、いろいろな知識を持っているし。


 もし昨日、タケオが屋上で引き止めてくれなかったら瑠依は今ここにいない。

 それどころか自分の家にまで泊めてくれて、瑠依がこれからもやっていけるように、根本的な解決方法まで提示してくれる。


(私は化け猫だけど、このままタケオくんの家の猫になっちゃおうかな……)


 昨日出会ったばかりなのに、もうそんなことを考えてしまうくらい、瑠依はこの場所は居心地がいいと感じ始めていた。


「おい、俺の話聞いてるのか?」


「え、あ、ごめん、なんだっけ……?」


 芝生の上であひる座りをする瑠依を、上からタケオが覗き込んでいた。

 あ、こめかみのあたりに青筋が……。


「休憩は終わりだ。一度お前の体力の底を見極める。というわけでランニングあと5本だ」


「ひえええっ!」


 私は今日死ぬかもしれない……!

 瑠依は足腰立たなくなるまで走らされるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ