50 毒虫姫の子等
「おい、ブラザー·····」
「分かってる·····」
前方の空を揺らめかせる蜃気楼を見ながら、不自然に足を止めた兄弟の言葉に答える。
「なんだよ、これ·····」
灼熱の空気を体内から追い出すように呟く。
俺達が目指している先で、何かが起きた────、
それを察知した直後、遥か遠くから、勝鬨の声が聞こえる。自分を誇るかのような、高く鋭い悠久の叫び·····。
『ォォオオオオオ──────』
「っ、なんだよ、これ!」
何が起きてる·····?なんの鳴き声だ。
·····酷く懐かしい。
しばらくの間続いていた叫びは、始まりと同じく、唐突に終わった。
「終わった·····?」
「なぁ、ブラザー」
「どうした」
不可解な顔で、自分の胸に手をやる兄弟。
「欲求が薄れてる·····?」
先程まで、唸るほど自分を主張していた〝上位世界を目指す欲〟が、不自然なほど鳴りを顰めている。
「もう少しゆっくり行ったほうがいい·····のか?」
「そんな気がする」
───本能もそうだそうだと言っています。
互いに顔を見合わせる二人の脳裏に、アナウンスが響く。
[《毒虫姫:カハルシア》が称号〝毒虫帝〟を取得しました]
[《毒虫帝:カハルシア》が《獣の王:ラルバ・ハルガ》から スキル〝天下獣躙〟 〝牙斬羅刹〟 〝索下覇者〟 を受け継ぎました]
[称号〝毒虫姫の系譜〟→称号〝毒虫帝の血統〟]
「·····!!」
何が起きてんだよ·····。
「ふむ、大体分かった」
おぉ、流石ブラザー、頼りになるぜ。
「恐らく毒虫系の上位悪魔が進化したんだろうな」
一体の悪魔が進化しただけで、遠く離れた俺達にまで影響あるのか?
「·····わからん」
「あ、そう」
まぁとりあえずは進もうぜ。その悪魔にも会えるかもしれない。
《称号:毒虫帝の血統》···毒・幻覚等の状態異常無効。毒・幻覚魔法の効果が1.5倍。
◇◇◇
なにやら仰々しいアナウンスは置いておく。
なんか毒虫帝とやらが俺の親である説が出てきたが、それも置いておく。ひょっとしたら俺と兄弟が、本当に兄弟である可能性も浮上したが、それもなんとか置いておく。
今は前方だ。
差し迫った問題としては、だんだんと近づいている蜃気楼だ。
蜃気楼と言っていいのか分からないが、俺たちの頭上の空気が揺らいでいる。
そして、空気を揺らがせている原因が、俺たちに姿を現した。
「·····ナマコ?」
「なんだそれ」
砂地にデンと、巨大な黒いなまこが立っていた。·····立っていたという表現はおかしいのか·····。
「ナマコってこれが起立してる姿勢だと思う?それとも寝っ転がってんの?どうなの?」
「知らん。·····ってか、なまこってなんだ。」
ナマコを知らない兄弟に、懇切丁寧にナマコの概念を教え込みながら、蜃気楼を吐き出す当の本人を見る。
巨大だ。体高は大体成人男性二人分位だろうか。横幅が大きく、間違いなく軽自動車よりデカい。真っ黒な肌は、遠目から見てもゴツゴツザラザラしているのが確認できる。
一応、何が起こるか分からないので遠目に見てみる。上位世界へくわけなので、いつもに増して経験値集めしておきたいが、油断大敵。いつどこでなにが爆発するか分かったものでは無い。·····カエルが電気砲吐く世界だからなここ。
しかし、最近めっきり経験値集めが足りていない。おかげでここ暫くの間、禁断症状として兄弟を経験値にしたくなるという極限状態にいりかけていたりする。·····経験値は取れるうちに取っておこう。
「殺るか?殺るか?」
「うーむ·····そのナメコって強いの?」
「ナメコじゃなくてナマコな?」
ブラザーからの思わぬ質問に頭を捻る。
Qナマコって強いのだろうか。
A,戦ってるところを見た事がない。そもそも戦えるのか謎。
「·····」
今一度、巨大なナマコを見た後に、互いに頷く。
「ヒャッハー!なまこォォォ!」
「ぶつ切りにして経験値にしてやるぜェェエエ!!」
茹だるような砂漠の熱気の中、世紀末のような奇声を上げる蜘蛛とサソリが、ナマコに襲い掛かる。
とてつもない絵面である。
「動かねぇなら遠慮なく行かせてもらうぜェェ!!〝斬撃〟ィィィ!!」
「ナメコこのやろォォ!!〝鋼鉄糸〟ォオオ!!」
「いや、だからナメコじゃなくてナマコな?」
ハサミの一振りで、宙を切り裂く斬撃が、相棒の鋼鉄の糸と共にナマコへと肉薄する。その鋭い切れ味に、ナマコの柔らかい肌は簡単に切り刻まれ────、
「ん?」
「あれ?」
二人の予想を吹き飛ばして、ナマコの肌が攻撃を跳ね返す。当たったはずの斬撃は、堅い物にぶつかった音を立てた。
「·····」
呆然と固まる二人の前で、ナマコがゆっくりと立ち上がる。
─────いや、ナマコではない。
ナマコは、まるでトラ〇スフォーマーのように、変形していく。細長い楕円からは、しっかりと鋭い足が。何も無いと思われた頂点からは、二本の細い触覚らしきものがぴょんと飛び出てきた。
「寝てたのに何すんだよお·····もおー·····」
ナマコではなく、カニだった·····。
「なぁ·····ナマコって動くの?」
「いや、これは·····蟹だな。」
もう何が起きても驚かない顔をしている二人の会話に割り込んで、蟹が訂正する。
「蟹じゃないです。いや、蟹なんですけども、蟹は蟹でも特別な蟹·····。」
カニカニうるせぇな。
「カラッパです。」
どうやら、砂漠でサソリと蜘蛛に襲われかけていたナメコじゃないナマコは蟹で、でも蟹は蟹でも、特別なカラッパだったらしい·····。
「·····なんそれ。」
50話突破。
読んでくれてありがとう(迫真)。
細々ながら今後も更新し続けるつもりです。
ブクマ、イイネ、高評価を貰うと更新スピードが上がります·····(当社比)




