41 フクロウ
森の奥からまばらに駆けてきた悪魔達と、バッタの大群が激突する。
敵の悪魔達の小さな群れが、キシキシと羽音を立てるバッタの大群に覆われて、血飛沫が宙を舞う。
あっという間に、その鋭い牙で獲物を喰らい尽くしたバッタ達は、立ち止まることなく行進していく。
「強い·····」
これなら勝てる。
自軍の桁違いの数と力に、心強さを感じていると、木の上を飛んでいるオニオオハシが叫んだ。
『来やがった!フクロウや!わっしゃ隠れまっせ!こら思ってたよりあかんですわ、殺されるさかいに!』
慌ただしく叫び、肩のカメレオンの力を借りた、オニオオハシがスッと姿をかき消す。
どうやらフクロウが来たらしい。
羽音が、聞こえた気がした───、
その直後、周りの空気が体にのしかかる。
「グッ·····!」
目の前のバッタの大軍達も、皆一様に、地面に縫い付けられたかのように動けない。
バサバサと、重い羽の音を立てて、木々の奥から〝フクロウ〟が姿を現す····。
太い木の枝を、離れていても見える程、大きく鋭い爪でガッチリと掴み、体を震わせる。
毒々しい程の紫の体毛を、真っ黒な分厚い嘴で毛繕う。
そして、大きな真紅の目玉が俺を射抜いた。
『見たことの無い顔だ。新参か』
ズシリと重さをましたプレッシャーが、自分の甲殻に食い込む。
不味いな·····。大丈夫だろうか。
もう少し先の地点·····フクロウの寝床である場所でゴリラ達と合流して、その地点でフクロウを倒す計画だったが····。
先にこちらが補足されたらしい。
ホッパー隊は羽の音でバレるからわざわざ別行動にしたのだが。
ゴリラ達も直ぐに気づくだろうが、合流には少し時間がかかりそうだ。なんとか時間を稼がねば。
『しかし無謀な事をするものだ。雑兵を幾ら集めた所で、あの御方には勝てない。』
「·····俺はそうは思わないぜ?」
格上狩りは夢がある。
ゴリラなら勝てるはずだ。·····理由はゴリラがゴリラだからだ。ゴリラが強いのは常識だ。
『何か勘違いをしているようだな···。あの御方はただの悪魔では無い。』
首をゆっくりと、ぐるりと、真後ろに回転させたフクロウが続ける。
『正統なる《獣王》の継承者の一人だ。』
·····なんだそれは。
『貴様とて悪魔の端くれ。《獣の悪魔》位は知っているだろう。』
·····いや、知らんて。
『·····。特性を持つ強力な上位者には、冠が付けられる。』
上位悪魔の中でも更に強い悪魔は、特別な名前がつけられるのか。
『数多いる絶対者達の中でも特に強大で残忍、今までいくつも猛者達を喰らってきた別格の力を持つ悪魔·····《獣の王》。お前達が戦おうとしているのは、そんな王の子供なのだよ。〝獣の王子〟と言った所か』
獣の王·····強そうだ。経験値も多そうだな。
しかしそうか·····やはり名の売れた者というのが居るらしい。俺の《毒虫姫の系譜》ももしかしたら·····?〝虫の女王〟でも居るのかもしれない。·····王蟲みたいな。
『あの御方は王の末の子。一度上位世界で敗北を喫し、この森で傷を癒しているが、この程度の場所で終わる悪魔では無い。貴様ら有象無象とは格が違うのだ。』
フクロウと俺を結んだ線から、直角になる方向──森の奥から、何か大きく重いものが駆けてくる。
それを知って、フクロウがゾッとするような笑みを浮かべる。
俺たちに虎悪魔の解説をしながら、テレパシーで虎の悪魔を呼び寄せていたようだ。
『貴様らの仲間がどれほどいるのか分からぬが、所詮負け犬の集まり。未来の王の餌となるがいい』
「生憎だったな····」
「?·····!?」
黒い大きな影が、フクロウの方へ飛び出す。
どんな作戦を立ててるか分からない俺達に、慎重な性格のフクロウがまともに戦ってくれるか分からない。
だから、お前がボスを呼ぶのは分かっていた(ゴリラは)!
木々の上を見上げる。
だからこその、オニオオハシ。ここら一体のテレパシーは、全て彼の管轄下だ。
すごい勢いで飛び出した影が、大きく腕を振りかぶり、殴る。
目を見開くフクロウの顔面に、ゴリラの特大パンチがめり込む。
盛大に枝を折りながら吹き飛ぶフクロウに、拳を振り切ったゴリラが告げる。
『一つ訂正しておく。確かに俺は一度負けた。だが、立ち向かい続ける限り、俺達は負け犬ではない。』
『お前らごときが···叶うものか、後悔する事になるぞ·····雑兵共めが!』
分が悪いと判断したのか、フクロウが羽ばたき、逃げ出す。
だが、退路を塞ぐように待ち構えていたリス様の投げたナイフが、翼に突き刺さり、地面に落ちる。
直ぐに立ち上がるも、目の前には右腕を振りかぶるゴリラが居て·····
『俺達は負け犬でも雑兵でもない。強いて言うなら、〝反逆者〟だ。』




