29 かわずのいかづち
「土遁!」
水気の多い沼地の泥が体を覆う·····。
〝土遁〟は地面に潜り、地中に潜伏するスキルだ。
通常の使用法は獲物の待ち伏せだが、魔力を払い続ければ土の中を移動することもできる。
何も見えない暗闇をかき分けて進む·····
だんだんと周囲の土が固くなっている····。
蛙の重みで踏み締められているからだろう。
なら·····カエルはこの上だ·····
スキルを解除して、地上に跳ね上がる。
右の鋏を振って斬撃を──────
目の前に、舌があった·····。
プロボクサーの右ストレートが顔面に当たる瞬間····その例えが1番近いと思う。
ただ打たれる覚悟を決める····そのためだけの時間·····。
グシャリと嫌な音がした─────
顔を覆う甲殻が砕けたのを感じながら、痛みがくる前の一瞬を空中で過ごした。
吹き飛ばされた体が、沼地の柔らかい地面にめり込む·····
あぁぁぁぁ痛てぇぇぇぇッッ!
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ステータス〔簡易〕
パルスコピオン Lv14
HP 143/610
MP 658/720
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これ、死ぬかもしれん·····。
数字に示された確かな死の宣告。
一撃で瀕死に追い込まれた····こんな奴、勝てんのか?
霧の奥で、蛙の赤い目が光る。
『やるしかない····』
結局はそうだ·····。
どんな事でもやるしかない、生き残る為なら。
勝ち目なんて見えないし、作戦もクソもない·····でもやるしかない。
一発····死ぬ気で一発、絶対に当てる!
メキメキとアルミ缶の様な音を出す体を軋ませて、立ち上がる。
全身が痛い·····ありきたりな言葉だけどよぉ、痛いって思える内は、生きてるって事だよな·····。
『 硬化 そして 斬撃 !』
二つのスキルを同時に尻尾に掛ける。
中々に難しい、曲を聴きながら同時に別の曲を歌う感覚だ。
スキルを使って青白くなった尻尾を確認して走り出す。
早く····より早く····
速度を出すために、折れて役に立たなくなった一番後ろの足を鋏で切り落とす。
痛ってぇ·····。
虫って痛覚あったんだな·····そんな事を思いながら紫の霧の中を突き進む。
舌はまだこない·····。
突然、霧が晴れた。
よしっ、いける!
·····?
遂にカエルの全身を捉えた·····
丸みを帯びたカエルの表皮に、小さな稲妻が走っている·····
もしかしなくても──────帯電してる?
·····やばくね?
カエルの大きな口が開く。
その様子にカパリと音を立てたかのような錯覚を覚えながら、走る向きを変える。
あれは不味い·····。
早く遠くに逃げないと·····。
直角に開いたカエル口から、真っ白な雷のビームが見えた。
あ、無理だわ、これ。
そう思った瞬間、何か大きな黒い物が視界を塞いだ。
それと同時に、沼地が抉れて焼かれていく音が聞こえた。
·····は?
めちゃめちゃデカいゴリラが、光線をせき止めていた。
カエルの優に三倍はある体躯が、光線を受けて少し地面にめり込む。
え?デカすぎじゃね·····?




