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ファイッ!

 それから四日間、俺はみっちりとモカさんに訓練をつけられた。


 レオの練習に付き合わされていた時とは、密度が違う。


 朝5時に起きて、そこからみっちり2時間、稽古をつけられて、学校が終われば夜の9時までひたすら特訓。


 当たり前のように初日から筋肉痛になり、打撲や打ち身は当たり前。


 全身痛めつけられて、それでも学校をサボることは許さんとばかりに、モカさんの家で飯を食わされたあとは追い立てるような勢いで登校させられて。


 鬼かコイツは、と思わなくもなかったけれど、でも。


「ほんっと……面倒見いいよな、モカさんは」


 モカさんの家からの帰り道。俺は夜空を見上げて、そう呟く。


 朝早くから夜遅くまで。自分のやることだってあるだろうに……ここまで付き合ってくれるとは、さすがに俺も予想外だった。


 こうして、俺がモカさんに訓練をつけられている間も、岬は学校をずっと休んだままだった。


 そのこと自体に驚きはない。喘息の発作を起こして、一週間以上立て続けに学校を休むことは、これまでだってよくあることだったから。


 とはいえ、それは心配しない理由にはならない。今も彼女が、家で苦しそうにしているかもしれないと思えば……なにもかも投げ出して様子を伺いに行きたくなる。


 きっとそうすれば、岬は喜んでくれる。おっさんだって美汐さんだって、温かく迎え入れてくれるのは分かっている。


 でも。


(それじゃ、俺はなにも変わらないんだ)


 ちゃんと変わりたい。これまでの自分に、決着をつけたい。


 それができなければ、俺はいつまでも、岬からも、自分からも……逃げ続けてしまう気がするから。


(逃げない俺に、生まれ変わるんだ……)


 ――本日、土曜日。


 レオとの喧嘩(・・)は、ついに明日にまで迫っていた。


  ***


 ――そして、翌日。


 冴島ジムの、リング上。


 俺もレオも、手にグローブをはめた状態で……喧嘩の開始を待っていた。


「よう、レオ。悪いな……わざわざ時間取らせて」


「いいや? オレもいい加減、ムカついてたとこだしな」


 余裕の表情で、反対側のコーナーにいるレオが口を開く。


「ムカついてた……か。正直、返す言葉もねえよ。だから……」


 俺は、モカさんから教わった通りのフォームで両拳を上げて、構える。


「お前を、ぶん殴る」


「上等」


 ニッ、と笑って、レオもまたグッと左右の拳を上げた。


 そんな俺たちの準備が整ったのを確認して、レフェリー役のモカさんがスマホでタイマーを起動する。


「そんじゃ、ま、試合のルールは守って――あとはガキらしく仲良く喧嘩しな」


 そう言いながら、モカさんは指でスマホの画面をタップしながら、試合の開始を、


「レディ――ファイッ!」


 ――告げた。

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