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異世界実況、始めました  作者: 六狗
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一、目が覚めたら異世界に居た。  っていうくだりは在り来りすぎやしませんか?

初めまして、六狗と申します。

稚拙な作とは存じあげておりますが、今の自分の想像力が「小説家になろう」というこの場でどれだけ通用するのか。試したくなった次第でございます。

どうぞ、ごゆるりと彼女らの実況をお楽しみ下さい。

 題:『異世界実況、始めました。』


 一、目が覚めたら異世界に居た。

 っていうくだりは在り来りすぎやしませんか?


「…ん、んぅー。小雪ぃ、吹雪ぃ、電気消して…体内時計はまだ六時だからぁ…」

 

 同じ布団で寝ているであろう妹達に対して声を掛けながら、二度寝をしようとして布団を掴んで上まで上げようとする。

 が、布団があるであろう場所に手をやっても布団を掴むことは出来なかった。

 妹達が布団を全部引っ張っているのだろうか?目を開けて見てみた。


「………は?え?ここ何処?俺の布団は?小雪は?吹雪は?」


 -トンネルを抜けると、そこは雪国だった。

 …という訳ではないが、目を覚ますとそこはだだっ広い草原だった。見渡す限り、草。前を向こうが、後ろを向こうが草。なんだこの状況。まじ草生える。


「…生えねぇよ!」


 つい一人でノリツッコミしてしまうレベルで混乱してきた。という訳で少し落ち着きたいと思う。そのためにまずは昨日のことを思い出していこう。


 〜雪音が異世界に飛ばされる前の日〜

 

「-後はエンコして…。よっしゃ!編集完了っっっ!!!」


 向かい合うPCの画面に『エンコード完了まで:残り一時間』という窓が表示された。

 後はこの長い時間を待って、エンコが終わり次第アップするだけだ。

 キャスター付きの椅子の背もたれを利用して思いっきり伸びをする。この伸びをする時、ちょっとだけ背もたれが弾む感触がお気に入り。


「今何時だ?…うぉ゛、十三時間編集」


 壁に掛けられた時計を見ると時刻は午後六時だった。朝の三時頃から編集を始めたから、十三時間、ほぼぶっつけで編集してたことになる。

 …よく続いたな、集中力。


「雪ねぇー。編集終わったのー?」

「えっ、あぁ、小雪か。…って、雪ねぇって言うなよ」


 タイミングよく扉を開いたのは二人いる妹の片割れ、小雪。黒髪のツインテールがトレードマークの中学二年生。

 

「えぇー、だって、雪ねぇ、女の子みたいな格好してるじゃんー」

「これは小雪が選んできた服だろ!」

「いやー、雪にぃに似合うかなって」

 

 ほにゃーっと笑う小雪。

 因みに今着てるのは、薄手のワンピース1枚と下着だけ。(下着は男物。悪ノリで買われかけた時、全力で止めた)

 このワンピース、実は誕プレとして小雪から渡されたもので、好意を無下にするわけにもいかず、結構着てたりする。

 とは言っても俺にそんな趣味はなく、編集作業をする時は薄手で軽い服を着たいから、着ているだけだ。

 …幾ら妹からの贈り物だと言っても、袖に腕を通してる時点で相当末期な自覚はある。


「まったく…。たまには男物の服を見繕ってきてくれよ。俺よりファッションセンスあるんだから、俺に似合う服くらい分かるだろ?」

「いやー。女性物が似合うんだから、女性物以外考えられないよー。希少価値も併せて考えないといけないもんー」

 

 希少価値?貧乳のことかな?らき〇すたの誰かが言ってた気がする。


「その伏せ方はアウトだよ、雪にぃ」

「さぞ当然の如く心を読むんじゃない。ビックリするだろ…」

「って、雑談してる場合じゃ無かった…。雪にぃ、ご飯だよ」

「え?後一時間あるだろ?今六時な訳だし」


 ウチの家ではいつも七時に夕ご飯を食べる。この習慣が崩れた事は一度たりともない。


「え?…あー、その時計、一時間遅れてるよ?」

「…マジ!?やべぇ、吹雪がマジギレする!!」

「うん、もう怒ってるよ?…辺りにあるものを全て凍てつかせる冷気を発しながら」

「喋ってる場合じゃねぇ!ほら、早く行くぞ小雪!」


 未だドアの近くに立っていた小雪を直ぐにお姫様抱っこして、階段を駆けおりる。

 妹をお姫様抱っこするのはどうかと毎回思うが、毎回小雪が嬉しそうにしてるのを見ると、ついやってしまう。

 息を切らしながら小雪をおろして、リビングの扉を開けた。


「…雪ねぇ、遅い」


 俺達がリビングに入るなり、料理が並んだテーブルに備えられたベンチ型の椅子に座るもう一人の妹が冷気を放ちながら呟いた。

 もう一人の妹の名前は吹雪。黒髪のサイドテールが特徴の、小雪と同い年の中学二年生。

 その歳にして既に母親である粉雪から家事スキルを完璧に受け継いでいるしっかり者。

 なお、今夜は両親が不在なので料理を作ってくれたのは吹雪だったりする。

 え?俺と小雪ですか?戦力外通告されましたよ。寧ろ、どっか行く事で戦力として仕事してるって言われたぐらいだよ、畜生め。


「ご、ごめんな吹雪」

「…いっつもそう言ってる」

「も、もうしないから」

「…それもいつも言ってる」

「うっ…」


 ことごとく謝罪の言葉が潰されて言葉に詰まってしまう。

 実はウチの家族の中で一番怒らせたくないのが吹雪だ。

 普段からの冷静な性格が、的確に言葉を潰していく。まるでその様子は獲物をじわじわと追い詰める狼のよう。

 その狼こと吹雪は、溜息を一つ吐く。


「…確かに実況が楽しいから熱中するのは分かる。でも、それで熱中して私達を蔑ろにしないで欲しい…。忙しそうにしてる雪にぃとゆっくりと話せる機会なんだから」


 そう、吹雪は言った。それに同意するように頷く小雪。

 今の吹雪はクールと呼ぶに相応しい性格をしてる。でもそれは、昔甘えん坊だった頃の裏返しで、彼女が何を想ってクールになったのかは分からないが、本質は変わらずに甘えん坊のままだ。でも俺には滅多に甘えてこない。小雪は今も昔も変わらず、甘えん坊だ。だから、吹雪よりは俺に甘えてくる。でも、甘える時はいつも俺が暇そうにしている時だけだった。

 本当に俺はダメな兄貴だ。まさか妹達にその心配されるぐらい妹達と接してあげられなかったらしい。


「ごめん吹雪、小雪。別に二人共を蔑ろにしてるつもりはなかったんだ。でも二人がそう思ってたなら、そうしてるのと変わらないよな…」


 そう言ってから、突っ立ってる小雪を手招きして吹雪の隣にすわらせる。

 座ってる小雪と吹雪の目線を合わせるように少しだけ屈んで、その二人の頭を撫でながら言う。


「寂しい思いさせてごめん。俺はどうやら兄貴失格だな。その罪滅ぼしって訳じゃないけど、俺と遊びたい時とか何時でも来て良いぞ。ってか、寧ろなんで来ないのかと思ってたぐらいだしな」


 苦笑いしながら二人に言う。

 まさか編集中に誰も来なかった理由が俺に気を遣っていたからだったとは。

 本当によく出来た妹達だと思うが、もっと聞き分けが無くてもいいと思う。少なくとも、兄貴ぐらいには。


「…ほんとに?」

「あぁ、勿論。兄貴が妹達と遊べて嬉しくない訳ないだろ?」

「…そっか」


 吹雪は嬉しそうに、そして恥ずかしそうに俯いた。その様子を見ながら、吹雪の頭を撫で続ける。勿論、小雪の頭も撫でている。

 そんな吹雪の様子を見て、小雪が声を掛ける。


「良かったねー、吹雪。作戦だーいせーいこーう、だね」

「…うん。大成功」

「へー、大成功だったんだー。因みにどんな作戦なんだ?」

「雪にぃを騙して、何時でも一緒に遊べ…る…ように…する、作戦…かな?」

「…あ」

「ばーか」

 

 明らかに「やべっ」っていう顔をしてる二人に軽めの手刀をおでこに当てる。軽く、ぽんっていうぐらい。決して本気じゃない。


「一々そんな事しなくても、俺とお前らは兄妹なんだからさ。言えば幾らでも遊ぶっての」


 その当てた手刀を二人の頭を撫でる手に変える。

 二人はどうやら怒られると思ってた様で少しビックリした表情を浮かべている。

 寧ろ可愛い妹達の悪戯に怒れる訳がない!

 よくよく考えて欲しい。俺の気を引こうとしてやった事だ。可愛すぎて萌えるわ。

 …かなり心臓に悪かったけどな。でも、可愛ければ結果的に良きです。はい。


 二人は小さな声で、ごめんなさいと呟いた後、俺に抱き着いてきた。いや、可愛すぎかよ。キュン死するわ。


「さ、冷めない内にご飯食べよう。折角、吹雪が早めに作ってくれたんだからな」

「「うん!」」


 こうして、少しだけ早い夕飯を三人で食べるのであった。

 余談ではあるが。ウチのテーブルにはベンチ型の椅子一つと対面に一人がけ用の椅子が二つ置いてあって、五人の時は俺ら兄妹はベンチに三人で座って、両親がそれぞれ対面に座る。そして三人で食べる時には、二人をベンチに座らせて俺は一人がけの方に移るのだが、今日は三人でベンチに座って食べた。

 更に今日は甘えん坊モードなのか、二人とも中央に座る俺の膝に座っていた。左膝が小雪で右膝が吹雪。

 正直、食べ辛いことこの上無かったが、二人とも甘えたいみたいなので何も言わずに食べた。流石に二人が食べ終わり次第膝の上から降りてもらったが。


「ご馳走様でした」


 箸を置いて手を合わせる。

 食べる前と後でしっかりと挨拶をするのは当たり前。それがウチの家族で誰も破ってはいけない不文律。

 例えどれだけ忙しくて余裕が無かったとしても、他の命を貰う訳だから礼儀を正さねばならないし、折角料理を作ってくれた人にも失礼だからだ。


「…ふふ。お粗末さまでした」

「いやー、にしてもよく食べたねー?雪にぃ?」

「し、仕方ないだろ?全部俺が好きな食べ物だったんだから!…しかも、母さんの味よりも俺好みだったし」

「ふふふ、ちゃんと調べたから」


 正直、ここまで吹雪が料理スキルを上達させてたとは思わず、いつもの二倍以上食べてしまった。

 なお普段は一人でご飯二、三合は食べる。

 …あれ、よく良く考えたら五人家族の一食分のご飯を丸々食べた事になるんじゃ…?


「やべぇ、これは食べ過ぎた。父さんと母さんに怒られる…!」

「大丈夫だよ?今日は雪にぃの大好物ばっかり作って悪戯したお詫びをするからっていう理由で、雪にぃがいっぱい食べれる安いお米を買ってきて貰ったから」

「あ、そうなんだ。道理で小雪と吹雪の分が炊飯器からじゃなくて、冷蔵庫から出てたんだな」

「ふふふー。雪にぃはいっぱい食べる時は食べ過ぎて、ウチの食費の大半を消し飛ばすから、もう慣れたよねー。吹雪もお母さんも流石だと思うー」

「…ほんとに至らない兄貴ですみません」

「大丈夫。いっぱい食べてくれるのを見るのは、作った人からしたら気持ちいいから」

「そんなもんなのか?」


 なんて会話を交わしつつ、手際よく皿を片して洗っていく。

 流石に戦力外通告を出されたとはいっても、皿洗いはプロ級だと料理が出来る二人からはお墨付きを貰っている。

 …あまり嬉しくないプロ級だが。

 という訳でぱっぱと終わらせて、リビングで一息吐く。

 なおその間も二人とも俺にべったりしてたりする。…いや、ほんとにどうしたの?


「雪にぃ、そういえば今日仕上げた動画ってどのシリーズの?」

「オープンワールドのFPSだよ。画質よし、機能よし、難易度よしの三点セットで、大体の銃が撃てるんだけどさー」


 長々と話し続ける。このFPS『desire』は本当に凄い。オープンワールドでだいたいなんでも出来る。沢山の種類の銃が撃てる上に自由にカスタマイズができる。その上NPCは倒しがいがあるし、ストーリーも割と秀逸。また、オンライン要素もCOOPからPVPまでなんでも揃ってる、近年稀に見る神作ってやつだ。

 因みにdesire(願望)と名付けられた理由は製作者の願望を大量に詰め込んだからという最高に共感したい理由で付けられており、それもゲーマー的にはポイントが高い。


「…ふふ」

「ふふー」

「…あ、すまん。つい熱が高まりすぎて話し過ぎた」


 妹達が微笑ましいモノを見るかのように見つめてくる視線がちょっと恥ずかしい。


「三人でも出来る?」

「え?あ、うん」

「ふふー、じゃー、皆でやろー?」

「え、でも、二人ともFPS嫌いじゃ…?」

 

 俺の記憶が正しければ、二人ともあまり競う系のゲームは得意じゃなかったし好きじゃなかった筈だけど。


「…ううん。寧ろ好き、だよ?」

「そーそー。今日も二時間ぐらいはやってたしー」

「マジ!?昔、俺と戦った時は嫌いだって言ってコントローラー投げてたけど?」

「それは…その」


 吹雪がちょっと恥ずかしそうに俯いてる。

 え?あの行動って、FPSが嫌い以外の理由があったの!?

 言い辛そうな吹雪に代わって小雪がそのタネを語る。


「いやー当時は雪にぃが好きすぎて、幾らゲームでも戦うなんて出来ないっ!…ってなってたんだよね。私もだけどー」

「何その理由。可愛いか」

「…で、でも。今はもう大丈夫だもん。だけど、今日はCOOPしよ…?」

 

 多分俺と戦う事にはもう抵抗はないけど、あまり気が進まない…ってとこかな?

 っていうか予想以上に理由が可愛かったし、俺もFPSが好きだから結構嬉しい。

 という訳で俺の部屋で結構長い時間、三人でdesireを遊んだ。

 …なお、その中desireのプレイはまた別の機会に実況動画として投稿させて貰うことにする。ただ一つ言うとするなら、小雪のガン=カタの殲滅力、吹雪の砂の狙撃力はヤバかった…。


 desireを遊びまくって、現在午後九時。もうそろそろ寝てもいい時間だ。

 すっかり忘れてたが、朝の三時から起きて今までフルで活動しており、結構眠い。

 うっかり、二人の前で大きな欠伸をしてしまう。


「雪にぃ、眠いの?」

「ん、あー…。まぁ、そこそこな」

「嘘だねー。結構眠そうな感じだよー?」

「はは、バレた…。今、結構眠くてさ。風呂を一パスしたいレベルなんだよね」

「雪にぃ、駄目だよ」

「わ、分かってるよ。という訳だから、二人共、先に風呂に入っちゃいな。俺は最後の風呂に入るからさ」

「えー?じゃあ一緒に入ー」

「勘弁してくれ。流石に中学二年生と高校二年生が一緒に風呂に入るのはヤバいから」


 そんなこんなで、ごねる小雪と吹雪をどうにかこうにか宥めて言いくるめて。二人を風呂にぶち込んだ。…二人共力強くて結構危なかったわ。引きずり込まれるかと。

 リビングにあるベンチで少し横になる。横になった瞬間から睡魔がじわりじわりと近寄ってきたのが明確に分かる。めっちゃ瞼が重い。

 

「あー、仮眠とろ。って事で…」


 自分のスマホのメモに風呂から上がったら起こして欲しい旨だけを書いてスクショ。それをロック画面の画像に登録してテーブルの上に置いておく。これで二人に起こして貰えなかった時の予防策は貼れただろう。尤も、あの二人なら普通に起こしてくれそうな感じはあるけどね。

 という訳で瞼を閉じて、そのまま睡魔に流されるままに眠りに落ちた…。




「やぁ、こんばんは…かな?それとも、おはよう…かな?」

「え?どちら様ですか?」


 気が付くと俺は真っ暗な空間にいて、目の前には一人の女性が俺に話しかけてきた。

 髪が腰ぐらいまであって金髪の女性だ。例えるなら海外のグラマラスなモデルみたいな体型で、一度見たら忘れられない程の美しさだった。

 …まぁ、ウチの妹達のが上ですけどね。


「今、失敬なことを考えただろう」

「気のせいじゃないですかね」

「ボクは心の中が見えるからね。それを踏まえた上で発言するといい」

「ウチの妹達のがお前より圧倒的に可愛い。という訳でチェンジ」

「この状況で普通は開き直らないぞ!?」


 なんだこの人、弄り甲斐が満載すぎて割と好感が持てるんだが。

 まぁそんな事は置いといて。


「で、人の夢にまで来ちゃう謎の人。なんの用?」

「な、謎の人じゃない。ボクは神様なんだよね!君のいる地球とは違う世界の!」

「あー、そうなんですねー。なんの御用でしょうか。お帰りはあちらになります」

「ちょっと!何速攻で帰らそうとしてんの!?ちゃんと用があるんだって!」

「あ、それでしたら、お引き取り願っても宜しいでしょうか?」

「意味が変わってないよ!なんなら帰れってハッキリ言っちゃってるよ!」


 むぅ。中々手強いな…。

 っていうか、もしかしてこの人の話を聞かなかったら一生このままで時が進まないんじゃ…?夢ってその辺自由だし。

 あのRPG特有の『右を選ぶまで終わりまテン』なのか…?いつも鬱陶しいと思うんだよな、あの手のイベント。


「ふふふ、という訳で君に用があるんだ」

 

 なんか主導権を握ってる事を俺が把握した瞬間から偉そうになったな。取り敢えず、滅茶苦茶大きな舌打ちでもしとくか。…話が終わるまで。


「で、その用はね。君をボクの世界に送りますというお知らせ」

「…流石に想定外だわ。え、何?最近の異世界放浪ってお知らせ式を採用してんの?」

「いや、普通に誘拐する訳にはいかないでしょ。当たり前じゃない?」

「いや、例えお知らせしてたとしても誘拐には変わんねぇよアホか」


 いきなり驚きで舌打ちを辞めるほどの重大な案件をぶち込まれた。異世界かぁ…。多少は夢に見てたけど本当にあるとはな。

 あとさ、異世界に誘拐するのって自力での脱出が難しすぎて下手な誘拐よりタチが悪いと思うんだが。なのに目の前のコイツは「頭、大丈夫?」みたいな目で見てきやがるし。なんで俺が憐れまれなきゃ駄目なの?おかしくない?


「ま、そういう訳だから。で、君にはボクの世界を実況して欲しいんだ。ボクの世界の人口を増やすために」

「実況は別に構わねぇが…。目的が解せないな。なんでそうなる?」

「それはねー」


 聞いた話を端的に纏めるとこんな感じだった。

 まず基本知識として、異世界間で輪廻転生が存在し、その為に魂の総量は変わらないんだそうだ。なお、魂というのは生物としての肉体に宿る非科学的なものらしく、人格とかだと思えば良いらしい。

 生命を終えた魂はその世界を管理している管理者の元へと行き、次の転生先を自由に選べるそうだ。(犯罪者は別らしいが)

 目の前のコイツ、ナズナの世界は数ある異世界の中でも人が少ないらしく、その人口を増やす為に俺に異世界のPVとなるような実況動画を作れ、との事だった。


「いや、あのさ。俺は地球出身の日本人な訳で。だから地球人の一部しか俺の動画を見れないぞ?」

「その辺は問題ない!管理者の間でも人口の過疎化は問題視されてるからね。管理者にその動画を渡せば、皆で布教してくれるよ」

「うわー…まさかの方法で視聴者大量確保すんのな。まぁとにかく言いたいことは分かったけど、俺はいつになったら帰れるんだ?この地球に」

「一つの大きな区切りが付いたらかな。例えば魔王的ポジションを討伐するとか」

「って事は下手したら数年後って事だな」


 実は俺個人としては乗り気ではある。しかし、問題は妹達と両親の事だ。そこはキッチリとして貰わないと話には乗れない。ついさっき一緒に沢山遊ぼうと言ったばかりなのに二人を放って異世界に行ってました、とか洒落にならない。兄妹の縁を切られてしまう。どうせなら妹達も連れて行けたら一番いいと思う。でも、どんな危険があるか分からないから容易に連れて行くなんて言えないし…。


「ふむふむ。だったらこういうのはどうだろうか?君と妹達の三人でボクの世界で実況する。そして三人には特典という事で、超超超強力なスキルをあげようじゃないか!しかも、そのスキルは此方でも使える様にしよう!これでどうだろうか!」

「破格過ぎて逆に怖いわ。っつかその辺は俺一人で決めていい事じゃねぇし、妹達と相談もしたい。だからここで一旦お開き…じゃ駄目か?」

「慎重なのは良い事だとボクは思う。…いい返事を期待しておこう。君が眠ればボクは君に会いに来る。もし妹達をボクとの話し合いに参加させたいなら、一緒に寝るといい」


 それだけを言うとナズナはこの場から解けるように消えていった。それを見届けた後、俺の意識は二人の妹達の声が聴こえてきたのを感じて、意識を浮上させた…。


「ーにぃ」

「ーにぃ。起きー」


 ゆさゆさと身体が揺さぶられているのを感じる。うっすらと目を開けると、髪にタオルを巻いた二人が俺の顔を覗き込んでいた。


「んん…。小雪?吹雪?」

「あ、やっと起きた」

「んー、随分と深い眠りだったんだね?」

「んーーー!あー、割と寝た気がする…」

「私達は上がったから、今度は雪にぃがお風呂に入る番だよ」

「へいへい。手早く入ってくるとしますかね。起こしてくれてありがとな、二人共」


 二人の頭をぽんぽんしてから、リビングを出て風呂へと向かう。

 俺はシャワーだけで十分な人だから風呂には浸からない。その事を二人は知っているのだろう。溜めてあった湯は抜かれて、浴槽は既に掃除された後のようだった。

 …仕事早いなぁ。


「あー、さっぱりした」

「あ、雪にぃ。お上がりー」

「おう、上がったぜ」

「…はい。雪にぃの好きな抹茶のWOW」

「お、サンキュー。やっぱり抹茶が一番だと思うね!」

「ふふふー。レモンの酸っぱさが風呂上がりには丁度いいんだよー」

「…苺以外は認めぬ」


 味の議論は毎回やってる事だから置いといて、三人でそれぞれのWOWを食べる。これ美味いよな。牛乳がそれぞれの味と完璧に合致してるのが凄い好き。

 食べてる間、二人にさっき寝てる時に話した内容を話す。


「-って事があったんだけどさ。二人はどうしたい?」

「んーんー…」

「………」

 

 小雪はスプーンを咥えたまま唸る。対して吹雪は黙々と苺のWOWを食べる。

 よくよく考えたらいきなり二人にそんな話をしても、頭のおかしい奴だと思われるわ。言ってて思ったもん。あ、俺ヤバいやつだって。


「いやまぁ、信じられないとは思うんだけど、こればっかりは信じてとしか・・」

「ううん、違うんだよねー。私達がこうやって黙ってる理由はー」

「え、そうなの?」

「うん。その人、ナズナは私達にも既に話した後だから、信用せざるを得ないの」

「あんにゃろ、人の妹達に手出してやがったのか…!叩き潰さねぇと」

「馬鹿なこと言ってる雪にぃは放っておいてー。問題は三人で行ったら、お父さんとお母さんが心配しないかどうかっていう話なんだよねー」

「…まぁそうだな。寧ろ、それが一番大事だ。二人に心配かける訳にはいかねぇし」

「因みにさっきRAINしたら、OKって返ってきたけど」

「マジかよノリ軽いなぁ…」


 というか吹雪の行動が早すぎる。さっき黙ってたのって多分RAIN送ってたんだろうなぁ…。

 後、母さんと父さんのノリがおかしい。普通、息子や娘がそんな事言い出したら黄色い病院に連れて行くレベルだと思うんだが…。

 でもやる事はもう決まってるのは良い。


「…お父さん達の許可はとった」

「私達二人はー、行く気があるー」

「俺も行く気はあるな」

「「「という事は、皆で行くしかないって事」」」


 本当にトントン拍子で事が進行していくのであった。このフットワークの軽さはうちの家族ならではである。

 今まであった中で本当に凄かったのは、海外旅行をその日の内に決定してそのまま海外へ行ったこと。準備?しませんでしたけど。寧ろさせてくれませんでしたけど?(泣)

 父さんの方が「速さと速さが勝負を分つ」とかいう謎持論を持つ人だからね。もうどうしようもなかったよ。


 という訳で三人で異世界へと向かう事になったのだった。

 そうと決まれば早速準備に取り掛かる。流石に海外旅行とは違って本当に何が起こるか分かったもんじゃないからね。

 …父さんが居なくてよかったわ。マジで。


「荷物は軽め。最低限の食料、必需品だけ持っていこう。カメラとノートPCは俺が持っていく」

「…じゃあ私が食料系を担当する。一応調理器具も最低限だけ持っていくね」

「じゃー私は衣類を…三着ずつね」

「テントは俺が持っていこう」

「後はソーラー充電器かな?」

「だなぁ。何処まで進んでるか分かったもんじゃないし…」

「電気があるって考えるのは、楽観的すぎるよねー。あ、スマホ持ってかなきゃ」

 

 着々と準備を進める。何故役割分担をしているかと言うと、三人がバラバラな荷物を持っていくよりはハッキリさせた方がいいと思ったからだ。

 そして準備が終わり、荷物を自分達の近くに置いておいて、これから寝ようと思った。

 当然三人で固まって眠るのだが、如何せんシングルに対して三人で寝る訳だから、猛烈に狭い。

 という訳で何故か俺の上に妹達が乗っかるように寝るのがベストだという結論が出た。

 あの。俺でもちょっと二人分は辛いんだけど的なことを言おうとしたら二人とも目をうるうるさせて、悲しそうにコッチを見るの。

 もう無理なんて言えないよね。うん。


「やぁ、さっきぶり」

「…だな」

「あー、ナズナー」

「…やほ」


 という訳で例の空間には、ナズナと俺達兄妹三人が揃った。しかし、あれだけ準備してきた荷物はこの空間の何処にも無かった。

 取り越し苦労パターンとみたよ、俺は。


「さて、と。話は纏まったかな?」

「三人で行く事は確定したんだが…。おいナズナ。ウチの妹達に先に手回ししとくとか良い根性してんなぁ、おい?」

「ふふ、交渉の基本だよ。というか元々三人とも呼ぶつもりだったしね」

「…なんで?」

「そりゃそうだよ。昔は二人組で送ったんだから次は三人組を送るのが世の常だよ」


 二人組?もしかしたら、俺達のように交渉を持ち掛けられた奴が居るのだろう。

 …向こう側に行けばその二人組の事が分かるかも知れないな。絶対に調べよ。


「ふーん、まぁ良いけど。もうスキルは貰えるのか?あと荷物も用意してきたんだが…それはどうなる?」

「すまないが、荷物は諦めてもらう。管理者とはいえ、これ以上の事が出来なさそうでね。だが、スキルは今渡せるとも」


 よっしゃ。異世界生活が楽になるか苦になるかが決まる決定的瞬間…!

 ってちょっと待て。どうやって録画したりとか編集したりするんだ?


「…私達が行くのは実況をしに行くためだよ。どうやってやるの?」

「そーそー。そこは重要だと思うなー」

「あぁ。単純に三人には面白おかしく向こうで生活してもらえれば、録画編集はこっちの管理者パワーでどうにかするよ」

「え、めっちゃやだ。俺達はタレントじゃなくて実況者なんだよ。自分でその辺が出来ないのは困る」

「えー…分かったよ。じゃあ君達の一日を映像にして君の元へ送ろう。そして、君はそれを編集していけばいい」

「ちょい。PCは無いんだろ?」

「問題ないよ。君達に与える強いスキルに加えて動画編集のスキルも付けとくから」


 いや、何でもありか。動画編集のスキルとか特定の目的すぎやしませんかね。汎用性皆無すぎる。


「…まさかの」

「寧ろー、この会話の内容から動画化しようよっていうレベルー」

「という訳だからこの部分は任せるわ。パートゼロって事で」

「えぇ!?ここからなの!?ボクの威厳とか皆無なんだけど…」

「…その辺が実況の面白い所。生の反応なくして何が実況か」

「流石うちの吹雪!よく分かってんね!」

「…もっと褒めて」

「よっ!最強!可愛い!クーデレの模範教師!」

「…ふふふ」

「吹雪ー、最後のは褒められた判定でいいのー?」

「…ふふふふ。大丈夫」

「あー、吹雪がめっちゃチョロいー」


 完全に内輪ノリに入ってしまった会話と空気をちょっとは厳格な物にしようとナズナが大きく咳払いをする。


「うむ。では汝らにスキルを与えよう!」

「無理矢理感が凄いけど…。よし!では有難く頂戴します!」

「ふっふっふ。ではゆくぞ?」

「あ待って。リセマラあり?」

「無しに決まってるだろ!?」


 残念。折角ゆっくり出来るからリセマラ出来るのかと思ったのに…。

 そして妹達も露骨にガッカリしてる。出来ると思ってたんだろうなぁ…。


「そ、そんなにガッカリされても出来ないものは出来ないんだけど…。でも大丈夫!ガチャでいう所のSSR確定だし、各自それぞれ五個の中から選ばせてあげる!」

「おおー!凄い!神様太っ腹!」

「ふふふ、もっと言っていいんだよ?」

「よっ!下っ腹ちょっと出てるよ!」

「えっ!?で、出てないもん!!」


 やっぱりナズナをからかうのは結構楽しい。まぁ、彼女の管理者としての威厳とかはもう地に堕ちて、埋まってるレベルだけど。


「こ、コホン!さぁ!楽しいスキル排出の時間だよ!!」

「…wkwk」

「わーく、わーく!」

「よっし、じゃあまずは俺から行こう!あとついでに生放送的なガチャ実況をやろう!」

「「さすにぃ!」」

「あ、そんな風なノリでやるんだね…」


 呆れた様な、疲れた様なナズナは置いといて。という訳でガチャを引きましょう!


「…はい。という訳でガチャ実況していこうと思います」

「わーい。皆が夢を見て、一瞬で絶望に変わるガチャの時間だー」

「辞めなさい小雪、現社の闇を一気にぶち込んでいくの。一体何人がトラウマを刺激されたか分かんないぞ…」


 ナズナに無理を言って無理矢理、某有名配信者がセッティングしているようなスタジオを作って貰って、そこで実況している形を取っている。

 因みに後ろのチャンネルを示す垂れ幕には、『ゆきん子チャンネル』となっている。ロゴは雪の結晶の周りに雪だるまが集まっているイメージ。

 あと丸椅子が四脚、前後に二つずつ並んで、二列目は少し高いところに置かれている。並びは、一段目は左が吹雪で右が小雪。二段目は左が俺で右がナズナという感じだ。

 ナズナが凄い緊張した感じだが取り敢えず放置で。ゲストポジのナズナはちょっと待っててね。


「少し前後しましたが自己紹介していきましょうか」

「ほんとに前後したねー」

「ま、これも実況の醍醐味だろ?」

「…うん。という訳で、今回は司会ポジションを戴いている私からいきましょうか」


 もしかしたら司会がクーデレ吹雪さんであるのは普通のように思えるかもしれないが、実はこういう司会は持ち回り制で、順番的には俺、吹雪、小雪となってて、誰でも卒なくこなせる様にはなってる。

 勿論、それぞれの個性は結構出る。吹雪は常識的な司会だし、小雪は割と自由にやっていくがそれでも進行に支障を来すレベルではない。俺は雑談しながらゆるりとやってくタイプ。


「という訳でユキん子チャンネル三代目の一人、吹雪と申します。今回はよろしくお願いしますね。次は左隣の小雪」

「はーい。ユキん子チャンネル三代目、小雪ですー。今回ものんびりしていくんでー」

「全く。もうちょっとそのマイペースを直してくれると嬉しいんですけどね…」

「あははー。無理ー」


 流石だな。二人共観客が居ないのを分かってるのに、しっかりといつものトークで慣れない場所でも物怖じせずに出来ている。

 これは負けてられないな。


「はぁ。次は上の雪にぃ」

「はいどうも、ユキん子チャンネル二代目の雪音です。最近ガチャ運が芳しくないのでどうなるか不安ですね…」

「因みに直近の結果は?」

「百連を回す毎に九十パーの確率でコラボキャラが当たるやつを千連回したんですよ」

「ほうほう。確率でいえば七体は確実って感じですなー」

「して結果は?」

「全部すり抜けました」

「………ほら涙拭きなよ」

「ひゃー、百億分の一。寧ろレアなのは面白いねー」

「ちゃんとその時の動画が残ってるので是非ご覧下さいっ!…ぐすっ」


 なんとも居た堪れない感じになったけど、場は掴めたのでオールオッケー。まぁその前は十連で千分の一を三体連続引きしてるからプラマイゼロやし…。

 なお、録画はありません。スクショはあるけど!


「さて雪にぃには、今回でその屈辱を晴してもらうとして。最後に今回のスペシャルゲスト、ナズナさんです」

「え、あ、どうも。ぼ、ボクはナズナ。今回のガチャの主催者…かな」

「まぁそうですね。寧ろ今回はナズナさんの匙加減で私達が楽に生活出来るかどうかが決まりますからね」

「…あれ?もしかしなくても責任重大なんじゃ…」

「だな。頼むぞナズナ。ここらでガチャ戦歴に大きな黒星を付けたいんだ」

「雪にぃー、逆。付けるのは白星だよ」

「はっ、しまった。馬鹿がバレる!」

「もうバレてる件には触らないようにして、早速メインのガチャをしていきましょうか。という訳であちらをご覧下さい」


 吹雪が手を向けた先にはなんか神々しいようなドラゴンの像が。大丈夫?コラボ来る度にそれっぽい格好に変わるアイツと似てるけど。ドラゴンの手でガシャコンしたら完全にアウトですわ。


「はい。あちらがそれっぽいガチャ機となっております。引く方はあのドラゴンの前に立って、なんかそれっぽい呪文を唱えるとスキルが出るようになってるそうです」

「え、何そのめっちゃセンスが問われちゃうタイプのガチャ。困るんだけど」

「あとその呪文の内容が結果に大きく関わってくるからね。しっかりと考えるんだよ」

「もしかして考えるのって五個?」

「うん。ちょっと生配信っぽい仕掛けを施してみたよ!」


 なんかめっちゃ褒めて欲しそうに胸を張るナズナ。いや、あの。こういうのはちょっと期待してなかったかな…。

 でもなんやかんや作ってくれてるのは確かで、撮れ高的にも良さそうな感じなのでここは素直に褒めておこう。


「気を使ってくれたんだな、ありがと。でも五つ考えるのはシビア過ぎるわ!やるけども!」

「しかも時間が中々掛かりそうな感じですね…。まぁ、兎にも角にもやっていきましょうか」

「「はーい」」


 という訳で恒例の全カットである。しっかりとこの辺も動画でアップしていくので、詳細が気になる人はそっちを観てもらいたい。

 中々長く苦しい戦いだった…。


「という訳で排出結果を見ていきましょうか」

「ははは、そうだな…」

「…だねー」

「ははは、完全に疲れきってるね。燃え尽きて真っ白な姿が見えるよ。お疲れ様」

 

 という訳で排出されたスキルはこれ。


 〈雪音のスキル〉

 ・妹愛を極めし者

 ・闇喰の姫

 ・暴風に立つ者

 ・真理を見抜く者

 ・赤雪姫


 〈小雪のスキル〉

 ・乱されぬ者

 ・世界創造主

 ・走狗の姫

 ・黒点の女王

 ・兄愛を極めし者


 〈吹雪のスキル〉

 ・領域の女王

 ・家庭の支配者

 ・魔術を極めし者

 ・凍てつく大地の姫

 ・兄愛を極めし者


 スキルの名前に取り敢えず突っ込みたい。

 確かに妹達には女王とか姫とか出て当然だろう。女の子だし。

 でも俺は男なのに姫系が二つも排出された事に怒っていいと思う。しかも赤雪姫に至っては俺の学校内での渾名だし。あと、兄愛と妹愛については余計なお世話だと思う。


「さてどうしようかな…」

「ナズナー、この中から一つ選ぶんだよね?」

「うん。でも、妹愛と兄愛は条件を満たしているようだから、それ以外の四つから選べばいいと思う」

「…どういう事?」

「もう既に所持しているという事だよ。こうやって条件を満たせば得られるスキルもあるから、その辺も考慮するといいかな」

「わーい。SSRスキル二つを所持した状態からのスタートだー。これはヌルゲー間違いなーし」

「…寧ろデバフ掛かりそうなんだけど?主に精神的な方で!」

「…さっさと選んでいきましょう。流石にちょっとgdgdしすぎたから」

 

 という訳でこれから排出された五つ(実質四つみたいなもんだが)の中から選んでいくのだが、恒例の如く割愛させていただく。

 だから今回は選ばれたスキルの効果だけを語っていこうと思う。他のスキルの効果に関してはガチャ動画の中で紹介されるから、気になって仕方ない人はそっちを見て欲しい。


「…という訳で選びました。順番に発表していきましょうか。ガチャ引いた順で」

「なんだろう、このバラエティー番組感。いや、やってる事はバラエティーじゃ有り得ないんだけどさ」

「まずは雪にぃだねー」

「さぁさぁ早く早く。君達三人は知ってるかもしれないけどボクは君達が何を選んだのか知らないんだよ」


 そう言えば俺らが悩みながら選んでる時、ナズナは凄い明後日の方向を向いて、その上でしゃがみながら耳も塞いでたな。

 …まさか、最後の最後まで知りたくなかったからそうしてたとは。


「…よし!俺のスキルは『闇喰の姫』で、大雑把な効果としては闇に関する全てが揃ってると思って貰って大丈夫だ。後、『赤雪姫』の条件を満たしてるんだが…これはどうなるんだ?」

「えーっとね…それも取得かな。という事は三つだね!胃が痛い!」


 おおう、まさかのSSR三つからのスタート。これは強そう。

 というか、赤雪姫は俺以外に満たせそうな奴は居ないだろ。条件が『男の娘・渾名が赤雪姫』だからなぁ…。ドピンポイント過ぎてビックリしたわ。


「次は私ー。私のスキルは『世界創造主』だね。後、『走狗の姫』と『乱されぬ者』は条件満たしてるから、私は四つスタートだねー。やったー、雪にぃより多いー」

「うぇっ!?流石にバランス的に大丈夫かな…。SSR四つとか前代未聞なんだけど!いやまぁ、二つ以上からそうなんだけど…。あぁ、胃に穴が開きそう…」


 あ、ナズナが頭抱え始めた。

 まぁ仕方ないよね。俺らの家族は実況者補正という素晴らしい上方修正を持ってるからね。


「…最後に私。取得したのは『領域の女王』だけど、『家庭の支配者』は条件を満たしてる上に、『凍てつく大地の姫』は『領域の女王』に統合されたから、実質四つかな」

「はは。お腹と頭痛い…」

「し、しっかりしろナズナ!お前が倒れるとフリーズしてストーリーが進まなくなるんだ!勘弁してくれ!」

「勘弁して欲しいのはこっちだよ!もっと常識に乗っ取ってよ!」


 結果的にナズナがマジギレした。

 正直言って俺らがおかしいんだよな。普通はSSRのスキルを一つでも持ってたら英雄的な扱いになるらしいんだが、俺らはそれよりも多い三つ持ちと四つ持ちだもんな。

 そりゃ過労でぶっ倒れるわ。仕方ない。

 因みに二人が選んだスキルの効果について触れておく。

 『世界創造主』は物をなんでも創れるのは勿論、生物や世界まで創れるらしい。普通にチートだね。

 『領域の女王』は自分が指定する空間、時空の全てを支配下に置けるんだとか。具体的にいえばある土地を豊作、ある土地を凍結、ある土地を立入禁止にする封印とか。これまた何でもありな効果。やはりチート。


「…あのさ、普通に君達を送りたくなくなってきたんだけど。あと、スキルをそっちの地球でも使えるようにするとか言ったのを取り消したいんだけど」

「おらあくしろよー。ここまで期待させといてやっぱ駄目は辞めろよなー」

「そーだよー、ナズナー。約束は絶対に守らないとー」

「…そーだそーだ」

「原因になってる野次がうるさい!なんだろうこの悪循環」


 段々と遠い目をしてきているナズナがとても可哀想だが、此方としても異世界に行きたいので心を鬼にするしかないのだ。

 深い深い溜息を一つ吐いてからナズナは意を決したように指を一回鳴らす。すると俺ら三人の前に大きな扉が出現した。まるでそこにずっとあったかのように佇むそれは不思議な威厳があった。


「「「おおー!それっぽい!」」」

「ふ、ふふん。流石に送り出す時ぐらいは格好付けないとね」


 言わなきゃ格好良かったのに…。これがナズナクオリティか。凄い残念だ。


「さて。これから三人をボクが管理してる異世界に送るよ。-準備は良いかい?」

「おう、問題ない」

「オールグリーンかなー」

「…楽しみ」


 俺達の返事を聞いてナズナは大きく頷くと扉を大きく開け放った。


「さぁ行ってらっしゃい。ボクの世界、『グランフォーリア』へ!!」

 

 取り敢えず俺ら三人は互いの顔を見合わせてから、その扉に向かって駆け出して、その勢いのまま中へ入っていった。


 〜時は戻って雪音が目覚めた後〜


「あー…。って事はここが異世界、グランフォーリアか。って幾ら寝起きだっていっても、異世界に飛んだ時の事を忘れてるのはヤバいな…」

「あ、雪にぃ!おはよー」


 声のした方を見ると小雪が少し遠い場所で手を振っていた。今は日差しが出ているから、影も存在する。だったら…。


「ちょっとそこで待ってろー」

「…?分かったー」


 スキル、『闇喰の姫』を発動して俺自身の影から小雪の影へと移動する。

 イメージ的には影と影の間に、この世界と影の世界を無理矢理にズラして、新たに俺が通ることの出来る空間を創るイメージだ。これを利用すれば大変な道のりであっても自由に移動出来そうだし、例え行ったことのない知らない場所であっても影さえあれば移動出来そうだ。


「うわー、凄いね。瞬間移動?」

「ま、似たようなもんかな。影さえあれば自由に移動出来るから」

「汎用性が凄いねー。でもそれって攻撃の方が使い易いんだっけ?」

「まぁな。でも、どっちの用途でも使いこなしてこそ強そうに見えるだろ?…なんてな。で、小雪は何してたんだ?後、吹雪はどこに行ったんだ?」

「…私はここだよ、雪にぃ」

「うわ!?」


 てっきり何も無いかと思ってた空間から、不意に吹雪の姿が出現する。…まさか、空間を弄って自分の姿を見えなくしてたのか?

 何その不意打ちが絶対に成功する使い方。最強じゃないですか。


「あははー。ちょっとこの周辺を見回ってたんだよねー。私と吹雪の二人で」

「あ、そうだったのか。なんだ、俺も起こしてくれたら良かったのに」

「…雪にぃが疲れて眠そうだったの忘れてなかったから、沢山寝かせてあげた方が良いかなって思って」

「うーん、その気遣いは嬉しいんだけど、流石に見知らぬ場所で二人だけはちょっと心配でな。ま、これからは皆で行こうぜ」

「「うん!」」


 さて、これから何処へ向かおうか。取り敢えず、まずは何処か街を探しに行こうか。

 こうして俺と妹達二人の、兄妹の異世界実況が始まったのである。


 

ありがとうございました。

一応はゆっくりと練り込んでいくつもりですので、投稿は不定期とさせていただきます。

ここがダメ!などあれば頂けたら参考にしたいです。

モチベ向上のため、良ければ星、コメントをつけて頂けると嬉しいです。

ノリとしては、ブクマに登録だけして、たまに確認する位でお願いします…。

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